第2章|医用材料

生体物性材料工学 第2章
収録 45問(第31〜39回)滅菌法・生物学的安全性評価・急性/慢性反応・血液適合性と補体・不動態と形状記憶合金・生体活性セラミックス・シリコーンと高分子の用途・化学結合の強さ

医用材料は「何が起きるか(生体反応)」「どう確かめるか(安全性試験)」「何を使うか(材料と用途)」の3本立て。出題が多いのは生物学的安全性評価・急性/慢性の生体反応・血液適合性・高分子材料と用途の組合せ。同じ形の問題がほぼそのまま繰り返されるので、対比表を覚えれば点になる。

2-1 医用材料の条件と滅菌

医用材料に求められる条件

  • 生体適合性:生体に害を与えず、生体からも劣化させられにくいこと。求められる生体適合性は用途(接触部位・期間)や材料によって異なる
  • 医用機能性:目的の機能をもつこと。代表例は機械的強度(人工関節・骨固定材は繰り返し荷重に耐える)、耐熱性(高圧蒸気滅菌など熱を使う滅菌に耐えるか)、透過性(透析膜・人工肺膜)
  • 可滅菌性:滅菌で変質しないこと

人工腎臓(ダイアライザ)は拡散と限外濾過で除去するだけで、腎尿細管のような再吸収機能はもたない。人工臓器は本物の臓器の機能の一部しか代行しない。ニッケルなどのアレルギー性元素を含む医用材料がある(ステンレス鋼・ニッケルチタン合金など)。生体吸収性材料(ポリ乳酸など)は生体内で分解されるので、非吸収性材料より耐久性は劣る。

滅菌法の比較

滅菌法条件・特徴向く/向かない
高圧蒸気滅菌(オートクレーブ)約121 ℃の飽和水蒸気で15〜20分程度。高温の蒸気でタンパク質を変性させて微生物を殺す金属器具・耐熱性のもの。血清・熱に弱い高分子には使えない
乾熱滅菌160〜180 ℃で1〜2時間程度。さらに高温(約250 ℃)ではエンドトキシン(発熱性物質)も無毒化できるガラス・金属。高分子材料は熱で変形するので向かない
EOG滅菌(エチレンオキサイドガス)処理温度は約40〜60 ℃の低温(室温でも80 ℃でもない)。数時間かかり、残留ガスが有毒なので滅菌後にエアレーション(脱ガス)が要る耐熱性の低い材料(高分子製品)に使われる
γ線滅菌透過性が高く、包装したまま滅菌できるディスポーザブル製品の大量滅菌
電子線滅菌処理時間は秒〜分単位と短い(「数時間」は誤り)。透過性はγ線より低い薄い製品・包装の小さい製品
濾過滅菌孔径約0.2 μmのフィルタで微生物(細菌)を除去する熱に弱い液体(血清・薬液)。ウイルスは小さすぎて除去できない

抗菌スペクトル:消毒薬・抗菌薬ごとに、効く微生物の範囲が違う(滅菌はすべての微生物が対象なので、スペクトルの違いは消毒薬・抗菌薬で問題になる)。滅菌はすべての微生物(芽胞を含む)を殺滅・除去することで、消毒(病原性微生物を減らす)とは別の概念。

切る肢の定番

「EOG滅菌は室温で行う」「EOG滅菌の処理温度は80 ℃程度」「電子線はγ線より透過性が高い」「電子線滅菌は数時間」「乾熱滅菌は高分子材料に使う」「高圧蒸気滅菌は血清に使える」「濾過滅菌はウイルスの除去に使う」はすべて誤り。

2-2 安全性試験と生物学的安全性評価

安全性試験の枠組み

医用材料・医療機器の安全性試験は、物性試験・溶出物試験・生物学的試験・無菌性の保証からなる。根拠の法律は医薬品医療機器等法(薬機法)、評価の規格はISO 10993(JIS T 0993)。

試験見るもの
物性試験強度・弾性・耐久性などの機械的・物理的特性
溶出物試験材料から溶け出す添加剤(可塑剤・触媒など)や金属イオン。溶出液(抽出液)を使って評価する。ポリ塩化ビニルの可塑剤DEHPが代表例
生物学的試験細胞毒性・感作性・刺激性など、生体への有害作用
無菌性の保証滅菌工程が確実に無菌にすることを確かめる(滅菌バリデーション)

試験を行うのは製造販売業者・試験機関で、製品化の過程で行う。病院の医療機器安全管理責任者は、院内の保守点検・研修・安全使用を管理する立場で、安全性試験は行わない。試験は代表サンプル(ロット)で行い、製品の全数を個々に評価するのではない。「製品個々について評価する」「全数を個々に評価する」は誤り。

生物学的安全性評価

必要な試験項目は、生体との接触部位と接触期間で分類して決める。接触面積では分類しない(「接触面積による分類」は含まれない・誤り)。

分類の軸区分
接触部位表面接触(皮膚・粘膜・損傷表面)/体内と体外を連結(血液回路など)/体内植込み
接触期間一時的(24時間以内)/短・中期(24時間〜30日)/長期(30日超)
全ての医療機器で考慮する3項目

生体に接触する全ての医療機器で必ず考慮するのは細胞毒性試験・感作性試験・刺激性試験(皮内反応試験)。血液適合性試験・埋植試験・亜急性毒性試験は、接触部位・期間に応じて追加する(血液接触なら血液適合性、植込みなら埋植試験)。

試験名と見るものの対応

試験見るもの
細胞毒性試験培養細胞への毒性
感作性試験遅延型アレルギーを皮膚の組織反応で見る
刺激性試験・皮内反応試験皮膚・目(眼粘膜)などの組織反応
遺伝毒性試験(変異原性)染色体の変異・遺伝子突然変異
急性・亜急性・慢性毒性試験長期の曝露による全身・臓器への影響。「慢性毒性試験―染色体の変異」は誤り
発熱性試験発熱性物質(パイロジェン)
血液適合性試験溶血・血栓形成・補体活性化
埋植試験植え込んだ部位の組織反応
トキシコキネティクス化学物質(溶出物)の体内動態(吸収・分布・代謝・排泄)

評価の出発点は化学的情報の収集(材料の組成・添加物)で、これも生物学的安全性評価に含まれる。無菌試験は滅菌・品質管理の試験で、生物学的安全性評価には含まれない。一方、「安全性試験」全体を問う問題では無菌性の評価は含まれる。問いが「安全性試験」か「生物学的安全性評価」かを見分ける。

2-3 材料と生体の相互作用(急性・慢性反応)

時間(急性/慢性)×広がり(全身/局所)

反応代表例(国試の語形)
急性全身反応ショック(アナフィラキシー)
急性局所反応炎症・血栓形成・壊死
慢性全身反応遅延型アレルギー
慢性局所反応肉芽形成・石灰化
異物反応(慢性)器質化・カプセル化(被包化)・生体内劣化・石灰化

石灰化を2つの行に置いているのはわざと。出題基準の小項目では石灰化は「異物反応」に入るが、国試では「慢性局所反応はどれか」の正答としても問われる(肉芽形成と並ぶ)。どちらの聞かれ方でも「慢性の反応」として選べるようにしておく。

急性と慢性の仕分け

急性反応は接触してすぐ起こる:補体活性化・血液凝固(血栓形成)・炎症・ショック(アナフィラキシー)。慢性反応は時間をかけて進む:カプセル化・石灰化・肉芽形成・器質化。「急性局所反応はどれか」なら血栓形成、「慢性局所反応」なら肉芽形成と石灰化、「急性反応」なら補体活性化とショック。

カプセル化は埋植した異物をコラーゲンを主とする線維性結合組織の膜で包み込む反応。体外循環のような短時間の血液接触では起こらない。

反応と関わる物質

反応関わる物質・細胞
カプセル化コラーゲン(線維性被膜)
石灰化リン酸カルシウムが沈着する(生体弁の劣化で問題になる)
補体活性化アナフィラトキシン(C3a・C5a)
炎症ヒスタミン・マクロファージなど白血球の浸潤
血栓形成血小板・フィブリン・トロンビン(トロンビンは活性化して血栓をつくる)。エラスチンは関係しない
アナフィラキシーIgE抗体と肥満細胞による即時型アレルギー(T細胞が主役なのは遅延型)

器質化は血栓や壊死組織が肉芽組織に置き換わり、最後は線維組織になること。壊死は材料の毒性や圧迫で周りの組織が死ぬ急性の局所反応。

誤りの組合せの定番:「血栓形成―エラスチン」「血栓形成―トロンビンの活性阻害」「アナフィラキシー―T細胞の活性化」「血液凝固―コラーゲンの分解」。

生体内劣化

生体内での材料の劣化を進める因子は、水(加水分解)・活性酸素(酸化)・酵素反応・材料の化学組成・繰り返し荷重(機械的疲労)。フィブリノーゲンは血栓形成に関わるが、材料そのものの化学的劣化には影響しない。

2-4 血液適合性(血栓・補体・溶血)

材料表面で血栓ができる順番

血液と材料が接触して最初に起こるのはタンパク質の吸着。順番は

①タンパク質(フィブリノーゲンなど)の吸着・変性 → ②血小板の粘着・活性化・凝集 → ③凝固系の活性化(トロンビン) → ④フィブリンの形成(血栓)

血栓形成の要因として正しいのはタンパク質の変性と血小板の凝集。プラスミンは血栓を溶かす線溶系なので形成の要因ではない。「ナトリウムイオンの放出」「溶血」「多糖の分解」「線溶系亢進」「赤血球凝集」「石灰化」は、血栓形成の要因・最初の反応として誤り。

凝固を進めるもの・止めるもの

凝固を促進する凝固を抑える(抗凝固)
カルシウムイオン(凝固第Ⅳ因子)が関与するヘパリン:アンチトロンビンを介してトロンビン・Xaを抑える
第Xa因子が活性化し、プロトロンビンがトロンビンへ活性化するクエン酸:Ca²⁺をキレートして凝固を止める
トロンビンがフィブリノーゲンをフィブリンにするプラスミン:できたフィブリンを溶かす(線溶)

補体活性化と溶血

補体は血液が異物に触れるとすぐ活性化する(急性反応)。働きはオプソニン作用(食べられやすくする)・走化性(白血球を呼ぶ・C5a)・細胞殺傷性(膜侵襲複合体)、副産物がアナフィラトキシン(C3a・C5a)。

セルロース(再生セルロース膜)による補体活性化の要因は表面の水酸基(−OH)。水酸基をアセチル基に置き換えた酢酸セルロース(セルローストリアセテート)では補体活性化が減るので、「アセチル基」は誤り。

人工心肺による体外循環中は、ポンプ・回路のずり応力による溶血と、異物接触による補体活性化が起こる。カプセル化・石灰化・がん化は長期の埋植で起こる反応なので、体外循環中の反応ではない。

抗血栓性材料

抗血栓性をもつ(代表例)抗血栓性材料として誤り
リン脂質ポリマー(MPCポリマー:細胞膜に似た表面でタンパク吸着を抑える)セルロース(補体を活性化する)
セグメント化ポリウレタン(ミクロ相分離構造)コラーゲン(コラーゲンは血小板を粘着・活性化させ、止血材に使う)
ヘパリン固定化表面・パイロライトカーボンポリメチルメタクリレート

2-5 材料化学(化学結合)

結合の種類と強さ

結合中身代表例
共有結合原子どうしが電子対を共有する高分子の主鎖(C−C、Si−O)・セラミックスの一部
イオン結合陽イオンと陰イオンが静電気力で結合するNaCl・酸化物セラミックス(アルミナ)
金属結合金属原子が自由電子を共有して結合する(電気・熱をよく通し、延性がある)金属材料
水素結合分子間力の一つ(O−H・N−Hの水素と、O・Nとの引き合い)水・タンパク質の立体構造・セルロース
ファンデルワールス力(ファンデルワールス結合)分子間力の一つ。最も弱い高分子鎖どうし
強さの順

共有結合 > 金属結合 > ファンデルワールス結合。水素結合を入れると、化学結合(共有・イオン・金属)は分子間力(水素結合・ファンデルワールス力)より強く、水素結合はファンデルワールス力より強い。だから「金属結合は水素結合より強い」「共有結合はファンデルワールス結合より強い」は正しく、「水素結合は共有結合(イオン結合)より強い」「ファンデルワールス結合は水素結合より強い」は誤り。

分子間力に入るのはファンデルワールス力と水素結合の2つ。共有結合・金属結合・イオン結合は分子間力ではなく化学結合。

2-6 金属材料と無機材料(セラミックス)

金属材料

金属は強度・靱性が高いが、腐食すると金属イオンが溶け出す。ステンレス鋼やチタン合金の表面には薄い酸化被膜(不動態)ができ、これが腐食を防ぐ。不動態は酸化被膜であって、形状記憶効果や熱硬化性とは関係ない。合金化や転位(結晶内の原子配列のずれ)の動きにくさが強度を左右する。

金属特徴用途(代表例)
ステンレス鋼(SUS316Lなど)表面にできる不動態は酸化クロム(Cr₂O₃)。ニッケルを含む手術器具・骨固定材・ステント
チタン・チタン合金(Ti-6Al-4V)酸化チタンの不動態で耐食性が高い。骨と直接結合しやすい人工歯根(デンタルインプラント)・人工関節
コバルトクロム合金耐摩耗性・耐食性が高い人工関節・ステント
ニッケルチタン合金(Ni-Ti)形状記憶効果と超弾性をもつ(形状記憶合金)ガイドワイヤ・自己拡張型ステント

ステンレス鋼やニッケルチタン合金から溶け出したニッケルイオンは、金属アレルギーの原因になる。だから金属材料では溶出物試験で金属イオンの溶出を確かめる(2-2)。

「形状記憶機能をもつのはどれか」の答えはニッケル−チタン合金。チタン−アルミニウム−バナジウム合金・コバルト−クロム合金・ステンレスは形状記憶合金ではない。

無機材料(セラミックス・カーボン)

セラミックスは硬く、耐摩耗性・耐食性に優れるが、もろい。原子が規則正しく並んだ結晶と、不規則なアモルファス(ガラス)がある。

分類材料性質・用途
生体活性(骨と化学的に結合する)ハイドロキシアパタイト・リン酸三カルシウム(TCP)・バイオガラス骨補填材・インプラントのコーティング。β-TCPは吸収されて骨に置き換わる
生体不活性(反応しにくい)アルミナ・ジルコニア人工関節の骨頭(耐摩耗性・高強度)
カーボンパイロライトカーボン抗血栓性に優れ、機械弁の弁葉に使う

「生体活性材料はどれか」ならリン酸三カルシウムとバイオガラス。アルミナ・ジルコニア・パイロライトカーボンは生体不活性材料。

2-7 有機材料(合成高分子・天然高分子)と生物由来材料

高分子の性質

熱可塑性樹脂は加熱で軟らかくなり成形できる(ポリエチレン・ポリ塩化ビニル・ポリカーボネートなど)。エラストマーはゴム弾性をもつ(シリコーンゴム・ポリウレタンなど)。

ポリエチレン:エチレンを重合したポリオレフィンで、合成高分子。結晶性で、ゴム弾性はもたない(低密度ポリエチレンは柔軟でカテーテル・チューブ向き、高密度・超高分子量ポリエチレンは硬く摩耗に強い)。ビニル化合物(塩化ビニルなどCH₂=CH−Xの形)ではない。カテーテル・人工関節の摺動面(超高分子量ポリエチレン)に使う。

シリコーン

シリコーン(ポリジメチルシロキサン)はSi−O(シロキサン)結合を骨格にもつ有機高分子(セラミックスではない)。

正しい誤りとして出るもの
疎水性親水性である
オイル状(シリコーンオイル)とゴム状(シリコーンゴム)がある。ゴムは弾性体可塑性である/セラミックスである
化学的に安定で、生体内で加水分解されにくい。放射線・高圧蒸気滅菌にも比較的強い生体内で加水分解される/放射線滅菌で変性しやすい
用途:カテーテル・眼内レンズ(軟性)・人工肺の膜・ドレーン・人工乳房透析膜・人工血管・縫合糸に使う

材料と用途の組合せ

用途(医療機器)材料(代表例)
血液透析膜ポリスルホン(ポリスルフォン)・ポリエーテルスルホン・セルローストリアセテート・PMMA・PAN
人工肺のガス交換膜ポリプロピレン・ポリメチルペンテン・シリコーン
人工肺のハウジング(外筒)ポリカーボネート(透明で硬い)
血液回路・血液バッグポリ塩化ビニル(可塑剤を含む)
人工血管ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート・ダクロン)・ePTFE(延伸ポリテトラフルオロエチレン)
人工弁の弁葉(機械弁)パイロライトカーボン
人工歯根チタン
ガイドワイヤニッケルチタン合金
吸収性縫合糸ポリグリコール酸・ポリ乳酸
眼内レンズPMMA(硬性)・シリコーン/アクリル(軟性)

誤りの組合せの定番:「セルロース―血液回路」「ポリ塩化ビニル―人工血管」「ポリグリコール酸―眼内レンズ」「ポリテトラフルオロエチレン―血漿分離膜」「人工弁弁葉―ステンレス鋼」「人工肺用ガス交換膜―ポリスルホン」「人工歯根―高密度ポリエチレン」「血液透析膜―ポリジメチルシロキサン」。

高分子をつくる結合(構造式)

結合構造高分子の例
エステル結合−C(=O)−O−ポリ乳酸・ポリグリコール酸・ポリエチレンテレフタレート(エステル結合と−C−C−を含む)
アミド結合−C(=O)−NH−ナイロン(ポリアミド)・タンパク質(ペプチド結合)
ウレタン結合−NH−C(=O)−O−ポリウレタン
尿素(ウレア)結合−NH−C(=O)−NH−ポリウレア
シロキサン結合−Si−O−Si−シリコーン

ポリ乳酸・ポリグリコール酸はエステル結合が加水分解されるので、生体吸収性材料になる。

天然高分子と生物由来材料

材料正しい記述
コラーゲン再生医療の足場材料・止血材に用いられる。膠原線維をつくる
ゼラチン熱で変性したコラーゲン
エラスチン弾性線維をつくるタンパク質(「エラスチンは膠原線維」は誤り)
シルク(絹)縫合糸に用いられる
キチン・キトサン多糖類(甲殻類の殻)。創傷被覆材
セルロース多糖類。再生セルロースは透析膜(補体を活性化しやすい)

生物由来材料の代表例:動物由来では生体弁(ブタ大動脈弁・ウシ心膜をグルタルアルデヒドで処理したもの。長期では石灰化が問題になる)・ゼラチン、ヒト由来では幹細胞・同種組織。