第1章|医用機械工学

医用機械工学 第1章
収録 98問(第31〜39回)=専門基礎の計算科目力学・材料力学・流体力学・波動・熱力学

本ジャンルは98問すべてが計算と数値・単位のひっかけ。物理の原理を「なんとなく」知っていても点にならず、公式を1本ずつ正確に覚え、単位換算を最初に済ませられるかで合否が分かれる。以下の8テーマを、公式・表・計算のコツで固める。

1. SI単位と力学量・次元

すべての計算の土台。力=質量×加速度(F=ma)から組立単位を自分で導けるようにする。単位を基本単位(kg・m・s)に分解する次元解析と、スカラー/ベクトルの区別が単独でも頻出。

物理量単位基本単位への分解
N(ニュートン)kg・m/s²
圧力・応力Pa(パスカル)N/m²=kg/(m・s²)
仕事・エネルギーJ(ジュール)N・m=kg・m²/s²
仕事率(電力)W(ワット)J/s=kg・m²/s³
電荷C(クーロン)A・s(A/sではない)
磁束Wb(ウェーバ)V・s
吸収線量Gy(グレイ)J/kg
スカラーとベクトル/機械要素の次元

ベクトル量(大きさ+向き)=変位・速度・加速度・力・運動量・力積・電界・磁束密度。スカラー量(大きさのみ)=質量・時間・温度・エネルギー・仕事・電荷・体積・速さ。「速さ」はスカラー、「速度」はベクトルの区別も出る。仕事は力と変位の内積なのでスカラー
機械要素の次元:ばね定数k=F/x=kg/s²(N/m)ダンパ定数c=F/v=kg/s(N・s/m)。運動方程式 m・x″+c・x′+k・x=F の各係数の次元を押さえる。「毎秒(/s)」か「秒を掛ける(・s)」かで電荷(A・s)のような単位ひっかけが作られる。

2. 力・モーメント・力の釣り合い

モーメント(トルク)=力×腕の長さ(回転軸から作用線までの垂直距離)。静止(釣り合い)=Σモーメント=0(時計回り=反時計回り)。計算問題では単位換算(g→kg、cm→m)を最初に済ませるのが最大の失点対策。

モーメント計算の型と角度の扱い

力が腕に対して角度をもつときは、有効な腕=腕の長さ×(角度成分)。鉛直な重力に対しては水平距離=腕×cosθ(θは水平からの傾き)で効く(傾き0°で最大、鉛直90°で0)。
例:点滴スタンドで水平10 cm(0.10 m)に500 g(0.5 kg)→ M=mg×d=0.5×9.8×0.10=0.49 N・m。例:中点支持の棒の端に100 g(≒1 N)、水平から60°傾き、腕0.5 m→ M=1×0.5×cos60°=0.5×0.5=0.25 N・m
糸で吊った静止物体の張力は重力と釣り合い、T=mg(500 g→0.5×9.8=4.9 N)。桁ミス・g/kg・cm/m の取り違えが定番のひっかけ。

3. 運動 — 運動方程式・等加速度・円運動

運動方程式 F=ma等加速度直線運動の3式が基本。接して動く物体群は全体を一つの系として a=(駆動力−全摩擦)/全質量で解く。

運動公式
等加速度(初速v₀)v=v₀+at、x=v₀t+½at²、v²=v₀²+2ax
v-tグラフ下側の面積=移動距離(加速度の面積=速度、速度の面積=距離)
摩擦のない斜面(角θ)加速度 a=g sinθ(質量に無関係)
鉛直投げ上げ往復(同高さ復帰)=2v₀/g、最高点まで v₀/g、最高到達 v₀²/2g
放物運動水平成分 v cosθ は一定、最高点の速さ=水平成分(鉛直成分0)
等速円運動の向心力F=mv²/r=mrω²(v=rω、中心向き)
単振動(バネ振り子)T=2π√(m/k)(単振り子は T=2π√(L/g)=質量に無関係)
計算のコツ・ひっかけ

動摩擦力=μ×垂直抗力=μmg(g≒9.8、概算では10)。向心力は速度の2乗に比例・半径に反比例、mrω²の形では角速度が2乗で効く(質量0.5倍・角速度2倍・半径0.5倍→0.5×2²×0.5=1倍で不変)。バネ振り子の周期は質量の平方根に比例・バネ定数の平方根に反比例(周期を2倍にするにはm/kを4倍)。sin30°=0.5、sin45°=cos45°≒0.707、sin60°=cos30°≒0.866を暗記。

4. 仕事・エネルギー保存・運動量

仕事とエネルギーの定理:外力のした仕事=運動エネルギーの変化 W=F・d=½mv²−½mv₀²。摩擦がなければ力学的エネルギー保存(運動エネルギー½mv² ⇔ 位置エネルギーmgh)。

エネルギー保存の頻出型

斜面を登る/落下する到達高さ H=v²/2g質量にも斜面角にも無関係(例:7 m/s→H=49/19.6=2.5 m)。制動距離の問題は ½mv²=F・dで解く(50 kg・10 m/s→2500 J、25 mで停止→F=100 N)。運動量=質量×速度=ベクトル量、仕事はスカラー。加速度を求める運動方程式でも同じ答えに至る(相互チェックに使える)。

5. 材料力学 — 応力・ひずみ・弾性/塑性・粘弾性

本ジャンル最多の出題帯。応力・ひずみ・ヤング率・ポアソン比の定義と単位、応力ひずみ線図弾性/塑性の区別、そして粘弾性(応力緩和・クリープ)が繰り返し問われる。

定義単位
応力 σ力/断面積(F/A)Pa(圧力と同じ)
ひずみ ε変形量/元の長さ(ΔL/L)無次元(単位面積あたりではない)
ヤング率 E(縦弾性係数)応力/ひずみ(σ/ε)Pa
剛性率 G(横弾性係数)せん断応力/せん断ひずみPa(せん断・ねじりで求める)
ポアソン比 ν横ひずみ/縦ひずみ(絶対値)無次元(理論上限0.5)
ずり速度速度勾配s⁻¹(1/s)
粘性率 ηずり応力/ずり速度Pa・s
応力ひずみ線図とポアソン比

順序:比例限度 → 弾性限度 → 降伏点(応力ほぼ一定でひずみ増大)→ 引張強さ(最大応力)→ 破断弾性域はフックの法則 σ=Eε(F∝ΔL)で傾きがヤング率降伏点を超えると塑性変形=永久ひずみが残る(除荷しても戻らない、弾性分だけ回復)。応力の大小は比例限度<弾性限度。明瞭な上降伏点は軟鋼に特有で、非鉄金属は0.2%耐力で代用。
ヤング率を求める負荷=引張・圧縮(垂直応力)(せん断・ねじりは剛性率G、曲げは複合)。ヤング率計算例:応力2.0 MPa÷ひずみ0.001=2.0 GPaポアソン比は横ひずみ/縦ひずみで、体積不変(非圧縮)=0.5、金属≒0.3、コルク≒0。生体軟組織は水分主体でほぼ非圧縮=約0.5で鉄鋼より大きい(「小さい」はひっかけ)。ν0.3の材料を縦に10%伸ばすと直径は0.3×0.1=3%縮み0.97倍

粘弾性 — 応力緩和とクリープ

生体組織は粘弾性体で、ばね(弾性)+ダッシュポット(粘性)の直並列モデルで表す。マクスウェル模型(直列)=応力緩和(一定ひずみで応力が指数的に減衰)。フォークト/ケルビン模型(並列)=クリープ(遅延弾性)(一定応力でひずみが指数的に増加・漸近、除荷で漸減)。粘弾性由来の現象=応力緩和・クリープ・ヒステリシス(降伏・破断・応力集中は塑性・破壊・形状に起因し粘弾性特有ではない)。機械要素の対応=ばね:変位に比例 F=kx/ダッシュポット:速度に比例 F=cv/質量:加速度に比例 F=ma。硬さ(ヤング率)順=骨>腱>筋コラーゲン>エラスチン。音響インピーダンス(密度×音速)=骨>筋>脂肪

6. 流体力学 — パスカル・ベルヌーイ・レイノルズ・血液

材料力学と並ぶ主戦場。静止流体(パスカル)理想流体(連続の式・ベルヌーイ)粘性流体(レイノルズ数・ハーゲンポアズイユ)を、成立条件ごとに整理する。

法則式・内容成立条件
パスカルの原理密閉流体の圧力は各点で等しい → F₁/A₁=F₂/A₂静止流体(完全流体でも成立)
連続の式(質量保存)Q=A・v が一定、分岐で Q₁=Q₂+Q₃非圧縮・定常(粘性の有無に無関係)
ベルヌーイの定理P+½ρv²+ρgh=一定(静圧+動圧+位置圧)完全流体・非粘性・非圧縮・定常・同一流線上
レイノルズ数(無次元)Re=ρvD/μ=vD/ν(慣性力/粘性力)約2000超で乱流。管長は無関係・圧力は含まない
ハーゲン・ポアズイユQ=πΔP r⁴/(8ηL)、抵抗 R=8ηL/(πr⁴)粘性流体・層流・円管(完全流体では不成立)
レイノルズ数とポアズイユの4乗則

Re=ρvD/μ=vD/ν(ν=μ/ρ=動粘度)。含む4要素=密度・流速・内径・粘性管長と圧力は含まない。計算例:内径0.01 m・流速1 m/s・動粘度4×10⁻⁶→Re=0.01/4×10⁻⁶=2500。Reを一定に保つ組合せ問題は各因子を掛け合わせて元に戻す(流速0.25倍×内径4倍=1倍)。生体で乱流を生じうるのは上行大動脈(径最大・流速大でRe最大)、毛細血管は完全な層流(Re≪1)。
ハーゲン・ポアズイユは流量が半径の4乗に比例(内径が半分で流量1/16)が最重要。圧力差ΔP・粘性η・長さLに比例/反比例の関係を押さえる。ベルヌーイでは絞り(狭窄)で流速が上がり圧力が下がる(ベンチュリ効果)。動圧=½ρv²(血液ρ≒1050、流速1 m/s→約525 Pa≒4 mmHg)。表面張力は単位N/m、分子間凝集力に由来し表面積を最小化(液滴が球になる、温度上昇で低下)。

血液のレオロジー(非ニュートン流体)

血液は非ニュートン流体で、ずり速度が高いほど見かけ粘性が下がる(ずり流動化)。血漿(血球を除く)はほぼニュートン流体血管抵抗 R∝1/r⁴(内径が小さいほど急増)。脈波伝搬速度PWV∝√(Eh/ρD)(Moens-Korteweg)=血管が硬い(石灰化・コラーゲン増でE大)・厚い・細いほど速く、動脈硬化の指標。動脈圧波形は末梢ほど収縮期ピークが増高(末梢性増幅)し立ち上がりが急峻に、切痕は浅く遅れる。大動脈でも静圧≫動圧。観血式血圧はトランスデューサが右心房より低いと高く表示(1 cmH₂O≒0.74 mmHg、30 cm低い→約22 mmHg高い)

血液粘性を上げる因子下げる因子
ヘマトクリット上昇温度上昇
連銭形成(ルロー・低ずり速度での凝集)ずり速度の上昇
血漿タンパク(フィブリノゲン等)上昇・低温集軸効果(細管で中心軸に集まり壁側が血漿層=Fåhraeus-Lindqvist効果)

7. 波動・音響 — 波長・ドップラー効果・dB

音の基本量とドップラー効果が中心。ドップラーは符号(近づく/遠ざかる)を正確に。

項目内容
音の3要素高さ(周波数)・強さ(振幅/音圧)・音色(波形)。速さ・方向は含まない
波長λ=音速v÷周波数f=v×周期T。時間波形の縦軸=音圧
音速の目安空気中≒340、水中≒1500、生体軟部組織≒1540 m/s
音の強さレベルdB(デシベル)=基準との比の対数(無次元)。強さ10log、音圧20log
ドップラー効果 — 符号とひっかけ

一般式 f′=f(c±v₀)/(c∓v_s)(v₀=観測者速度は分子、v_s=音源速度は分母)。近づくと高音(振動数↑)、遠ざかると低音(↓)。互いに近づく=分子+v₀・分母−v_s → f₀(c+v₁)/(c−v₂)。
計算例:静止音源に観測者20 m/sで接近→ f′=1000×(340+20)/340=1060 Hz。音源が10%高く聞こえる接近→ 1.1=340/(340−v)→ v≒30.9 m/s≒111 km/h(m/s×3.6)。
ひっかけ:ドップラーは周波数(波長)の現象で振幅には無関係音速には依存する(Δf∝v/c)/媒質を問わず水中でも生じる山びこ(反射・エコー)・うなり(2音の干渉)はドップラーではない。超音波ドプラ血流計はcosθ補正が要る(θ=90°で検出不能)。

8. 熱力学 — 比熱・熱伝導・放射・気体

熱量 Q=mcΔT伝熱の3形態気体の状態変化が3本柱。水の比熱4.2 J/(g・K)=4.2 kJ/(kg・K)は暗記必須。

熱量・比熱・熱効率

Q=mcΔT(m質量・c比熱・ΔT温度差)。加熱時間はt=Q/P(P仕事率)。例:100 g・20→60℃→Q=100×4.2×40=16800 J、500 Wで t=33.6≒34 s。比熱の逆算 c=Q/(mΔT)(体積10 L=0.01 m³の換算に注意)。混合温度=質量による加重平均(40℃1 kg+10℃2 kg→(40+20)/3=20℃)。熱効率 η=有効な仕事/供給熱量(320 kJ/s=320 kW供給・96 kW出力→30%、残り70%は排熱)。

伝熱の3形態とフーリエの法則

伝導(固体内)・対流(流体の移動)・放射(電磁波・真空でも伝わる)の3つ(干渉・発振・回折は伝熱ではない)。フーリエの熱伝導:Q=k・A・(θ₁−θ₂)・t/L=熱伝導率k・断面積A・温度差・時間に比例厚さ(長さ)Lに反比例。単位換算(mm→cm、分→秒)を先に処理。放射はステファン・ボルツマンの法則で絶対温度の4乗に比例、ピーク波長はウィーンの変位則で低温ほど長波長=体温付近(37℃)の物体は主に赤外線を放射(サーモグラフィの原理、紫外線ではない)。

気体の状態変化(必ず絶対温度K=℃+273)一定関係
ボイルの法則温度TPV=一定(P₁V₁=P₂V₂)
シャルルの法則圧力PV/T=一定
ゲイ・リュサックの法則体積VP/T=一定(定積で圧力∝絶対温度)
ボイル・シャルルの法則物質量PV/T=一定

「150 mmHg上昇」は760+150=910 mmHgと絶対圧で扱う(加算の見落としが誤答源)。定積加熱は摂氏でなく絶対温度の比(27→57℃なら330/300=1.1倍、57/27で計算するのはひっかけ)。体膨張 V=V₀(1+βΔT)で「変化量」と「変化後の総量」を取り違えない(β≒3α、線膨張係数の3倍)。温度差ΔTは摂氏差でも絶対温度差でも同じ値。