第2章|依存症の作業療法

依存症 第2章

2-1 回復の段階と作業療法の目標

作業療法は離脱症状が落ち着いてから開始する(離脱期は医学的管理が優先)。開始後は段階に応じて目標を変える。国試は「この時期に最も優先するのは何か」を問う。

段階状態作業療法の目標・内容
離脱期振戦・発汗・けいれん・振戦せん妄医学的管理。作業療法はまだ始めない
離脱直後(離脱症状の消退直後・振戦せん妄の消失後)長期飲酒による栄養障害・筋力低下・全身の消耗基礎体力の回復・維持、身体状態の安定、生活リズムの立て直し。軽い運動・軽作業から
回復初期(身体が落ち着いた後)否認・両価性が残る酒害についての心理教育(酒害教育と並行)、治療への動機づけ、支持的な関係づくり、集団の中での仲間意識
回復中期〜退院準備断酒の意思が固まりつつあるストレス対処技能、対人技能(SST)、家族関係の調整、自助グループへのつなぎ、退院後の生活の助言
地域・維持期断酒の継続自助グループ(AA・断酒会)、依存症専門デイケア、就労・生活の再建

離脱直後に「最も優先」と問われたら基礎体力の回復(体力づくり)。内省・動機づけ・仲間づくり・家族関係・対人技能・ストレス対処・復職・生活設計は、いずれも身体が安定した後の課題。

「最も優先」ではなく「適切か」を問う問題では、心理教育・仲間意識を育てる・自助グループへの参加を促す・家族同伴の心理教育・退院後の生活の助言は、離脱が落ち着いた後の時期としていずれも適切。設問が「最優先」か「適切/適切でない」かを読み分ける。

2-2 時期別の作業療法評価

時期・目的最も重視する評価後回しになる評価
離脱後初期(亜急性期):アルコール・薬物とも身体症状(離脱症状の残存・遷延、自律神経症状)と基礎体力。安全に活動できる身体かを確かめる作業能力・生活リズム・対処能力・対人関係・断酒の意志・復職意欲・問題解決能力
回復を目的とした評価(自ら治療を求めている人など)自己評価(自己認識・自己効力感)。依存症者は自己評価が低く、回復の核になる見当識(Wernicke脳症などがなければ優先しない)・金銭管理
  • 作業療法開始時には退薬症候群(離脱症状)が遷延していないかを把握しておく。
  • 評価の場面では、否認の強さ(問題を認めているか)、両価性、家族関係、生活リズムなども段階に応じて見る。

事例が「離脱直後」「離脱症状が落ち着いた後」「離脱後初期」で、「最も重要」「最も優先」を問われたら、評価なら基礎体力・身体症状(57B014・59B040)、作業療法の目標・目的・優先することなら基礎体力の回復(体力づくり)(52A044・53B044・58A017)。評価でも支援でも答えは同じ側にある。一方、同じ時期でも「適切なのはどれか/適切でないのはどれか」の形で関わり方を問う問題では、酒害の心理教育(51A017)や、家族同伴の心理教育・集団内で仲間意識を育てる・自助グループへの参加を促す(50B015)も適切な側に入り、不適切なのはプログラムでの頑張りを促すこと(50B015)。分かれ目は評価か支援かではなく、「最も優先」か「適切か」の問い方(2-1)。
評価の問題で時期が書かれず「回復を目的とした評価」と問われ、本人がすでに自分の問題を認めて受診しているなら自己評価。時期の記述で答えが変わる。

2-3 否認・両価性への関わりと動機づけ

回復初期に否認へ正面から直面化しない。「病気ではない」と言う人に、飲酒をやめるよう繰り返し指導する・問題を受け入れるよう迫る・意志の弱さを指摘する、は抵抗を強め治療関係を壊す。

本人の状態適切な関わり不適切な関わり(例)
否認がある(「自分は病気ではない」)心理教育で依存症の理解を促す。受容的・共感的に関わる飲酒しないよう繰り返し指導、問題を認めさせる、初期からAAを勧める、高強度の運動
両価性がある(やめたいが飲みたい・迷っている)断酒について迷っている気持ちそのものを面接で取り上げる(動機づけ面接)作業療法の必要性を説く、身体の害を突きつける、家族関係から話を始める、飲酒の必要性を認める
表面上は順調だが「もう大丈夫」と言う(否認・過信の可能性)支持的に接し、不安が出てきたら受け止める運動プログラムを増やす、さらに頑張るよう伝える、過去の飲酒問題に一切触れない

動機づけは本人の内側から。「離婚されないため」のような外からの圧力・恐怖を動機づけに使わない(脆く、断酒の維持につながりにくい)。

2-4 回復初期の関わりの注意

  • 頑張りを促さない・強化しない:依存症者は頑張りすぎる・完璧を求める傾向があり、過度な努力がストレスとなって再飲酒につながる。プログラムで張り切っている姿を「さらに頑張れ」と後押ししない。
  • 作業療法士への依存を容認しない:依存の対象が治療者に移るだけになる。
  • 回復初期には過剰な言動に振り回されない一貫した対応をとる。
  • 否認が強い時期は対人技能(SST)・協調行動よりも、まず酒害の理解(心理教育)。
  • 集団の場では同じ問題をもつ仲間との連帯感が支えになる。

「よく参加し、休まず運動している」事例は順調に見えるが、頑張りすぎ・否認の裏返しのことがある。正解は量を増やすことではなく、支持的に関わり不安を受け止めること。

薬物(覚醒剤など)依存の導入期

入院して間もない導入初期は症状の安定と治療関係づくりが目標。疾病についての学習・生活技能訓練・ピアサポーターとの交流・軽運動は導入期から行える。グループリーダーなど責任と負荷の大きい役割は導入初期には不適切(再燃のリスク)。

2-5 家族支援・自助グループ・再発予防

家族への支援

  • 家族も依存症を理解できるよう心理教育を行う(家族同伴の心理教育は適切)。
  • 共依存:家族が飲酒の後始末・言い訳・酒の調達をして飲酒を続けさせてしまう関係。こうして支えてしまう家族をイネイブラー(enabler)と呼ぶ。共依存・イネイブラーが典型的に問題となる疾患はアルコール依存症。
  • 家族の共依存に働きかけ、家族自身が健康になるよう支援する視点をもつ。
  • 患者に拒否的な家族にも、家族の自助グループ(アラノンなど)への参加を勧めてよい。
  • 家族に飲酒の監視役を頼まない(共依存を強める)。食事管理を妻に任せるなど、本人の自己管理を家族に肩代わりさせない。

自助グループと再発予防

項目要点
治療原則節酒ではなく断酒。「少しなら飲んでよい」は誤った助言
自助グループAA(Alcoholics Anonymous)・断酒会:当事者同士のグループ。再飲酒予防・断酒継続に有効。退院後に「少しなら大丈夫」と考えている人には参加を勧める
依存症専門デイケア退院後の断酒継続と生活の立て直しの場
再発予防の技能飲酒の引き金への気づき・ストレス対処(認知行動療法)

自助グループは「有効」で頻出。ただし離脱直後に「最も優先」と問われたら体力の回復が先(2-1)。否認が強い段階ではまず心理教育で、AAはある程度の動機づけができてから。