第1章|依存症の症状・合併症・治療

依存症 第1章

1-1 依存の基本概念と症状

物質(アルコール・薬物)や行動を、不利益が分かっていてもやめられなくなった状態が依存症。物質によるものを物質使用障害(精神作用物質使用による精神障害)、ギャンブルなど行動によるものを行動嗜癖(ギャンブル障害など)と呼んで分ける。医薬品(処方薬)による依存も含まれる(オピオイド・ベンゾジアゼピン系など)。症状として「幻覚が必ず出る」わけではない。

用語意味アルコールでの現れ方(例)
耐性(tolerance)同じ量では効かなくなり、効果を得るのに必要な量が増える「昔より酒に強くなった」「酔うまでの量が増えた」「徐々に飲酒量が増えた」
渇望(クレービング)摂取したいという強い欲求酒が切れると深夜でも買いに行く
抑制喪失(コントロール喪失)量・時間を自分で調節できない減らそうとしても飲み始めると深酒になる
飲酒中心性生活の中心が飲酒になる仕事・家庭より飲酒が優先される
負の結果があっても続ける健康・仕事・家族の不利益が生じても使用が止まらない肝機能障害を指摘されても、欠勤が続いても飲む
身体依存中断・減量で離脱症状(退薬症候)が出る状態朝の発汗・手の震えが迎え酒でおさまる(不快が消えることが飲酒をさらに強める)
精神依存摂取への渇望・探索行動(身体依存の有無にかかわらず生じる)

離脱症状は血中アルコール濃度が下がったときに出る(飲むのをやめた・減らした後のほか、毎日飲んでいる人でも飲酒の間があいた翌朝など)。酔っている最中(泥酔時)には出ない。禁酒の試みがなく、受診したその時点で泥酔している事例では、現時点で観察される症状に離脱症状は入らない(59A013)。一方、毎日飲んでいる人でも「翌朝の発汗が迎え酒でおさまる」なら離脱症状(52B040)。事例の「時点」を必ず確認する。
耐性は「少ない量で酔う」ではなく「多くの量が必要になる」。アルコールははっきり耐性を生じる物質。

依存症者の心理(国試頻出の3語)

用語内容見分けの手がかり
否認(denial)飲酒の問題そのものを認めない心理的防衛「自分は病気ではない」「問題はもう起こさないから大丈夫」
両価性(アンビバレンス)やめたい気持ちと飲みたい(やめられない)気持ちが同時にある「やめなければと分かるが、うまく飲みたい気持ちもある」「やめたいが、つい飲んでしまう」
共依存家族側に生じる関係の問題。患者の世話・後始末で飲酒を支えてしまう家族の行動の話であって、患者本人の心理状態ではない

問題を認めていない=否認、認めているが迷っている=両価性、家族の巻き込まれ=共依存(イネイブリング)。

1-2 アルコール離脱症状と振戦せん妄

長期大量飲酒者が飲酒を中断・減量したとき、血中アルコール濃度の低下に伴って生じる(濃度の上昇で起こるのではない)。

時期(飲酒停止後)病型主な症状
数時間〜(早期)早期離脱症候群(小離脱)手指振戦・発汗・不安・いらいら・不眠・頻脈など自律神経症状。迎え酒でおさまる
おおむね6〜48時間離脱けいれん(けいれん発作)全身性の強直間代発作
2〜4日(72〜96時間ごろに多い)振戦せん妄(後期離脱症候群・大離脱)意識障害・見当識障害・幻視(小動物幻視)・精神運動興奮・粗大な全身振戦・発熱・発汗
  • 振戦せん妄は生命の危険がある重篤な状態。治療はベンゾジアゼピン系薬(離脱症状の予防・治療の第一選択)。
  • Liepmann現象:振戦せん妄で、閉眼させ眼瞼を軽く圧迫すると幻視が誘発される。
  • 離脱症状(けいれん発作・振戦せん妄)と区別するもの:病的酩酊・複雑酩酊は飲酒中(急性中毒)の異常酩酊、Wernicke脳症はビタミンB1欠乏による合併症で、いずれも離脱症候群ではない。

振戦せん妄で「見当識が保たれる」「生命への危険は低い」「24時間以内に多い」は誤り。
羽ばたき振戦は振戦せん妄ではなく肝性脳症(1-3)の所見。
解離・観念奔逸(躁状態)・強迫行為・思考途絶(統合失調症)は離脱症状ではない。

事例で「朝、汗や震えが出て、迎え酒で落ち着く」と語られたら=離脱症状(身体依存)。「酒に強くなった」は耐性、「減らさないといけない」は問題認識、「二日酔いで行事に行けなかった」は飲酒による生活障害で、どれも離脱症状ではない。

1-3 アルコールによる合併症

合併症原因症状・ポイント
Wernicke脳症(ウェルニッケ脳症)ビタミンB1(チアミン)欠乏急性期の三徴=眼球運動障害・運動失調(失調性歩行)・意識障害。治療・予防はビタミンB1の投与(ビタミンC・Dではない)
Korsakoff症候群(コルサコフ症候群)Wernicke脳症の後遺症として残る記銘力障害(前向性健忘)・逆向性健忘・作話・見当識障害。アルコールに関連する精神障害で「健忘」と結びつく代表
肝性脳症アルコール性肝硬変などの肝不全(アンモニアの蓄積)意識障害・失見当識・気分の変動・羽ばたき振戦(asterixis)
アルコール幻覚症長期飲酒幻聴が主体(意識は清明)。治療は抗精神病薬
ペラグラ脳症ナイアシン欠乏(栄養障害)アルコール依存症に合併しうる
アルコール性肝障害積算飲酒量が多いほど発症しやすい脂肪肝は無症状のことが多い。肝硬変は断酒しても組織は正常化しない(肝機能・予後は改善する)
抑うつ・自殺—抑うつの併存が多い。アルコール依存症は自殺のリスクを高める
胎児性アルコール症候群妊娠中の飲酒胎児の発育・中枢神経の障害

Cotard症候群(虚無妄想)は重症うつ病などに関連し、アルコール依存症との関連は少ない。
アルコール依存症(肝硬変)の事例で、失見当識+気分変動+羽ばたき振戦がそろえば肝性脳症。ただし羽ばたき振戦は肝性脳症だけの所見ではなく、尿毒症性脳症など他の代謝性脳症でもみられるので、基礎疾患(肝か腎か)で区別する。進行麻痺(神経梅毒)、正常圧水頭症(歩行障害・認知症・尿失禁)、Cushing症候群とも取り違えない。

パーソナリティ障害の併存

依存症にはパーソナリティ障害が併存することがある。国試では事例の行動から型を当てさせる。

型特徴
反社会性小児期からの暴力・規則違反、繰り返す逮捕・服役、他者への威圧、指摘されても問題と感じない(罪悪感・共感の欠如)
境界性感情の不安定・見捨てられ不安・自傷
自己愛性誇大性・賞賛を求める・特権意識
回避性拒絶への過敏・対人場面の回避
強迫性完全主義・秩序へのこだわり

1-4 依存症の治療

治療の中心は心理社会的治療(心理教育・動機づけ・集団療法・自助グループ)と断酒の継続。薬は補助。身体合併症の治療は依存症の治療と並行して行う(依存症が改善するまで待たない)。診断は問診と診断基準(ICD・DSM)で行い、脳波検査は必須ではない。

薬物療法:病状と薬の組合せ

病状・目的用いるもの
離脱症状・振戦せん妄の予防と治療ベンゾジアゼピン系薬(有効)
Wernicke脳症ビタミンB1(チアミン)
アルコール幻覚症抗精神病薬
断酒の維持(補助)抗酒薬(シアナミド・ジスルフィラム):飲酒すると不快な反応が出て飲酒への嫌悪を生む。離脱症状・不眠・不安・幻覚には効かない。離脱期には使わない
再飲酒の予防断酒会・AA(自助グループ)

「抗酒薬が治療の中心」は誤り(補助手段)。「振戦せん妄に抗酒薬」も誤り。
人格変化に修正型電気けいれん療法、離脱症状にベンゾジアゼピンは無効、も誤り。

心理社会的治療

方法内容
心理教育(酒害教育)依存症という病気・飲酒の害を本人と家族に伝える。両者に有効
動機づけ面接(MI)両価性を扱い、本人の中の変わりたい気持ちを引き出す
認知行動療法(CBT)飲酒の引き金・考え方のくせ・対処技能を扱う。再発予防
集団療法断酒継続に有効。院内の集団プログラム・ミーティング
自助グループAA(Alcoholics Anonymous)・断酒会。家族にはアラノン(Al-Anon)などの家族の自助グループ
CRAFT(Community Reinforcement and Family Training)家族への支援プログラム。家族の関わり方を変え、本人の治療につなげる
SMARPP覚醒剤など薬物依存の再発予防プログラム(認知行動療法ベース)

リアリティオリエンテーション(ROT)は認知症の見当識障害へのアプローチで、依存症の治療ではない。催眠療法・自律訓練法・来談者中心療法も断酒継続の標準的治療ではない。

疾患と治療の組合せ:アルコール依存症=AA・断酒会/覚醒剤依存症=SMARPP/タバコ(ニコチン)依存症=ニコチン置換療法/Wernicke脳症=ビタミンB1/認知症=コリンエステラーゼ阻害薬。

1-5 疫学・予防と、アルコール以外の依存

わが国のアルコール関連問題

  • 成人の飲酒者の割合は男性が女性より多い。
  • 女性のアルコール依存症・問題飲酒は増加傾向。
  • アルコール依存症は自殺のリスクを高める。妊娠中の飲酒は胎児性アルコール症候群の危険因子。

予防の3段階

段階内容例
一次予防発症の予防中学・高校でのアルコール教育、未成年が酒を入手しにくい環境づくり
二次予防早期発見・早期介入受診していない依存症者の早期発見
三次予防治療・再発予防・社会復帰入院治療、断酒会・AAへの参加の推奨

学校でのアルコール教育は一次予防(三次予防ではない)。自助グループへの参加推奨は三次予防。

物質ごとの離脱症状の重さ

物質身体依存・離脱症状
アルコール強い。けいれん発作・振戦せん妄(生命の危険)
ベンゾジアゼピン系薬身体依存を形成し、重篤な離脱症状(不安・不眠・振戦・せん妄・けいれん)。常用量でも長期使用で依存(常用量依存)。中高年にもみられる
モルヒネ・ヘロイン(オピオイド)身体依存を生じ、離脱症状は重篤(発汗・嘔吐・下痢・筋肉痛など)
覚醒剤・コカイン精神依存が中心。離脱時は抑うつ・疲労・過眠などで、身体的に重篤な離脱は起こりにくい。覚醒剤は幻覚妄想(覚醒剤精神病)を起こしうる
大麻離脱症状は比較的軽い

カフェイン

眠気覚ましの栄養ドリンク・コーヒーの多量摂取で、不眠・いらだちが生じる。精神病症状がなければ、初期に行うのは原因(カフェイン摂取)の減量。抗精神病薬・精神分析療法・集団療法の適応ではない。

ギャンブル障害(病的賭博)

  • 男性に多い。反復性で、本人の利益を損ない、統制できない衝動に関連する。
  • アルコール・薬物依存を合併しやすい。生活上のストレスは衝動の誘因になる。