物質(アルコール・薬物)や行動を、不利益が分かっていてもやめられなくなった状態が依存症。物質によるものを物質使用障害(精神作用物質使用による精神障害)、ギャンブルなど行動によるものを行動嗜癖(ギャンブル障害など)と呼んで分ける。医薬品(処方薬)による依存も含まれる(オピオイド・ベンゾジアゼピン系など)。症状として「幻覚が必ず出る」わけではない。
| 用語 | 意味 | アルコールでの現れ方(例) |
|---|---|---|
| 耐性(tolerance) | 同じ量では効かなくなり、効果を得るのに必要な量が増える | 「昔より酒に強くなった」「酔うまでの量が増えた」「徐々に飲酒量が増えた」 |
| 渇望(クレービング) | 摂取したいという強い欲求 | 酒が切れると深夜でも買いに行く |
| 抑制喪失(コントロール喪失) | 量・時間を自分で調節できない | 減らそうとしても飲み始めると深酒になる |
| 飲酒中心性 | 生活の中心が飲酒になる | 仕事・家庭より飲酒が優先される |
| 負の結果があっても続ける | 健康・仕事・家族の不利益が生じても使用が止まらない | 肝機能障害を指摘されても、欠勤が続いても飲む |
| 身体依存 | 中断・減量で離脱症状(退薬症候)が出る状態 | 朝の発汗・手の震えが迎え酒でおさまる(不快が消えることが飲酒をさらに強める) |
| 精神依存 | 摂取への渇望・探索行動 | (身体依存の有無にかかわらず生じる) |
離脱症状は血中アルコール濃度が下がったときに出る(飲むのをやめた・減らした後のほか、毎日飲んでいる人でも飲酒の間があいた翌朝など)。酔っている最中(泥酔時)には出ない。禁酒の試みがなく、受診したその時点で泥酔している事例では、現時点で観察される症状に離脱症状は入らない(59A013)。一方、毎日飲んでいる人でも「翌朝の発汗が迎え酒でおさまる」なら離脱症状(52B040)。事例の「時点」を必ず確認する。
耐性は「少ない量で酔う」ではなく「多くの量が必要になる」。アルコールははっきり耐性を生じる物質。
| 用語 | 内容 | 見分けの手がかり |
|---|---|---|
| 否認(denial) | 飲酒の問題そのものを認めない心理的防衛 | 「自分は病気ではない」「問題はもう起こさないから大丈夫」 |
| 両価性(アンビバレンス) | やめたい気持ちと飲みたい(やめられない)気持ちが同時にある | 「やめなければと分かるが、うまく飲みたい気持ちもある」「やめたいが、つい飲んでしまう」 |
| 共依存 | 家族側に生じる関係の問題。患者の世話・後始末で飲酒を支えてしまう | 家族の行動の話であって、患者本人の心理状態ではない |
問題を認めていない=否認、認めているが迷っている=両価性、家族の巻き込まれ=共依存(イネイブリング)。
長期大量飲酒者が飲酒を中断・減量したとき、血中アルコール濃度の低下に伴って生じる(濃度の上昇で起こるのではない)。
| 時期(飲酒停止後) | 病型 | 主な症状 |
|---|---|---|
| 数時間〜(早期) | 早期離脱症候群(小離脱) | 手指振戦・発汗・不安・いらいら・不眠・頻脈など自律神経症状。迎え酒でおさまる |
| おおむね6〜48時間 | 離脱けいれん(けいれん発作) | 全身性の強直間代発作 |
| 2〜4日(72〜96時間ごろに多い) | 振戦せん妄(後期離脱症候群・大離脱) | 意識障害・見当識障害・幻視(小動物幻視)・精神運動興奮・粗大な全身振戦・発熱・発汗 |
振戦せん妄で「見当識が保たれる」「生命への危険は低い」「24時間以内に多い」は誤り。
羽ばたき振戦は振戦せん妄ではなく肝性脳症(1-3)の所見。
解離・観念奔逸(躁状態)・強迫行為・思考途絶(統合失調症)は離脱症状ではない。
事例で「朝、汗や震えが出て、迎え酒で落ち着く」と語られたら=離脱症状(身体依存)。「酒に強くなった」は耐性、「減らさないといけない」は問題認識、「二日酔いで行事に行けなかった」は飲酒による生活障害で、どれも離脱症状ではない。
| 合併症 | 原因 | 症状・ポイント |
|---|---|---|
| Wernicke脳症(ウェルニッケ脳症) | ビタミンB1(チアミン)欠乏 | 急性期の三徴=眼球運動障害・運動失調(失調性歩行)・意識障害。治療・予防はビタミンB1の投与(ビタミンC・Dではない) |
| Korsakoff症候群(コルサコフ症候群) | Wernicke脳症の後遺症として残る | 記銘力障害(前向性健忘)・逆向性健忘・作話・見当識障害。アルコールに関連する精神障害で「健忘」と結びつく代表 |
| 肝性脳症 | アルコール性肝硬変などの肝不全(アンモニアの蓄積) | 意識障害・失見当識・気分の変動・羽ばたき振戦(asterixis) |
| アルコール幻覚症 | 長期飲酒 | 幻聴が主体(意識は清明)。治療は抗精神病薬 |
| ペラグラ脳症 | ナイアシン欠乏(栄養障害) | アルコール依存症に合併しうる |
| アルコール性肝障害 | 積算飲酒量が多いほど発症しやすい | 脂肪肝は無症状のことが多い。肝硬変は断酒しても組織は正常化しない(肝機能・予後は改善する) |
| 抑うつ・自殺 | — | 抑うつの併存が多い。アルコール依存症は自殺のリスクを高める |
| 胎児性アルコール症候群 | 妊娠中の飲酒 | 胎児の発育・中枢神経の障害 |
Cotard症候群(虚無妄想)は重症うつ病などに関連し、アルコール依存症との関連は少ない。
アルコール依存症(肝硬変)の事例で、失見当識+気分変動+羽ばたき振戦がそろえば肝性脳症。ただし羽ばたき振戦は肝性脳症だけの所見ではなく、尿毒症性脳症など他の代謝性脳症でもみられるので、基礎疾患(肝か腎か)で区別する。進行麻痺(神経梅毒)、正常圧水頭症(歩行障害・認知症・尿失禁)、Cushing症候群とも取り違えない。
依存症にはパーソナリティ障害が併存することがある。国試では事例の行動から型を当てさせる。
| 型 | 特徴 |
|---|---|
| 反社会性 | 小児期からの暴力・規則違反、繰り返す逮捕・服役、他者への威圧、指摘されても問題と感じない(罪悪感・共感の欠如) |
| 境界性 | 感情の不安定・見捨てられ不安・自傷 |
| 自己愛性 | 誇大性・賞賛を求める・特権意識 |
| 回避性 | 拒絶への過敏・対人場面の回避 |
| 強迫性 | 完全主義・秩序へのこだわり |
治療の中心は心理社会的治療(心理教育・動機づけ・集団療法・自助グループ)と断酒の継続。薬は補助。身体合併症の治療は依存症の治療と並行して行う(依存症が改善するまで待たない)。診断は問診と診断基準(ICD・DSM)で行い、脳波検査は必須ではない。
| 病状・目的 | 用いるもの |
|---|---|
| 離脱症状・振戦せん妄の予防と治療 | ベンゾジアゼピン系薬(有効) |
| Wernicke脳症 | ビタミンB1(チアミン) |
| アルコール幻覚症 | 抗精神病薬 |
| 断酒の維持(補助) | 抗酒薬(シアナミド・ジスルフィラム):飲酒すると不快な反応が出て飲酒への嫌悪を生む。離脱症状・不眠・不安・幻覚には効かない。離脱期には使わない |
| 再飲酒の予防 | 断酒会・AA(自助グループ) |
「抗酒薬が治療の中心」は誤り(補助手段)。「振戦せん妄に抗酒薬」も誤り。
人格変化に修正型電気けいれん療法、離脱症状にベンゾジアゼピンは無効、も誤り。
| 方法 | 内容 |
|---|---|
| 心理教育(酒害教育) | 依存症という病気・飲酒の害を本人と家族に伝える。両者に有効 |
| 動機づけ面接(MI) | 両価性を扱い、本人の中の変わりたい気持ちを引き出す |
| 認知行動療法(CBT) | 飲酒の引き金・考え方のくせ・対処技能を扱う。再発予防 |
| 集団療法 | 断酒継続に有効。院内の集団プログラム・ミーティング |
| 自助グループ | AA(Alcoholics Anonymous)・断酒会。家族にはアラノン(Al-Anon)などの家族の自助グループ |
| CRAFT(Community Reinforcement and Family Training) | 家族への支援プログラム。家族の関わり方を変え、本人の治療につなげる |
| SMARPP | 覚醒剤など薬物依存の再発予防プログラム(認知行動療法ベース) |
リアリティオリエンテーション(ROT)は認知症の見当識障害へのアプローチで、依存症の治療ではない。催眠療法・自律訓練法・来談者中心療法も断酒継続の標準的治療ではない。
疾患と治療の組合せ:アルコール依存症=AA・断酒会/覚醒剤依存症=SMARPP/タバコ(ニコチン)依存症=ニコチン置換療法/Wernicke脳症=ビタミンB1/認知症=コリンエステラーゼ阻害薬。
| 段階 | 内容 | 例 |
|---|---|---|
| 一次予防 | 発症の予防 | 中学・高校でのアルコール教育、未成年が酒を入手しにくい環境づくり |
| 二次予防 | 早期発見・早期介入 | 受診していない依存症者の早期発見 |
| 三次予防 | 治療・再発予防・社会復帰 | 入院治療、断酒会・AAへの参加の推奨 |
学校でのアルコール教育は一次予防(三次予防ではない)。自助グループへの参加推奨は三次予防。
| 物質 | 身体依存・離脱症状 |
|---|---|
| アルコール | 強い。けいれん発作・振戦せん妄(生命の危険) |
| ベンゾジアゼピン系薬 | 身体依存を形成し、重篤な離脱症状(不安・不眠・振戦・せん妄・けいれん)。常用量でも長期使用で依存(常用量依存)。中高年にもみられる |
| モルヒネ・ヘロイン(オピオイド) | 身体依存を生じ、離脱症状は重篤(発汗・嘔吐・下痢・筋肉痛など) |
| 覚醒剤・コカイン | 精神依存が中心。離脱時は抑うつ・疲労・過眠などで、身体的に重篤な離脱は起こりにくい。覚醒剤は幻覚妄想(覚醒剤精神病)を起こしうる |
| 大麻 | 離脱症状は比較的軽い |
眠気覚ましの栄養ドリンク・コーヒーの多量摂取で、不眠・いらだちが生じる。精神病症状がなければ、初期に行うのは原因(カフェイン摂取)の減量。抗精神病薬・精神分析療法・集団療法の適応ではない。