高次脳機能障害は、脳損傷によって記憶・注意・遂行機能・言語・行為・認知・感情などの高次の精神機能が障害された状態である。運動麻痺が無くても生活や仕事が回らなくなる。
| 項目 | 押さえる内容 |
|---|---|
| 見え方 | 外見から分かりにくい(「見えない障害」)。周囲の理解が得られにくく、怠け・性格の問題と誤解されやすい |
| 性格・行動 | 前頭葉損傷を中心に易怒性・脱抑制・感情コントロール困難などの性格変化が起こる |
| 症状と部位 | 症状は損傷部位によって異なる(前頭葉→遂行機能・行動、右頭頂葉→半側空間無視、側頭葉内側→記憶 など) |
| 原因と年齢 | 60歳以上では脳血管障害が多い。若年者では外傷性脳損傷(交通事故・転落)が多い |
| 病識 | 本人が障害に気付きにくい(病識の低下)ことが多く、訓練・復職の妨げになる |
「外見で容易に判断できる」「性格の変化はみられない」「損傷部位によらず症状は一定」はいずれも誤り。高次脳機能障害の特徴はその逆である。
| 項目 | びまん性軸索損傷(DAI)の特徴 |
|---|---|
| 原因 | 交通事故・転落などの高エネルギー外傷。脳白質の広範な剪断損傷 |
| 経過 | 受傷直後からの意識障害が多い。認知障害は遷延しやすい(回復良好とはいえない) |
| 生活上の問題 | 社会的行動異常(易怒性・脱抑制・アパシーなど)が生活・就労で問題になりやすい |
| 合併 | 脳幹・小脳の損傷を伴えば運動失調も呈しうる。四肢・体幹の外傷の合併は多い |
| 症状 | 注意障害・記憶障害(新しいことを覚えられない)・遂行機能障害が目立つ。運動麻痺は無いこともある |
若い人の交通事故・転落+運動麻痺なし+「段取りが悪い・怒りっぽい・覚えられない」=外傷性脳損傷による高次脳機能障害の典型像。国試の事例の多くはこの形で出る。
前交通動脈瘤の破裂・クリッピング術後や塞栓術後には、前脳基底部の損傷で健忘症候群(新しい出来事・人の名前が覚えられない=前向性健忘、作話を伴うKorsakoff症候群様)が生じやすい。言語・身体機能は保たれることが多い。評価は記憶検査(WMS-Ⅲ・RBMTなど)と全般的認知機能のスクリーニング(MMSEなど)。
画像(CT・MRI)や損傷部位から症状を選ばせる問題が多い。右利き=左半球が優位半球として読む。
| 部位 | 主な高次脳機能障害 |
|---|---|
| 前頭葉(背外側) | 遂行機能障害・発動性低下(ボーッとしている、促されないと動かない)・保続 |
| 前頭葉(眼窩面) | 脱抑制・易怒性・社会的行動障害・モリア |
| 左前頭葉下部(Broca野) | Broca失語(運動性失語) |
| 前頭葉(運動野・運動前野) | 肢節運動失行 |
| 補足運動野・脳梁 | 拮抗失行(左右の手が逆の動き)・道具の強迫的使用(前頭葉内側) |
| 右頭頂葉(下頭頂小葉・側頭頭頂接合部) | 左半側空間無視・着衣失行・構成障害・病態失認 |
| 左頭頂葉(角回周辺) | Gerstmann症候群(失算・失書・手指失認・左右失認)・失読失書・観念失行・観念運動失行 |
| 頭頂葉(体性感覚連合野) | 触覚失認(損傷と反対側の手に生じる) |
| 両側頭頂後頭葉 | Bálint症候群(視覚失調・精神性注視麻痺・視覚性注意障害)。視覚失調は一側の頭頂葉後部の損傷でも生じうる |
| 後頭葉(視覚連合野)・後頭側頭葉 | 視覚失認・相貌失認(紡錘状回)・純粋失読 |
| 両側後頭葉(一次視覚野) | 皮質盲・Anton症状(見えていないのに見えているように振る舞う) |
| 側頭葉(上側頭回) | 聴覚失認・Wernicke失語(左) |
| 側頭葉内側(海馬)・視床・乳頭体・前脳基底部 | 記憶障害(健忘):同じことを何度も聞く、新しい道順を覚えられない |
ひっかけの定番:着衣失行は後頭葉ではなく頭頂葉、運動性失語は頭頂葉ではなく前頭葉、失読失書は前頭葉ではなく角回(頭頂葉)、聴覚失認は前頭葉ではなく側頭葉、左右失認は右半球ではなく左半球、顔の左側の髭の剃り残し(左半側空間無視)は後頭葉ではなく右頭頂葉、順序立てて実行できないのは後頭葉ではなく前頭葉。
画像問題の手順:①病変は左右どちらの半球か(画像の右が患者の左)→②前・頭頂・側頭・後頭のどこか→③右頭頂なら「左半側空間無視」、左頭頂(角回)なら「Gerstmann症候群(失算・左右失認など)」、左前頭なら「運動性失語」。
| 分類 | 保持する時間・内容 | 確かめ方の例 |
|---|---|---|
| 即時記憶 | 数秒〜数十秒 | 言われた数字をすぐ繰り返す(数唱・Digit Span) |
| 近時記憶 | 数分〜数日 | 「昨夜の夕飯のおかずは?」・数分後の単語の再生 |
| 遠隔記憶 | 数年〜数十年前 | 昔の職歴・歴史的出来事 |
| 作動記憶(ワーキングメモリー) | 情報を一時的に保持しながら操作する | 数字の逆唱・聞いた数字を小さい順に並べ替えて答える・暗算 |
| 手続き記憶 | 技能・手順(非陳述記憶) | 自転車の乗り方・楽器の演奏 |
| 展望記憶 | 未来の予定を覚えておく | 「3時に薬を飲む」を忘れずに実行する |
| 意味記憶 | 知識・概念 | 言葉の意味・一般常識 |
「数字を口頭で聞いて並べ替えて答える」は保持+操作なので作動記憶。そのまま繰り返すだけなら即時記憶。見当識障害・意味記憶障害・言語流暢性障害とは別物。
| 種類 | 障害されるもの | 対応の例 |
|---|---|---|
| 前向性健忘 | 発症(受傷)後の新しい出来事が覚えられない | メモリーノート・アラーム付き時計・リアリティオリエンテーション・展望記憶訓練 |
| 逆向性健忘 | 発症(受傷)前の記憶が思い出せない | アルバム療法(過去の写真・記録で記憶を再活性化) |
展望記憶訓練は「これからの予定」を扱う=前向性健忘向け。逆向性健忘(過去の記憶)と組み合わせるのは誤り。
| 種類 | できないこと | 検査の例 |
|---|---|---|
| 観念運動失行 | 口頭命令・模倣での慣習的動作・パントマイム(道具を持ったつもりの動作) | 「敬礼」「おいでおいで」の模倣、「歯を磨くまねをしてください」 |
| 観念失行 | 実際の道具の使用・一連の系列動作 | お茶を入れる、金槌で釘を打つ、紙を折って封筒に入れる |
| 肢節運動失行 | 手指の巧緻的な動作が拙劣(前頭葉) | ボタンかけ・つまみ動作 |
| 着衣失行 | 服の左右・裏表・袖の対応がわからない(右頭頂葉) | 更衣場面の観察 |
| 拮抗失行 | 一方の手の動きをもう一方の手が妨げる(脳梁) | 行為の観察 |
失行の総合検査はSPTA(標準高次動作性検査)。「物品の名前を答える」は呼称=言語の検査で、失行の検査ではない。
観念失行は「道具の一連の操作は可能」ではない(一連の操作ができないのが観念失行)。観念運動失行は検者が見せる「敬礼」の模倣ができない。
| 種類 | 特徴 |
|---|---|
| 統覚型視覚失認 | 形そのものがまとまらない。模写ができない |
| 連合型視覚失認 | 模写はできるのに何かわからない(形の知覚は保たれ、意味と結びつかない)。触る・音を聞くとわかる |
| 相貌失認 | よく知った人の顔がわからない。声を聞けば誰かわかる |
| 純粋失読 | 字が読めない。指でなぞると読める。書字は保たれやすい |
| 同時失認 | 個々の物は認識できるが、全体の状況がつかめない |
| 色彩失認 | 色の名前と色が結びつかない。同じ色を選ぶ(色の弁別)はできる |
視覚失認の検査はVPTA(標準高次視知覚検査)。視覚性物体失認の病巣は後頭葉〜後頭側頭葉で、前頭葉ではない。
「描き写せたのに『これは何?』に答えられない」=連合型視覚失認。観念失行・拮抗失行・相貌失認と取り違えない。
| 症状 | 内容 |
|---|---|
| 遂行機能障害(実行機能障害) | 目標設定・計画立案・実行・モニタリング・修正の障害。「指示されたことはできるが自分で段取りを考えられない」「片付けの段取りが悪い」「支度が整わず時間に遅れる」 |
| 発動性低下・アパシー | 意欲・自発性の低下。日中ボーッとしている、促されれば行う、自発話が少ない |
| 脱抑制 | 衝動を抑えられない。脈絡なく人に話しかける、職場でトラブル |
| 易怒性 | 些細なことで怒る。病識が乏しいことが多い |
| モリア | 多幸・ふざけ・冗談好き(前頭葉) |
| 注意障害 | 話の内容が急に変わる、作業がすぐそれる、見落とし・ミスが多い |
「遂行機能障害は計画立案が保たれる」は誤り。計画立案の障害が中核症状である。
「半側空間無視は視野欠損が原因」は誤り。左半側空間無視では皿の右側ではなく左側を残す。起き上がり・誘導も無視側(左)からは反応が悪く、右側からのほうが反応が良い。