内科の考え方の総論の章。収録問題はパニック値の1問だけだが、出題基準の範囲は「診断の進め方」「症候の読み方」「酸塩基・電解質・ショック」「救急処置」と広い。ここで覚えたアシドーシス・アルカローシス、高K血症、ショックの分類は、血液浄化・体外循環・集中治療の章でそのまま使う土台になる。
内科の診断は医療面接(問診)→身体診察→検査→臨床推論(鑑別診断)→診断→治療の順に進む。問診では主訴・現病歴・既往歴・家族歴・生活歴・服薬歴を聞き、診断の手がかりの多くはここで得られる。身体診察は視診・触診・打診・聴診の4つが基本で、バイタルサイン(体温・脈拍・血圧・呼吸数、意識レベルやSpO2を加えることも多い)を最初に確かめる。
臨床推論は、得られた情報から考えられる疾患を挙げ(鑑別診断)、検査で絞り込んでいく作業。検査は侵襲の小さいものから順に行うのが原則(血液・尿検査、心電図、X線、超音波 → CT・MRI → 内視鏡・カテーテル・生検)。
| 検査の性質 | 意味 |
|---|---|
| 感度 | 病気の人を検査で陽性と判定できる割合。高いと見落としが少ない(除外診断に向く) |
| 特異度 | 病気でない人を陰性と判定できる割合。高いと誤って陽性にすることが少ない(確定診断に向く) |
| 基準値(基準範囲) | 健常者の約95%が入る範囲。外れても病気とは限らず、範囲内でも病気のことがある |
治療は原因療法(原因そのものを除く:感染症への抗菌薬、手術で病巣を取るなど)と対症療法(症状を和らげる:解熱・鎮痛など)に分かれ、ほかに支持療法(輸液・栄養・人工呼吸・透析など臓器の働きを代わりに支える)がある。臨床工学技士が扱う生命維持管理装置の多くは支持療法にあたる。疾病の経過は急性・亜急性・慢性に分け、転帰は治癒・軽快・不変・増悪・死亡で表す。
パニック値は、生命に危険が及ぶので検査室から直ちに主治医へ連絡する値。施設ごとに決めるが、代表的な目安は次のとおり。基準範囲から「少し外れた値」と「即対応の値」を数値で切り分けるのが問われる。
| 項目 | 基準範囲(目安) | パニック値の代表例 |
|---|---|---|
| 血糖 | 空腹時 約70〜110 mg/dL | 50 mg/dL未満の低血糖(意識障害・けいれん)/著しい高血糖 |
| ヘモグロビン | 男性 約13〜17 g/dL・女性 約12〜15 g/dL | 5 g/dL前後以下の高度貧血(組織低酸素・心不全) |
| K⁺ | 約3.5〜5.0 mEq/L | 6.5 mEq/L超・2.5 mEq/L未満(致死性不整脈) |
| Na⁺ | 約135〜145 mEq/L | 160 mEq/L超・120 mEq/L未満(意識障害・けいれん) |
| 動脈血pH | 7.35〜7.45 | 7.2未満など高度のアシデミア |
K⁺ 4.5 mEq/Lは基準範囲内、Na⁺ 148 mEq/Lやクレアチニン 1.5 mg/dLは軽度の異常にとどまる。ヘモグロビン 4.6 g/dL(高度貧血)と血糖 38 mg/dL(重症低血糖)は直ちに対応が要る。
出題基準は症候ごとに「病態」と「代表的な疾患」を挙げている。症候から原因を逆にたどれるように、しくみと代表例をセットで覚える。
| 症候 | しくみ | 代表的な原因 |
|---|---|---|
| チアノーゼ | 皮膚・粘膜が青紫色になる。毛細血管内の還元ヘモグロビンがおよそ5 g/dL以上になると現れる | 中心性:呼吸不全、右左シャントのある先天性心疾患(Fallot四徴症など)。末梢性:心拍出量低下、寒冷、末梢循環障害 |
| 浮腫・腹水 | 毛細血管の静水圧上昇、血漿膠質浸透圧の低下(低アルブミン血症)、血管透過性の亢進、リンパ流の障害で、間質に水がたまる | 心不全、ネフローゼ症候群、肝硬変(腹水)、腎不全、リンパ浮腫 |
| 肥満・やせ | BMI(体重kg÷身長m²)で判定。日本ではBMI 25以上が肥満、18.5未満が低体重 | 肥満:過食・運動不足、クッシング症候群、甲状腺機能低下症。やせ:悪性腫瘍、糖尿病、甲状腺機能亢進症、神経性やせ症 |
| 呼吸困難 | 息苦しさの自覚。酸素化の障害・換気の障害・心不全による肺うっ血などで起こる | 気管支喘息、COPD、肺炎、気胸、肺血栓塞栓症、心不全、貧血、過換気症候群 |
| 胸痛・動悸 | 心臓・大血管・肺・胸膜・食道などの障害 | 命に関わる胸痛=急性心筋梗塞(急性冠症候群)、大動脈解離、肺血栓塞栓症、緊張性気胸。動悸=不整脈、貧血、甲状腺機能亢進症 |
| 腹痛 | 腹部臓器の炎症・閉塞・虚血・穿孔 | 虫垂炎、胆石・胆嚢炎、膵炎、腸閉塞、消化管穿孔、腹部大動脈瘤破裂 |
| 頭痛・意識障害 | 頭蓋内の出血・腫瘍・感染や、全身の代謝異常 | くも膜下出血(突然の激しい頭痛)、脳出血・脳梗塞、髄膜炎、低血糖、肝不全・腎不全、CO2ナルコーシス |
チアノーゼは還元ヘモグロビンの「量」で決まるので、高度の貧血ではヘモグロビン自体が少なく出にくい。逆に多血症では出やすい。一酸化炭素中毒ではSpO2が見かけ上高く、チアノーゼも出にくいので見落としに注意する。
動脈血の基準はpH 7.35〜7.45、PaCO2 35〜45 Torr、HCO3⁻ 22〜26 mEq/L。pHはHCO3⁻(腎が調節する代謝成分)とPaCO2(肺が調節する呼吸成分)の比で決まる。一方が崩れると、もう一方が同じ向きに動いてpHを戻そうとする(代償)。
| 病態 | 一次変化 | 代償 | 代表的な原因 |
|---|---|---|---|
| 呼吸性アシドーシス | PaCO2 上昇 | HCO3⁻ 上昇 | 低換気(COPD増悪・CO2ナルコーシス・呼吸筋麻痺・鎮静薬) |
| 呼吸性アルカローシス | PaCO2 低下 | HCO3⁻ 低下 | 過換気(過換気症候群・低酸素血症初期・人工呼吸の過換気) |
| 代謝性アシドーシス | HCO3⁻ 低下 | PaCO2 低下(深く速い呼吸=クスマウル呼吸) | 腎不全、糖尿病性ケトアシドーシス、乳酸アシドーシス(ショック)、下痢 |
| 代謝性アルカローシス | HCO3⁻ 上昇 | PaCO2 上昇 | 嘔吐(胃酸の喪失)、利尿薬、低K血症 |
K⁺は心筋の興奮に直結するので、高くても低くても致死性不整脈を起こす。高K血症では心電図でT波が尖り(テント状T波)、進むとQRS幅が広がり心室細動・心停止に至る。原因は腎不全、アシドーシス、組織の崩壊(溶血・挫滅)、大量の保存血輸血など。低K血症ではT波が平らになりU波が目立つ。Na⁺の異常は主に水の過不足を表し、急な変化で意識障害・けいれんを起こす。脱水は水を主に失う高張性(高Na)と、Naを主に失う低張性(低Na)に分ける。
ショックは、全身の組織への血流(酸素の供給)が足りなくなり、臓器の働きが損なわれた状態。血圧低下(収縮期90 mmHg未満が目安)、頻脈、冷汗、蒼白、尿量減少、意識障害を示し、組織の酸素不足で乳酸が増え代謝性アシドーシスになる。
| ショックの原因(出題基準の4つ) | しくみ | 見分ける点 |
|---|---|---|
| 出血性(循環血液量減少性) | 出血で循環血液量が減り、心臓に戻る血液が減る | 頸静脈は虚脱。皮膚は冷たい |
| 心原性 | 心臓のポンプ機能が落ちる(急性心筋梗塞・重症不整脈・心筋炎) | 頸静脈は怒張し肺うっ血を伴う。IABP・PCPSの対象になる |
| 敗血症性(血液分布異常性) | 感染による全身の炎症で末梢血管が拡張し、血管透過性も高まる | 初期は皮膚が温かい(ウォームショック) |
| アナフィラキシー(血液分布異常性) | 即時型アレルギーで血管が拡張し、気道浮腫も起こる | 第一選択はアドレナリンの筋肉内注射 |
ショックが続くと臓器が次々に傷む。急性腎障害(AKI)=腎血流が減り尿量が減る。ショック肺=急性呼吸促迫症候群(ARDS)と同じ病態で、肺の血管透過性が高まり重い低酸素血症になる。血液凝固線溶系異常=播種性血管内凝固(DIC)では全身で微小血栓ができ、凝固因子と血小板が消費されて出血しやすくなる。これらが重なったものが多臓器不全(MOF/多臓器機能障害症候群 MODS)で、血液浄化・人工呼吸・補助循環を組み合わせて支える。
心停止の心電図は4つ。心室細動(VF)と無脈性心室頻拍(pulseless VT)は電気ショック(除細動)の適応。心静止と無脈性電気活動(PEA)は電気ショックの適応ではなく、胸骨圧迫とアドレナリン投与で対応する。成人の胸骨圧迫は、強さ約5 cm(6 cmを超えない)、テンポ毎分100〜120回で、中断を最小にする。人工呼吸と組み合わせるときは圧迫30回:人工呼吸2回。AEDは到着したらすぐ使う。
意識レベルはJCS(Japan Coma Scale)とGCS(Glasgow Coma Scale)で表す(詳しくは第6章)。原因は頭蓋内(脳出血・脳梗塞・頭部外傷・髄膜炎)と全身(低血糖・高血糖・肝不全・腎不全・CO2ナルコーシス・薬物中毒)に分けて考える。まず気道・呼吸・循環を確保し、低血糖はすぐ血糖を測って除外する。嘔吐による窒息を防ぐため、呼吸のある患者は回復体位(側臥位)にする。
誤嚥は飲食物・唾液・胃内容が気道に入ること。異物で窒息した成人には腹部突き上げ法(ハイムリック法)や背部叩打法を行い、反応がなくなれば心肺蘇生を始める。右主気管支は左より太く、垂直に近いので、誤嚥した異物や誤嚥性肺炎は右側に起こりやすい。胃酸を誤嚥すると化学性の肺炎(メンデルソン症候群)を起こすので、全身麻酔の前には絶飲食にする。
外出血の止血の基本は直接圧迫止血(傷口をガーゼなどで直接押さえる)。止血帯は直接圧迫で止まらない四肢の大出血に使い、巻いた時刻を記録する。循環血液量のおよそ3分の1以上を急に失うと出血性ショックになる。治療は止血と、輸液・輸血による循環血液量の回復。
まず気道(A)・呼吸(B)・循環(C)を確かめて確保する。心停止なら胸骨圧迫とAED、意識障害なら低血糖の除外と回復体位、窒息なら異物除去、大出血なら圧迫止血。