第1章|治療の基礎

医用治療機器学 第1章
収録 5問(第31〜39回)作用と副作用・治療エネルギーの種類・機器とエネルギーの対応・レーザの生体作用

治療機器は、生体にエネルギーを与えて組織を変化させる機器。この章の過去問はほぼすべて「この機器はどのエネルギーを使うか」の組合せで出る。機器ごとに「何を・どう作用させるか」を1行で言えるようにしておけば、第2章の各論の土台にもなる。

1-1 治療の意義と目標・エネルギーで機器を仕分ける

作用(治療効果)と副作用(危険性)

治療機器は、計測・診断の機器よりはるかに大きなエネルギーを生体に与える。そのため、治療効果を生むエネルギーが、そのまま事故(副作用)の原因にもなる。治療の目標は、作用(治療効果)を最大にし、副作用(危険性)を最小にすること。出題基準の備考にある「治療の安全性と信頼性」はこの意味。

機器治療に使う作用同じエネルギーが起こす事故(副作用)
電気メス高周波電流のジュール熱で切開・凝固対極板の接触不良で、対極板の下に熱傷
除細動器大電流のパルスで心筋を一斉に脱分極電極の密着不良で皮膚熱傷・介助者の感電
レーザ手術装置光の熱で凝固・切開・蒸散反射光や誤照射で眼の傷害・熱傷・引火
輸液ポンプ機械力で薬液を一定流量で送る流量設定の誤りや閉塞の解除時に過剰投与

作用と副作用は表裏一体なので、安全対策は「エネルギーを狙った部位にだけ、狙った量だけ与える」ための仕組みと考えると覚えやすい(対極板の監視、除細動器の通電テスト、レーザの保護メガネ、ポンプのアラームなど。詳しくは第2章)。

エネルギーの種類で機器を仕分ける

出題基準は治療エネルギーを電磁気・熱・音波・放射線・機械力の5つに分ける(光は電磁波の一種として電磁気に入る)。下の表は過去問に出た機器の対応の代表例。

エネルギー代表的な機器(過去問の語形)
電流(電気)電気メス(高周波)・除細動器(パルス波)・植込み型除細動器(ICD)・心臓ペースメーカ・筋刺激装置(低周波)・カテーテルアブレーション
電磁波超短波治療器(高周波)・マイクロ波治療器・マイクロ波手術装置
光レーザメス・レーザ光凝固装置・光線治療器
放射線X線・γ線(ガンマナイフ)=電磁波/陽子線・重粒子線(シンクロトロン・サイクロトロンなどの加速器で加速)=粒子線
音波(超音波・衝撃波)超音波ネブライザ・超音波吸引手術器・超音波凝固切開装置・体外衝撃波結石破砕装置(ESWL)
熱(加温・寒冷)ハイパーサーミア装置・冷凍手術器(保育器も熱に分類されるが、治療機器ではなく保温の機器)
機械力IABP・補助人工心臓(VAD)・ECMO・高気圧治療装置・輸液ポンプ・人工呼吸器・吸引器・PTCA(バルーン拡張)
誤答肢に出た組合せ(取り違えやすい語の対比)

筋刺激装置は光ではなく電気(低周波電流)で筋を収縮させる。X線は粒子線ではなく電磁波(γ線も同じ。粒子線は陽子線・重粒子線)。一方、超短波治療器は高周波、ネブライザは超音波(超音波ネブライザ)、除細動器はパルス波という組合せは正しい。

1-2 電磁気・光・放射線

電流で直接作用させる機器

「電流を流して治療する」機器を選ぶ問題では、電流そのものが生体(心筋や組織)に流れて作用するかで判断する。正答の代表はICD(植込み型除細動器)。心室細動を感知すると、右室内のリードから心筋に直接通電して止める。

選択肢に並ぶ機器実際に使うエネルギー
ICD・除細動器・ペースメーカ・電気メス電流(生体に電流を流す)
ECMO・IABP・補助人工心臓(VAD)ポンプやバルーンの機械力(電気は駆動に使うだけで、生体には流さない)
PTCA(経皮的冠動脈形成術)バルーンで狭窄部を押し広げる機械力
ESWL衝撃波(音波)で結石を砕く
CHDF(持続的血液濾過透析)膜を介した拡散と濾過(物質の移動)

電気で動く機器はたくさんあるが、「電源が電気」と「生体に電流を流す」は別。この区別が誤答肢を切る鍵になる。

周波数で作用が変わる(低周波と高周波)

低周波の電流は、神経・筋を興奮させる(刺激作用)。ペースメーカや筋刺激装置はこれを使う。周波数を上げると刺激作用は消え、熱作用(ジュール熱)が主になる。電気メスは300kHz〜5MHz程度の高周波を使うので、神経・筋を刺激せずに組織を加熱できる。さらに周波数の高い超短波・マイクロ波は電磁波として組織に入り、誘電加熱で温める。

光(レーザ)の生体作用

レーザが組織に起こす作用は、次の4〜5種類に分けて問われる。

作用中身応用の例
光熱的作用光が吸収されて熱に変わるタンパク質の凝固・止血・切開・蒸散(CO₂レーザ・Nd:YAGレーザ)
光化学的作用光が光感受性物質を励起し、化学反応を起こす光線力学療法(PDT)
光音響的作用急激な加熱で膨張し音波(圧力波)が生じる=熱弾性効果—
光機械的作用パルス光で生じた衝撃波で物を壊す結石破砕
光解離作用光のエネルギーで分子の結合を直接切るエキシマレーザによる角膜の切除

光解離は分子結合の切断で、鎮痛の機序ではない。誤答肢で「光解離作用―鎮痛」と組まれて出た。

放射線

X線・γ線は電磁波(光子)で、ガンマナイフはγ線を頭蓋内の病変に集中させる装置。陽子線・重粒子線は粒子線で、シンクロトロン・サイクロトロンなどの加速器で荷電粒子を電磁力により加速して作る(重粒子線の治療装置はシンクロトロンがふつう。陽子線は両方ある)。「X線=粒子線」は誤り。

1-3 熱・音波・機械力

熱(加温と寒冷)

熱エネルギーの機器には、温める側と冷やす側がある。ハイパーサーミア装置は腫瘍を42〜43℃に加温して治療する。冷凍手術器は組織を凍結させて壊死させる(寒冷も熱エネルギーの仲間)。保育器も温度・湿度を保つ熱の機器だが、保温の機器で、第2章の熱治療機器には入らない(「機械力」の誤答肢として出る)。冷凍手術器は「機械力」ではなく「熱(寒冷)」として出題される。

音波(超音波・衝撃波)

超音波は振動子(圧電素子)の機械的な振動を組織や液体に伝える。ネブライザ(薬液を霧にする)、超音波吸引手術器(組織を砕いて吸う)、超音波凝固切開装置(振動の摩擦熱で凝固・切離)がこの仲間。ESWLは体外で作った衝撃波を体内の結石に集めて砕く。出題基準ではESWLは機械的治療機器(衝撃波=機械的エネルギー)に分類されるので、「機械的エネルギーの機器」として出ても結びつける。キャビテーション(液中の気泡の発生と崩壊)は超音波で起こる現象。

機械力(圧力・流れ・陽圧)

機械力の機器は「ポンプ・バルーン・圧力」で組織や血液、ガスを動かす。

機器機械力の中身
IABP(大動脈内バルーンパンピング)大動脈内のバルーンを拡張期に膨らませ収縮期に縮める
高気圧治療装置装置内を大気圧より高い圧にする(陽圧)
輸液ポンプ・人工呼吸器・吸引器薬液を送る・ガスを送る・陰圧で吸う

熱・音波・機械力の副作用

1-1と同じく、使うエネルギーがそのまま事故の形を決める。加温の機器では熱傷、冷凍の機器では周囲の正常組織の凍結が問題になる。超音波や衝撃波ではキャビテーションや周囲臓器の損傷(ESWLでは肺や腸管)に注意する。機械力の機器では圧の上がりすぎ(圧外傷)や送りすぎ(過剰投与)が典型の事故で、閉塞・圧力のアラームはこれを見張る。

取り違えやすい組合せ

冷凍手術器は熱(寒冷)、レーザメスは光、サイクロトロンは荷電粒子を電磁力で加速する(粒子線)。どれも「機械力」ではない。機械力として正しいのはIABPと高気圧治療装置。