がんのリハビリテーションは、がんの時期によって目標が変わる。代表的な分け方(Dietzの分類)では次の4段階を置く。
| 段階 | 時期 | 目標と理学療法の中心 |
|---|---|---|
| 予防的 | 診断後・治療(手術・化学療法・放射線療法)の前〜直後 | 機能障害が起こる前の予防。術前の呼吸練習・咳嗽練習、体力の維持 |
| 回復的 | 治療後に機能障害が残った時期 | 最大限の機能回復をめざす。筋力・ROM・歩行・ADL練習、装具の導入 |
| 維持的 | がんが増大・再発し、機能障害が進行しつつある時期 | セルフケアと活動性の維持、拘縮・廃用の予防、福祉用具の導入 |
| 緩和的 | 終末期・積極的治療が終わった時期 | QOLの維持・症状の緩和。本人の希望に沿った活動、苦痛の少ない姿勢・動作 |
同じ「運動」でも、回復期は漸増的に負荷を上げる、進行期・緩和期は負担なく続けられる活動で気分転換と廃用予防をねらう。病期を読んでから目標を決める。
「何を測る尺度か」で選ぶ問題が出る。活動能力(全身状態・活動度)を測るものと、疲労・QOL・病期・予後を測るものを分けて覚える。
| 尺度 | 測るもの | 形式・要点 |
|---|---|---|
| KPS(Karnofsky Performance Status/Karnofsky performance scale) | 活動能力・全身状態 | 0〜100%の段階評価。100%が正常、数字が下がるほど介助が必要。治療や理学療法の可否判断に使う |
| ECOG PS(Performance Status) | 活動能力・全身状態 | 0〜4の5段階(0が無症状で制限なし、4が終日臥床)。KPSと同じ目的で、数字の向きが逆 |
| CFS(Cancer Fatigue Scale) | がん関連疲労 | 疲労の程度を評価する。活動能力の尺度ではない |
| FACT(Functional Assessment of Cancer Therapy) | QOL | がん患者の生活の質を包括的に評価する |
| PPI(Palliative Prognostic Index) | 予後予測 | 緩和ケア対象患者の生命予後を予測する |
| TNM分類 | がんの進行度(病期) | T=原発腫瘍、N=リンパ節転移、M=遠隔転移。患者の活動能力は表さない |
名前に「Functional」が入っていてもFACTはQOLの尺度。「Fatigue」のCFSは疲労。活動能力(活動度)を問われたらKPS(またはECOG PS)。
肉腫などで筋を広範囲に切除すると、その筋の作用が失われる。装具は「どの関節を制御する必要があるか」で選ぶ。
| 主な問題 | 装具 |
|---|---|
| 膝伸展筋力の低下(膝折れ) | 膝装具 |
| 足関節背屈の障害(下垂足) | 短下肢装具 |
| 膝と足関節の両方の制御が必要 | 長下肢装具 |
| 下腿・足部への荷重を減らしたい | PTB式免荷装具 |
化学療法・放射線療法中は骨髄抑制(白血球・赤血球・血小板の減少)が起こる。特に血液腫瘍(白血病など)では血液検査の値がそのまま運動の中止・制限の目安になる。
| 所見 | 中止・制限の目安(代表的な基準) | 理由 |
|---|---|---|
| ヘモグロビン(貧血) | 7.5 g/dL以下(輸血が要るほどの貧血) | 組織への酸素供給が不足する |
| 血小板 | 5万/µL以下、急激な減少 | 頭蓋内出血・関節内出血など出血の危険 |
| 白血球 | 3,000/µL以下 | 易感染 |
| 発熱 | おおむね37.5〜38℃以上(持続する発熱) | 感染症・好中球減少に伴う発熱を疑う |
| 不整脈の出現 | 中止して医師に報告 | 抗がん剤(アントラサイクリン系など)による心毒性を疑う |
倦怠感(がん関連倦怠感・cancer-related fatigue)は運動を止める理由にならない。安静では改善せず、適度な有酸素運動でむしろ軽減する。強度と時間を調整して運動を継続する。安静にすると廃用が進む。
「化学療法中で体がだるい」=中止、と短絡しない。中止の根拠になるのは血液所見・発熱・不整脈などの客観的な異常。ただし、倦怠感・食思不振の強い進行がんで負荷を漸増する持久性運動は過負荷になる(1-6)。「止めない」と「負荷を上げる」は別。
開胸・開腹手術、特に肺切除・食道がん・上腹部手術では、術後に無気肺・肺炎などの術後呼吸器合併症が起こりやすい。リスクを読み、術前から準備し、術後は早く離床する。
| 行うこと | ねらい |
|---|---|
| 咳嗽練習・ハフィングの指導 | 術後の痰を出しやすくし、無気肺を防ぐ |
| 腹式呼吸(横隔膜呼吸)・深呼吸の練習 | 換気効率の良い呼吸を身につける。上部胸式呼吸は換気効率が悪く、勧めない |
| 体力・活動の維持 | ADLが自立し運動耐容能が保たれていれば、術前は安静にせず活動を続ける |
| 項目 | 正しい対応 | 誤りやすい対応 |
|---|---|---|
| 離床 | 早期離床が原則。早くから座位・立位・歩行へ | 術後1週間ベッド上で体位排痰法を中心にする(無気肺・廃用が進む) |
| 咳嗽 | 創部を手や枕で押さえて保護しながら咳嗽を促す | 創痛を理由に咳嗽を控えさせる(痰が貯留し無気肺に) |
| 呼吸法 | 深呼吸・インセンティブスパイロメトリが基本。閉塞性障害・喫煙歴があり呼気時に気道が虚脱しやすい例では口すぼめ呼吸(呼気時の気道内圧を保ち末梢気道の虚脱を防ぐ)が有用 | — |
| 体位 | ベッドの頭側を30度以上起こした半座位(セミファウラー位〜ファウラー位)で横隔膜を下げ肺容量を確保 | 頭側10度程度では不十分 |
| 運動のタイミング | 食後すぐ(満腹時)を避ける | 満腹時は横隔膜の動きが制限され呼吸が浅くなる |
| 回復期の運動強度 | 修正Borg指数で3〜4程度(中等度)を目安 | 修正Borg 2(弱い)では低すぎる |
| 手技 | 方法 | 目的・適応 |
|---|---|---|
| ハフィング(huffing) | 声門を開いたまま「ハッ」と強く速く息を吐き出す(強制呼出) | 排痰。強い咳嗽より胸腔内圧の上昇が小さく、循環・気道への負担が少ない。痰が多く努力性の咳嗽を繰り返す例に |
| 口すぼめ呼吸 | 口をすぼめてゆっくり吐く | 呼気時の末梢気道の虚脱を防ぐ(COPDなど閉塞性障害)。排痰そのものの手技ではない |
症例の「主な問題」で選ぶ。痰が多い・咳が苦しい → ハフィング、閉塞性障害・喫煙歴があり呼気時に気道が虚脱しやすい → 口すぼめ呼吸。術後無気肺の予防の基本は、深呼吸・インセンティブスパイロメトリ・創部を押さえた咳嗽・早期離床。安静時から呼吸困難がある例では、背臥位(横隔膜が挙上して換気が悪化する)を避け、起座位・前傾座位など楽な姿勢をとらせる。安静時にも呼吸困難が強い時期に有酸素運動は負荷過大だが、意識清明でバイタルが比較的安定していれば理学療法を一律に中止はしない(排痰援助の適応がある)。
食道がん術後などで集中治療室に入っている患者の離床は、意識(鎮静)・疼痛・循環・臓器障害が安定していることが前提になる。
| 指標 | 離床を進めてよい目安 | 中止・延期を考える所見 |
|---|---|---|
| 鎮静・意識:RASS(Richmond Agitation-Sedation Scale) | おおむね−2〜+1 | −3以下(−3=中等度鎮静:呼びかけに体動はあるがアイコンタクトが保てない、−4=深い鎮静:呼びかけに反応せず身体刺激で反応)=指示が入らない |
| 疼痛:NRS(Numerical Rating Scale) | 疼痛が自制内 | NRS高値(例:8程度の強い疼痛)=まず鎮痛 |
| 循環:平均動脈圧 | 65〜110 mmHg程度 | 血圧不安定、高用量の昇圧薬が必要 |
| 心拍数 | 安定 | 安静時120/分程度の頻脈 |
| 臓器障害:SOFA(Sequential Organ Failure Assessment)スコア | 悪化していない | 前日より大きく上昇=臓器障害の進行 |
「早期離床が原則」は全身状態が安定していることが前提。昇圧薬・頻脈・SOFA上昇・深い鎮静がある時は離床を急がず、循環負荷の少ない手段を選ぶ。
乳がん・子宮がん・卵巣がん・前立腺がんなどの手術(リンパ節郭清)や放射線療法の後に、上肢や下肢にリンパ浮腫が起こる。リンパ浮腫は蛋白を多く含む間質液の貯留であり、心不全や腎疾患の浮腫とは治療が違う。
| 病期 | 状態 |
|---|---|
| 0期 | リンパ液の輸送障害はあるが、浮腫が目に見えない潜在期 |
| Ⅰ期 | 浮腫があり、患肢の挙上で軽減する。圧痕が残る(圧窩性) |
| Ⅱ期 | 挙上だけでは改善しない。進むと皮膚・皮下が線維化して硬くなり、圧痕が残りにくくなる(非圧窩性) |
| Ⅲ期 | リンパうっ滞性象皮病。皮膚の肥厚・角化など |
| 柱 | 内容と要点 |
|---|---|
| ① スキンケア | 皮膚を保湿し清潔に保つ。乾燥・亀裂は皮膚のバリアを壊し蜂窩織炎(リンパ管炎)の入口になる |
| ② 用手的リンパドレナージ(MLD) | 皮膚をやさしく動かしてリンパの流れを促す。禁忌がある(下記) |
| ③ 圧迫療法 | 多層包帯法(弾性包帯)、弾性着衣(スリーブ・ストッキング)。維持期は患者本人が自分で行えるよう指導する |
| ④ 圧迫下での運動療法 | 圧迫をした状態で運動すると、筋ポンプでリンパ・静脈の還流が促される。圧迫を外して運動すると効果が落ちる |
| + 体重管理 | 肥満はリンパ浮腫を悪化させる。適正体重の維持はセルフケアの基本 |
用手的リンパドレナージの禁忌の代表:蜂窩織炎などの急性炎症・感染、急性深部静脈血栓症、非代償性(うっ血性)心不全、未治療のがん。疾患や状態を問わず実施できるわけではない。圧迫療法も急性炎症・非代償性心不全・重い動脈血行障害では行わない。急性炎症期は圧迫下の運動も中止する(行うと感染を広げる。下記)。
| 勧めること | 避けること |
|---|---|
| 患肢の保湿・清潔 | カミソリでの剃毛・むだ毛処理(皮膚を傷つけ感染の入口になる。除毛が必要なら皮膚を傷つけない電気シェーバーなど) |
| 患肢の挙上(リンパの還流を促す) | 患肢を低い位置(下垂位)に保つ |
| 適切な弾性スリーブ・ストッキングでの圧迫 | 上腕などを締め付ける衣服・装身具(還流を妨げる) |
| ぬるめの入浴 | 熱い風呂・サウナ(血管が拡張しリンパの産生が増える) |
| 外傷・虫刺され・日焼けを防ぐ | 患肢での採血・血圧測定・注射 |
| 体重管理 | — |
利尿薬・水分制限はリンパ浮腫に無効。蛋白を含む間質液の貯留なので、水分を減らしても浮腫は引かず、脱水を招くだけである(利尿薬の長期使用はむしろ有害とされる)。「むくみ=水を減らす」の発想で選ばない。
緩和ケアのリハビリテーションの原則はQOLの向上と患者の意思の尊重。病状と本人の希望に合わせて、理学療法の内容を柔軟に変更する。
| 介入 | 緩和ケアでの扱い |
|---|---|
| 病名告知 | 告知の有無にかかわらず理学療法を行う。告知は理学療法の前提条件ではない。本人の状況・心理面に配慮する |
| 呼吸介助 | 呼吸困難の緩和に有用。肺がんでも一律禁忌ではない |
| 温熱療法 | 腫瘍の直上を避けるなどの配慮をすれば、疼痛緩和の目的で行える場合がある |
| リンパ浮腫への理学療法 | 複合的治療(1-5)は緩和ケアでも重要な治療。行わない、ではない |
緩和ケアの選択肢で「〜は禁忌」「〜は行わない」「〜を前提とする」と一律に断定するものは誤りになりやすい。実際は「配慮しながら行う」「状態に応じて選ぶ」。