第1章|医用機器の安全管理

医用機器安全管理学 第1章
収録 128問(第31〜39回)=1ジャンルで最多電撃・漏れ電流・接地・非常電源・医療ガス・EMC・信頼性

本ジャンルは128問と全ジャンル中で群を抜いて多い、臨床工学技士国試の心臓部。出題は「数値・許容値・色分けを正確に覚えているか」のひっかけがほとんどで、原理より暗記した数字がそのまま点になる。以下の9テーマを、表と要点で一気に固める。

1. 電撃 — ミクロショックとマクロショック

マクロショック=体表から流入し全身に広がる電撃、ミクロショック=カテーテル等で心臓に直接電流が流れる電撃。心臓に直接届くミクロショックは、はるかに小さい電流で心室細動を起こす。ここが最頻出。

反応(商用交流 50/60Hz)電流値
最小感知電流(手で感じる最小)1 mA
離脱限界電流(手が自分で離せなくなる)10 mA
マクロショックの心室細動誘発電流(体表)100 mA
ミクロショックの心室細動誘発電流(心臓直接)0.1 mA(100 μA)
ミクロショックの安全限界0.01 mA(10 μA)
周波数依存 — 1 kHz が境

最小感知電流は1 kHz までは約1 mAでほぼ一定1 kHzを超えると周波数に比例して上昇(=生体は高周波に鈍感)。そのため100 kHzでは約100 mAまで感じない(1 kHz 1 mA →100 kHzで100倍)。「周波数に比例して下がる」は逆でひっかけ。直流は交流より電気分解による化学的変化を起こしやすい点も頻出。ミクロショック心室細動(0.1 mA)は最小感知電流(1 mA)の1/10(1/100ではない)。

2. 漏れ電流の種類と許容値

漏れ電流は接地漏れ電流・接触電流(外装漏れ)・患者漏れ電流・患者測定電流に大別。許容値は正常状態(NC)と単一故障状態(SFC)交流/直流装着部の形(B・BF・CF)で決まる。単位はμAで覚える。

漏れ電流装着部正常NC単一故障SFC
接地漏れ電流全機器共通5 mA10 mA
接触電流(外装漏れ)全機器共通100 μA500 μA
患者漏れ電流(交流)B形・BF形100 μA500 μA
CF形10 μA50 μA
患者漏れ電流(直流)B・BF・CF形10 μA50 μA
患者測定電流(交流)B形・BF形100 μA500 μA
CF形10 μA50 μA
患者測定電流(直流)全形共通10 μA50 μA
許容値を覚える3つの軸

SFC(単一故障)はNCの5倍(100→500、10→50)。②直流はどの形でも10/50 μAと厳しい(=電気分解で組織を傷めるため)。③CF形は交流でもB/BF形の1/10(10/50 μA)=心臓直接だからミクロショック対策で最も厳格。接地漏れ電流だけ桁が大きく5 mA / 10 mA(μAでなくmA)。装着部を複数もつ機器の合計患者漏れ電流はさらに約5倍(B/BF交流500 μA/1000 μA、CF交流50 μA/100 μA)。

3. 漏れ電流の測定(MD・測定器)

漏れ電流は測定用器具MD(Measuring Device)を介して電圧として読む。MDは人体の周波数特性を模擬した回路で、これ自体の数値が繰り返し問われる。

MDの構成・規定値・意味
R2(人体抵抗の模擬)1 kΩ(人体代表抵抗)
R1・C1遮断周波数約1 kHz の低域通過(ローパス)フィルタ
合成インピーダンスZ低周波では約1 kΩ/高周波ほど低下
電圧計の入力抵抗1 MΩ 以上・入力容量150 pF以下・誤差±5%以内
漏れ電流の読み替え漏れ電流=電圧計指示値 ÷ R2(1 kΩ)

フィルタはローパス(高周波を減衰=1 kHz超で生体が鈍感になる特性の模擬)。ハイパス・ノッチと取り違えるひっかけが定番。読み替え例:電圧計が1 V →1 V÷1 kΩ=1 mA、50 mV→50 μA、100 mV→100 μA。高周波の漏れ電流はフィルタで減衰されて評価される(例:100 kHz・1 mAの実電流が0.1 mAと評価される)。

測定のセットと故障模擬

電源ボックスのスイッチ:S1=電源極性の切替、S2=電源導線1本の断線の模擬、S3=保護接地線の断線の模擬(=単一故障状態を作る)。接地漏れ電流はクランプ型電流計で「2本の電源導線をまとめて挟む」(往復電流の差=漏れ分を検出。接地線ではない)。接触電流の単一故障測定はMDを「機器外装〜壁面接地端子(E-A間)」に接続する。

4. ME機器の分類(クラス・装着部)

安全対策は「クラス(追加保護手段)」「装着部の形(漏れ電流の許容レベル)」の2軸で分類される。両者は別物なので混同しない。

クラス分類追加保護手段(基礎絶縁の故障に備える)
クラスⅠ保護接地(接地極付3Pプラグが必要)
クラスⅡ補強(二重)絶縁。2Pでよく在宅使用に適する
内部電源機器電源がフローティング(電池駆動)。装着部の形で判断
装着部の形対策レベル・用途
B形マクロショック対策。装着部は接地されうる。外部電圧の印加に非対応
BF形マクロショック対策+フローティング(F形=非接地)。外部電圧に保護
CF形ミクロショック対策+フローティング。心臓内カテーテル使用に必須(体表装着に必須ではない)

F形(BF・CF)=患者装着部が電源から絶縁(フローティング)され、患者接続部への外部電圧印加に耐える。CF形は「心臓に直接」使う機器に必須で、体表電極だけの機器に必須という記述はひっかけ。図記号の読み(保護接地・単回使用・内部電源機器・注意 等)も出る。

5. 保護接地・等電位化接地・医用室と非常電源

接地は保護接地(クラスⅠの安全)等電位化接地(心臓近傍での電位差=ミクロショック対策)に分かれる。JIS T 0601-1(機器)とJIS T 1022(病院電気設備)で数値が問われる。

接地の数値ひっかけ

保護接地線抵抗(機器・JIS T 0601-1)=0.1 Ω以下。測定は25 A(定格の1.5倍か25 Aの大きい方)を通電し電圧降下で判定。25 A×0.1 Ω=2.5 Vが電圧降下の上限。例:10 A機器で電圧計1.5 V→1.5 V÷25 A=0.06 Ω=60 mΩ。着脱不能な電源コード付きはプラグ接地ピン〜金属外装で0.2 Ω以下。測定で規定されるのは電流・電圧・周波数・通電時間で、「温度」は規定外
病院設備(JIS T 1022):接地極の接地抵抗は等電位接地なしで10 Ω以下壁面接地端子〜医用接地センタ間は0.1 Ω以下

医用室のカテゴリ:A(心臓直接)>B(体表・生命維持)>C(体表接触なし・短時間)の順に対策が重い。等電位化接地・非接地配線方式が必要なのは高危険のA/Bで、一般透析室やMRI室(カテゴリC相当)は保護接地+一般(または特別)非常電源で足りるのがひっかけポイント。

非常電源立ち上がり連続コンセント外郭色
一般非常電源40秒以内10分以上
特別非常電源10秒以内10分以上
瞬時特別(無停電)0.5秒以内(無瞬断)10分以上

色の暗記:無停電(瞬時特別)=、一般・特別非常電源=。「特別非常電源=緑」はひっかけ。表示光では使用準備完了=緑操作者の即時対処が必要=赤、注意喚起=黄。医用コンセントの保持力は15 A形で50 N以上

6. 非接地配線方式・絶縁監視装置

非接地配線方式=絶縁変圧器で電源を大地から浮かせ、一線地絡(1か所の地絡)でも電源供給を止めない方式。手術室・ICUなど「停電が即命に関わる」場所で使う。目的は「一線地絡時の電源供給の継続」――ここが単独で頻出。

構成・規定値内容
絶縁変圧器定格容量7.5 kVA以下(30・50 kVAはひっかけ)
絶縁監視装置(EOD/アイソレーションモニタ)2次側の対地インピーダンスが50 kΩ以下で警報
2次側→1次側の漏れ電流0.1 mA以下(10 nAはひっかけ)
含まれない機器漏電遮断器(地絡で遮断すると目的に反する)
非接地配線のひっかけ

絶縁監視装置はME機器を多数使う・地絡が起きると警報する(漏れ電流が増えるため)。接地分岐線の断線では警報しない非接地配線でも保護接地は別に必要(「保護接地は不要」は誤り)。全館停電では供給できない(あくまで一線地絡時の継続)。

7. 医療ガス設備

医療ガスは色・接続方式・圧力・支燃性が数値ごと問われる。最大の罠は「ボンベ(容器)の塗色」と「配管アウトレットの識別色」が別体系という点。

ガスボンベ塗色(高圧ガス保安法)配管識別色(JIS T 7101)
酸素
亜酸化窒素(笑気)ねずみ色
二酸化炭素だいだい(橙)
治療用空気ねずみ色
窒素・ヘリウムねずみ色—(吸引=黒)
ガスの性質と圧力

支燃性ガス=酸素・亜酸化窒素・(空気)。CO2・窒素・ヘリウムは支燃性なし。室温で液化しているのはCO2と亜酸化窒素(臨界温度が室温より高い)→残量は圧力でなく重量で管理。標準送気圧力は手術機器駆動用の窒素が最も高い(約0.9 MPa)、他ガスは約0.4 MPa。誤接続防止(フールプルーフ)はピン方式(ピンインデックス)・ヨーク形バルブ。配管端末の特定コネクタ=ピン方式・シュレーダ・DISS・カプラ(「おねじ」は端末器では使わず、大型ボンベの容器弁側)。

ボンベ残量の計算:気体(酸素)は残量[L]=内容積[L]×圧力[MPa]×10(例:10 L・5 MPa→500 L、3.5 L・15 MPa→525 L)。使用可能時間=残量÷流量[L/min]。液化ガス(CO2)は重量÷モル質量×22.4 L(例:CO2 2.5 kg→2500/44×22.4≒1200 L)。

8. 電磁環境(EMC)・医用テレメータ・静電気

EMC(電磁両立性)=妨害を出さない能力(エミッション)と、妨害に耐える能力(イミュニティ)の両立。用語の対応が単独で問われる。

用語意味
EMC電磁両立性(エミッション+イミュニティの両立)
immunity(イミュニティ)外部電磁妨害を受けても本来の機能を維持する能力
emission(エミッション)自機器が妨害電磁波を出さない能力
EMI電磁妨害(そのもの)。ESD=静電気放電
携帯電話とテレメータ

携帯電話の推奨離隔距離=植込み型医療機器から15 cm・一般ME機器から1 m以上。携帯は電波状態が悪いほど出力が上がり妨害が増える(着信待受でも発信する)。小電力医用テレメータ=420〜450 MHz帯・色ラベルでゾーン管理。混信要因=近接チャネル・異メーカの同一チャネル・同一ゾーン同一バンド。ゾーン表示色が違えば混信しない。受信範囲拡大は送信出力ではなく受信アンテナ・ブースタで対応(送信機は微弱電力で固定)。工事用クレーンのリモコンは近接帯で受信に影響しうる。

静電気:接地は静電気除去に有効、湿度が高いと帯電しにくい、液体は表面に帯電。静電シールドは導体で完全に囲み接地する。イミュニティ試験で想定される妨害=静電気放電・無線電波・火花放電・雷誘導電圧など(電離放射線は想定外)。

9. 信頼性・保守点検・安全管理と法規

機器管理の指標・保守点検の区分・安全概念・法規は、まとめて狙われる暗記帯。

信頼性の指標意味
MTBF平均故障間隔(無故障で動く時間の平均)。故障率λ=1/MTBF
MTTR平均修復時間(修理に要する時間の平均)
アベイラビリティ(稼働率)MTBF/(MTBF+MTTR)=利用可能な時間割合
バスタブカーブ初期故障期(減少・製造不備)→偶発故障期(一定)→摩耗故障期(増加)

計算例:MTBF180日・MTTR20日→稼働率0.9。直列接続は信頼度が低下、並列(冗長)は向上(信頼度0.3の4個並列=1−0.7⁴≒0.76)。FMEA=故障モード影響解析(ボトムアップ)/FTA=故障の木解析(トップダウン)。「MTBF=平均動作不能時間」「保守点検でMTTRが延長」はひっかけ(正しくはMTTRは短縮)。

フェイルセーフ vs フールプルーフ

フェイルセーフ=故障しても安全側に働く:電気メスの対極板コード断線検知で出力遮断、麻酔器の酸素供給停止時に亜酸化窒素を遮断。フールプルーフ=誤操作・誤接続をそもそも防ぐ:医療ガスのピン方式・ヨーク形バルブ。混同注意。

保守点検=日常点検(外観・作動)+定期点検(性能・安全性)。劣化した電源プラグの「修理」は点検に含まれない。医療安全:損害の小さい/未然のものがインシデント、実害がアクシデント(1件の重大事故の背景に多数のインシデント=ハインリッヒの法則)。事故対応で「責任追及」は不適切。法規医療機器安全管理責任者の配置を義務づけるのは医療法PL法(製造物責任法)で賠償責任を負うのは製造業者高度管理医療機器=除細動器・人工呼吸器・輸液ポンプ・電子内視鏡・血液加温器など(MR装置・X線CTは管理医療機器)。