第1章|作業療法の理論・目標設定と治療的活動
作業療法治療学 第1章
1-1 作業療法の歴史と理論・モデル
歴史の人物と出来事
| 名前・出来事 | 結びつける内容 |
| Pinel | 18世紀末、精神病者を鎖・拘束から解放した。道徳療法の先駆け |
| Adolf Meyer | 作業療法の哲学を示した(作業・時間の使い方と健康の結びつき) |
| Ayres | 感覚統合療法を提唱した(Meyerではない) |
| 呉秀三 | 欧州の作業の効果を紹介し、わが国の精神科病院の改革と作業治療の普及に尽くした |
| 加藤普佐次郎 | 呉秀三のもとで精神科病院の患者と共に作業を行い、わが国の精神科作業療法の先駆けとなった(結核療養所の作業療法の人ではない) |
| 高木憲次 | 肢体不自由児の療育という考え方を提唱し体系化した整形外科医 |
| 再建療法(reconstruction therapy) | 第一次世界大戦期の米国で、傷病兵の機能回復・社会復帰のために広まった流れ。Meyerの業績ではない(Meyerは作業療法の哲学) |
| 理学療法士及び作業療法士法 | 昭和40年(1965年)制定 |
| 自立生活〈IL〉運動 | 障害者の自己決定権の尊重をもたらした |
「Meyer=感覚統合」は人物の入れ替えによるひっかけ。感覚統合はAyres。
人間作業モデル(MOHO)
| 人間の構成要素 | 中身 |
| 意志(volition) | 個人的原因帰属(自分の能力への信念)・価値・興味 |
| 習慣化(habituation) | 習慣・役割・日課(ルーティン)のまとまり |
| 遂行能力(performance capacity) | 身体・精神の能力と主観的な体験 |
この3要素が環境と相互に作用して作業が起こり、作業適応に至ると考える。
MOHOの人間の構成要素に「情緒」「認知」「身体」という名前の要素は無い。身体・精神の能力は「遂行能力」にまとめられている。
作業療法実践の枠組み(OTPF)
- 文脈(context):文化的・個人的・時間的・仮想的な状況など。社会的な状況も文脈・環境として扱う
- 身体機能・身体構造は文脈ではなくクライエント因子に入る
OTPFの文脈(context)で「含まれないのはどれか」と問われたら、身体的な状況を選ぶ。physical は訳により「身体的」「物理的」となり、物理的なものは文脈ではなく環境(environment)の側に置かれる。心身機能・身体構造はクライエント因子。どちらにしても文脈の一覧には入らない。
1-2 目標設定・プログラム立案・MTDLP
目標設定の原則
- クライエント中心:患者の価値観・役割・優先する生活行為を反映させる
- 具体的で測定できる形にする(抽象的にしない)
- 状態や希望の変化に合わせて見直す(一度決めたら変えない、は誤り)
- 標準的な病期対応に機械的に合わせて決めない。復職などの参加の目標も機能改善を待たずに早くから掲げてよい
プログラム立案の原則
| 適切 | 不適切 |
| 成功体験を得やすい難易度に段階づける | 訓練内容を毎回変える(継続性・学習を妨げる) |
| 環境調整(住環境・自助具)は入院中から計画する | 環境調整は退院してから |
| IADLはIADLそのものを練習する | IADL向上のためにまず機能訓練を優先 |
| 根拠と評価結果に基づいて決める | 作業療法士個人の経験だけで決める |
生活行為向上マネジメント(MTDLP)
- 日本作業療法士協会が作った、生活行為の向上を目的とするマネジメントの手法。機能訓練そのものが目的ではない
- 活動性・意欲の低い人も対象。通所・訪問・入院など場を問わず使える
- 導入前に認知機能検査を必須とする決まりは無い
- プランは基本的プログラム(心身機能)・応用的プログラム(活動と参加)・社会適応プログラム(環境因子:住環境・社会資源・家族や支援者への働きかけ)で組み立てる
ADLとIADL
| 区分 | 代表例 |
| 基本的ADL(BADL) | 食事・整容(化粧を含む)・更衣(義足の装着を含む)・排泄・入浴・移乗・移動(歩行器歩行を含む) |
| IADL(手段的ADL) | 買い物・調理・家事・洗濯・交通機関の利用(バスなど)・服薬管理・金銭管理・電話の使用 |
補助具を使っても、歩行器での歩行や移乗は身の回りの基本動作=BADL。道具を使うかどうかではなく、地域生活のための応用的な行為かどうかで分ける。
予防の3段階
| 段階 | 目的 | 例 |
| 一次予防 | 健康増進・発症予防 | 健常高齢者への運動指導 |
| 二次予防 | 早期発見・早期治療・進行抑制 | 健康診査・がん検診などによる早期発見と早期治療 |
| 三次予防 | 障害の悪化防止・機能回復・社会復帰 | 片麻痺患者への機能的作業療法などのリハビリテーション |
高血圧への降圧薬や慢性腎不全の食事指導は、すでにある病気の進行・合併症を抑える例で、主に二次予防として扱われるが、重症化予防として三次予防寄りに置く教科書もある境界的な例。迷わないのは三次予防の代表=障害のある人へのリハビリテーション。
1-3 運動学習と筋力増強の原則
練習方法の名前
| 名前 | 意味 | 例(移乗動作) |
| 部分練習 | 動作を区切り、一部分を取り出して練習 | 車椅子からの立ち上がりだけを練習 |
| 全体練習 | 動作を最初から最後まで通して練習 | 移乗全体を通して行う |
| 多様練習 | 条件を変えながら練習(汎化をねらう) | アプローチ角度やベッドの高さを変える |
| 恒常練習 | 同じ条件で繰り返す | いつも同じ配置・同じ高さで行う |
| 分散練習 | 練習の間に休憩を多く挟む | — |
| 集中練習 | 休憩を少なく続けて行う | — |
「区切って練習」は部分練習であって分散練習ではない。分散・集中は休憩の取り方、部分・全体は動作の切り出し方、多様・恒常は条件の変え方の分類。手順を言えるようにする練習は全体練習とは呼ばない。
筋収縮の様式
| 様式 | 特徴 |
| 等尺性収縮 | 筋の長さが変わらず関節運動を伴わない。血圧上昇(息こらえ)を招きやすく、心疾患では注意 |
| 求心性収縮 | 筋が短縮しながら張力を出す(筋張力が抵抗より大きい) |
| 遠心性収縮 | 筋が伸張しながら張力を出す(抵抗が筋張力より大きい) |
| 等運動性収縮 | 機器で角速度を一定に保つ。全可動域で最大筋力を発揮させて強化できる |
1-4 治療的な作業活動(手工芸)
陶芸の工程
| 工程 | 目的・内容 |
| 荒練り | 粘土の水分(硬さ)を均一にする |
| 菊練り | 荒練りの後に行い、粘土の中の空気を抜く。手掌全体と上肢・体幹を使う粗大な動作 |
| 成形(手びねり・たたら作りなど) | 手で形を作る。たたら板は粘土を均一な厚さの板状にする道具 |
| 乾燥・素焼き・施釉・本焼き | 施釉は釉薬をかける工程 |
道具と種目の対応
| 種目 | 道具の例 |
| 革細工 | モデラ(模様付け・成形)、スーベルカッター(革を切り込む革細工専用の刃物)、刻印 |
| 織物 | 整経台(たて糸をそろえる) |
| 陶芸 | たたら板 |
活動の特性と目的
| 主にねらう機能 | 活動の例 |
| 手指の巧緻性(細かな指先操作・指の分離運動) | 籐細工の編み込み、マクラメの平結び |
| 上肢・体幹の粗大な筋力・持久力 | 陶芸の菊練り、木版画の摺り、木工の鋸挽き |
活動の段階づけ・選択は「その工程でどの関節・どの筋を、どれくらいの細かさで使うか」で考える。手掌全体で押す・引く工程は粗大、指先でつまむ・結ぶ・編む工程は巧緻。