第4章|精神障害・老年期の作業療法総論
作業療法治療学 第4章
4-1 精神科作業療法の制度と関係法規
精神科作業療法(診療報酬上の基準)
| 項目 | 基準 |
| 対象 | 入院・外来の両方(外来患者も対象) |
| 実施時間 | 患者1人当たり1日2時間を標準(40分ではない) |
| 作業療法士1人の取扱い患者数 | 1日50人以内を標準 |
| 材料費 | 病院の負担(診療報酬に含まれる。患者の個人負担ではない) |
| 実施場所 | 届け出た専用施設に限らず、病棟などで行うこともある |
どの法律に何が書いてあるか
| 法律 | 主な中身 |
| 精神保健福祉法(精神保健及び精神障害者福祉に関する法律) | 精神科病院への入院形態:任意入院・医療保護入院・措置入院・緊急措置入院・応急入院 |
| 医療観察法(心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律) | 処遇は裁判官と精神保健審判員(医師)の合議で決定。精神保健参与員(精神保健福祉士など)は意見を述べる立場、社会復帰調整官(保護観察所)は地域処遇の調整役、検察官は申立てをする立場 |
| 医療法 | 病院・診療所の開設・管理の基準 |
| 障害者基本法 | 障害者施策の基本理念 |
| 障害者差別解消法 | 障害を理由とする差別の解消・合理的配慮 |
ICDとICF
| ICD(国際疾病分類) | ICF(国際生活機能分類) |
| 作成 | WHO | WHO |
| 分類するもの | 疾病・死因(精神障害に限らない全疾患)。わが国の死因統計が準拠 | 生活機能と障害 |
| モデル | 医学モデル | 医学モデルと社会モデルの統合(生活モデル) |
「障害の階層性」「生活モデル」はICDではなくICF(その前身ICIDHも障害を階層で示した)。
4-2 精神療法・行動療法・障害受容・睡眠衛生
精神療法の分類
| 分類 | 例 |
| 訓練療法 | 森田療法(臥褥期→軽作業期→重作業期→社会復帰期と段階的に活動を広げる。「あるがまま」)、自律訓練法 |
| 表現療法・芸術療法 | 絵画療法、箱庭療法 |
| 洞察療法 | 精神分析療法 |
| 支持的精神療法 | 来談者中心療法 |
| その他 | 催眠療法 |
行動療法の原理
| 原理 | 技法 |
| 古典的(レスポンデント)条件付け | 曝露法(エクスポージャー)、系統的脱感作 |
| オペラント条件付け | トークンエコノミー法(望ましい行動に代理貨幣で強化)、シェイピング |
| 認知行動療法の技法 | 認知再構成法、セルフモニタリング法 |
| モデリング・強化などを組み合わせる | SST(社会生活技能訓練) |
障害受容への関わり
- 障害受容は社会環境に左右され、障害者同士の交流(ピアサポート)で促される
- ショック期:安全に見守る
- 混乱期:怒りが医療者にも向く。受け止める
- 抑うつの時期:支持的・受容的に関わる
「抑うつ状態の患者には積極的な指導を行う」は誤り。課題や目標を強く迫るのは回復を妨げる。
睡眠衛生指導
| 勧める | 避ける |
| 朝起きたらカーテンを開けて光を浴びる(体内時計の調整) | 夜、就寝直前まで明るい部屋で過ごす |
| 起床時刻を一定にする | 眠くないのに決めた時刻に床に就く(就床時刻への固執) |
| 昼寝は短く(20〜30分程度) | 2時間ほどの長い昼寝 |
| 眠くなってから床に就く | 寝酒(睡眠が浅くなり中途覚醒が増える) |
4-3 精神障害者の地域生活支援と就労支援
地域生活支援のプログラム
| 名前 | 要点 |
| ACT(包括型地域生活支援) | 重い精神障害のある人の地域生活を、多職種チームが訪問(アウトリーチ)で支える。自宅以外の生活の場にも出向く |
| SST | 病院内に限らず、外来・地域・職場など様々な場で行う |
| 認知リハビリテーション | 集団形式でも行う |
| ケアマネジメント | 利用者中心にサービスを組み立てる(支援機関中心ではない) |
| 心理教育 | 援助者と本人・家族が協同して学ぶ。上下を明確に分けた構造ではない |
| 認知症初期集中支援チーム | 設置主体は市町村(都道府県ではない) |
就労支援の制度
| 制度・支援 | 要点 |
| IPS(個別就労支援プログラム・個別化された援助付き雇用) | まず就職し、働きながら支援(place-then-train)。就職前の長い訓練を重視しない |
| 法定雇用率 | 精神障害者も算定基礎に含まれる(2018年から)=雇用義務の対象 |
| 就労移行支援 | 標準利用期間2年 |
| 就労継続支援A型 | 雇用契約あり(最低賃金の対象) |
| 就労継続支援B型 | 雇用契約なし=最低賃金は保障されない(工賃) |
| ジョブコーチ(職場適応援助者) | 本人だけでなく事業主・同僚への支援も行う |
| 障害者就業・生活支援センター | 就業と生活の相談支援。職場実習のあっせんも行う。利用者と雇用契約は結ばない |
| 障害者職業能力開発校 | 精神障害者も対象 |
精神障害者の就労と最も関連が強いのは、症状の程度・診断名・入院期間・訓練時間ではなく本人の就労への動機づけ(モチベーション)。
職業評価・社会生活の評価
| 評価 | 内容 |
| GATB(一般職業適性検査) | 筆記検査11種+器具検査4種で9つの適性能を測り、適職を検討する |
| MODAPTS | 作業動作を基本単位に分けて作業時間を分析する |
| マイクロタワー法・ワークサンプル幕張版 | 作業見本(ワークサンプル)を用いた職業評価 |
| 内田クレペリン精神検査 | 連続加算作業で作業特性をみる |
| LASMI(精神障害者社会生活評価尺度) | 日常生活・対人関係・労働または課題の遂行・持続性・安定性・自己認識の5領域。持続性・安定性に「現在の社会適応度」を含む |
| BPRS | 精神症状の評価 |
| GAF | 機能の全体的評定(1つの数値) |
| Rehab | 逸脱行動と全般的行動の評価 |
4-4 器質性・症状性精神障害
- 器質性精神障害の急性期に最もみられるのはせん妄(意識障害を背景に見当識障害・幻視・興奮)。知能低下(認知症)・性格変化・健忘症候群は慢性期にみられる像
- 症状性精神障害=身体疾患に伴う精神症状。原因疾患の治療で改善する
| 疾患 | 治療 |
| Wernicke脳症 | ビタミンB1(チアミン)投与 |
| 全身性エリテマトーデス | 副腎皮質ステロイド |
| 肝性脳症 | 分岐鎖アミノ酸(BCAA)、アンモニアを下げる治療(芳香族アミノ酸ではない) |
| ペラグラ | ニコチン酸(ナイアシン)(葉酸ではない) |
| 尿毒症性脳症 | 透析(瀉血ではない) |
4-5 老年期の発達課題・精神保健・QOL・薬物療法
Eriksonの心理社会的発達段階
| 時期 | 課題(対 危機) |
| 乳児期 | 基本的信頼 対 不信 |
| 幼児前期 | 自律性 対 恥・疑惑 |
| 幼児後期(遊戯期) | 自発性(積極性) 対 罪悪感 |
| 学童期 | 勤勉性 対 劣等感 |
| 青年期 | 同一性 対 同一性拡散(役割の混乱) |
| 成人前期 | 親密性 対 孤立 |
| 成人期(壮年期) | 生殖性(世代性) 対 停滞 |
| 老年期 | 統合 対 絶望 |
ライフステージと精神保健上の問題
| 時期 | 問題・概念 |
| 幼児期・小児期 | エディプス葛藤、緘黙(場面緘黙) |
| 青年期 | 同一性拡散、モラトリアム、自我同一性の獲得 |
| 中年期 | 空の巣症候群(子の独立後の喪失感) |
| 老年期 | 社会的孤立(退職・死別・身体機能低下)。抑うつ・認知機能低下の危険因子 |
老年期のQOL評価
- PGCモラールスケール(改訂版):高齢者の主観的幸福感(モラール)を測るために作られた尺度
- EuroQol(EQ-5D)・HUI:年齢を問わない健康関連QOL/効用値。CHART:社会参加(ハンディキャップ)。POMS:気分
高齢者の薬物療法
- 加齢で肝・腎機能が落ち、有害事象が多く、重症化しやすい
- 少量から開始。多いほど効く、ではない
- 服薬数の増加(ポリファーマシー)は有害事象の要因。服薬歴は現在の身体機能に影響する
4-6 高齢者の身体特性とロコモ・誤嚥・メタボ
円背と高齢者の歩行
| 項目 | 特徴 |
| 円背の立位 | 重心が前に出るのを代償して股・膝関節が屈曲位になる。前後方向のバランスが不安定 |
| 円背と呼吸 | 胸郭の拡張が制限され拘束性換気障害(閉塞性ではない) |
| 円背の治療 | 運動療法・装具。ギプス矯正は行わない |
| 高齢者の歩行 | 歩幅の減少、歩隔の増大、両脚支持期の延長、遊脚期の短縮、歩行速度の低下 |
ロコモ度テスト(ロコモティブシンドローム)
| ロコモ度 | 立ち上がりテスト | 2ステップ値 |
| ロコモ度1 | どちらか一方の片脚で40cmから立てない | 1.1以上1.3未満 |
| ロコモ度2 | 両脚で20cmから立てない | 0.9以上1.1未満 |
| ロコモ度3 | 両脚で30cmから立てない | 0.9未満 |
ほかにロコモ25(質問票)の点数でも判定する。
食事の姿勢と誤嚥
- 上を向く(頸部伸展)と気道が開き、喉頭閉鎖が不十分になって誤嚥のリスクが高まる
- 顎を引く(頸部屈曲)は誤嚥を防ぐ方向。横を向く(頸部回旋)は食塊を反対側へ通す代償法
コップの残りを飲もうと上を向く、高い位置から介助されて見上げる、などが誤嚥の原因になる。介助者は座って目線を合わせる。
メタボリックシンドロームの診断基準(わが国)
| 必須 | ほかに2項目以上 |
| ウエスト周囲径:男性85cm以上・女性90cm以上 | 脂質(中性脂肪150mg/dL以上 かつ/または HDLコレステロール40mg/dL未満)/血圧(収縮期130mmHg以上 かつ/または 拡張期85mmHg以上)/空腹時血糖110mg/dL以上 |
LDLコレステロールは診断基準に含まれない(脂質の項目は中性脂肪とHDL)。