第1章|作業療法士の法と倫理

作業療法管理学・地域作業療法学 第1章

1-1 理学療法士及び作業療法士法

理学療法士及び作業療法士法(PT・OT法)は昭和40年(1965年)制定。作業療法士の定義・免許・業務・義務を定める身分法である。診療報酬(点数・単位)や1日の取扱い患者数はこの法律ではなく診療報酬の側で決まる。

項目規定の中身ひっかけ
作業療法の定義(第2条)身体又は精神に障害のある者に対し、主としてその応用的動作能力又は社会的適応能力の回復を図るため、手芸・工作その他の作業を行わせること「基本的動作能力の回復」は理学療法の定義。対象に「精神」が入るのは作業療法だけ
免許国家試験に合格した者に厚生労働大臣が与える。名簿に登録されて免許が効力をもつ「都道府県知事」「内閣総理大臣」は誤り。合格した日から業務はできない(登録が先)。再交付も国(厚生労働大臣)の事務で、都道府県知事ではない
欠格事由(相対的)罰金以上の刑/業務に関する犯罪・不正/心身の障害により業務を適正に行えない者/麻薬・大麻・あへんの中毒者該当すれば免許を与えないことがあり、免許後なら取消し・業務停止の対象
業務保健師助産師看護師法の規定にかかわらず、診療の補助として医師の指示の下に作業療法を行うことを業とできる医師の指示なしの独立開業は想定されていない
秘密を守る義務正当な理由がなく業務上知り得た人の秘密を漏らしてはならない。作業療法士でなくなった後(退職・免許返納後)も同様「免許返納後・退職後は解除」は誤り。正当な理由があれば伝えられる(無条件の禁止ではない)
名称の使用制限作業療法士でない者は作業療法士またはこれに紛らわしい名称を使ってはならない=名称独占。業務独占ではない(理学療法士・言語聴覚士も名称独占)

正しい選択肢になりやすい定番=「作業療法は社会的適応能力の回復を図るために行われる」「退職後も秘密を漏らしてはならない」「名称独占」「大麻中毒は取消し事由」。誤りの定番=業務独占・診療報酬の規定・1日の患者数の規定・都道府県知事から交付・合格日から業務可・昭和45年制定。

1-2 守秘義務と個人情報の取り扱い

医療の個人情報は本人の同意が原則。本人以外に伝える・外に出す・捨てるの3場面で問われる。

場面適切不適切
家族・見舞い客への説明本人の同意を得てから伝える本人の同意なく家族・見舞い客の病状問い合わせに答える(緊急時・法令上の例外を除く)
診療録の開示本人からの開示請求は所定の手続きで応じるのが原則親族に求められてその場で開示する/本人の請求を病院の裁量だけで断る
学会発表・事例報告本人の同意を得て、特定できない形に加工する病院長の同意だけで院外発表する
苦情医療相談窓口など所定の窓口で対応する—
電子カルテアクセスは業務上必要な範囲に限る(知る必要のある者だけ)。ID・パスワードは個人ごとID・パスワードを部署で共有(誰が見たか追跡できない)
廃棄患者情報の書類・メモはシュレッダーなど所定の方法でそのままゴミ箱へ。カルテ番号だけの書類も個人を特定できる情報なので一般ゴミにしない

事例報告・レポートの書き方(匿名化)

項目書き方の例
氏名書かない。「A氏」「本症例」など。イニシャルも氏名の一部なので避ける
年齢「50歳代前半」のように幅で示す
生年月日・現住所・電話書かない(生年月日を正確に書く・番地まで書くのは不可)
職業「会社員」「公務員」程度に一般化。勤務先の機関名まで書くと特定できる

「病院の許可を取ったから外部で発表してよい」「イニシャルにしたから匿名」はどちらも誤り。同意するのは患者本人、匿名化は特定できないところまで。

1-3 インフォームドコンセントと研究倫理

治療のインフォームドコンセント

  • 説明する内容=目的・方法・見込まれる効果・起こりうる合併症(軽微なものも含む)・選択し得る他の治療法。
  • 同意は文書で保存する。
  • 同意はいつでも撤回できる(撤回しても不利益を受けない)。
  • 意思決定能力が無い場合は代諾者(家族など)の同意で行う。「本人の同意は必須」は誤り。

精神科作業療法のインフォームドコンセント

  • 活動の内容・目的の説明は良好な患者−治療者関係を築く土台になる。
  • 作業種目を変えるときも同意を得る。
  • 医療保護入院は入院そのものに本人の同意が要らない制度であって、作業療法など個々の治療への同意を得る努力は免除されない。
  • 言語理解が困難なら絵・図・平易な言葉など伝え方を工夫する。誘導して同意を取るのは不可。
  • 精神症状が重いからといって「本人の同意より治療効果を優先」はしない。

臨床研究の倫理指針(人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針)

論点正しい理解
参加任意。参加しないことで不利益を受けない
中止参加中でもいつでも撤回できる
守秘研究終了後も続く
個人データ研究に関わる者に限って扱う。誰にでも開示はしない。第三者への提供は事前の同意など所定の手続きが要る(事後報告では足りない)
対象範囲死者に係る情報・試料も対象
侵襲穿刺・切開・薬物投与・放射線照射など身体や精神に傷害・負担を生じるもの

1-4 職場のハラスメント

パワーハラスメントの3要件=①優越的な関係を背景とした言動 ②業務上必要かつ相当な範囲を超える ③就業環境が害される。事業主には防止の措置義務がある。

論点正しい理解
対象者正規職員だけでなく非常勤・パート・派遣も対象
「職場」の範囲事業所内に限らない。出張先・取引先・業務での移動中なども職場
セクシュアルハラスメント性別を問わない。同性間も含む
方向部下から上司、同僚間でも成立しうる(集団の力・専門知識などの優越性)
ハラスメントに当たりうる当たらない(適正な業務指示・指導)
業務と関係のない雑用を指示する/人格を否定する言動/仲間外し能力に応じて業務量を調整する/無断欠勤を繰り返す職員への指導/守秘義務を守るよう実習生に指導する/育成のため現状より少し高い業務を任せる

実習生がハラスメントを受けたとき

  • まず養成校の実習担当教員に相談する(学校と施設の間に立てる窓口)。
  • 日時・言動など詳細を記録に残す。口頭だけにしない。
  • 原因を自分に求めない(責任は行為者にある)。必要なら相手と距離を置く。不快だと感じたことを隠し通す必要はない。

1-5 臨床実習(診療参加型実習・OSCE)

診療参加型臨床実習(クリニカル・クラークシップ)

論点正しい誤り
進め方見学 → 模倣 → 実施の段階「模倣→見学→実施」と順序を入れ替えたもの
監督実施は常に指導者の監督下最終的に指導者の監督なしで実施する
同意学生が診療に参加することに対象者または家族の同意が必要—
学ぶもの指導者から基本的態度・臨床技能・臨床思考を学ぶ一対一の師弟関係の構築が最優先
範囲個別も集団作業療法も含む。チームの一員として参加症例レポートの作成が必須(従来型実習の特徴)

OSCE(客観的臨床能力試験)

  • 目的は臨床技能・態度・コミュニケーションの到達度の評価。知識量の多さを測る試験ではない。
  • 筆記試験の代替ではなく補完。
  • 模擬患者には実施する内容(課題の設定)を事前に説明しておく。模擬患者への実施結果の提示・説明も省略しない。

実習生の個人情報の扱い

  • 患者の話を家族など外で話題にしない。レポートは匿名化(1-2)。
  • 指導者との情報共有はスタッフルームなど決められた場所で行う。訪問先(利用者宅)では情報共有をしない。
  • 患者を特定できる内容をメールで送らない。メモはシュレッダー。
  • 訪問先での写真撮影・会話の録音は必ず許可を得る。
  • 訪問リハビリテーションでも訓練後のバイタルサイン測定は必要。