第2章|高次脳機能障害の評価

高次脳機能障害 第2章

2-1 神経心理学的検査と対象症状の対応

「この検査は何を測るか」「この症状にはどの検査か」の対応は毎年のように問われる。略語と日本語名の両方で覚える。

対象検査(略語)日本語名・要点
遂行機能(前頭葉)BADS遂行機能障害症候群の行動評価。日常生活に近い課題で計画・問題解決を評価
FAB前頭葉機能検査(Frontal Assessment Battery)。6項目・18点のベッドサイド検査
WCSTウィスコンシンカード分類検査。概念の転換(柔軟性)・保続
注意TMT(Trail Making Test)A=数字を順に結ぶ(選択・持続)、B=数字と文字を交互に結ぶ(転換・分配)。処理速度・遂行機能も反映
かな拾いテスト文章を読みながら特定のかなを拾う(選択・分配性注意)。正答数が少なく見落としが多いと注意障害
CAT(標準注意検査法)注意の総合バッテリー(持続性・選択性・転換性・分配性)。数唱・抹消課題・上中下検査・PASATなど
意欲CAS(標準意欲評価法)・Apathy scale自発性・意欲の低下(アパシー)の評価
記憶RBMTリバーミード行動記憶検査。日常記憶(展望記憶を含む)
WMS-Ⅲ/WMS-Rウェクスラー記憶検査。記憶の総合的・精密評価
三宅式記銘力検査対語(有関係・無関係)を覚えて再生。言語性の近時記憶
RAVLTRey聴覚性言語学習検査。単語リストを繰り返し聞かせ再生・遅延再生=言語性記憶・近時記憶
Rey複雑図形検査(ROCFT)図形の模写と再生(視覚性記憶・構成)
半側空間無視BIT/CBSBIT=行動性無視検査(机上検査)、CBS=Catherine Bergego Scale(日常生活の観察)
失行SPTA標準高次動作性検査
視覚失認VPTA標準高次視知覚検査
失語SLTA・WAB標準失語症検査・WAB失語症検査
知能WAIS(Ⅲ・Ⅳ)・Kohs立方体組み合せテスト成人用知能検査。Kohsは非言語性の知能
全般的認知MMSE・HDS-Rスクリーニング(見当識・記憶・計算など)

TMT・CATは注意、ハノイの塔・WCSTは遂行機能で、記憶の検査ではない。近時記憶の検査を2つ選ぶならRAVLTと三宅式記銘力検査。言語性記憶を1つ選ぶならRAVLT(RBMTは日常記憶の総合検査で言語性に限らない)。Digit Span(数唱)は即時記憶・注意、Letter Cancellation(文字抹消)は注意・無視の検査。

WAIS-Ⅲの構成

言語性検査(7)動作性検査(7)
単語・類似・算数・数唱・知識・理解・語音整列絵画完成・符号・積木模様・行列推理・絵画配列・記号探し・組合せ

計14項目で言語性IQ・動作性IQ・全検査IQを出す。WAIS-Ⅳは言語理解・知覚推理・ワーキングメモリー・処理速度の4指標で表す。

2-2 症状から最初に選ぶ検査(事例問題)

事例文の「困りごと」を症状名に置き換え、その症状の検査を選ぶ。運動麻痺が無いこと、言語は保たれていることなどの否定情報で選択肢を消していく。

事例文の表現症状選ぶ検査
日中ボーッとしている・促されると行う・自発話が乏しい(右前頭葉背外側)遂行機能障害・発動性低下BADS
与えられた仕事はできるが自分で段取りを考えられない遂行機能障害BADS
会話の内容が急に変わる・段取りよく片付けられない遂行機能障害BADS
脱抑制で職場トラブル(両側前頭葉)、無視・記憶・視知覚は問題なし前頭葉機能障害BADS
支度が整わず時間に遅れる+事故後の出来事を忘れる遂行機能障害+記憶障害BADS+RBMT
担当者の名前・新しい出来事が覚えられない(前交通動脈瘤)記憶障害WMS-Ⅲ+MMSE
右を向いていることが多い・左への気付きが遅い左半側空間無視BIT
脈絡なく他者に話しかける前頭葉の抑制障害FAB
MMSEの図形模写(五角形)だけが崩れている視空間・構成の障害(無視の疑い)BITを優先

CBSは半側空間無視、CASは意欲、HDS-Rは認知症のスクリーニングで、段取りの悪さ(遂行機能)の評価ではない。会話が成立しているのにSLTA、麻痺も失行症状も無いのにSPTAを選ばない。MMSEの図形模写だけが崩れている事例では、ADL・IADLの観察評価であるAMPSより先に、無視の精査(BIT)を行う。

前頭葉の損傷+「段取り・計画・自発性・時間管理」の困りごと=BADS。これが高次脳の評価問題で最も多い正答。

2-3 BADSとFABの下位検査

BADS(遂行機能障害症候群の行動評価)の6下位検査

下位検査内容
規則変換カード検査途中で変わる規則に従ってカードに反応する(柔軟性)
行為計画検査透明な筒・ビーカー・水・針金などの道具を使い、手順を考えて中のコルクを取り出す問題解決課題
鍵探し検査野原に見立てた四角の中で、なくした鍵を探す道筋を系統的に描く
時間判断検査日常の出来事にかかる時間を推定する
動物園地図検査動物園の地図上で、規則を守って施設を回るルートを計画する
修正6要素検査複数の課題を時間内に規則どおり配分して行う

BADSには行動の質問表(DEX)も付く。総プロフィール得点が低いほど遂行機能障害が重い。上中下検査はBADSの下位検査ではない(注意の検査CATに含まれる課題)。

図版で「動物園の地図」が出たらBADS、ビーカー・筒・水などの道具セットの写真もBADS(行為計画検査)。

FAB(前頭葉機能検査)の6項目

項目内容みる機能
概念化(類似)「バナナとオレンジはどこが似ているか」抽象的思考
語の流暢性(語彙の流暢性)特定の音で始まる語を1分間にできるだけ多く言う思考の柔軟性・発動
運動系列Luriaの拳・手刀・手掌の系列運動プログラミング
葛藤指示検者と逆の反応をする干渉への抵抗
Go/No-Go合図によって反応する・しない抑制
把握行動検者の手を握らないよう指示環境への依存・抑制

各3点・18点満点。計算・書き取り(MMSE・HDS-R)、色の呼称(失語・視覚の検査)、左右判別(頭頂葉)はFABに含まれない。

2-4 注意障害の評価と検査結果の読み方

注意の種類内容生活での現れ
持続性注意一定時間注意を保つ作業が長続きしない、途中でミスが増える
選択性注意多くの刺激から必要なものを選ぶ周りの物音・人ですぐ気がそれる
転換性注意注意を切り替える別の作業に移れない、話が切り替わらない
分配性注意複数のことに同時に注意を配る2つのことを同時にできない
  • かな拾いテストで正答数が少なく見落としが多い、TMT-A・TMT-Bの所要時間が延長=注意障害。外傷性脳損傷後に最も多い症状の一つ
  • TMT-Bの延長は注意の転換・分配の低下を示し、遂行機能低下の手がかりにもなる
  • 注意の検査成績の低下だけで、モリア・アパシー・類推や抽象思考の障害とは判断しない
  • CATは下位検査ごとのプロフィールから、どの注意(持続・選択・転換・分配)が落ちているかを読む

数値の読み方は「どの検査が低いか」→「その検査が測る機能は何か」。TMT・かな拾い=注意、BADS=遂行機能、RBMT・三宅式=記憶、BIT=無視、WAIS=知能(言語性と動作性の差を見る)。

2-5 半側空間無視の評価(BIT・CBS・模写)

検査形式中身
BIT(行動性無視検査)机上検査通常検査(線分抹消・文字抹消・星印抹消・模写・線分二等分・描画)+行動検査(写真課題・電話・メニュー・時計・地図など)。通常検査146点満点(カットオフ131点)・行動検査81点満点(カットオフ68点)で、低いほど無視が重い
CBS(Catherine Bergego Scale)日常生活の行動観察整容(顔の左側を洗い残す・剃り残す)、食事(左側の食べ残し)、移動時に左側の人や物にぶつかる、左側を向くことの困難、左の手足を忘れる、など10項目

CBSは生活場面での観察。「模写で左側を書き忘れる」は机上検査(BIT)の内容。「左に身体が傾く」はpusher現象、「左右を間違える」は左右失認でCBSの項目ではない。髭剃りで顔が左を向いてしまうのも無視とは逆の動き。

検査結果・姿勢の読み方

  • 星印抹消などで右側だけ抹消され左側が残る=左半側空間無視
  • 車椅子や座位で頭部・視線が常に右を向く(頸部右回旋)・右に重心が偏る=左半側空間無視でよくみられる姿勢
  • 模写で左側の要素が一部でも描かれていれば、左方への探索は残っていると読む。完全に欠けていなければ「重度」とは言い切れない。模写の結果だけから記憶障害・理解力低下とは判断しない
  • MMSEで図形模写だけが失点 → 視空間認知・構成の問題を疑い、次はBITで精査