第4章|システム工学

医用電気電子工学 第4章
収録 16問(第31〜39回)ブロック線図・伝達関数・一次遅れ(時定数)・ラプラス変換・フィードバック制御

システムを「入力→要素→出力」の形で表し、その振る舞いを調べて制御する分野。出題は16問と少ないが、ブロック線図の合成(直列は積・負帰還はG/(1+GH))、一次遅れ系K/(1+Ts)の読み方、ラプラス変換の基本対、信頼度の直列・並列はそのまま計算で取れる。制御方式は「測って直す」「先回り」「順序どおり」の区別で選ぶ。

4-1 システムの表現と入出力関係(ラプラス変換・伝達関数・ブロック線図)

いろいろな系を同じ形で表す

電気・機械・熱・流体の系は、それぞれ「流れを押す量」「流れる量」「流れにくさ」「ためる量」を対応させると同じ微分方程式で書ける。異なる物理系でも電気回路に置き換えて解析できる(アナロジー)。

系押す量(電圧に相当)流れる量(電流に相当)抵抗に相当コンデンサ(ためる)に相当
電気系電圧電流抵抗R静電容量C(インダクタンスLは慣性)
機械系力速度ダンパ(粘性抵抗)ばね(質量は慣性=Lに相当)
熱系温度(差)熱流熱抵抗熱容量
流体系圧力(差)流量流れの抵抗(血管抵抗)コンプライアンス(血管の伸びやすさ)

代表例として、大動脈の弾性と末梢血管抵抗をRC回路で表すウィンドケッセルモデルがある。抵抗とためる要素が1つずつの系は一次遅れ系になる。

ラプラス変換

ラプラス変換は時間tの関数f(t)を、演算子sの関数F(s)に移す変換で、微分方程式をsの掛け算・割り算(代数式)に変えて解きやすくする。定義は F(s)=∫0∞f(t)e−stdt。

時間関数 f(t)ラプラス変換 F(s)
単位インパルス δ(t)1
単位ステップ 11/s
ランプ t1/s2
指数関数 e−at1/(s+a)
sin ωtω/(s2+ω2)
cos ωts/(s2+ω2)
微分 df/dt / 積分 ∫f dtsF(s) / F(s)/s(初期値0のとき)

e−atの変換は定義から ∫0∞e−(s+a)tdt=1/(s+a)。誤答肢は逆数(s+a)や、aと1を入れ替えた形(a/(s+1))で出る。e−atを掛けるとsがs+aにずれると覚えると、1/s(ステップ)から1/(s+a)がすぐ出る。

伝達関数と基本要素

伝達関数(システム関数)=初期値0で出力のラプラス変換を入力のラプラス変換で割ったもの(G(s)=Y(s)/X(s))。

要素伝達関数例
比例要素K抵抗(電流→電圧でR、電圧→電流で1/R)・てこ・増幅器
微分要素Ksコンデンサの電流(電圧の微分)
積分要素K/sコンデンサの電圧(電流の積分)・タンクの水位
一次遅れ要素K/(1+Ts)RC回路(T=RC)・体温計の応答
二次遅れ要素Kωn2/(s2+2ζωns+ωn2)ばね・質量・ダンパ系、RLC回路、カテーテル圧トランスデューサ

抵抗で「電圧を電流に変える」ブロックは1/R、「電流を電圧に変える」ブロックはR。例:R1とR2の分圧回路(出力VoはR2の両端)をブロック線図にする。R1の両端の電圧はVi-Voなので、R1を流れる電流はI=(Vi-Vo)/R1(Vi/R1ではない)。加え合わせ点で差Vi-Voを作り、電圧→電流のA=1/R1、電流→電圧のB=R2(Vo=I×R2)を直列に置き、出力Voを加え合わせ点へ戻す。出力電圧がR1にかかる電圧を減らすので、単位負帰還の形になる。全体はAB/(1+AB)=(R2/R1)/(1+R2/R1)=R2/(R1+R2)で、分圧の式と一致する。単位(V/A=Ω)でA・Bの向きを確かめる。

ブロック線図の合成

結合合成した伝達関数
直列G1×G2(積)
並列G1±G2(加え合わせ点の符号どおりの和)
負帰還(フィードバック)G/(1+GH)
正帰還(ポジティブフィードバック)G/(1-GH)

Gは前向き経路、Hは帰還経路。信号を足し引きする点を加え合わせ点(加算点)、信号を分ける点を引き出し点(分岐点)という。帰還経路のブロックは分子に入らない(分子は前向き経路だけ)。帰還経路にブロックが無いときはH=1(直結フィードバック)、前向き経路にブロックが無ければG=1。

解く手順

①並列部・直列部をまとめる ②多重ループは内側から順にG/(1+GH)でまとめる ③分数の中に分数ができたら、Gの分母を分子・分母に掛けて整理する ④すべてのループが前向き経路を共有するなら、Y/X=前向き経路/(1+Σ一巡伝達関数)で一気に書ける(一巡伝達関数=開ループ伝達関数=ループを一周したときのGHの積)。

例題1:前向きG1(+)とG2(-)の並列を出力から直結で負帰還 → G=G1-G2、全体=(G1-G2)/(1+G1-G2)。分母が1-(G1-G2)なら正帰還の形で誤り。

例題2:前向きK1/(s(s+1))、帰還K2の負帰還 → 分子分母にs(s+1)を掛けて K1/(s(s+1)+K1K2)。K1K2/(s(s+1))は一巡伝達関数GHで、閉ループの伝達関数ではない。

例題3:G1をG2で負帰還し、さらにその全体をG3で負帰還 → 内側G1/(1+G1G2)、外側をまとめて G1/(1+G1G2+G1G3)(各ループの一巡はG1G2とG1G3)。

例題4:前向き1、帰還2sの負帰還 → Y=X-2sY → Y/X=1/(1+2s)(時定数2の一次遅れ)。

例題5:1/(s+1)とG(s)の直列が 2/(s2+6s+5)に等しい → 分母を因数分解して(s+1)(s+5)、両辺を比べて G(s)=2/(s+5)。答えを掛け戻して検算する。

ブロック線図の等価変換

移動補正
引き出し点をブロックGの後ろ(出力側)へ移す引き出した側に1/Gを入れる
引き出し点をブロックGの前(入力側)へ移す引き出した側にGを入れる
加え合わせ点をGの後ろへ移す加える側にG
加え合わせ点をGの前へ移す加える側に1/G

例題6:Gの出力から帰還要素Kで負帰還していた引き出し点を、次のブロックHの後ろへ移した → そこでの信号はH倍になっているので、帰還側をA=K/Hにすれば元と同じ(A×H=K)。迷ったら変換前後の全体の伝達関数を両方書いて一致させる。

4-2 システムの特性(静特性・動特性・安定性)

静特性と動特性

静特性は入力を一定にして十分時間がたった(定常状態の)入出力関係で、ゲイン(感度)・直線性・ヒステリシスなどで表す。動特性は入力が変化したときの出力の時間的な振る舞いで、インパルス応答・ステップ応答・周波数応答で調べる。

システムの伝達特性を表すもの(代表例)伝達特性ではないもの(誤答肢に出る)
ゲイン・時定数・ステップ応答・インパルス応答・周波数応答(周波数特性)・伝達関数ナイキスト周波数(標本化周波数の1/2で標本化(AD変換)に関する量)

インパルス応答・ステップ応答・周波数応答

  • インパルス応答(重み関数):ごく短い衝撃(δ関数)を入れたときの出力。インパルスのラプラス変換は1なのでインパルス応答のラプラス変換は伝達関数そのものになり、系の性質を完全に表す。
  • ステップ応答:入力を0から一定値に急に変えたときの出力(インディシャル応答)。
  • 周波数応答:正弦波を入れたときの出力の振幅比(ゲイン)と位相差を周波数ごとに見たもの。図示したものがボード線図(ゲイン〔dB〕と位相を対数周波数軸で描く)。

一次遅れ系の読み方(計算)

標準形 G(s)=K/(1+Ts)のKをゲイン定数(定常ゲイン)、Tを時定数という。時定数はステップ応答が最終値の約63%に達するまでの時間で、大きいほど応答が遅い。ゲイン定数はs=0を代入した値(定常状態での出力/入力)でも求められる。

  1. 分母を「定数項+sの項」の形にする(帰還があれば先にG/(1+GH)で閉じる)。
  2. 分子・分母を分母の定数項で割って、定数項を1にそろえる。
  3. 分子=K、sの係数=T。時定数は分母だけで決まるので、分子にsが残る形(例:2s/(1+2s))でも、分母1+Tsのsの係数を読めばよい。

例題1:H(s)=18/(12s+3) → 分子分母を3で割って 6/(1+4s) → ゲイン定数K=6、時定数T=4。3(分母の定数項)・12(sの係数)・18(分子)をそのまま答えるのは、そろえる前の値で誤り。

例題2:前向き要素2sを単位負帰還 → 閉ループは 2s/(1+2s)(分子にsが残り、一次遅れの標準形ではない)。分母1+2sのsの係数から時定数2秒。前向きが1/(2s)なら (1/2s)/(1+1/2s)=1/(1+2s)となり、時定数はやはり2秒。

一次遅れ系の周波数応答では、ω=1/Tの角周波数でゲインが3dB下がり位相が45°遅れる(遮断周波数 f=1/(2πT))。それより高い周波数では周波数が10倍になるごとにゲインが20dB下がる。

二次遅れ系と安定性

二次遅れ系のステップ応答は、減衰係数(減衰比)ζで形が決まる。ζ<1では行き過ぎて振動しながら最終値に近づく(不足制動)、ζ=1では振動せず最も速く近づく(臨界制動)、ζ>1では振動せずゆっくり近づく(過制動)。観血式血圧測定のカテーテル系はこの二次遅れ系として扱う代表例。

安定性:安定な系は有限の入力に対して出力が有限で、入力を止めると元に戻る。伝達関数の分母=0の根(極)がすべて複素平面の左半面(実部が負)にあれば安定。正帰還や、負帰還でも位相が180°遅れる周波数でループのゲインが1以上あると発振(不安定)になる。周波数応答から安定性を判定する方法にナイキストの安定判別やボード線図のゲイン余裕・位相余裕がある(ナイキスト周波数とは別物)。

4-3 システム制御の方法と生体システム

制御方式の区別

制御中身代表例
フィードバック制御出力(制御量)を計測し、目標値との差(偏差)を小さくするよう操作する閉ループ制御エアコン・保育器の温度制御、人工呼吸器の圧制御
フィードフォワード制御外乱を前もって計測・予測し、影響が出る前に先回りして操作するフィードバックと組み合わせて使うことが多い
シーケンス制御あらかじめ定められた順序や手続きに従って、各段階を順に進める洗濯機・エレベータ・自動販売機・信号機
オン/オフ制御(二位置制御)偏差の正負で操作量を全開か全閉の2つに切り替える。構造が簡単だが、制御量は目標値の上下を行き来する電気ポット・冷蔵庫のサーモスタット
PID制御偏差に比例(P)・積分(I)・微分(D)した操作を合わせる温度・流量・圧力などのプロセス制御

他にファジー制御(「やや暑い」のようなあいまいさを扱う)、ロバスト制御(パラメータ変動や外乱があっても性能を保つ)、最適制御(評価関数を最小にする)がある。「順序どおり=シーケンス」「測って直す=フィードバック」「先回り=フィードフォワード」で選ぶ。

ネガティブフィードバック(負帰還)制御の性質

正しい記述誤りとして出る形
目標値と制御量の差(偏差)を用いて制御する
目標値が変化しても追従して制御できる
出力を計測する閉ループ制御系
外乱の影響も出力の変化として検出して、補正できる
開ループ制御系である
出力の計測が不要である
フィードフォワード制御よりも外乱の影響に弱い

帰還率(フィードバック率β)は出力のうち入力側へ戻す割合、帰還量は戻した信号の大きさ。増幅度Aの増幅器に負帰還をかけると全体の増幅度は A/(1+Aβ)に下がるが、負帰還をかけると増幅度の安定化・ひずみや雑音の低減・帯域の拡大が得られる。正帰還(ポジティブフィードバック)は出力をさらに強める向きに働き、発振や急な切り替わりを起こす(発振回路・シュミットトリガに利用)。

PID制御の3つの動作

動作働き
比例動作(P)偏差に比例した操作。P動作だけでは目標値との間に定常偏差(オフセット)が残る
積分動作(I)偏差を積み重ねて操作する。I動作は定常偏差(オフセット)をなくす
微分動作(D)偏差の変化の速さに応じて操作する。D動作は変化を先読みして行き過ぎ(オーバーシュート)や振動を抑える

生体システム

生体は多数のフィードバック制御系を持つシステムとして扱われる。特徴は非線形・フィードバック(恒常性)・適応・冗長性(代償)・学習。

  • 生体はフィードバック制御系を持つ(恒常性=ホメオスタシスの維持。体温・血糖・血圧・血液ガスの調節など、多くは負帰還)。
  • 生体は閾値や飽和をもつ非線形システムで、広い範囲で入力と出力が比例することはない(「広い範囲で入出力が比例する」が誤りの肢)。
  • 機能不全の一部をほかの機能で補う(代償・冗長性)。環境からの外乱に適応する。学習により、性能を向上できる。
  • 正帰還の代表例として、分娩時の子宮収縮やホルモン分泌、血液凝固の進行が挙げられる。

モデル化は生体の働きを数式・電気回路・ブロック線図などで表すこと(ウィンドケッセルモデル、薬物動態のコンパートメントモデルなどが代表例)。シミュレーションはそのモデルを計算機上で動かし、実験しにくい条件での振る舞いを予測すること。

制御の応用例

温度制御:保育器・加温加湿器・人工心肺の熱交換器(冷温水槽)などは、温度センサで測った値を目標値と比べるフィードバック制御(オン/オフやPID)で加温を調節する。ロボット制御:関節角度(位置)や力をセンサで測ってモータを動かすサーボ制御。手術支援ロボットは術者の操作(マスタ)を手術器具側(スレーブ)が再現する。バイオフィードバック:筋電図・脳波・心拍・皮膚温などの生体情報を音や画面で本人に示し、本人が意識的に自分の状態を調節できるよう訓練する方法(リラクセーション・リハビリテーションなど)。

4-4 システムの信頼性(信頼度の計算)

→ 正本:医用機器安全管理学ノート 1-10 システム安全・信頼度・人間工学(この話題の過去問は正本側に寄せてある)

出題基準では医用機器の安全管理の「信頼度」の範囲(故障と信頼度・直列系・並列系・MTBF/MTTR)。詳しくは安全管理の章で扱う。ここではシステム工学として出た計算を押さえる。

信頼度・直列と並列

信頼度は、定められた条件・期間で機器が正常に働く確率(0〜1)。調査では「使用できた回数÷調査回数」で求める。不信頼度(故障する確率)=1-信頼度。

構成条件信頼度値の傾向
直列すべてが正常でないと働かない(両方そろって・同時に使用できる)R1×R2どの要素よりも小さくなる
並列(冗長)どれか1つが正常なら働く(どちらか一方でも)1-(1-R1)(1-R2)どの要素よりも大きくなる

問題文が「両方同時に」なら、直列、「どちらか」なら並列と読み分けるのが第一歩。並列にして冗長化するとシステムの信頼度は上がる。

例題1:機器Aは20回中19回使用できた(0.95)、機器Bは10回中8回(0.80)。2台を同時に使用できる確率 → 直列で 0.95×0.80=0.76(0.99は並列で計算した値、0.95・0.80は単独の値)。

例題2:信頼度0.90の心拍計と0.80の脈拍計を同時に使い、どちらかが測定できればよい → 並列で 1-(0.10×0.20)=1-0.02=0.98(0.72は直列で計算した値)。

MTBF・MTTR・稼働率

指標定義
MTBF(平均故障間隔)総動作時間÷故障回数。故障率λ=1/MTBF
MTTR(平均修復時間)総修復時間÷故障回数
稼働率(アベイラビリティ)MTBF/(MTBF+MTTR)

例題3:MTBF=90時間、MTTR=10時間 → 稼働率=90/(90+10)=0.90。MTBFを長く・MTTRを短くするほど、稼働率は上がる。故障率は時間とともにバスタブ曲線(初期故障期→偶発故障期→摩耗故障期)を描き、偶発故障期は故障率がほぼ一定とみなす。