第1章|脳性麻痺の評価と作業療法

脳性麻痺 第1章

1-1 病型の特徴と二次障害・痙縮の治療

脳性麻痺(cerebral palsy:CP)は、受胎から新生児期までに生じた脳の非進行性病変による運動と姿勢の異常。症状は成長とともに変化するため、病型ごとの特徴と成人期の二次障害を押さえる。

病型病変・主症状所見・合併しやすいもの
痙直型(四肢麻痺・両麻痺・片麻痺)錐体路(上位運動ニューロン)障害による痙縮(spasticity)深部腱反射亢進・クローヌス陽性・病的反射・折りたたみナイフ現象。知的障害・てんかんの合併は痙直型(特に四肢麻痺)に多い
アテトーゼ型(ジスキネティック型)錐体外路(大脳基底核)障害による不随意運動・筋緊張の動揺原始反射(ATNR・STNR)の残存が目立つ。知的水準は比較的保たれやすい。成人期に頸椎症性脊髄症
  • 痙直型両麻痺:下肢優位。股関節屈曲・内転・内旋、膝屈曲、足関節底屈のパターンをとりやすく、はさみ足(scissors position)になる。
  • 二関節筋の短縮が姿勢を崩す:ハムストリングスが短縮すると長座位で骨盤後傾(仙骨座り)になる。薄筋は股・膝をまたぐ二関節筋なので、膝の角度で股関節外転の制限が変わる。
  • 努力性の動作で出る連合反応:上肢は屈曲位に引き込まれ、肩甲骨挙上・肘屈曲・前腕回内・手関節掌屈が強まる。Brunnstromの上肢屈筋共同運動(肩外転・外旋、前腕回外を含む)とは構成が違うので混同しない。

鉛管様の固縮は錐体外路障害の所見で、痙直型の所見ではない。痙直型で出るのは折りたたみナイフ現象。膝蓋腱反射は亢進(減弱ではない)。

成人期の二次障害

アテトーゼ型CP → 頸椎症性脊髄症。頸部の不随意運動による屈伸・回旋の反復負荷で頸椎が変性し、成人期(30〜40歳代が多い)に四肢のしびれ・筋力低下・歩行能力の低下として現れる。歩けていた人が歩けなくなり、車椅子・電動車椅子の導入が必要になることがある。

頸椎症性脊髄症を起こしやすいのは痙直型ではなくアテトーゼ型。先天性多発性関節拘縮症(拘縮)・骨形成不全症(易骨折性)・分娩麻痺(腕神経叢損傷)は別の問題が主体。

痙縮の治療(代表例)

治療内容
ボツリヌス療法ボツリヌス毒素の筋注で神経筋接合部の伝達を遮断し、局所の痙縮を軽減
フェノールブロック神経(運動点)を化学的に変性させ、局所の痙縮を軽減
バクロフェン髄腔内投与療法(ITB療法)重度の全身性痙縮に対し、ポンプで脊髄腔内にバクロフェンを持続投与
筋緊張抑制ギプス(シリアルキャスティング)持続伸張で筋緊張と拘縮を軽減
その他経口抗痙縮薬、整形外科手術(筋解離・腱延長)、選択的脊髄後根切断術 など

ステロイド薬の経口投与は痙縮の治療ではない。ステロイドは炎症・免疫疾患の薬で、中枢性の痙縮には使わない。

1-2 GMFCS・MACSと評価尺度の使い分け

GMFCS(粗大運動能力分類システム)

GMFCS(gross motor function classification system)/GMFCS-E&R(Expanded and Revised)は、脳性麻痺児の日常の移動能力(粗大運動)をレベルⅠ〜Ⅴの5段階に分類する。年齢帯ごとに記述があり、レベルは年齢が上がっても原則として大きく変わらない(将来の移動能力の予測に使える)。

レベル6〜12歳の目安(要点)見分けの決め手
Ⅰ屋内外を制限なく歩行。手すりなしで階段昇降。走る・跳ぶも可能(速度・バランス・協調性に制限)手すり不要
Ⅱ多くの場面で補助具なしで歩行。長距離・不整地・坂・人混み・狭い場所で制限(介助や補助具が要ることがある)。階段は手すりを使う。走る・跳ぶはごくわずか手すりで階段・長距離や狭所で制限
Ⅲ屋内は手で持つ歩行補助具(歩行器・クラッチ等)を使って歩行。長距離は車椅子。座位は手の支えなしで可能なことが多い歩行補助具が要る
Ⅳ歩行は実用的でない。移動は介助か電動車椅子。座位には骨盤・体幹のサポートが要る(通常の椅子での座位保持は難しい)自力の移動は寝返り程度+電動車椅子
Ⅴすべての場面で車椅子で移送される。頭部・体幹の抗重力姿勢の保持が困難頭部保持も難しい
  • 2〜4歳のレベルⅢの像:床に座れるが両手を自由に使えるほど安定しない(割り座が多い)、四つ這い・伝い歩きで移動。成長後も同レベルなら、屋内は補助具歩行や短距離の独歩が見込まれる。
  • 頭部保持可・手で支えれば座位可・寝返りで少し移動・電動車椅子を練習中 → レベルⅣ。
  • 階段で手すりが要る・長距離や狭い所で介助が要る → レベルⅡ。

「手すりを使って階段」はⅠではなくⅡ。「不整地の歩行」ができるのはⅠ〜Ⅱで、Ⅲではない。「通常の椅子で座位保持」はⅣではできない。Ⅴは寝返りでの移動も難しい。

評価尺度の使い分け

尺度何を見るか形式
GMFM(Gross Motor Function Measure)粗大運動能力(臥位・寝返り/座位/四つ這い・膝立ち/立位/歩行・走行・跳躍)観察評価で点数化(88項目版・66項目版)。変化の測定に使う
GMFCS粗大運動(移動)能力Ⅰ〜Ⅴの分類
MACS(Manual Ability Classification System)日常生活における手指操作能力(物の扱いやすさ・必要な援助量)Ⅰ〜Ⅴの分類。ADLの評価ではない
PEDI(リハビリテーションのための子どもの能力低下評価法/小児能力障害評価表)ADL:セルフケア・移動・社会的機能の3領域の能力と介助量対象は6か月〜7歳6か月が基本
WeeFIMFIMの小児版。ADLの介助量18項目・7段階
K-ABC認知処理能力・習得度(知能検査)運動の評価ではない
JASPER小児リハビリテーションの総合評価セット手指操作に特化したものではない
MAS(修正Ashworth尺度)痙縮(筋緊張)ADLの評価ではない
SCSIT(南カリフォルニア感覚統合検査)感覚統合機能ADLの評価ではない

問われている対象で選ぶ。粗大運動を「測る」=GMFM、移動能力を「分類」=GMFCS、手の使い方を「分類」=MACS、幼児のADLの能力と介助量=PEDI。

1-3 姿勢設定・ポジショニング・抱き方

机上で両手を使う姿勢の難易度

痙直型四肢麻痺で手の支えが要る座位の児では、外からの支持が多い姿勢ほど上肢を使いやすい。

姿勢上肢操作の難易度理由
座位保持装置の座位・車椅子で体幹ベルトを使った座位易しい骨盤・体幹が外から固定され、上肢の操作に集中できる
立位台での立位・身体前面を支えた膝立ち位比較的易しい体幹・骨盤・下肢が支持具で支えられる
床上の割り座やや難しい支持基底面が広く比較的安定するが、外からの支持はない
床上の長座位最も難しい股屈曲・膝伸展でハムストリングスが伸張され骨盤後傾。体幹が後方に倒れやすく、体幹を保つために手が使えない(机に肘をついても同じ)

この表は手の支えが要る痙直型四肢麻痺の児が机上で両手を使う場合の話。その児にとって長座位は「床に座るだけの楽な姿勢」ではない。ハムストリングスの短縮で骨盤が後傾し、後ろに倒れまいとする努力で全身の筋緊張が高まり、連合反応も出る。割り座は安定しやすい半面、股関節の内転・内旋を強めるので常用は避ける。

痙直型両麻痺の姿勢設定と移動の見方

  • 姿勢設定の軸:股関節の屈曲・内転・内旋パターンを強めず、骨盤を起こして体幹を安定させ、上肢を支持から解放して遊び・操作に使える姿勢を選ぶ。股関節の屈曲・内転を強める姿勢(床に座って物を抱え込む等)や、体幹・下肢に高い安定性を要する姿勢(膝立ちに近い姿勢など)は不利。
  • 両麻痺の児のボール遊びでは、床上で両下肢を前に出して股関節を外転位に開き、体幹を前傾させ、重心を低く・支持基底面を広くして床上でボールを扱う姿勢が適切とされる(両脚を前に出した床座位というだけで外さない)。
  • 腹臥位は頭部・体幹の抗重力伸展を要し、両麻痺児には遊びの姿勢として負担が大きい。
  • 床上移動で両下肢をそろえて引き寄せて進む(うさぎ跳び様移動・バニーホッピング)→ 左右股関節の交互の分離運動ができていない。上肢で床を支えて進めている・頭部は挙上できている、なら上肢支持や頭部保持の問題ではない。

腹臥位の抗重力伸展の発達順(遅れても順序は保たれる):股・膝屈曲で骨盤が高い姿勢 → 骨盤が下がり全身接地 → 頭部をわずかに挙上 → 肘支持(on elbows) → 手支持(on hands)。

重症心身障害児:最初の基盤は姿勢

四肢の強い筋緊張・重度の側弯・経管栄養・言語での意思表示困難といった重症心身障害児では、まず座位ポジショニングで安全で安定した姿勢をつくる。異常筋緊張の軽減、変形・拘縮の予防、覚醒の向上、周囲を見て関わる(コミュニケーション)・感覚入力の基盤になる。

姿勢が安定しないうちの飲水訓練は誤嚥の危険が高い。重度の児に複雑な課題を自力でさせる、言語訓練中心にする、は優先順位が違う。

痙直型四肢麻痺児の抱き方

  • 抱き方の軸:股関節を屈曲・外転・外旋させ(両脚を開いて抱く)、体幹を軽く屈曲させ、頭部を正中に保つ。全身の伸展・内転パターンと原始反射(TLR・ATNR)の影響を抑える。
  • 両脚を閉じて伸ばしたまま縦に抱く → 伸展・内転パターン(はさみ足)を強めるので不適切。

1-4 食事動作と上肢の作業活動

オーラルコントロール(口腔コントロール)

介助者が頭部を支えつつ、指で下顎・口唇を支える摂食介助の手技。アテトーゼ型など頭部・口腔周囲の不随意運動が強い児に用いる。

目的に含まれる目的に含まれない
頭部コントロールの援助(頭部の安定)・口唇閉鎖の援助・舌突出の防止・口周辺の過敏の脱感作咀嚼運動の促通(この手技の直接の目的ではない)

原始反射と食事場面

反射出かた食事での影響と対応
ATNR(非対称性緊張性頸反射)顔を向けた側の上肢が伸展、後頭側の上肢が屈曲顔を利き手側に向けると利き手が伸びて口に運べない → 食器は正中に置く(顔が向きやすい側に皿を置かない)
STNR(対称性緊張性頸反射)頸部伸展 → 上肢伸展・下肢屈曲/頸部屈曲 → 上肢屈曲・下肢伸展スプーンを口に近づけたとき頸部が伸展して上肢が伸びる → 頭部をやや前屈に保つ

反射の中枢(参考):Galant反射=脊髄、ATNR・陽性支持反射・Moro反射=脳幹、Landau反応=中脳。

アテトーゼ型の食事環境の調整

  • テーブルを補高して前腕・肘を台に乗せる → 支持面ができて不随意運動が減り、口までの距離も縮む。肘当てと同じ高さのテーブルでは前腕の支持が足りない。
  • スプーンは柄の太いもの(把持しやすい)。柄の細いものは持続して握れない児に不利。
  • 皿は正中。頭部が向きやすい側に置くとATNRを誘発する。
  • 姿勢は頭部・体幹を安定させた座位が基本。座位保持装置を大きく後ろへ倒す設定は、口への運びと嚥下に不利。

BFO(ball-bearing feeder/バランス型前腕補助具)は、筋力低下で上肢を重力に抗して挙げられない人(頸髄損傷・筋ジストロフィーなど)のための装具。不随意運動が問題のアテトーゼ型には適応が違う。

アテトーゼ型の作業活動の選び方

不随意運動のある上肢は、体幹の近く・低い力・近位を安定させた状態での操作から段階づける。代表例は貼り絵(体の近くで手を安定させて行え、難易度を段階づけやすい)。

鋸・彫刻刀などの刃物や強い力を要する作業は不随意運動で危険。ドミノ並べのような精密な位置決めと静止保持を要する作業は難易度が高すぎる。

1-5 関連:二分脊椎の移動能力と特徴

小児の作業療法で脳性麻痺と並んで問われる先天性の疾患。

項目要点
好発部位腰仙椎部(胸椎部ではない)
病型脊髄髄膜瘤=脊髄・神経が脱出し神経症状あり(下肢の麻痺・感覚障害・膀胱直腸障害)。髄膜瘤(脊髄を含まない)は通常神経障害を伴わない
合併脊髄髄膜瘤ではChiari奇形Ⅱ型と水頭症を高率に合併
上肢上肢障害の合併は多くない(Chiari奇形・水頭症による症状は別)
脊髄係留症候群成長に伴い症状が出る。好発は学童期〜青年期(2〜3歳ではない)。下肢・膀胱直腸の症状が主
移動能力の評価Hofferの分類(CA:地域内歩行/HA:屋内歩行/NFA:訓練時のみの歩行/NA:非歩行)
麻痺レベルの分類Sharrardの分類(残存する筋・髄節で群分け)

Sharrard分類Ⅲ群=L3〜L4レベル(大腿四頭筋が働く)は、Hoffer分類のCA(杖などを使った地域内歩行)に概ね対応する。麻痺レベルが高い(上位)ほど歩行能力は低い。