第1章|フレイル・サルコペニアの評価と高齢者の理学療法

高齢者・フレイル 第1章

1-1 フレイル・サルコペニア・ロコモの見分け方と評価

高齢者の機能低下を表す用語は似ているが、何が落ちているかと何で測るかで切り分ける。

用語中身代表的な評価
フレイル(虚弱)加齢で心身の予備能力が落ち、ストレスに弱くなった状態。身体・精神心理・社会の多面的な概念。可逆性があるFried の基準(CHS 基準)、日本版の改訂 J-CHS 基準、基本チェックリスト
サルコペニア加齢による骨格筋量の減少+筋力低下または身体機能低下AWGS 2019(筋量・握力・歩行速度など)、指輪っかテスト・下腿周囲長・SARC-F(拾い上げ)
ダイナペニア筋量の減少を伴わない筋力低下握力・膝伸展筋力(周径では分からない)
ロコモティブシンドローム(ロコモティブ症候群・ロコモ)運動器の障害で移動機能が低下した状態ロコモ度テスト=立ち上がりテスト・2ステップテスト・ロコモ25

フレイル

  • Fried の基準の5項目:①体重減少(意図しない)②疲労感③筋力低下(握力)④歩行速度低下⑤身体活動量低下。3項目以上でフレイル、1〜2項目でプレフレイル
  • 体重は減る。増えている者が多い、は誤り
  • サルコペニアはフレイルの身体面の中核で、両者は強く関連する
  • 「虚弱」はフレイルの訳語にあたる。虚弱高齢者と別の病態ではない
  • 精神的な活力の低下(意欲・抑うつ・認知)や社会的な孤立も判断の要素に入る
  • 地域在住高齢者での該当者はおおむね1割前後で、年齢とともに増える(2%程度という少なさではない)
  • 運動・栄養・社会参加の介入で改善しうる(だから早期に拾い上げる)

フレイル高齢者に見られる所見

指標フレイルでの変化
筋量減少
TUG(Timed Up and Go)延長(時間が長くなる=遅い)
FBS(Functional Balance Scale/Berg Balance Scale、0〜56点)低値(低いほど転倒リスクが高い)
同じ運動負荷での Borg 指数高値(同じ負荷でもきつく感じる)
体重・歩行速度・握力低下

TUG は「時間」なので機能が落ちるほど長くなる。「短くなる」はひっかけ。FBS・握力・歩行速度は「値」なので低くなる。向きを取り違えない。

サルコペニア(AWGS 2019)

診断の柱は筋量低下+(筋力低下 または 身体機能低下)。

柱測り方低下の目安
筋量(必須)DXA・BIAで四肢骨格筋量を測る―
筋力握力男性28kg未満・女性18kg未満
身体機能歩行速度、5回椅子立ち上がりテスト など歩行速度1.0m/秒未満、5回立ち上がり12秒以上
  • 拾い上げ(スクリーニング):下腿周囲長(男性34cm未満・女性33cm未満)、SARC-F(質問票)
  • 指輪っかテスト:両手の母指と示指で輪を作り、下腿の最も太い所を囲む。囲める・隙間ができるほど筋量が少なくサルコペニアの疑いが強い。器具なしで筋量を推し量る簡便法
  • 身長は四肢骨格筋量を身長で補正する計算に使うだけで、評価項目そのものではない。体重単独も項目ではない

骨密度は骨粗鬆症の指標で、サルコペニアの評価項目ではない。また周径(指輪っか)から分かるのは筋量であり、筋力(ダイナペニア)や多面的なフレイルの判定はできない。

ロコモ度テスト

  • 立ち上がりテスト:片脚・両脚で、どの高さの台から立ち上がれるか
  • 2ステップテスト:できるだけ大股で2歩歩いた距離を測り、2歩幅(cm)÷身長(cm)=2ステップ値。下肢筋力・バランス・柔軟性を反映
  • ロコモ25:自記式質問票

図で「大股2歩」が出たらロコモ、「下腿を指の輪で囲む」が出たらサルコペニア。メタボリックシンドローム(腹囲・血圧・血糖・脂質)やコンパートメント症候群(外傷後の筋区画内圧上昇)は介護予防の運動器テストでは扱わない。

1-2 基本チェックリストと介護予防

基本チェックリストは、生活機能が低下するおそれのある高齢者を拾い上げる25項目の質問紙。「はい/いいえ」で答える自記式で、本人記入や郵送・電話でも実施でき、対象者に対面せず評価できる。

  • 目的:介護予防の対象者の把握。かつての二次予防事業対象者の選定、現在の介護予防・日常生活支援総合事業のサービス事業対象者の判定に用いる
  • フレイルの判定にも使われる
領域項目の例
暮らしぶり(手段的ADL・社会)バスや電車で外出、日用品の買い物、預貯金の出し入れ、友人宅の訪問 など
運動器(5項目)階段を手すりや壁をつたわらずに昇る/椅子に座った状態から何もつかまらずに立ち上がる/15分くらい続けて歩く/この1年間に転んだ/転倒に対する不安は大きい
栄養(2項目)6か月間で2〜3kg以上の体重減少/BMI 18.5未満
口腔(3項目)固いものが食べにくい/お茶や汁物でむせる/口の渇きが気になる
閉じこもり(2項目)週1回以上の外出/昨年より外出回数が減った
認知(3項目)物忘れの指摘/電話番号を調べてかける/今日の日付が分からない
抑うつ気分(うつ・5項目)毎日の生活に充実感がない/以前楽しめたことが楽しめない など

栄養の判断基準はBMI 18.5未満(身長と体重から計算)。

基本チェックリストは質問だけで完結する。実際に測る検査(指輪っかテスト・反復唾液嚥下テスト〈RSST〉・握力など)は含まれない。口腔機能も「固いものが食べにくいか」等の質問で聞く。経済状況の項目も無い。
運動器の立ち上がり項目は「椅子から」であって「床から」ではない。

1-3 加齢による身体機能と歩行の変化

筋の加齢変化

  • 加齢で優先的に萎縮するのはTypeⅡ(速筋)線維。瞬発力の低下・とっさの立て直しの遅れ=転倒につながる
  • 姿勢保持・立ち上がり・歩行に働く抗重力筋(大腿四頭筋・殿筋・脊柱起立筋 など)の低下がADLに直結する

高齢者の歩行(若年者との比較)

一貫して「安定を優先し、つまずきやすい」歩き方になる。

項目高齢者
歩幅小さくなる
歩隔広くなる(左右の安定のため)
歩行速度遅くなる
両脚支持期長くなる(遊脚相の割合が減る)
腕の振り減少(体幹回旋の減少に伴う)
遊脚相の足尖と床の距離(足尖クリアランス)小さくなる→つまずきの原因

「歩隔は狭くなる」「両脚支持期は短くなる」「足尖と床の距離は大きくなる」はすべて逆向き。増える(広く・長くなる)のは歩隔と両脚支持期、減る(小さく・遅くなる)のは歩幅・歩行速度・腕の振り・足尖クリアランス、と2つに分けて覚えると取り違えにくい。

1-4 転倒リスクの評価と転倒予防

転倒リスク因子

分類代表例
内的因子(本人側)転倒既往(複数回)/下肢筋力低下/バランス障害/視力障害/認知機能低下(注意・遂行機能・二重課題能力の低下)/多剤併用 など
外的因子(環境側)段差/滑りやすい床/照明不足/床の障害物・めくれた敷物 など
  • 転倒既往は将来の転倒を最も強く予測する因子の一つ
  • 性別は女性のほうが転倒・骨折のリスクが高い。「男性」は関連性が低い側

評価の目安

  • TUG:時間が長いほど移動能力が低く転倒リスクが高い。13.5秒以上が転倒の目安とされる
  • FBS:低値ほど転倒リスクが高い
  • 歩行速度:1.0m/秒未満は機能低下の目安

運動療法の進め方

  • バランスにかかわる感覚は視覚・前庭覚・体性感覚(深部感覚)。温痛覚は中心ではない
  • 難易度は静的バランス→動的バランス、単純→複雑、さらに二重課題を加える、と段階的に上げる
  • 速さより安全な姿勢制御の獲得を優先する。歩行速度を上げることを最優先にはしない
  • 筋力・認知・薬剤・環境の多因子への包括的介入が転倒予防の基本

住環境の整備(自宅での転倒予防)

基本は「滑る・つまずく・見えない」を減らすこと。

場面適切な対応不適切な例(ひっかけ)
滑り階段・浴室・玄関に滑り止めワックスのかけすぎ
段差段差解消(すりつけ板など)。残る段差には床とコントラストのはっきりした色のテープ同系色のテープ(段差が見えない)
夜間の照明足元灯・フットライト・センサーライトで低い位置から足元を照らす視線の高さの光源(まぶしさ〈グレア〉で足元が見えにくい)
建具開き戸より引き戸、レバーハンドルカーテン(体を預けられず、つかまると転倒する)
物の置き場所立位で手の届く高さの棚など床上に置く(つまずきの原因+床からの立ち上がり動作が増える)
手すり立ち座りには縦手すり、移動には横手すり―

事例問題では、本人が実際に転倒した動作(例:床からの立ち上がり)を生活から減らす方向の助言を選ぶ。

1-5 高齢者の運動療法・廃用・認知症のある人への関わり

加齢性筋萎縮(サルコペニア)への運動療法

原則内容誤りの形
対象とする筋抗重力筋の筋力トレーニングTypeⅠ線維を優先(萎縮しやすいのはTypeⅡ)
強度低強度から開始し、中等度(最大負荷の60〜80%程度)へ最大負荷の90%(高すぎて危険)
期間長期的・継続的に行う短期間で集中的(過負荷による障害の危険)
集団運動併存疾患があっても、状態に応じたリスク管理のもとで取り入れられる併存疾患のない者に限る
栄養レジスタンス運動と十分なたんぱく質摂取が両輪―

安静臥床(廃用)で生じやすい関節拘縮

臥床中にとりやすい肢位のまま固まる。代表例は次のとおり。

  • 肩関節:内転・内旋
  • 股関節:屈曲・外旋
  • 膝関節:屈曲
  • 足関節:底屈(尖足)

「膝の伸展拘縮」「足関節の背屈拘縮」「肩の外転拘縮」は臥床でできやすい向きと逆。良肢位保持と早期からの関節可動域運動で予防する。

認知症のある人の運動療法

原則は本人の尊厳と安心を守る=否定しない・急がせない・強制しない。

適切不適切
肯定的な言葉で、短く具体的に指示する否定・叱責
本人のペースに合わせる急がせる
同じ動作を反復する(手続き記憶を活かす)―
日常で慣れ親しんだ動作を利用する―
拒否したら、いったん中断する・誘い方を変える拒否を説得して押し切る(不安・混乱・BPSD の悪化を招く)