第3章|スプリント・自助具・福祉用具と生活指導

作業療法治療学 第3章

3-1 上肢装具・スプリント

装具の名前と目的

装具・スプリント目的・適応
ウェブスペーサ(第1指間保持装具)母指と示指の間(第1指間=web space)を広げて保ち、母指の内転拘縮を防ぐ
長対立装具手関節を含めて母指を対立位に保つ(手関節の支持も要る場合)
短対立装具手関節を含まず、母指を対立位に保つ(正中神経麻痺など)
指用ナックルベンダーPIP関節の屈曲を補助する(指用逆ナックルベンダーはPIP伸展を補助。手の逆ナックルベンダーはMP伸展を補助)
MP屈曲補助のナックルベンダーMP関節の伸展拘縮・鷲手(尺骨神経麻痺)に対してMP屈曲を補助
コックアップスプリント(手関節背屈装具)手関節を軽度背屈位に保持(橈骨神経麻痺の下垂手など)
フレクサーヒンジスプリント(把持装具)手関節の背屈を力源にして指をつまみ動作に導く(テノデーシス作用の利用)。頸髄損傷で手関節背屈が残る例
尺側偏位防止スプリント関節リウマチのMP関節尺側偏位に対して
アームスリング(三角巾など)片麻痺の肩関節亜脱臼の予防・軽減

Thomasスプリント(トーマス型スプリント)

  • 上肢のThomasスプリントは橈骨神経麻痺に用い、手関節を背屈位に保って手を使いやすくする
  • 手関節中間位固定の装具ではない

肘屈曲型アームスリングの目的は亜脱臼の予防・上肢の支持で、肩外転位の保持ではない。フレクサーヒンジは手関節屈曲ではなく背屈を利用する。ウェブスペーサは母指内転拘縮の予防(外転筋の短縮予防ではない)。

麻痺した神経と装具の対応で覚える:橈骨神経=手関節背屈の保持(コックアップ、Thomasスプリント)/正中神経=対立装具/尺骨神経=MP屈曲補助(ナックルベンダー)。

3-2 自助具・支援機器の選び方

障害の特徴から自助具を選ぶ

対象・状態適した自助具・機器理由
関節リウマチレバー式水栓、台付き爪切り、太柄・長柄の道具、リーチャー手指の関節に負担をかけない(ひねる・つまむ動作を避ける)、関節保護
ALS(筋力低下が進行)軽量で太柄のスプーン重い道具は疲労・負担を増やす
ALS・発話困難(眼球運動は保たれる)透明文字盤、意思伝達装置視線で文字を指し示す
頸髄損傷(手指の握りが無い)万能カフ(ユニバーサルカフ)手掌にスプーン・ペンなどを差し込んで保持
上肢の筋力低下(頸髄損傷・筋疾患など)BFO(balanced forearm orthosis:ボールベアリング式で前腕を支える)。同じ目的の別の機器にポータブルスプリングバランサー(PSB:ばねで上肢を吊って支える)がある上肢を支え、わずかな筋力で口元へ運ぶ
アテトーゼ(不随意運動)キーボードカバー隣のキーの誤打鍵を防ぐ
片手動作(片麻痺など)くぎ付きまな板、滑り止めマット押さえる側の手の代わり

BFOは上肢の筋力低下に使う機器で、Parkinson病(振戦・固縮で筋力は保たれる)の食事動作に選ぶものではない。重い道具(重錘付きスプーンなど)は振戦の抑制に使うことはあっても、筋力が落ちる疾患には合わない。

ロービジョンの補助具

補助具使う場面
単眼鏡遠くを見る(駅の表示・黒板など)
拡大鏡(ルーペ)・拡大読書器近くを見る(読書・書字など)
遮光眼鏡まぶしさ(羞明)を減らす

3-3 車椅子・座位保持と移乗・外出

座位姿勢と圧の集中

姿勢圧が集中しやすい所
仙骨座り(骨盤後傾)・ずり落ち仙骨・尾骨
体幹の側屈(片側への傾き)傾いた側の坐骨結節
骨盤前傾の正しい座位両側坐骨結節と大腿後面に分散

車椅子の部品・付属品

部品働き
トグル式ブレーキレバーを倒すとタイヤを押さえて固定する駐車用ブレーキ
内転防止パッド(ポンメル)両膝の間に置き、股関節の内転(はさみ脚)を防ぐ
ティルト機構・リクライニング座面ごと傾ける/背もたれを倒す。除圧・姿勢保持のための機構で、自走(自分でこぐ)のためのものではない
アームサポート着脱式・スイングアウト式フットサポート側方移乗・前方移乗をしやすくする

段差・坂道の介助

  • 段差を上がる:前向きならティッピングレバーを踏んでキャスター(前輪)を上げ、前輪を段に乗せてから後輪を押し上げる。後ろ向きになりキャスターを上げたまま後輪から引き上げる方法もある(段差の昇りは前向き・後ろ向きのどちらも用いられる)
  • 段差を下りる:後ろ向きで後輪から下ろす
  • 上り坂:前向きで押して上る
  • 下り坂:急な下り坂は後ろ向きで下りるとずり落ち・転落が防げる。緩い下り坂は前向きでキャスターを上げて下りてもよい
  • 砂利道・芝生などの不整地:キャスターが凹凸や溝に取られないようキャスターを上げて(後輪だけで)進む

坂道で後ろ向きにするのは下り。「坂道は後ろ向きで上る」は誤り(上りは前向き)。段差の昇りを「前向きでなければ誤り」と決めつけない。

移乗

  • スライディングボード(トランスファーボード):車椅子とベッド・座席の間に渡して座ったまま滑って移る。立位が取れない例の側方移乗に
  • アームサポートを外す・高さを合わせる・隙間を小さくするのが基本

車椅子での外出の準備

  • 行き先の多目的トイレ(多機能トイレ)の有無を事前に確認する
  • 路線バスはノンステップバスなどで車椅子のまま乗車できる
  • 鉄道は駅員に介助(スロープ板)を依頼する
  • 歩道がある所では歩道を通る(車道を通らない)

3-4 住環境整備と補装具・日常生活用具

住宅改修の目安

項目目安
スロープの勾配1/12以下(高さ50cmなら水平距離6m以上)。自走ならよりゆるやかが望ましい
車椅子の回転スペース直径150cm程度
扉引き戸が基本。開き戸なら外開き(中で倒れても開けられる)
浴室・玄関の排水グレーチング(溝ふた)で段差なく排水
手すり動作の方向に合わせて縦・横を選ぶ

補装具と日常生活用具(障害者総合支援法)

区分代表例
補装具(身体機能を補完・代替し、長期間使う。個別に適合)義肢、装具、車椅子、電動車椅子、座位保持装置、重度障害者用意思伝達装置、歩行器、補聴器、盲人安全つえ など
日常生活用具(日常生活の便宜を図る)特殊寝台、入浴補助用具、T字杖(一般的な歩行補助つえ)、ストーマ用装具、情報・意思疎通支援用具 など

T字杖は日常生活用具に分類される(市町村の地域生活支援事業)。車椅子・座位保持装置・意思伝達装置は補装具。

3-5 人工股関節・人工骨頭置換術後のADL指導

後方アプローチ(後方進入)の脱臼肢位

後方アプローチの術後は股関節の過屈曲・内転・内旋(複合した肢位)が脱臼肢位。低い椅子・深くかがむ・脚を組む・横座りを避ける。前方アプローチでは伸展・内転・外旋が危険で、向きが逆になる。

動作避ける勧める
靴下・爪切り股関節を深く曲げて内側から手を伸ばすあぐら(股関節屈曲・外転・外旋)の姿勢で行う、ソックスエイド・長柄の道具
座る低いソファ、和式トイレ、割り座(とんび座り)・横座り高めの椅子、洋式トイレ(補高便座)
脚脚を組む、膝をそろえて内側に倒す両膝の間を開ける(外転枕)
入浴浴槽の底に直接座りこむ浴槽内いす・バスボードで深い屈曲を避ける
寝返り脚を内側に倒したまま回る両膝の間にクッションを挟む

階段

上りは健側から、下りは患側から(「良い足は天国へ、悪い足は地獄へ」)。杖は患側と一緒に動かす。

3-6 身体障害の治療とリスク管理

熱傷

  • 腋窩の熱傷は肩の内転拘縮を起こしやすい → 肩外転位でポジショニング
  • 肥厚性瘢痕には圧迫療法(弾性着衣など)
  • 植皮部のストレッチ・運動は植皮の生着を確認してから(直後から伸張はしない)

慢性疼痛・腰痛

  • 慢性疼痛:認知行動療法・運動療法を勧める。安静を続けるのは逆効果
  • 腰痛予防:物は体に近づけて持つ。膝を曲げて腰を落とし、体幹のひねりを避ける

廃用症候群(不動)と合併症

合併症対応
深部静脈血栓症(DVT)早期離床・下肢の運動、弾性ストッキング、抗凝固療法
起立性低血圧段階的な起立訓練(ギャッジアップ・傾斜台)、弾性包帯。塩分制限はしない(循環血液量を減らし悪化させる)
筋萎縮・関節拘縮・骨萎縮早期からの運動・荷重

治療法の名前と対象

治療法対象・目的
Frenkel体操脊髄性(感覚性)失調。視覚で代償しながら協調性を練習
Codman体操(振り子運動)肩関節(肩関節周囲炎など)
漸増抵抗運動(PRE)筋力増強(最大反復回数をもとに負荷を漸増)

肘の可動域とADL

  • 洗顔・食事・整髪など顔に手を届かせる動作には十分な肘屈曲(おおむね130°前後)が要る。肘屈曲が50°程度に制限されると洗顔は困難

臨床検査値の基準(リスク管理で見る値)

検査基準値の目安読み方
CRP0.3 mg/dL以下高値=炎症
アルブミン(Alb)4〜5 g/dL程度低値=低栄養
総コレステロール(TC)130〜220 mg/dL程度—
BNP18.4 pg/mL以下高値=心不全
HbA1c4.6〜6.2%程度高値=高血糖の持続

検査値の問題は「どの値が基準範囲を外れているか」を判断させる形。施設で多少異なる。