第1章|計測工学

生体計測装置学 第1章
収録 26問(第31〜39回)誤差と誤差の伝搬・正確度と精密度・SI単位・雑音とSN比・増幅器の性能・電極とトランスデューサ・信号処理・雑音対策

「測る」こと自体の理論の章。出題の柱は誤差(種類・伝搬・正規分布)、雑音の種類と対策、信号処理の手法と用途、トランスデューサと物理量、生体信号増幅器の条件。過去問の計算は主に誤差の伝搬・SN比のdB・加算平均の√Nの3型なので、手順ごと覚える。

1-1 計測論:誤差・計測値の処理・単位

誤差の種類

種類性質減らし方
系統誤差一定方向にずれる偏り。計測器誤差(器差)・理論誤差・個人誤差(読みのくせ)はここに入る校正・補正で取り除く。平均しても消えない
偶然誤差原因を特定できないランダムなばらつき繰り返し測定して平均すると小さくなる
過失誤差読み違い・記録ミスなど人の誤り測り直し・確認で防ぐ

「繰り返し測定し平均することで影響を小さくできる誤差は」と聞かれたら偶然誤差だけ。個人誤差・理論的誤差・測定器誤差は系統誤差の仲間なので切る。

絶対誤差=測定値−真値、相対誤差(誤差率)=絶対誤差÷真値(%で表す)。

正確度と精密度(確度と精度)

語意味対応する誤差
正確度(確度・accuracy)分布の中心(平均)が真値に近いこと系統誤差が小さい
精密度(精度・precision)ばらつき(分布の幅)が小さいこと偶然誤差が小さい

2つの分布の図を出す問題では、平均が真値に重なる方が正確度が高く、幅が狭い方が精密度が高い。両者は別もので、正確でも精密とは限らない(的当てで、中心の周りに散らばる=正確だが精密でない)。

正規分布の含有確率

範囲含まれる確率
M±1σ68.3%
M±2σ95.4%
M±3σ99.7%
紛らわしい数字を切る

63.2%は時定数τのときの到達率(1−1/e)、70.7%は1/√2(実効値・遮断周波数の振幅比)。どちらも正規分布の±1σではない。

誤差の伝搬(計算の型)

手順:①求める量が測定値の積・商か、和・差かを見る。②積・商なら各相対誤差(%)を足す。③和・差なら各絶対誤差を足す。④「最大の誤差」は符号をそろえて足した値。

例題1:相対誤差1%の電流計と2%の電圧計で電力を測る。P=VI(積)なので 1+2=3%。

例題2:誤差率2%の抵抗器の両端電圧を誤差率4%の電圧計で測り、電流を出す。I=V/R(商)なので 4+2=6%。

誤答の型:√(1²+2²)=√5は、独立な偶然誤差を確率的に合成するときの値で、最大誤差を聞く問題では使わない。片方だけの誤差(1%や4%)や平均(3%)も切る。

有効数字

掛け算・割り算の結果は、有効数字の桁数がいちばん少ない測定値に合わせる。足し算・引き算の結果は、末尾の位がいちばん粗い測定値に合わせる。計算の途中は1桁多く持ち、最後に丸める。

単位(SI単位)とトレーサビリティ

SIの基本単位は7つ:m(長さ)・kg(質量)・s(時間)・A(電流)・K(温度)・mol(物質量)・cd(光度)。それ以外は基本単位の組合せでできる組立単位。

物理量単位取り違えやすい単位
圧力・応力Pa(=N/m²)
コンダクタンスS(ジーメンス)C=クーロン(電荷)
磁束密度T(テスラ)H=ヘンリー(インダクタンス)、Wb=磁束
静電容量F(ファラド)
熱容量J/KK=温度
吸収線量Gy(グレイ)Sv=等価線量・実効線量、Bq=放射能

接頭語:G=10⁹、M=10⁶、k=10³、m=10⁻³、μ=10⁻⁶、n=10⁻⁹、p=10⁻¹²。

トレーサビリティ=現場の計測器が、切れ目のない校正の連鎖で国家標準(計測器の標準)までさかのぼれること。校正の根拠を示す考え方。

1-2 信号と雑音・SN比

信号の表現

波形は時間の流れで見た表し方、スペクトルは周波数ごとの成分の大きさで見た表し方。両者はフーリエ変換で行き来できる。

雑音の種類

区分雑音出どころ・性質
内部雑音(機器の中で生じる)熱雑音(ジョンソン雑音)抵抗の中の電子の不規則な熱運動で生じる。抵抗・温度・帯域幅が大きいほど大きい(周波数によらず白色)
ショット雑音半導体内部(pn接合)でキャリアがばらばらに流れることで生じる
フリッカ雑音(1/f雑音)低周波ほど大きく、周波数に反比例する
クリック雑音・接触雑音回路の接点・部品の接触不良で生じる
部品間の電磁誘導機器内部の部品どうしの干渉
外来雑音(外部雑音・外から入る)商用交流(ハム)・落雷・電波ハムは商用交流(50/60 Hz)で生じる。接地不良は外来雑音を拾いやすくする

「内部雑音の発生要因は」には抵抗器の温度上昇・電子部品の接触不良・部品間の電磁誘導を選び、落雷・接地不良は外来として切る。「フリッカ雑音は周波数に比例して大きくなる」は誤り。

SN比とデシベル(計算の型)

手順:①信号と雑音を同じ単位にそろえる。②比を出す。③電圧比・電流比なら20 log₁₀、電力比なら10 log₁₀をかける。

電圧比210201001000
dB620264060

例題:1 mVの信号に50 μVの雑音。1000 μV÷50 μV=20。20×log₁₀20=20×(0.3+1)=26 dB。10 logで計算した13 dBは電力比の式を使った誤り。SN比は大きいほど雑音が相対的に小さく、よい。

1-3 生体情報計測の特殊性と計測器の性能・増幅器

生体情報計測の特殊性

  • 生体信号は微弱(心電図でmV、脳波・誘発電位でμVの単位)で、変動範囲が狭いので高い分解能と測定精度が要る
  • 雑音に埋もれやすい:入力換算雑音(増幅器の雑音を入力側に換算した値)が小さいことが要る
  • 相手が人なので低侵襲と電気的安全が要る:高感度のセンサで、体に負担をかけずに測る

直接測定は測りたい量そのものを測る方法、間接測定は別の量を測って関係式から求める方法(例:電圧と抵抗を測って電流を出す)。

生体信号増幅器に求められる性能

性能求められる向き理由
入力インピーダンス大きい電極(信号源)インピーダンスとの分圧で信号が減るのを防ぐ
同相除去比(CMRR)大きい同相で入るハムを除く
入力換算雑音小さい微弱信号を雑音から分ける
入力オフセット電圧・ドリフト小さい直流のずれ・基線の揺れを抑える
SN比大きい信号を明瞭にする
周波数特性・感度・分解能(量子化精度)・直線性測る信号に見合うこと帯域が狭いと波形がひずむ

増幅器の条件を選ぶ問題は「入力インピーダンスが小さい」「入力換算雑音が大きい」「同相除去比が小さい」を全部切れば残る。

入力インピーダンスの正体

入力インピーダンスは入力電圧÷入力電流で、単位はΩ(dBではない)。入力電圧と出力電圧の比は増幅度(利得)で別物。入力容量を含むので大きさは周波数に依存する。電極ペーストが下げるのは電極と皮膚の接触インピーダンスで、増幅器の入力インピーダンスは変わらない。信号源インピーダンスより十分大きくする(小さくするは誤り)。

差動増幅器とCMRR

差動増幅器は2つの入力の差(生体信号)だけを増幅し、両方に同じように乗る同相成分(商用交流雑音)を打ち消す。だから差動増幅器を使う主な目的は商用交流雑音の除去。入力インピーダンスを上げる・安全性を上げる・増幅度を稼ぐ、は主目的ではない(安全はアイソレーション(絶縁)で確保する)。

CMRR(同相除去比、弁別比)=差動利得÷同相利得をdBで表した値。大きいほど同相雑音をよく除く。「弁別比は40 dB以上あればよい」は低すぎて誤り。

1-4 計測器の構成:電極・トランスデューサ・記録と伝送

計測器は電極・トランスデューサ(変換器)→増幅器→信号処理部→記録・表示装置の順につながる。

電極

正しい記述誤りとして出るもの
電極は生体内のイオンの流れを電子の流れへ変換する
銀-塩化銀(Ag-AgCl)電極は不分極電極で、電位が安定し基線が揺れにくい
接触インピーダンスは接触面積に反比例(広いほど小さい)接触面積を広くすると接触インピーダンスが増加する
電極ペーストは皮膚との接触インピーダンスを下げる
X線はカーボン電極を透過する(カテーテル検査で写り込まない)

トランスデューサに求められる特性

測定対象への選択性がよい・測定範囲で直線性が保たれる・信号の速さに応答できる・低侵襲・SN比が大きい。「SN比を小さくできること」は誤り。

トランスデューサと物理量

素子(センサ)変換する物理量使う機器の例
ストレインゲージひずみ・変位・力・圧力観血式血圧計の圧トランスデューサ
差動トランス変位
圧電素子(PZT)圧力・振動・超音波超音波診断装置の探触子
サーミスタ・熱電対温度熱希釈式心拍出量計
CdS(硫化カドミウム)・フォトダイオード光パルスオキシメータ(受光はフォトダイオード)
HgCdTe・赤外線検出素子赤外線カプノメータ(CO2の赤外線吸収)
ホール素子磁場

「パルスオキシメータ―ホール素子」「CdS―温度」「HgCdTe―磁気」「サーミスタ―圧力」は定番の誤り。

記録と表示装置

増幅・処理した信号を人が読める形にするのが記録・表示装置。今の主流はディジタル表示で、液晶ディスプレイなどのモニタに波形と数値を出し、データはメモリに保存する。紙に残す記録器は、発熱素子を並べたサーマルアレイ記録器(感熱紙に点で描く)が代表で、ペンが無いので応答の遅れが小さく、複数の波形を同時に描ける。

読み取りの要点中身
時間軸記録紙の紙送り速度で決まる(心電図は通常25 mm/s=1 mmが0.04 s)。速くすると波形が横に伸びる
振幅感度で決まる(心電図は通常10 mm/mV)。記録には感度と速度を必ず添える
モニタ表示掃引速度と振幅の目盛で読む。表示の帯域・サンプリングが粗いと速い波形がなまる

記録・伝送:小電力医用テレメータ

心電図モニタの送信機としての使い方は第2章2-3にもある。

項目中身
周波数帯420〜450 MHz、6バンドに分かれる
送信機の型同時に送る信号の数でA〜Eの5つの型がある
チャネル間隔A型12.5 kHz・B型25 kHz・C型50 kHz・D型100 kHz・E型500 kHz(型が進むほど広い)
混信対策バンドを色ラベルで区別し、ゾーン配置で隣の区域と同じバンドを避ける

「A型のチャネル間隔は25 kHz」は誤り(25 kHzはB型)。

1-5 信号処理:AD変換・周波数分析・加算平均

→ 正本:医用電気電子工学ノート 3-3 AD変換・DA変換とディジタル信号処理(この節は本科目の観点だけ。用語・分類・数字は正本で覚える)

AD変換とDA変換

AD変換は標本化(一定間隔で値を取る)と量子化(値を段階に丸める)でできる。標本化周波数は信号の最高周波数の2倍より高くする(標本化定理)。守らないと折り返し雑音(エイリアシング)が出るので、AD変換の前にローパスフィルタを置く。量子化のビット数が多いほど分解能が高い(nビットで2ⁿ段階)。フーリエ変換はAD変換の手段ではなく周波数解析の手段。

DA変換は逆に、ディジタル値をアナログ電圧に戻す変換で、処理した信号をモニタ・記録器・刺激装置などへ出すときに使う。分解能はビット数で決まる(nビットで2ⁿ段階)。出力は階段状になるので、後ろにローパスフィルタを置いて滑らかにする。

手法と用途の対応

手法用途取り違えの肢
FFT(高速フーリエ変換)周波数解析・パワースペクトルの導出誘発電位の検出
加算平均(同期加算)不規則雑音に埋もれた繰り返し信号(誘発電位)の検出パワースペクトル・基線ドリフト低減
自己相関関数周期的成分の抽出折り返し雑音の抑制
ローパスフィルタ・移動平均高周波雑音の除去・平滑化(脳波に混じった筋電図、折り返し防止)周期的成分の抽出
ハイパスフィルタ基線動揺(低周波ドリフト)の抑制
微分演算ピーク位置・立ち上がりの検出(傾き0の点がピーク)雑音除去(微分は高周波を強める)

睡眠脳波に筋電図が混じったら、筋電図は脳波より高い周波数なので、ローパスとして働く移動平均で除く。加算平均は自発脳波には使えない。

そのほか、パターン認識は心電図の自動解析などで波形を分類する技術、ディジタルサブトラクションは2枚の画像の差を取って目的の部分だけを残すディジタル処理技術。

同期加算平均の√N(計算の型)

信号は毎回同じ位相で重なるので大きさは変わらず、不規則雑音は打ち消し合って1/√Nになる。よってSN比は加算回数Nの√N倍に改善する。

例題:225回加算 → √225=SN比15倍(雑音は1/15)。100回なら10倍、400回なら20倍。「信号成分が15倍」「雑音が1/225」「SN比225倍」はすべて誤り。

1-6 雑音対策

商用交流雑音(ハム)が入る道

ハムは壁や床の電源配線から、患者やリード線に静電容量(容量結合)や電磁誘導で乗ってくる。患者の体に乗ったハムは両方の電極に同じように入る=同相成分なので、差動増幅で消せる。

対策の一覧

対策(正しい)誤りとして出るもの
差動増幅器(CMRRが大きい)で同相雑音を除く移動平均処理・加算平均処理でハムを除く
ハムフィルタ(ノッチフィルタ)で50/60 Hzだけを落とす高周波雑音をハムフィルタで除く(高周波はローパス)
信号線(入力導線)にシールド線を使い、シールドを接地する電源回路にラインフィルタ(ACラインフィルタ)を入れる(電源ラインの雑音用で、誘導ハムには効かない)
測定器の接地端子・ベッド・シールドマットを接地極につなぐ右足コードを保護接地端子に直接つなぐ
誘導コードはまとめて(より合わせて)ループ面積を小さくする誘導コード同士を離してばらばらに置く
ベッドを壁(壁内の配線)から離す電源コードをベッドと平行に置く
電極の接触インピーダンスを下げる(ペースト・皮膚の処理)
雑音の種類→対策を1対1で

商用交流ハム→差動増幅+ハムフィルタ(心電図の対策の組合せはこの2つ)。高周波雑音→ローパスフィルタ。基線動揺→ハイパスフィルタ。不規則雑音→加算平均。外来の誘導→シールド・接地・より線。ディジタルフィルタは標本化した信号を演算して雑音を除く。