手術を中心にした外科の総論の章。いちばん多いのは創傷治癒(治癒の3相と阻害因子)で、次が消毒・滅菌の使い分け、術後合併症とその予防。手術室・中央材料室で働く臨床工学技士には現場の知識そのものなので、組合せ問題で迷わないよう「どれと結びつくか」を表で押さえる。
手術・外傷・熱傷などの侵襲を受けると、体は生き延びるためにエネルギーを確保し、水とNaをため込む方向に動く。侵襲後の反応は、異化の亢進・高血糖・水とNaの貯留とまとめて覚える。
| 反応 | 増えるもの(亢進) | 結果 |
|---|---|---|
| 内分泌反応 | カテコラミン(ノルアドレナリン・アドレナリン)、コルチゾール、グルカゴン、成長ホルモン、抗利尿ホルモン(ADH)、アルドステロン | グリコーゲンの分解と糖新生が進み、高血糖になる(インスリンは効きにくくなる)。筋のたんぱく質が分解される(異化) |
| 水電解質代謝反応 | ADH・アルドステロン | 水とNaが体にたまり、尿量が減る。数日たつと、たまった水が血管内に戻り尿量が増える(利尿期) |
| 免疫反応 | サイトカイン(IL-6・TNF-αなど) | 発熱・頻脈などの全身性炎症反応症候群(SIRS)。その後は免疫が抑えられ感染しやすくなる |
侵襲時は血糖を上げる向きに働くので、グリコーゲンは分解が進み、合成は亢進しない。ADH・ノルアドレナリン・サイトカイン・アルドステロンはどれも亢進する。分解(異化)が増える/合成(同化)は減ると対比で覚える。
侵襲後の回復は、傷害期(異化期)→転換期→筋力回復期(同化期)→脂肪蓄積期の順に進む(ムーアの分類)。
| 小項目 | 要点 |
|---|---|
| 皮膚切開法 | 皮膚の割線(ランゲル割線)に沿って切ると、傷あとが目立ちにくい。メス・電気メスを使う |
| 止血法 | 圧迫止血、結紮止血、電気メスによる凝固止血、縫合止血、止血剤(局所止血材) |
| 結紮・縫合法 | ほどけにくい結び方は男結び(こま結び)。縫合には結節縫合・連続縫合・埋没(真皮)縫合、器械による吻合(ステープラ)がある |
| 植皮術 | 分層植皮(表皮と真皮の一部)と全層植皮(真皮すべて)。全層植皮は縮みにくく見た目がよいが、生着しにくい |
| 排液法(ドレナージ) | 体内にたまる血液・膿・滲出液を体外へ出す。目的で予防的・情報的・治療的に分け、方式で開放式・閉鎖式(閉鎖式は逆行性感染が少ない)に分ける |
| 包帯法 | 環行帯・らせん帯・折転帯・麦穂帯・亀甲帯など。末梢から中枢へ巻き、巻いた先の循環(色・冷感・しびれ)を確かめる |
| 開腹術と比べた利点 | 欠点・リスク(誤りの肢になる) |
|---|---|
| 切開創が小さい・術後の痛みが少ない・回復が早く入院日数が短い・整容性がよい | 術野(視野)と操作が限られる・出血したときの対応が難しく、開腹へ移ることがある・気腹に使うCO2でガス塞栓・高二酸化炭素血症・皮下気腫が起こりうる |
「術野を確保しやすい」「出血時の対応が早い」「空気(ガス)塞栓のリスクが低い」は開腹術の性質や逆の記述で、腹腔鏡下手術の特徴としては誤り。
移植では拒絶反応を抑えるため免疫抑制薬(タクロリムス・シクロスポリン・ステロイドなど)を使い続ける(詳しくは第14章)。輸血は必要な成分だけを入れる成分輸血が基本。
| 製剤 | 保存(代表的な条件) | 使う場面 |
|---|---|---|
| 赤血球液 | 2〜6℃ | 貧血・出血で酸素運搬を補う |
| 新鮮凍結血漿(FFP) | −20℃以下で凍結、使う前に解凍 | 凝固因子の補充 |
| 濃厚血小板 | 20〜24℃で振とうしながら保存 | 血小板減少による出血 |
副作用:ABO不適合輸血では急性の溶血が起こり、ショック・DIC・腎不全に至る。ほかに発熱・アレルギー(じんま疹・アナフィラキシー)、輸血関連急性肺障害(TRALI)、輸血関連循環過負荷(TACO)、感染症、輸血後GVHD(血液製剤への放射線照射で予防する)。自己輸血は貯血式(術前にためる)・希釈式(麻酔導入後に採って輸液で薄める)・回収式(術中・術後の出血を回収して洗って戻す)の3つで、同種輸血の副作用(感染・免疫反応)を避けられる。
| 相 | 時期(目安) | 起きること |
|---|---|---|
| 炎症相 | 受傷直後〜数日 | 止血(血小板・フィブリン)と、好中球・マクロファージによる異物や細菌の除去 |
| 増殖相 | 数日〜2、3週 | 線維芽細胞がコラーゲンをつくり、新しい血管とともに肉芽組織ができる。上皮細胞が創面を覆う(上皮化) |
| 成熟相(再構築期) | 数週〜数か月 | コラーゲン線維が組み替えられて瘢痕組織になり、強さが増す |
線維芽細胞はコラーゲンをつくる(肉芽・瘢痕のもと)。上皮細胞は分裂して創面をシート状に覆う。「上皮細胞がコラーゲンを産生する」「線維芽細胞がシート状に覆う」は入れ替えた誤り。瘢痕ができるのは成熟相で、炎症相ではない。
| 遅らせる(阻害因子) | 阻害因子として誤りの肢 |
|---|---|
| 糖尿病(高血糖・血流障害・感染しやすい) 低栄養・低たんぱく血症(コラーゲンの材料不足。ビタミンC・亜鉛の不足も) 副腎皮質ステロイドの投与(炎症とコラーゲン合成を抑える) 腎不全(尿毒症・貧血・低たんぱく) 放射線照射(血流障害と細胞増殖の抑制) ほかに感染・血流不良(低酸素)・異物・高齢・免疫抑制薬・抗がん薬 | 妊娠(正常妊娠) 高血圧 脂質異常症 (いずれも直接の阻害因子ではない) |
組合せ問題は、まず妊娠・高血圧・脂質異常症を含む肢を消すと残りがほぼ決まる。糖尿病は阻害因子だが脂質異常症は直接の阻害因子ではない、と対比で覚える。
| 一次縫合(一次治癒) | 二次縫合(遅延一次縫合を含む) | |
|---|---|---|
| 対象 | きれいな創・手術創・受傷から時間のたっていない創 | 汚染の強い創・受傷から時間がたった創 |
| 方法 | 洗浄・デブリードマンのあと、すぐに縫い閉じる | すぐには閉じずに開放して洗浄を続け、感染がないことを確かめてから縫合する |
| 治り方 | 早く、瘢痕が小さい | 一次縫合より時間がかかる |
縫合しないで肉芽と上皮化で自然に閉じるのは二次治癒(開放創のまま治す)で、肉芽が多くできるぶん瘢痕と瘢痕拘縮が起こりやすい。受傷後すぐに縫合してよい時間の目安(ゴールデンタイム)は受傷後6〜8時間以内とされる。デブリードマン=壊死組織や異物を取り除くこと。創閉鎖には縫合のほか、ステープラ・皮膚接着剤・テープ、皮膚移植を使う。創面はうるおいを保つほうが上皮化が早い(湿潤環境)。
滅菌は芽胞を含むすべての微生物を殺す(除く)こと。消毒は病原性のある微生物を害のない程度まで減らすことで、芽胞まで殺せるとは限らない。無菌法=滅菌したものを清潔に保って扱う技術。器材は使う場面で分ける(スポルディングの分類):クリティカル(無菌の組織・血管に入る=手術器械)は滅菌、セミクリティカル(粘膜に触れる=内視鏡など)は高水準消毒以上、ノンクリティカル(健常な皮膚に触れる)は低水準消毒・清拭。
| 滅菌法 | 向くもの | 注意 |
|---|---|---|
| 高圧蒸気滅菌(オートクレーブ) | 熱と水に強いもの=鋼製小物(金属の手術器械)・リネン | 第一選択。確実・安価・残留毒性なし。熱に弱いものは不可 |
| 酸化エチレンガス(EOG)滅菌 | 熱に弱いもの(内視鏡・プラスチック・カテーテル) | ガスに毒性があり、滅菌後に残留ガスを抜くエアレーションが要る |
| 過酸化水素低温ガスプラズマ滅菌 | 熱に弱いもの(腹腔鏡などの内視鏡) | 短時間・残留毒性が少ない。紙・布(セルロース)や液体は使えない |
| 放射線(γ線)滅菌 | 工場で大量に滅菌する単回使用(ディスポーザブル)製品 | 病院内では行わない |
| 乾熱滅菌 | ガラス器具・金属・油脂 | 高温(160〜180℃)が要るので、内視鏡やプラスチックには使えない |
| 水準 | 消毒薬 | 使う対象 |
|---|---|---|
| 高水準 | グルタラール・フタラール・過酢酸 | 器具(内視鏡など)専用。毒性が強く人体には使わない(芽胞にも効く) |
| 中水準 | ポビドンヨード | 皮膚・粘膜・創部・手術野に使える |
| 消毒用エタノール | 健常な皮膚(手指)と器具。粘膜・傷には刺激が強く不向き | |
| 次亜塩素酸ナトリウム | 器具・環境・リネン(ノロウイルスにも有効)。金属を腐食し、手指・粘膜には使わない | |
| 低水準 | ベンザルコニウム塩化物(逆性石けん) | 皮膚・粘膜・環境に使える |
| クロルヘキシジン | 皮膚(手指・手術野)。粘膜にはアナフィラキシーの危険があり使わない |
正しい組合せ=粘膜―ポビドンヨード/ベンザルコニウム、鋼製小物―高圧蒸気滅菌、腹腔鏡―EOG/過酸化水素低温ガスプラズマ、手指―速乾性アルコール製剤・クロルヘキシジン。誤り=手指に次亜塩素酸、手術室の壁にホルムアルデヒド(壁や床は清拭と清掃が基本)、腹腔鏡に乾熱滅菌。
術者の手指消毒は、流水と石けんで洗ったあと、速乾性の擦式アルコール製剤を使う方法(ウォーターレス法)が広く行われる。手術野の皮膚は、切開する部分から外側へ向かって消毒する。手術室は、外から汚れた空気が入らないよう周囲より陽圧に保ち、高性能フィルタ(HEPA)を通した空気を送る。
術前評価では、全身状態(心肺機能・腎機能・肝機能・栄養・凝固能)と服薬(抗血栓薬など)を確かめる。全身状態の分類にはASA-PS(米国麻酔科学会の全身状態分類)を使う。術前処置:誤嚥を防ぐため、麻酔の前は絶飲食にする。除毛は必要な場合だけ、剃刀でなくクリッパー(電気バリカン)で直前に行う(剃刀は皮膚に細かい傷をつけ手術部位感染を増やす)。
| 小項目 | 要点 |
|---|---|
| 体位 | 仰臥位・側臥位・腹臥位・砕石位など。長時間の手術では圧迫による褥瘡や神経麻痺(砕石位での腓骨神経麻痺など)に注意する |
| 呼吸・循環管理 | SpO2・カプノメータ・心電図・血圧で監視 |
| 体液管理 | 侵襲で水とNaがたまり尿量が減る時期と、その後の利尿期を考えて輸液量を決める |
| 栄養管理 | 腸が使えるなら、経腸栄養を優先する。使えなければ静脈栄養 |
| 感染症の予防 | 手術部位感染(SSI)を防ぐため、予防的抗菌薬は執刀前(皮膚切開の前)に投与を始める |
| 手術創の処置・抜糸 | 創は閉鎖したドレッシングで保護する。抜糸の時期は部位で変わり、顔は早く、関節部などは遅い |
| 離床 | 早期離床は、無気肺・肺炎・深部静脈血栓症・腸閉塞を減らす |
| 合併症 | しくみと徴候 | 予防・対応 |
|---|---|---|
| 術後無気肺 | 麻酔と術後の浅い呼吸・痰の貯留で肺胞がつぶれる。上腹部・胸部の手術後に多い。徴候=呼吸困難・低酸素血症・頻呼吸・頻脈・発熱 | 深呼吸・痰の排出・早期離床・体位変換・インセンティブスパイロメトリ |
| 肺血栓塞栓症(静脈血栓塞栓症) | 安静で下肢の深部静脈に血栓ができ、それが肺動脈に詰まる。術後に初めて歩いたときなどに突然の呼吸困難・胸痛・低酸素で発症する | 下の表 |
| 術後出血・縫合不全・SSI・せん妄・術後イレウス | 発熱、ドレーンの排液の性状・量の変化で気づく | ドレーンの観察、早期離床 |
無気肺は、感染も加わりやすく、発熱を伴うことが多い。「低体温」は無気肺の徴候ではない(発熱の側)。
| 肺血栓塞栓症の予防になる | 予防法としては誤り |
|---|---|
| 早期離床・下肢の運動 弾性ストッキングの装着 間欠的空気圧迫法(IPC) 抗凝固療法(低用量ヘパリンなど) | 酸素療法(発症後の治療で予防ではない) 抗血小板療法(動脈の血栓向け) |
静脈の血栓(深部静脈血栓症・肺血栓塞栓症)には抗凝固薬(ヘパリン・ワルファリン・DOAC)。動脈の血栓(心筋梗塞・脳梗塞の予防)には抗血小板薬(アスピリンなど)。
| 部位 | 要点 |
|---|---|
| 頭部外傷 | 頭蓋底骨折の徴候=眼鏡状血腫(選択肢では「眼球状血腫」とも書かれる・パンダの目)・バトル徴候(耳の後ろの皮下出血)・髄液鼻漏・髄液耳漏・鼻出血・耳出血。失語や麻痺は脳の局所の障害の症状で、頭蓋底骨折を示す所見ではない。急性硬膜外血腫は、意識がいったん回復する時期(意識清明期)のあと急に悪化することがある |
| 胸部外傷 | 緊張性気胸(胸腔の圧が上がり静脈還流が減ってショック。すぐに脱気)、フレイルチェスト(複数の肋骨が2か所以上で折れ、吸気で胸壁がへこむ奇異呼吸)、心タンポナーデ、血胸 |
| 腹部外傷 | 肝・脾の損傷による腹腔内出血。超音波で心のう・腹腔・胸腔の液体貯留を素早く調べる(FAST) |
| 多発外傷・初期治療 | 初期治療は、気道(A)・呼吸(B)・循環(C)・意識(D)・脱衣と体温(E)の順に、命に関わるものから評価して処置する |
| 脊髄損傷 | 損傷した高さより下の運動・感覚の麻痺。頸髄損傷では横隔神経が障害され呼吸が止まることがある。神経原性ショックでは、血圧が下がるのに脈が遅くなる(出血性ショックは頻脈) |
局所療法(止血・洗浄・デブリードマン・固定)、全身療法(輸液・輸血・呼吸管理)、合併症(感染・破傷風・クラッシュ症候群による高K血症と腎不全など)を組み合わせる。
| 深さ | 傷む層 | 見た目・痛み |
|---|---|---|
| Ⅰ度 | 表皮 | 赤くなる(発赤)。痛む。跡を残さず治る |
| Ⅱ度(浅達性・深達性) | 真皮 | 水疱ができる。浅達性は強く痛む |
| Ⅲ度 | 皮膚の全層 | 白色や黒色になり、神経も焼けるので痛みを感じない。植皮が要る |
重症度は、まず深さと面積で見る。面積は成人で9の法則(頭部9%、片腕9%ずつ、体幹前面18%・後面18%、片脚18%ずつ、陰部1%)で見積もる。広い熱傷では血管透過性が高まり血漿が失われて、熱傷ショック(循環血液量減少性)になるので、早くから大量の輸液を行う。顔の熱傷や煤(すす)を含む痰があるときは気道熱傷を疑い、気道が腫れる前に気管挿管を考える。合併症は感染(敗血症)、急性腎障害、消化管の潰瘍など。
深さと面積が同じでも、気道熱傷があるもの、顔・手・足・陰部(会陰)・関節の熱傷は、機能や見た目に後遺症を残しやすく重く扱う。乳幼児と高齢者は、同じ面積でも重症になりやすい(小児は頭が大きいので、9の法則でなく5の法則で見積もる)。電気による熱傷(電撃傷)や化学物質による熱傷も、見た目より深い傷を残すので重く扱う。
熱傷の局所療法:受傷直後は流水で冷却する(痛みをやわらげ、熱が深くまで届くのを防ぐ。広い熱傷では冷やしすぎて低体温にしない)。創を洗浄し、外用薬(軟膏)を塗って被覆材で覆い、感染を防いで湿潤環境を保つ。死んだ組織(壊死組織)は、感染の元になるのでデブリードマンで取り除く。深達性Ⅱ度とⅢ度は、自然には上皮化しにくいので植皮で創を閉じる(自分の皮膚を使う自家植皮のほか、広い範囲では人工真皮・培養表皮も使う)。手足や胸を一周するⅢ度熱傷は、硬くなった皮膚が締めつけて血流や呼吸を妨げるので減張切開を行う。