第1章|特性の見分け方と評価

発達障害 第1章

1-1 自閉スペクトラム症(ASD)の特性

自閉スペクトラム症〈自閉症スペクトラム障害〉(ASD)。旧称の広汎性発達障害・自閉症(自閉性障害・小児自閉症)・Asperger症候群も国試の選択肢にそのまま出る。中核は次の2つ。

中核症状OT場面・生活場面での現れ(代表例)
①社会的コミュニケーション・対人相互交流の障害冗談・皮肉・比喩が通じない(字義どおりに受け取る)/本音と建前を区別できない/場の空気が読めない/一方的に自分の関心事を話し続ける/他児への関心が乏しい・一人遊びが多い/他者との関係に無頓着/表情変化に乏しい・視線が合わない/身振り・表情など非言語の使用と理解が苦手/共感性が乏しい(心の理論の困難)/人見知りや後追いをしない・抱っこをせがまない
②限定的・反復的な行動・興味(こだわり)同一性保持:予定変更・いつもと違う道でパニック、新しい環境を嫌う/同じ遊びに没頭・常同運動/独自の手順にこだわる/特定分野(鉄道・選手の背番号など)の知識を大量に記憶/感覚過敏・鈍麻(物音・匂い・触覚)と、それに関連した偏食

好むもの・苦手なもの

好む(得意)苦手
構造化された環境・決まった手順・ルーティン
明確で具体的な指示
図鑑・事典・規則・システム(事実の世界)
視覚情報(視覚優位のことが多い)
流動的な状況・臨機応変さを求められる場面
曖昧な条件・指示
物語・想像力を要する遊び(ままごと・ごっこ遊び=象徴遊び)
暗黙のルールの理解

ASDに特徴的な用語

  • クレーン現象:欲しい物があるとき、相手の手首をつかんで目的の物へ持っていく(他者の手を道具のように使う)。指差し・共同注意の代わりに出る
  • オウム返し(反響言語・エコラリア):相手の言葉をそのまま繰り返す
  • タイムスリップ現象:過去の出来事(いじめ体験など)を急に思い出し、今起きているかのようにパニックになる
  • 心の理論:他者の信念・意図を推測する力。誤信念課題(「サリーとアン課題」)は定型発達児ならおおむね4〜5歳で正答するが、ASD児は年齢相応には正答しにくい

疫学・経過(基礎科目でも頻出)

  • 男児に多い(女児の約4倍)。女性は周囲に合わせてふるまう(カモフラージュ)ため成人まで見過ごされることがある
  • 症状は乳幼児期早期からみられる(学童期の発症ではない)。特性は生涯続く(成人までに消失するものではない)
  • 原因は生物学的な脳の発達の偏りで、育児方法やしつけは原因ではない
  • 知的障害を伴う例も伴わない例もある(「伴うのはまれ」は誤り)。ADHDとの合併は珍しくない。手先の不器用さ(協調運動の苦手さ)もしばしば伴う
  • 小児期崩壊性障害(旧分類で広汎性発達障害の一型):2歳前後まで正常に発達した後に言語・社会性・生活技能が退行する

生活歴から読み取る

事例文では、幼少期から「一人遊びが多い・人見知りや後追いをしない・こだわり・感覚過敏」→学童期・思春期に「一方的な会話で孤立・場の空気が読めずいじめ・不登校」→成人で「成績は良いのに接客・同僚との関係でつまずき退職・引きこもり」という幼少期から一貫した対人の困難+こだわりの流れが描かれる。成績上位・知的に高いこともASDを否定しない。

「相手に気を遣い過ぎる」は回避・不安の傾向、「葛藤に満ちた対人関係(理想化とこき下ろし)」は境界性パーソナリティ障害、「他者の関心を集めようとする」は演技性パーソナリティ障害、「否定的評価を受ける状況を避ける」は回避性パーソナリティ障害・社交不安の像。ASDは「気遣いがずれる・関係に無頓着」と押さえる。うつ・引きこもりが前面に出ても、幼少期からの経過があれば二次障害と読む。

1-2 注意欠如・多動症(ADHD)の特性と経過

注意欠如多動症〈注意欠如・多動性障害〉(ADHD)。中核は不注意・多動性・衝動性の3つ。診断には12歳以前からの症状が必要なので生育歴の聴取が重要。

中核症状OT場面・学校・職場での現れ(代表例)
不注意ケアレスミスが多い/忘れ物・落とし物が多い・道具をしばしばなくす/片付け・整理整頓が苦手(自室が乱雑)/他者の作業に目移りする(注意の転導性)/締め切り・約束を守れない/雑音で集中が切れる
多動性じっと座っていられない・頻回に離席する・立ち歩く/手足をもぞもぞ動かす・鼻歌/しゃべりすぎる
衝動性順番を待てない・割り込む/他児にちょっかいを出す・余計な一言・おせっかい/注意されるとかっとなる・感情的になって暴れる/後先考えずに行動して失敗する

疫学・経過

項目正しい知識よく出る誤り
性差男性(男児)に多い女性に多い
年齢による変化青年期以降は運動性の多動が目立たなくなる。不注意は成人期まで残りやすい成長につれて不注意の方が軽快しやすい
成人期成人期にも症状が続く例が多く、成人になってから診断されることもある約9割が成人期早期までに寛解する/成人では診断されない
感情面の衝動性感情の調節困難は改善しにくい側面改善しやすい
低出生体重リスク因子の一つにすぎない低出生体重児の多くで発症する
原因神経発達の特性。しつけの失敗が原因ではない親の育て方が原因

薬物療法

  • 中心は精神刺激薬(メチルフェニデート)。ほかに非刺激薬(アトモキセチン、グアンファシン)
  • 小児・青年期が主な対象で、成人にも使う(「20歳未満には行わない」「薬物療法は行わない」は誤り)
  • 抗精神病薬・抗不安薬・気分安定薬・抗うつ薬はADHDの第一選択ではない

二次障害・併存

失敗体験と叱責の積み重ねで自己肯定感が下がり、うつ病・不安障害、反抗挑発症・素行症などの二次的な精神症状が出やすい。成人ADHDでは特にうつ病の併存に注意する。

1-3 似た症状の見分け方(他の発達障害・精神障害との鑑別)

「この患者(児)にみられる行動はどれか」「強く示唆する発言はどれか」は、選択肢の行動を疾患に振り分けると解ける。代表例を並べる。

行動・発言(代表例)考える疾患
冗談が通じない・いつもと違う道でパニック・同じ遊びに没頭・オウム返し・突然の予定変更で感情が乱れるASD
ケアレスミス・物をなくす・順番を待てない・頻回に離席・じっとしていられず後先考えずに行動ADHD
知能は保たれるのに読み・書き・計算など特定の学習領域が極端に苦手(1領域とは限らず、読みと書きの困難が重なることも多い。音読が遅い・語の途中で区切って読む・読めるが書けない)限局性学習症〈学習障害〉(LD・SLD)。読字障害=ディスレクシア
ボタンかけ・箸・書字・ボール遊びなど協調運動が極端に不器用発達性協調運動症〈運動機能の特異的発達障害〉(DCD)
突発的にまばたき・肩すくめ・顔しかめ・首ふり・咳払いを繰り返すチック症(音声チックを伴い長く続くものがTourette症候群)
家ではよく話すが学校では話さない選択性緘黙〈場面緘黙〉
忘れ物がないか何度も確認・長時間手洗い・作業工程を何回も確認強迫症(ADHDではない)
誇大的な発言・根拠のない自信・活動性の波双極性障害(躁状態)
脳が溶けたなどの奇異な体感/周囲が不気味で何か起こりそう(妄想気分)統合失調症
映画を見ているようで現実感がない離人感・現実感消失(解離)
検査で異常がないのに重病だと確信心気妄想・病気不安
過呼吸/発作が心配で遠出できないパニック症
発作を起こして倒れるてんかん
人前で緊張して話せない社交不安症
攻撃・器物破損・規則違反が続く素行症〈行為障害〉(反抗・拒否・敵意中心なら反抗挑発症)
他者に対し過度に警戒的で、慰めを求めない・受け入れない反応性アタッチメント症〈反応性愛着障害〉

ASDとADHDの対比:ASDは「変化が苦手・こだわる・他児と関わらない」、ADHDは「待てない・なくす・すぐ他のことを始める・衝動的に他児に関わってトラブル」。自分から同級生との接触を避けるのはADHDよりASD寄り。

発達性協調運動症にチックは特徴的な随伴症状ではない。DCDには感覚統合療法も、ボタンかけなど特定の技能を直接教えること(課題指向型)も有効とされる。

1-4 知的障害と原因になる疾患

知的障害(知的能力障害・知的発達症、旧称:精神遅滞)。作業療法では暦年齢ではなく精神年齢(発達年齢)で課題水準を考える(3-1)。原因疾患の特徴は基礎科目と共通で問われる。

疾患原因見分けの決め手(代表例)
Down症候群21番染色体の異常(21トリソミーが大部分、ほかに転座型・モザイク型)筋緊張低下・関節の過可動性、特徴的顔貌、先天性心疾患、環軸椎亜脱臼。母親の高齢出産でリスク上昇。転座型では親が転座保因者のことがあり、両親の染色体検査が必要になる。知的障害・表出言語の遅れを伴う。人なつこく愛着は保たれる
神経線維腫症(1型)遺伝性の神経皮膚症候群カフェオレ斑(皮膚色素沈着)、神経線維腫
結節性硬化症遺伝性の神経皮膚症候群白斑(葉状白斑)・顔面の血管線維腫・てんかん
ネコ鳴き症候群5番染色体短腕の欠失ネコのような甲高い泣き声・小頭症・重い知的障害
Williams症候群7番染色体の微細欠失妖精様顔貌・人なつこさ
Prader-Willi症候群15番染色体の異常乳児期の筋緊張低下、のちに過食・肥満
フェニルケトン尿症先天性代謝異常(アミノ酸代謝)新生児マススクリーニングの対象。食事療法で知的障害を防ぐ
Turner症候群/Klinefelter症候群性染色体異常(45,X/47,XXY)Turner=女性・低身長・翼状頸・性腺発育不全、Klinefelter=男性・高身長・精巣機能低下。Turnerは通常知的障害を伴わない。知的障害の原因としてでなく、性染色体異常という分類(Downは常染色体)で問われる

Down症候群は「筋緊張が高い」「男子に多い」「出産年齢に影響されない」「知的障害はない」がすべて誤り。染色体異常(Down・ネコ鳴き・Turner)と代謝異常(フェニルケトン尿症)と遺伝子疾患(神経線維腫症・結節性硬化症)の区別も問われる。Korsakoff症候群(ビタミンB1欠乏の健忘症候群)は知的障害の原因ではない。

1-5 発達障害の評価:知能検査・発達検査・就労評価

検査何をみるか
WISC(WISC-Ⅲ・WISC-Ⅳなど)児童用の知能検査。WISC-Ⅳは言語理解・知覚推理・ワーキングメモリー・処理速度の4指標
K-ABC心理・教育アセスメントバッテリー小児の知能(認知処理)と習得度
WAIS(WAIS-Ⅲなど)成人用の知能検査
WPPSI就学前の幼児用の知能検査
田中ビネー知能検査日本版ビネー式の知能検査(幼児から成人まで)
遠城寺式乳幼児分析的発達検査運動・社会性・言語の各領域の発達(粗大運動だけではない)
JDDST-R(改訂日本版デンバー式)発達のスクリーニング
S-M社会生活能力検査身辺自立・移動・作業・コミュニケーションなど社会生活能力
フロスティグ視知覚発達検査視知覚(巧緻運動ではない)
WeeFIM小児のADL(機能的自立度)
GMFM脳性麻痺児の粗大運動能力
CARS/PEP-3/ASQASDの重症度評定/ASD児の発達・行動の心理教育的プロフィール/ASDのスクリーニング質問紙
ADHD-RS/CAARSADHD症状の評定尺度(CAARSは成人用)

「知能検査はどれか」はWISC・K-ABC・田中ビネー(就学前ならWPPSI、成人ならWAIS)などの知能検査を拾う(代表例)。発達検査・スクリーニング・ADL・運動・ASD/ADHDの症状評定は知能検査ではない。

ASD・ADHDの成人の就労に向けた評価

目的評価(代表例)
職業適性・作業能力マイクロタワー法(実際の作業サンプルで適性をみる)、GATB(一般職業適性検査)
職業興味VPI職業興味検査
合併したうつの状態確認SDS(自己評価式抑うつ尺度)、HRS(ハミルトンうつ病評価尺度)

PANSS は統合失調症の陽性・陰性症状の評価尺度。ASD+うつの就労評価には用いない。HTP・バウムテストなどの投影法も発達特性の評価には向かない。