第1章|生体物性

生体物性材料工学 第1章
収録 51問(第31〜39回)導電率と誘電分散・膜電位・粘弾性・音響インピーダンス・磁性・放射線の単位と感受性・比熱と熱放散・光の吸収と深達・膜輸送

生体を「物理的な物質」として見る章。出題がいちばん多いのは受動的電気特性(導電率・α/β/γ分散)で、次が熱特性(比熱・熱放散)、放射線の単位と感受性、光の吸収と深達。ほぼ毎回、同じ大小関係・同じ対応表が形を変えて出る。計算は抵抗率と反射係数くらいで、大小関係・単位・対比を覚えれば点になる。

1-1 膜電位と興奮現象

静止電位と活動電位

静止電位は細胞内外のイオン濃度差(主にK⁺の濃度勾配)で生じ、細胞内が負。値は−90〜−50 mV程度。刺激で膜電位が閾値を超えると、Na⁺が流入して脱分極し、0 mVを超えて正に振れる(これがオーバーシュート、0〜+40 mV程度)。続いてK⁺が流出して再分極し、静止電位より一時的に深くなる後過分極を経て戻る。

相(図の順)起きていること
静止電位細胞内が負(K⁺の濃度勾配)。閾値以下の刺激では発火しない
脱分極Na⁺チャネルが開きNa⁺が流入する
オーバーシュート膜電位が0 mVを超えて正になる部分(活動電位の頂点付近)
再分極K⁺が流出して負に戻る。この間は不応期(次の刺激に応じない)
後過分極静止電位より一時的に負に深くなる

図で「オーバーシュートはどれか」と問われたら、0 mVの線より上に出た部分を選ぶ。立ち上がり途中(0 mV手前)は脱分極、下り坂は再分極、静止電位より下にへこんだ部分は後過分極。

興奮の性質と伝導

  • 閾値を超えれば同じ大きさの活動電位が出る(全か無かの法則)。刺激強度は活動電位の大きさでなく発火の頻度で伝わる
  • 細胞膜は脂質二重膜が絶縁体として働き、コンデンサ(静電容量)とイオンチャネルの抵抗が並列になった回路で表せる
  • 有髄神経では髄鞘の切れ目(ランビエ絞輪)を飛び飛びに伝わる=跳躍伝導(速い)。無髄神経は連続的に伝わるので、「無髄神経―跳躍伝導」は誤りの組合せ
  • 強さ‐時間曲線:刺激が弱いほど、興奮させるのに長い通電時間が要る。どれだけ長く流しても興奮しない限界の強さが基電流(レオベース)、基電流の2倍の強さで興奮に要する最短の時間が時値(クロナキシー)。時値が短いほど興奮しやすい組織
  • 電気刺激の閾値は周波数で変わり、高い周波数の電流ほど興奮を起こしにくい(1-2)

イオンと電子の基礎(膜電位を読む前提)

正しい誤りとして出るもの
原子核(正)は電子(負)を静電気力で引き寄せる
原子が電子を失うと陽イオン、電子を得ると陰イオン電子を失うと陰イオン
電子を失うことが酸化、電子を受け取ることが還元電子が奪われることを還元という
イオン化傾向が大きい金属ほど電子を失って陽イオンになりやすいイオン化傾向が大きいほど電子を引き寄せやすい
非金属元素は電子を受け取りやすい(陰イオンになりやすい)非金属元素は電子を失いやすい

1-2 受動的電気特性(導電率・誘電分散・異方性)

導電率の大小

導電率は水分と電解質で決まる

導電率は水分・電解質(イオン)を多く含む組織ほど高い。高い順に血液・体液 > 骨格筋・肝臓など実質臓器 > 脂肪・骨。100 Hzの大小関係は脂肪<骨格筋<血液。「皮下脂肪の導電率は肝臓(筋組織)より高い」は誤りの定番。

血液の導電率は温度依存性があり、温度が上がるとイオンが動きやすくなって導電率は上がる。骨格筋は線維の方向と直交方向で導電率が違う=電気的異方性(組織の配列方向による)。骨格筋は脂肪組織より異方性が大きい。生体のインピーダンスは非線形性を示す(電流・電圧・周波数で応答が変わる)。

周波数で変わるもの

低い周波数では細胞膜がコンデンサとして電流をさえぎり、電流は細胞外液だけを流れる。周波数が上がると膜の容量性リアクタンスが下がり、電流が細胞内も流れる。だから

周波数が上がると向き
導電率上昇(「低下する」は誤り)
誘電率(比誘電率)低下(分散のたびに段階的に下がる)
インピーダンス低下
電気的感受性(興奮の起こしやすさ)低下(電気メスが高周波を使う理由)

細胞膜の静電容量は約1 μF/cm²(1 cm²あたり1 μF程度)。数値ごと出る。

α・β・γ分散

分散周波数帯由来(国試の語形)
α分散数Hz〜数kHz(低周波)イオンの集散(対イオン・イオン雰囲気)=「イオンの移動」
β分散数十kHz〜数MHz細胞膜の界面分極(マクスウェル・ワグナー効果)=「細胞構造(組織構造)に由来」
γ分散数GHz〜約20 GHz水分子の緩和現象
入れ替えの肢がそのまま出る

「α分散―水分子の緩和」「β分散―水分子の緩和」「β分散―約20 GHz(数十GHz)」「γ分散―イオンの集散」「α分散―数十MHz」はすべて誤り。水分子はγ、細胞構造はβ、イオンはαと周波数の低い順に覚える。

抵抗率の計算

手順:①R=ρL/A(抵抗は長さLに比例し断面積Aに反比例)を立てる ②ρ=RA/L に変形 ③単位をそろえて代入。導電率σは抵抗率の逆数(σ=1/ρ)。

例題:断面積2 cm²・長さ10 cmの容器に入れた血液の抵抗が1 kΩ。抵抗率は? → ρ=1000 Ω × 2 cm² ÷ 10 cm = 200 Ω·cm。

例題:同じ血液を断面積1 cm²・長さ5 cmにすると抵抗は? → R=200 × 5 ÷ 1 = 1 kΩ(長さ半分・断面積半分で変わらない)。

生体の電気特性の組合せ(正しい対応)

生体の電気特性には能動性(神経・筋の細胞が刺激で自ら電気的興奮=活動電位を起こす)・受動性・非線形性・異方性(組織の配列方向による)・周波数依存性(α・β・γ分散)などがある。静止電位は細胞内外のイオン濃度差(主にK⁺の濃度勾配)で生じ、細胞内が負(詳しくは1-1)。「能動性―細胞の電気的興奮」「静止電位―細胞内外のイオン濃度差」は正しい組合せで、誤りの定番は分散の起源の入れ替え(「β分散―水分子の緩和」は誤り、正しくはγ分散)。

1-3 力学的特性(応力・ひずみ・粘弾性)

→ 正本:医用機械工学ノート 1-4 応力・ひずみ・ヤング率・ポアソン比/医用機械工学ノート 1-5 応力-ひずみ線図・塑性・粘弾性(この節は本科目の観点だけ。用語・分類・数字は正本で覚える)

静特性:応力・ひずみ・弾性率

応力=力÷断面積(Pa)、ひずみ=伸び÷元の長さ(単位なし)。ヤング率(弾性率)=応力÷ひずみなので、ヤング率が大きいほど硬く、同じ応力でのひずみは小さい。「ヤング率が大きいほどひずみが大きい」は誤り。

水を多く含む生体軟組織はほぼ体積が変わらない(非圧縮)ので、ポアソン比は約0.5。「ほぼ1」は誤り。血管は伸びるほど硬くなる非線形の変形をし、線維の走る方向で性質が違う異方性を示す。「変形挙動は線形」「力学的等方性を示す」は誤り。

組織をつくる線維

線維(たんぱく)性質多い場所(組合せで出る)
コラーゲン(膠原線維)引っ張りに強く硬い(弾性率が大きい)骨の基質・腱・靱帯・血管の外膜・軟骨(II型)
エラスチン(弾性線維)よく伸び縮みし軟らかい(弾性率が小さい)動脈の中膜・肺・皮膚
ケラチン上皮の線維表皮・毛・爪
アクチン・ミオシン収縮たんぱく筋

弾性線維はエラスチンからなる(「弾性線維はコラーゲンからなる」は誤り)。軟組織はコラーゲンの割合が大きいほど硬く、伸展性は小さい。エラスチンはコラーゲンより弾性率が小さい。

動特性:粘弾性

皮膚・血管などの軟組織は弾性と粘性をあわせもつ粘弾性体で、ばね(弾性要素)とダッシュポット(粘性要素)の直並列モデルで表す。

現象・モデル中身
クリープ一定の応力をかけ続けると、時間とともにひずみが増える
応力緩和一定のひずみを保つと、時間とともに応力が減る
ヒステリシス負荷と除荷で応力―ひずみ曲線が一致せずループを描く(「もたない」は誤り)
マクスウェルモデル弾性要素と粘性要素の直列。応力緩和を表す
フォークトモデル(ケルビン・フォークト)弾性要素と粘性要素の並列。クリープを表す

流体では、血漿は粘度がずり速度によらずほぼ一定のニュートン流体とみなせる。全血は赤血球のため非ニュートン流体(ずり速度が小さいと粘度が上がる)。

1-4 音響特性(音波・超音波)

→ 正本:医用機械工学ノート 1-10 波動・音波・超音波とドプラ効果(この節は本科目の観点だけ。用語・分類・数字は正本で覚える)

音波・超音波の性質

超音波は20 kHzを超える音波(ヒトの可聴域より高い)。2000 Hzは可聴音。音速は軟部組織で約1500 m/s(水とほぼ同じ)、骨では約3000〜4000 m/sと速い。空気中の音速は約340 m/sと遅い。周波数が高いほど生体内での減衰が大きく、深くまで届かない(そのかわり分解能は上がる)。

音響インピーダンスと反射

音響インピーダンスZは密度ρと音速cの積(Z=ρc)。音波はZの異なる組織の境界面で反射し、Zの差が大きいほど反射が強い。骨は密度・音速とも大きいので、骨の音響インピーダンスは筋肉より大きい。空気と組織の境界はZの差がきわめて大きく、ほぼ全反射するので、超音波検査ではゼリーで空気の層を除く。

反射係数(音圧の反射率):R=(Z₂−Z₁)÷(Z₂+Z₁)。エネルギーの反射率はその2乗。

例題:筋肉Z₁=1.7×10⁶、血液Z₂=1.6×10⁶(kg·m⁻²·s⁻¹)の境界の反射係数は? → |1.6−1.7|÷(1.6+1.7)=0.1÷3.3≒0.03。軟部組織どうしは反射がわずかで、大部分が透過する。

例題:Z₁=1.5、Z₂=6.0(×10⁶)の境界は? → 4.5÷7.5=0.6(骨との境界のように差が大きいと強く反射する)。

物理的エネルギーの安全の目安

皮膚を通して入る物理的エネルギー(超音波・電磁波など)で不可逆的な障害が生じるとされるエネルギー密度の下限は100 mW/cm²(0.1 W/cm²)。数値の選択問題で出る。診断用の超音波は多くのモードでこれより低い強度で使うが、一律ではない(診断装置の上限は空間ピーク時間平均強度で720 mW/cm²で、パルスドプラなどでは100 mW/cm²を超えることがある)。治療用(加温・組織破壊)は、これを超える強度を使う。

1-5 磁気特性

生体は磁気的にはほぼ「無い」

生体(主成分の水)はほとんど磁性をもたず、比透磁率はほぼ1(わずかに反磁性)。5000程度は鉄などの強磁性体の値で、「生体の比透磁率は5000程度」は誤り。

磁性物質性質生体の例
反磁性体磁場と逆向きにごく弱く磁化する水・大部分の組織・酸素化ヘモグロビン
常磁性体磁場の向きに弱く磁化する(不対電子をもつ)脱酸素化ヘモグロビン
強磁性体強く磁化し、比透磁率がきわめて大きい鉄・ニッケル・コバルト(生体の構成成分ではない)

酸素化Hbと脱酸素化Hbの磁性の違いがfMRI(BOLD効果)の基礎。

生体磁気

神経や心筋に電流が流れるとまわりに磁界が発生する(「神経伝導で磁界が発生する」は正しい)。これを測るのが脳磁図(MEG)・心磁図(MCG)。生体磁気は地磁気よりはるかに微弱なので、SQUID(超伝導量子干渉素子)と磁気シールドルームで測る。目安は地磁気が約50 μT、心磁が約100 pT(10⁻¹⁰ T)、脳磁がその100分の1以下(fT〜pT)。水素の原子核(プロトン)は磁気モーメントをもち、その核磁気共鳴を画像にしたのがMRI。

1-6 放射線の種類と性質

電磁放射線と粒子放射線

分類放射線電荷・正体
電磁放射線(電磁波)X線電荷なし(原子核の外で発生)
γ線電荷なし(原子核から発生)。γ線はマイナスの電荷をもたない
粒子放射線α線ヘリウム原子核(+2価・重い)
β線・電子線電子(−1価)
陽子線陽子線は荷電粒子線(+1価)。「陽子線は電磁放射線」は誤り
中性子線電荷なし
重粒子線炭素イオンなど(重い荷電粒子)

電離作用と透過力は逆順

重く電荷が大きいほど、強く電離して早く止まる

同じエネルギーなら電離作用の強さはα線>β線>γ線(X線)。透過力(到達深度)はその逆でγ線・X線>β線>α線。α線は紙1枚で止まる。中性子線は電荷をもたないので、陽子線より組織透過力が大きい。

だから「X線はα線より電離作用が強い」「α線はX線より組織到達深度が大きい」は誤りで、「X線はα線より到達深度が大きい」は正しい。治療では、陽子線・重粒子線は止まる直前に線量が最大になる(ブラッグピーク)ので、深部の腫瘍に線量を集められる。

放射線感受性は細胞分裂の盛んな組織ほど高い(ベルゴニー・トリボンドーの法則)=生殖腺・骨髄は高く、心筋・神経は低い。「心筋は生殖腺より感受性が高い」は誤り(詳しくは1-7)。

1-7 放射線の量・単位と放射線障害

量と単位

量単位意味
放射能Bq(ベクレル)=1/s1秒あたりに壊変する原子核の数
照射線量C/kgX線・γ線が空気を電離した電荷量
吸収線量Gy(グレイ)=J/kg物質1 kgが吸収したエネルギー。生物影響は含まない
等価線量・実効線量(線量当量)Sv(シーベルト)=J/kg生物への影響を考慮した線量
放射線のエネルギーeV(電子ボルト)エネルギーの単位

J/kgに相当する固有単位はGyとSvの2つ。Bqは1/s、Hはインダクタンス、Wbは磁束、Tは磁束密度で放射線の単位ではない。「線量当量―T」「照射線量―Bq」は誤りの組合せ。「生物への影響を考慮した放射線量の単位」と問われたらSv。

等価線量と実効線量

等価線量(Sv)=吸収線量(Gy)×放射線加重係数。放射線の種類による影響の違いを補正する。代表値は X線・γ線・電子線が1、陽子線が2、α線・重イオンが20、中性子線はエネルギーで変わる(2.5〜20程度)。

実効線量(Sv)=各組織の等価線量×組織加重係数の総和(係数の合計は1)。組織ごとの感受性の違いを補正し、全身への影響を1つの数で表す。係数の大きい組織の代表例は骨髄・肺・胃・結腸・乳房(各0.12)、生殖腺(0.08)。

放射線感受性

ベルゴニー・トリボンドーの法則

細胞分裂が盛んで、将来の分裂回数が多く、形態・機能が未分化な細胞ほど放射線感受性が高い。高感受性の代表は骨髄(造血組織)・リンパ組織・生殖腺・小腸上皮。低感受性は神経・脳・筋・心筋・骨・脂肪。

「皮膚は骨髄より感受性が高い」「心筋は生殖腺より感受性が高い」は誤り。選択肢に小腸上皮や骨髄があれば、それが「最も高い」。

障害の種類と許容限度

影響しきい値例
確定的影響(組織反応)しきい値がある。超えると線量とともに重くなる脱毛・皮膚の紅斑・白内障・不妊・骨髄障害
確率的影響しきい値がないと仮定する。線量とともに起こる確率が上がるがん・白血病・遺伝的影響

線量限度(実効線量)の代表値:放射線業務従事者は100 mSv/5年かつ50 mSv/年、一般公衆は1 mSv/年。医療被ばく(患者の検査・治療)には線量限度を設けない(正当化と最適化で管理する)。

1-8 熱容量・比熱と熱変性

→ 正本:医用機械工学ノート 1-11 熱量・比熱・熱膨張・熱力学の法則と効率(この節は本科目の観点だけ。用語・分類・数字は正本で覚える)

比熱は含水率で決まる

熱量 Q=m・c・ΔT(m:質量、c:比熱、ΔT:温度変化)。水の比熱は約4.2 J/(g·K)で、生体の物質の中できわめて大きい。そのため含水率の高い組織ほど比熱が大きく、温まりにくく冷めにくい。

比熱が大きい(含水率が高い)比熱が小さい(含水率が低い)
水・血漿・血液・細胞内液・筋・肝臓・腎臓脂肪・骨・コラーゲン(固形たんぱく)・リン酸カルシウム・金属(ステンレス約0.5 J/(g·K))

問われ方は2通りで、向きが逆になる。

  • 「同じ質量を同じだけ温めるのに必要な熱量が最も大きいのは」→比熱が最大のもの=水・血漿
  • 「同じ熱量を加えたとき温度上昇が最も大きいのは」→ΔT=Q÷(mc)なので比熱が最小のもの=脂肪

例題:水100 gを20 ℃から37 ℃に温める熱量は? → 100×4.2×17≒7.1 kJ。同じ熱量で比熱がその半分の物質なら、温度上昇は2倍になる。

熱伝導率も水分の多い組織(血液・筋)で大きく、脂肪・骨で小さい。脂肪は熱を通しにくく、皮下脂肪は断熱材として働く。

熱変性(加熱による組織の変化)

組織を加熱すると温度に応じて段階的に変化する:蛋白変性(約60 ℃前後で凝固)→乾燥(約100 ℃で水が沸騰・蒸発)→炭化(およそ150〜300 ℃で黒く焦げる)→蒸散(およそ300 ℃以上で組織が気化して消える)。教科書によっては100 ℃付近の水分の蒸発を「蒸散」と呼ぶこともあるので、温度の順(凝固→乾燥→炭化→組織の蒸散)で覚える。電気メスの凝固やレーザ治療はこの熱変性を使い分けている。42〜43 ℃程度の加温は、がん細胞が熱に弱いことを使う温熱療法(ハイパーサーミア)の領域。

1-9 熱放散と体温調節

熱放散の4経路

体表面からの熱放散は放射・伝導・対流・蒸発(蒸散)の4つ。「散乱」は光や波の現象で、熱放散の経路ではない。

経路中身
放射(輻射)赤外線として熱を放つ。常温・安静時の最大の経路
伝導接している物体へ直接伝わる
対流体表面での空気の対流は熱の放散を促す(風で冷える)
蒸発(蒸散・発汗)発汗と不感蒸泄の気化熱。高温環境では主な放熱手段になる。呼吸の増加も熱放出を増す

放射の法則

法則中身使い道
ステファン・ボルツマンの法則放射エネルギーは絶対温度の4乗に比例する(「絶対温度に比例」は誤り)体表から非接触で体温を測る(耳式・非接触体温計)
ウィーンの変位則温度が高いほど放射のピーク波長は短い体温(約310 K)の放射ピークは約9〜10 μmの赤外領域(遠赤外)。サーモグラフィ

人体の皮膚は放射率が約0.98で、ほぼ黒体とみなせる。体表からの放射は「近赤外光による」ではなく遠赤外。ほかの法則との取り違えに注意:ランベルト・ベール=吸光(パルスオキシメータ)、スネル=屈折、フック=弾性。

体内の熱移動と体温調節

  • 体内の熱輸送は主に血流(対流)による。「体内(皮下組織)の熱移動は主に熱伝導による」は誤り
  • 安静時の熱産生は約100 W(基礎代謝)。「1 kW程度」は誤り。運動時に熱産生が最も多いのは骨格筋(安静時は肝臓・脳などが多い)
  • 寒冷では皮膚の血管が収縮して皮膚血流が減り、シバリング(ふるえ)で熱を産生する
  • 暑熱では皮膚の血管が拡張して皮膚血流が増え、発汗・不感蒸泄が増えて放熱が増える。「末梢血管の拡張は熱放出を抑制する」は誤り
  • 体温が28 ℃以下になると体温調節機能が損なわれる(シバリングも消え、心室細動を起こしやすい)。「40 ℃を超えるとシバリング」は誤り

1-10 光特性

電磁波の波長と光の性質

波長の短い順に紫外線(UVC<UVB<UVA)<可視光(約400〜700 nm)<赤外線(近赤外<遠赤外)。区分の目安は UVC 100〜280 nm、UVB 280〜315 nm、UVA 315〜400 nm。

正しい誤りとして出るもの
光は波の性質と粒子の性質をあわせもつ光は質量をもつ(光子の静止質量はゼロ)
真空中の光速は一定(約3×10⁸ m/s)
光のエネルギーは周波数に比例する(E=hν。波長が短いほど高エネルギー)
遠赤外光の生体作用は熱作用遠赤外光の生体作用は電離作用

波長と深達度

長い波長ほど深く届く(赤外の水は除く)

紫外〜可視では波長が長いほど組織の深部に届く。UVCは表皮でほとんど吸収され、UVAは真皮まで達する。赤〜近赤外(およそ600〜1300 nm)はヘモグロビンにも水にも吸収されにくく、最も深く届く(生体の窓・光学窓)。「波長が短いほど深部に浸透する」「UVAはUVCより表皮での吸収が大きい」は誤り。

可視光は皮膚表面でほとんど反射されるのではなく、皮膚の中で吸収・散乱されながら進む(「ほとんど反射」は誤り)。血液の散乱はヘマトクリット値(赤血球の量)で変わる。

何がどの光を吸収するか

物質よく吸収する光切る肢
核酸(DNA)紫外(約260 nm)→DNA損傷
たんぱく質紫外(約280 nm)。脂質より紫外の吸収が大きい脂質はたんぱく質より紫外の吸収が大きい
メラニン可視光より紫外線をよく吸収する(短波長ほど吸収大)紫外より可視光(赤外光)をよく吸収する
ヘモグロビン可視光(青〜緑)をよく吸収し、赤色光の吸収は小さい(だから血液は赤く見える)。赤外光より可視光の吸収が大きい赤色光の吸収が大きい/可視光の吸収は赤外光より小さい
水赤外光を強く吸収し、可視光はよく通す水は赤外光より可視光をよく吸収する
ビリルビン青色光(約450 nm)をよく吸収する→新生児黄疸の光線療法可視光領域での吸収が小さい

紫外線は短い波長ほどDNAを傷つけやすい(UVC>UVB>UVA)。「UVAはUVCよりDNAの損傷を起こしやすい」は誤り。眼底(網膜)は可視光を吸収するから見える(「眼底での可視光の吸収はない」は誤り)。パルスオキシメータは赤(660 nm)と赤外(940 nm)の吸光度の差を使う。

レーザ光と蛍光

レーザの組織作用も「何に吸収されるか」で決まる。CO2レーザ(10.6 μm)は水によく吸収されるので表面で止まり、切開・蒸散に向く。Nd:YAGレーザ(1.064 μm)は近赤外で吸収されにくく深く届くので、深部の凝固に向く。

蛍光について正しい誤りとして出るもの
蛍光は励起状態から基底状態への遷移で発光する(エネルギー準位は下がる)蛍光発光でエネルギー準位が上がる
蛍光は励起光と異なる(長い)波長で発光する(ストークスシフト)発光波長は物質によらず一定
生体も自家蛍光を発する生体は蛍光を発生しない

1-11 生体における輸送現象

受動輸送と能動輸送

様式駆動力代表例
拡散濃度(分圧)の差。エネルギー不要肺胞と血液のO2・CO2の移動、毛細血管から組織へのO2、透析の小分子
浸透半透膜をはさんだ溶質濃度の差で水が動く腎臓での水の再吸収、組織から静脈側毛細血管への間質液の移動(血漿膠質浸透圧が引き込む)
濾過静水圧(圧力)の差腎糸球体での原尿の生成、毛細血管から血管外への水の移動、透析の限外濾過
能動輸送ATPのエネルギーを使い、濃度勾配に逆らって運ぶ細胞内から細胞外へのNa⁺の移動(Na⁺/K⁺ポンプ)、小腸でのグルコース吸収・尿細管でのグルコース再吸収(SGLTによるNa⁺との共輸送=二次性能動輸送)。一般の細胞がグルコースを取り込むのはGLUTによる促進拡散(能動輸送ではない)
能動輸送はどれか

水・尿素・O2・CO2は受動的に動く(浸透・拡散)。能動輸送で出るのはNa⁺の汲み出しと小腸・尿細管のグルコース輸送(SGLT)。「Na⁺の細胞外への移動―浸透」「腎臓での水の再吸収―拡散」「毛細血管から血管外への水分移動―対流」は誤りの組合せ。

毛細血管での水の出入りはスターリングの法則:動脈側では静水圧が膠質浸透圧を上回って水が血管外へ濾過され、静脈側では膠質浸透圧が上回って間質液が血管内へ戻る。膜輸送では、膜の孔より大きな分子(血漿たんぱく)は通らないので、たんぱくがつくる膠質浸透圧が水を引き込む力になる。