嚥下訓練の種類と選択
この記事の執筆者: 現役の言語聴覚士が、臨床経験と国家試験の出題傾向をもとに執筆・監修しています。
嚥下訓練は「間接訓練」と「直接訓練」の2つに大別されます。どちらをいつ選択するか、適応条件を含めて整理しましょう。
1. 間接訓練と直接訓練の違い
| 間接訓練 | 直接訓練 |
| 定義 | 食物を使わずに嚥下機能を高める訓練 | 実際に食物・液体を使って嚥下する訓練 |
| 目的 | 嚥下に必要な筋力・運動の改善 | 実際の嚥下練習・摂食技術の獲得 |
| 適応 | 誤嚥リスクが高い段階でも実施可能 | 誤嚥リスクが許容範囲内の場合に実施 |
| 安全性 | 高い(食物を使わないため) | 評価に基づいた管理が必要 |
2. 主な間接訓練の種類
| 訓練名 | 内容 | 目的・対象 |
| 口腔運動訓練(舌・口唇・頬) | 舌の前後・上下・側方運動、口唇の開閉・伸展 | 舌・口唇機能低下による食塊形成不良 |
| 嚥下体操 | 頸部・肩の準備運動→口腔運動→息こらえ嚥下の流れ | 全般的な嚥下機能の準備・維持 |
| シャキア法(頭部挙上訓練) | 仰臥位で頭だけを上げ、自分の足先を見る運動 | 舌骨上筋群の筋力強化→UES開大改善 |
| バルーン訓練 | 食道入口部(UES)にバルーンカテーテルを挿入・拡張 | UES開大障害(弛緩不全)の改善 |
| アイスマッサージ(寒冷刺激) | 冷たい綿棒や氷片で前口蓋弓を刺激 | 嚥下反射の誘発促進 |
| ビーフマン手技 | 舌下部を指で圧迫しながら嚥下を促す | 舌根部の動き促進 |
| 呼吸訓練(腹式呼吸・咳嗽訓練) | 腹式呼吸の練習・ハフィング | 肺活量の改善・誤嚥物の排出力強化 |
シャキア法の詳細
仰臥位で肩をつけたまま頭だけを上げる(等尺性収縮)。これを1分間保持 × 3セット実施する(等尺性)。または30回繰り返す(等張性)。舌骨上筋群を強化してUES開大を促すのが目的。嚥下後の咽頭残留が多い例に有効。
3. 主な直接訓練の技法(代償的手技)
| 手技名 | 方法 | 適応 |
| 頸部前屈(chin down) | 顎を引いた姿勢で嚥下する | 嚥下反射遅延・声門閉鎖不全(誤嚥前防止) |
| 頸部回旋(健側向き) | 麻痺側に顔を向けて嚥下する | 一側性咽頭麻痺(梨状窩の麻痺側を閉じる) |
| 声門上嚥下法 | 息こらえ→嚥下→すぐ咳払い | 声門閉鎖不全・嚥下中誤嚥 |
| 超声門上嚥下法 | 力強い息こらえ→嚥下→すぐ咳払い | 声門閉鎖不全のより重症例 |
| 努力嚥下 | 舌を口蓋に強く押しつけながら嚥下 | 舌根部の後退力低下による咽頭残留 |
| メンデルソン手技 | 嚥下中に喉頭を高い位置に手で保持する | 喉頭挙上不全・UES開大不全 |
| 複数回嚥下(交互嚥下) | 一口ごとに複数回嚥下する | 咽頭残留が多い例 |
| 液体による送り込み | 固形物の後に液体を飲む | 咽頭残留のある例 |
4. 嚥下調整食の選択(学会分類2021)
| コード | 食形態 | 特徴 | 適応 |
| 0j | 嚥下訓練食品0j(ゼリー状) | 均質・付着性低・硬さ極めて低 | 最重度の嚥下障害 |
| 0t | 嚥下訓練食品0t(とろみ状) | 均質なとろみ状 | 最重度 |
| 1j | 嚥下調整食1j | 均質・凝集性高・スプーンですくえる | 重度嚥下障害 |
| 2-1 | 嚥下調整食2-1 | ピューレ・ペースト状 | 重度〜中等度 |
| 2-2 | 嚥下調整食2-2 | やや不均質でもよいミキサー食 | 中等度 |
| 3 | 嚥下調整食3 | 軟らかくまとまりやすい(軟菜・ムース) | 軽度〜中等度 |
| 4 | 嚥下調整食4 | 歯ぐきでつぶせる軟食 | 軽度障害・咀嚼困難 |
とろみ濃度の段階
学会分類2021ではとろみを3段階に分類:薄いとろみ・中間のとろみ・濃いとろみ。通常「とろみ」はコップを傾けると流れるが、ゆっくりまとまって流れる(中間)が最もよく使われる。
💡 臨床メモ: シャキア訓練は頭部挙上訓練とも呼ばれ、継続が難しい患者さんも多いです。等尺性収縮と等張性収縮を組み合わせた負荷で、上部食道括約筋の開大改善を目指します。
⚠️ よくある誤解
- 「嚥下訓練は食べながらしかできない」→ アイスマッサージ・バルーン法・シャキア訓練など間接訓練は食物なしで実施可能。
- 「とろみをつければ誤嚥しない」→ 濃いとろみは咽頭残留が増加し誤嚥リスクが高まる場合もある。適切な粘度の選択が重要。
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※ 本記事は現役の言語聴覚士が執筆・監修しています。
最終更新: 2026年5月