第3章|高次脳機能障害の作業療法

高次脳機能障害 第3章

3-1 障害と介入法の対応

「障害名—治療法」の組合せ問題が繰り返し出る。介入法の名前から対象の障害を即答できるようにする。

対象介入法中身
半側空間無視プリズム適応療法視野を右へずらすプリズム眼鏡をかけて目標へのリーチを繰り返す。外した後に注意・到達が左へ補正される
視覚走査法(視覚探索訓練)左端の手がかり(アンカー)を確認させ、左側を意識的・系統的に見て探す練習
注意障害APT(Attention Process Training)持続・選択・転換・分配の注意を段階的に訓練する(直接刺激法)
環境調整静かで刺激の少ない環境から開始
記憶障害間隔伸張法(間隔伸長法・spaced retrieval)思い出す間隔を少しずつ延ばしながら想起を繰り返す
PQRST法予習(Preview)・質問(Question)・精読(Read)・要約(State)・確認(Test)の順で文章を覚える
視覚イメージ法・ペグ法・物語作成法イメージや語呂・物語に結びつけて覚える記憶術(内的方略)
外的補助手段メモリーノート・手帳・カレンダー・アラーム付き時計・スマートフォン
誤りなし学習(errorless learning)最初から正しい反応だけを経験させ、誤りを覚え込ませない
リアリティオリエンテーション・アルバム療法見当識の補強(前向性健忘)・過去の写真での想起(逆向性健忘)
遂行機能障害自己教示法やるべき手順を自分に言い聞かせ(声に出す→内言化)行動を調整する
問題解決訓練・目標管理訓練(GMT)目標設定→計画→実行→確認の手順を身につける
工程リスト・チェックリスト手順を書き出して見える形にする(外的代償)
社会的行動障害行動観察・環境調整・周囲の理解を促す誘発パターンを把握し、家族・職場に症状を説明して対応をそろえる
失語遮断除去法保たれた言語様式を先に使い、障害された様式の反応を引き出す(言語訓練の技法)

入れ替えのひっかけ:間隔伸張法・PQRST法・視覚イメージ法・ペグ法は記憶(遂行機能・注意・無視ではない)、APTは注意(無視ではない)、自己教示法・問題解決訓練は遂行機能(無視ではない)、視覚走査法は無視(記憶ではない)、遮断除去法は失語。「記憶障害—自律訓練法(リラクセーションの技法)」「失行症—回想法(認知症の非薬物療法)」「純粋失読—認知行動療法」はいずれも誤った組合せ。ただし技法そのものが高次脳機能障害に使えないわけではなく、認知行動的なアプローチは怒りのコントロールなど社会的行動障害・情動面には用いられる。

3-2 半側空間無視の作業療法

介入要点
プリズム適応療法エビデンスのある代表的介入。BITが著明に低い左半側空間無視で第一に選ぶ
視覚走査法左側を系統的に探す習慣をつける。左端に目印を置く
頸部・体幹の左回旋頭部を無視側(左)へ回旋させた姿勢で塗り絵などの課題を行う
無視側への課題の配置正中から左側(無視側)へ向かう探索・リーチ課題(例:右から左への輪移動)
頸部筋への振動刺激行うのは無視側(左)の後頸部
環境の工夫右側からの余計な刺激を減らす(机上課題は右側を壁にするなど)。生活では左側に注意を促す声掛け・目印

「右側から声掛けする」「左から右へ輪移動」「左側に壁がくるように座る」は無視を強める方向の工夫で不適切。「視覚認知が改善してからADL訓練」も誤りで、ADL訓練は並行して行う。

迷ったら「注意を左(無視側)へ引き出す方向か」で判断する。右側を強調する設定・右側からの刺激は逆方向。

3-3 注意障害への関わりと動作指導

全般性注意障害では一度に処理できる量が少ない。刺激を減らし、量を絞り、一貫させるのが基本原則。

適切不適切
外乱が少ない・静かな環境から開始(人の少ない時間帯・廊下の端・整理された机上)複数人とすれ違う環境、ラジオを流しながらの訓練、集団でのレクリエーションから始める
一つの方法をシンプルに指導複数の方法を指導する
動作を一つずつのステップに分けて指導一連の動作を一度に口頭で指導する
見本・手添え・環境の手がかりを併用誤りを口頭指示だけで、何度も繰り返し修正する
慣れた課題の反復・(混乱の強い時期は)担当者と日課を固定新規課題を毎日与える、担当を複数で入れ替える
段階的に刺激・難易度を上げる不適切な言動に繰り返し注意する

担当者の固定は混乱の強い時期の対応。復職に向けた段階では、特定のスタッフへの依存を強める対応より、メモリーノートなど本人が自分で使える代償手段の習得を優先する。「関わり続けるスタッフを固定する」を復職支援の正答にしない。

片麻痺+注意障害の基本動作(車椅子駆動・移乗・寝返り・起き上がり・杖歩行)の問題は、ほぼ「外乱の少ない環境から開始」が正答の軸になる。

注意障害・感情コントロール障害・企図振戦などがある時期に包丁など刃物を使う調理訓練を始めるのは危険。まずは安全な課題で注意と手順を整える。

3-4 記憶障害への対応

原則:覚えさせるより、覚えなくて済む仕組み

  • 記憶の外的補助手段(メモリーノート・手帳・カレンダー・アラーム)を使い、使い方そのものを指導する
  • 日課・課題は毎日同じにして一貫させる(ルーティン化)。毎日違う課題、本人任せで日課を変えるのは混乱のもと
  • 誤りなし学習:試行錯誤させない。失敗を繰り返すと誤りの方が残る
  • 複数の学習課題を同時に行わない
  • 誤りの指摘はその場で行う(翌日指摘しても覚えていない)
  • 覚えるときは意味を考える・声に出す・視覚イメージを使うなど、深く多感覚で印象づける
  • 運動(バランストレーニングなど)は控える理由にならない。積極的に取り入れてよい

「備忘録は情報が多いので使わない」「視覚イメージは使わない」「何度も失敗させて修正を促す」「運動は疲労するので使わない」はすべて誤り。

記憶障害の型介入
前向性健忘メモリーノート・アラーム付き時計・リアリティオリエンテーション・展望記憶訓練・間隔伸張法
逆向性健忘アルバム療法(写真・記録で過去をたどる)

3-5 社会的行動障害・遂行機能障害への関わり

易怒性・脱抑制(病識が乏しい時期)

適切不適切
よく観察し、怒りが誘発される状況・パターンを把握する(行動分析)原因について自己洞察を促す・周囲への影響を書き出させる
誘発状況を避ける環境調整・予防的な関わり感情をコントロールするよう指導する
家族・職場など周囲の人に症状の理解を促す脳損傷との関係を理解するまで説明し続ける
落ち着いた対応・刺激を減らす怒り出したときに厳格に注意する・繰り返し叱る

器質的な易怒性に本人の内省・意志の力を求める選択肢は、病識が乏しい時期にはまず不正解。答えは「観察」「環境」「周囲の理解」の側にある。

遂行機能障害

  • 自己教示法:手順を自分に言い聞かせながら行う
  • 作業の工程リスト・チェックリストを作り、手順を見える形にする(注意がそれても戻れる)
  • 問題解決訓練・目標管理訓練で「目標→計画→実行→確認」を身につける
  • 時間の管理にはスケジュール表・アラームを組み合わせる

3-6 復職・運転・社会参加の支援

検査プロフィールから課題を選ぶ

復職練習は、検査で保たれている能力を使い、低い能力に頼らない課題から始める。

検査の傾向読み練習課題の方向
言語性IQが低く動作性IQは保たれる、記憶・遂行機能は保たれる言語処理が弱い書類の片付け・整理など視覚・動作中心の課題。電話受付・企画書・会議の要約は言語負荷が高い
RBMT・BADSが低く、TMTが延長記憶・遂行機能・注意の障害メモリーノートの活用指導。高度な判断・記憶・対人対応を要する職種(営業など)への復職をすぐには勧めない
BITが満点に近い半側空間無視は問題にならない無視以外の結果に目を向ける
  • 即時フィードバック:間違いはその場で伝える
  • 本人の希望職種と現在の能力が合わないときは、事務職への配置転換などを含めて職場と調整する
  • 練習は個別から始め、復職が近づけば集団・実際の職場に近い場面へ広げる

自動車運転と移動手段

  • 注意(TMT-Bの延長など)・記憶・知能の低下がある段階では、自分で運転しての外出訓練は行わない
  • 運転免許の返納を作業療法士が強制しない。運転の可否は神経心理学的評価・実車評価などを経て判断される
  • 通院・通所は中止せず、バスなど公共交通機関を使った外出訓練で移動手段を確保する

復職・社会参加の問題は「社会参加は続ける」+「安全で今の能力でできる手段に置き換える」の2つを満たす選択肢が正答になりやすい。