第1章|パーキンソン病の評価と作業療法

パーキンソン病 第1章

1-1 病態・症状とHoehn & Yahr重症度分類

黒質線条体路のドパミン神経細胞の変性でドパミンが不足し、運動の開始・切り替え・大きさの調節が障害される進行性の神経変性疾患。発症は60歳代が中心で、孤発性が大部分(家族性は一部)。再発と寛解を繰り返す病気ではない(それは多発性硬化症)。

4大症状(運動症状)

症状内容生活で目立つ場面
安静時振戦(静止時振戦)じっとしているときに出て、動かすと軽くなる。丸薬丸め様。片側から始まることが多い手の震え。服薬で軽くなることが多い
固縮(筋強剛・筋固縮)他動運動で鉛管様・歯車様の抵抗体幹の回旋が出にくい、手指の可動域低下
無動・寡動・動作緩慢(bradykinesia)動き出しが遅く、動きが小さくなる仮面様顔貌、小字症、箸・書字に時間がかかる、小刻み歩行、すくみ足
姿勢反射障害(姿勢保持障害)押されたときに立ち直れない。突進現象(前方・後方)方向転換・しゃがみ込み・後退で転倒

非運動症状として便秘・起立性低血圧・排尿障害(自律神経症状)、レム睡眠行動障害、嗅覚低下、うつ・不安、認知機能低下、幻覚などがある。姿勢は前屈・前傾姿勢になりやすい。

運動失調(小脳性の協調運動障害)はParkinson病の症状ではない。「Parkinson病でみられないのは」の正答になる。協調性訓練(フレンケル体操)が不適になる理由もここ(1-3)。

Hoehn & Yahr(ヤール)の重症度分類

ステージ障害の広がり姿勢反射障害ADL・生活
Ⅰ一側性なし機能障害は軽微。自立
Ⅱ両側性なしADL自立・仕事も可能
Ⅲ両側性あり(方向転換の不安定・突進現象)ADLは自立(時間がかかる・制限あり)、労働は制限される
Ⅳ高度あり歩行はかろうじて可能だが、ADLに介助が必要
Ⅴ最重度あり車椅子・寝たきり、全介助

判定の軸は2つ。「姿勢反射障害があるか」でⅡとⅢを分け、「ADLに介助が要るか」でⅢとⅣを分ける。「突進現象・方向転換で不安定」+「ADLは何とか自立」=Ⅲ。

国試の作業療法の問題はステージⅢの設定が多い。Ⅲは「まだ歩ける・自立している」段階なので、車椅子操作・ポータブルトイレ・座位保持装置・音声入力・万能カフなどⅣ〜Ⅴや他疾患向けの手段は「時期尚早・過剰」として外れる。

治療薬と鑑別(解くのに要る範囲)

  • 中心はL-ドーパ(レボドパ、L-dopa)=ドパミンの前駆物質。末梢での分解を防ぐ薬(カルビドパ・ベンセラジド)と合剤で使う。ほかにドパミンアゴニストなど。
  • 長期服用でwearing-off(薬効の持続短縮)・on-off現象・ジスキネジア(不随意運動)が出る。作業療法や外出は薬が効いているon の時間帯に合わせる。
  • 脳血管性パーキンソニズム:多発性脳梗塞による。錐体路障害(腱反射亢進・Babinski徴候)を伴うのが本症との違い。無動・固縮は共通。
  • 進行性核上性麻痺(PSP):垂直方向(とくに下方視)の眼球運動障害、頸部は後屈(本症は前屈)、中脳の萎縮、L-ドーパの効果は乏しい。

1-2 動作障害の特徴と外的手がかり(キュー)

早期から困難になる動作・比較的保たれる動作

動作特徴
寝返り体幹の分節的な回旋が固縮・無動で出にくく、早期から困難になる(上肢で代償しないとさらに顕著)
椅子からの立ち上がり時間はかかるが、寝返りほど早期には困難にならない
平地歩行小刻み・すり足にはなるが比較的保たれる。歩き始め・方向転換・狭い所・戸口ですくむ
階段昇り段が視覚的な目印になり、平地より行いやすいことが多い
端座位の保持静的な姿勢保持は比較的保たれる

Parkinson病の動作は「自分で動きのリズムを作る」のが苦手で、「外から合図をもらう(外的手がかり)」と改善する。だから階段・床の線・メトロノーム・号令は助けになり、スロープのような連続した単調な傾斜はすくみを招きやすい。

外的手がかり(キュー)の使い方

種類具体例
聴覚キューメトロノーム・音楽・「1、2」の号令に合わせてリズムをとりながら歩く(リズム聴覚刺激)
視覚キュー床にテープの目印・横線を等間隔に貼る、またぐ目標を置く
動作の分解・意識化立ち上がり・寝返りを手順に分けて行う。大きく動くことを意識する

ADL指導で「スロープより階段を使う」が正答になる。段の縁ごとに目標とリズムがあり、手すりもあるため。スロープ=バリアフリーで安全という一般論をそのまま当てはめない。

方向転換は小刻みに足を運びながら弧を描いて回る。その場での直線的・急な方向転換は転倒しやすい。歩行時に体幹をさらに屈曲させる指導は誤り(前傾が増して突進・転倒)。足関節に重錘を付けて歩かせるのも基本の対策ではない。

1-3 病期ごとの作業療法プログラム

ステージⅢ(姿勢反射障害あり・ADLほぼ自立)の目標

  • 前屈姿勢・体幹の回旋低下に対して頸部・体幹の伸展と回旋を保つ
  • 大きく・リズミカルな上肢・体幹の運動、リーチ・バランス、歩行・ステップ・方向転換の練習
  • 転倒予防と、今できているADLの維持
適する活動(ステージⅢ)ねらい
棒体操による頸部・体幹伸展運動前屈姿勢の矯正・柔軟性と可動域の維持。両手で棒を持つので左右対称の大きな運動になる
輪の移動(リング移動)大きなリーチ・体幹回旋・リズミカルな反復。立位でも座位でも段階づけできる
介助者と行う球技リーチ・体幹回旋・上肢の大きな運動
手すりを使った階段昇降、コーンを使ったステップ練習下肢筋力・実用移動・方向転換・すくみ足対策
座位でのバランス練習姿勢反射障害に対する体幹バランス
メトロノームなど聴覚キューを使った歩行すくみ足・小刻み歩行の改善(1-2)
ステージⅢで外れる選択肢理由
車椅子操作の練習・ポータブルトイレの導入・座位保持装置ステージⅣ〜Ⅴ向け。Ⅲでは歩行・トイレ動作が可能で時期尚早
音声入力によるパソコン操作上肢機能が高度に低下した段階の代替手段。Ⅲには過剰
万能カフ(ユニバーサルカフ)手指で握れない頸髄損傷などに用いる自助具。本症のⅢには通常適応しない
机上での細かいビーズ手芸・刺し子など小さな巧緻動作が中心の活動動きが小さく、運動機能維持(大きな運動)の目的に合わない。振戦・固縮で遂行も難しい
卓球など素早い反応を要する活動姿勢反射障害があり、伝い歩きレベルでは転倒の危険が大きい
バランスボードなど不安定な支持面姿勢反射障害があるため転倒リスクが高い
床上に座って行う作業活動立位・バランス・移動の要素が乏しく、運動機能維持としては優先度が低い

ステージⅢの作業療法の選び方=「大きい・リズミカル・伸展と回旋を含む」で、かつ「支えがあり安全」なもの(棒体操のような両手で行う伸展運動も、輪の移動のような体幹回旋を伴う片手のリーチも当てはまる)。小さい・細かい・速い・不安定・Ⅳ以降や他疾患向けの代償手段は外す。

ステージⅠ〜Ⅱ(軽症期)

  • 目標は活動量の維持・廃用予防・柔軟性とバランスの維持。家庭生活・仕事・趣味を続ける。
  • 適する例:散歩(歩行能力の維持・廃用予防)、太極拳(バランス改善・転倒予防)、手内筋の伸張運動(固縮による手指の可動域制限・変形の予防。箸や書字に時間がかかる場合)、床に置いた物の整理のように体幹の屈伸・リーチを含む家事的活動。

フレンケル体操は運動失調に対する協調性訓練。固縮・無動・振戦が主体のParkinson病には適応にならない。「プログラムで適切でないのは」の正答になる。

ステージⅣ〜Ⅴ(介助期)

  • ADLに介助が要る段階で、ここで車椅子・ポータブルトイレ・座位保持などの導入、介護者への介助方法の指導が主になる。(ベッドの導入は寝返り・起き上がりを助ける整備としてステージⅢでも適切な側=1-4)
  • 拘縮・褥瘡・誤嚥性肺炎の予防に配慮する。

1-4 住環境整備とADL指導

転倒が起こりやすい場面

姿勢反射障害があると後方への転倒が起こりやすく、しゃがみ込み・立ち上がり・方向転換・後退・戸の開閉・狭い場所が危険。すくみ足・すり足では小さな段差やじゅうたんでもつまずく。

場所・物適切な整備・指導理由
トイレ和式便器に簡易取り付け型の洋式便座を設置(洋式化)、手すり和式のしゃがみ込み・立ち上がりは後方転倒の原因。しゃがみ込みで転倒しているなら最優先
床・段差段差の解消、床は平滑で滑りにくい材質すり足・すくみ足は小さな段差でつまずく
じゅうたん毛足の長いじゅうたん・カーペットは敷かない足が引っかかって転倒する
手すり移動経路・トイレ・浴室に設置バランス障害の補助
扉開き戸→引き戸開き戸は後ずさりや方向転換をしながら開ける必要があり、バランスを崩しやすい
寝具ベッドの導入(高さ調節できるもの)寝返り・起き上がり・立ち上がりの困難を減らす
床の目印すくみやすい場所(ベッドへの経路など)にテープで目印視覚キュー(1-2)
浴室手すり・浴槽内の台またぎ・しゃがみ込みの負担を減らす

「最優先の住環境整備」は実際に転倒が起きている動作から選ぶ。しゃがみ込みで後方に転倒しているならトイレの洋式化。玄関の手すりや浴室のバスボード、わずかな段差のすり付け板も有用だが、起きている転倒に直接対応しない分、優先度は下がる。

ADL指導

場面適切不適切
履物踵が固定される靴スリッパ(足が固定されず踵が浮き、すくみ・転倒を招く)
髭剃り電気シェーバーカミソリ(振戦・動作緩慢で切り傷の危険)
移動経路スロープより手すり付きの階段、床の目印毛足の長いカーペットを敷く
方向転換小さく足を運びながら弧を描いて回るその場での急な方向転換
時間帯薬の効いている時間(on)に負担の大きい活動を置く薬効が切れる時間帯に詰め込む

「適切でない住環境整備」を問われたら、毛足の長いじゅうたんをまず疑う。段差解消・手すり・引き戸・ベッド導入はいずれも適切な側。

1-5 精神症状・合併症とリスク管理

うつ(抑うつ)

Parkinson病に合併する精神症状で頻度が高く重要なのはうつ。意欲低下・無為・活動の回避・理由をつけて参加しないといった様子は、怠けや拒否と決めつけず、うつの徴候として評価する。仮面様顔貌・動作緩慢と重なるため見落とされやすいが、治療可能でQOLに直結する。治療方針を決める際にまず評価すべき合併症。

解離性障害・強迫性障害・身体表現性障害・統合失調症は、本症で問題になる代表的な合併症ではない。なおドパミンアゴニストの使用に関連した衝動制御障害は別に知られているが、「最も重要な精神医学的合併症」として問われるのはうつ。

その他の非運動症状とリスク管理

症状作業療法での注意
起立性低血圧臥位・座位からの急な起立を避け、段階的に起こす。めまい・ふらつきを確認
便秘・排尿障害排泄のタイミング・トイレ動作に配慮
wearing-off・on-off・ジスキネジア訓練・評価はon の時間帯に行い、日内変動を把握する
認知機能低下・幻覚環境の単純化、家族への説明
嚥下障害進行期は誤嚥性肺炎に注意。食事姿勢・一口量

本症の作業療法では「病期(Hoehn & Yahr)」「転倒」「薬の時間帯」「うつ」をいつも確認する。