第2章|心疾患・代謝・腎疾患の作業療法

内部障害・心肺疾患 第2章

2-1 心不全の重症度分類と症状

重症度分類の見分け

分類対象根拠
NYHA分類心不全自覚症状(日常の身体活動での息切れ・疲労・動悸)でⅠ〜Ⅳ度。Ⅰ度=症状なし、Ⅱ度=日常の活動で症状が出る(軽度の制限)、Ⅲ度=日常より軽い活動で症状(高度の制限)、Ⅳ度=安静時にも症状
Killip分類急性心筋梗塞他覚所見(肺野のラ音・肺水腫・心原性ショック)
Forrester分類急性心不全・急性心筋梗塞血行動態(心係数と肺動脈楔入圧)
Fontaine分類末梢動脈疾患(閉塞性動脈硬化症)冷感・しびれ→間欠性跛行→安静時痛→潰瘍・壊疽
Hugh-Jones分類呼吸器疾患呼吸困難の程度(自覚)

「自覚症状で判断する心不全の重症度」=NYHA。Hugh-Jonesも自覚症状だが呼吸器の分類。

心不全の症状と所見

しくみ症状・所見
左心不全(肺うっ血)労作時呼吸困難・起座呼吸(臥位で苦しく、上体を起こすと楽)・夜間発作性呼吸困難・湿性ラ音
右心不全(体静脈うっ血)下腿浮腫・頸静脈怒張(頸静脈圧上昇)・肝腫大・体重増加
心拍出量低下(低灌流)四肢冷感・チアノーゼ・易疲労・尿量減少
  • うっ血性心不全の急性増悪では浮腫・四肢冷感・体重増加・頸静脈怒張がみられる。電解質は水分貯留や利尿薬の影響で低ナトリウム血症になりやすい。
  • 右心不全の直接の原因の代表は肺高血圧症(右室の後負荷が増える)。
  • LVEF(左室駆出率)が低いほど収縮機能が悪い。

増悪時は「体重増加」「頸静脈圧上昇」。減少・低下の形はひっかけ。

2-2 リハビリテーション場面の心電図

作業療法の場面で出る心電図は、訓練前後・発作時の比較で「何が変わったか」を読む形が多い。まずP波の有無、RR間隔の規則性、QRS幅、STの位置を順に見る。

所見・不整脈心電図の特徴作業療法での意味
心房細動P波が消失し基線が細かく揺れるf波、RR間隔が完全に不規則(絶対性不整脈)、QRS幅は正常高齢者に多い。動悸・息切れの訴え。心房内血栓による脳塞栓の原因 → 抗凝固薬を内服していることが多い
心房粗動のこぎり歯状のF波、2:1〜4:1伝導—
Ⅰ度房室ブロックすべてのP波にQRSが続くがPR(PQ)間隔が0.2秒を超えて延長リズムは整。単独では運動の制限因子になりにくい
WPW症候群PR短縮・デルタ(δ)波・QRS幅の拡大—
心室性期外収縮先行するP波がなく幅の広い変形したQRSが早期に出る単発は多い。頻発・連発(多形性・ショートラン)は中止の判断材料
上室性期外収縮早期に出る拍だがQRSは正常幅(P波の形が違う)—
心室頻拍幅の広いQRSが連続危険な不整脈 → 直ちに中止
心室細動QRSが判別できない不規則な波形意識消失・心停止 → 心肺蘇生とAED
ST低下ST部分が基線より下がる(目安は0.1 mV=1 mm以上の水平型・下降型)心筋虚血。訓練中・胸部不快感時に出れば狭心症を考え中止
ST上昇ST部分が基線より上がる急性心筋梗塞(胸痛・冷汗が20分以上続く像と合わせて)
異常Q波幅広く深いQ波心筋梗塞(発症後・陳旧性)に特徴的
  • 頻脈=心拍数100/分以上、徐脈=60/分未満。
  • 二段脈=正常拍と期外収縮が交互に出る。
  • AEDの電気ショックの適応は心室細動と無脈性心室頻拍。心静止・洞性頻脈・房室ブロックは適応ではない。
  • 右冠動脈の閉塞では房室ブロックが起こりやすい(洞結節・房室結節を栄養するため)。

虚血性心疾患の基本

  • 病態の中心は冠動脈硬化。
  • 狭心症:発作は数分程度、ニトログリセリン(舌下)で改善。不安定狭心症は心筋梗塞に移行しうる。負荷心電図ではST低下が典型。
  • 急性心筋梗塞:胸痛が30分前後以上持続。血液検査でトロポニン・CK・LD・白血球などが上昇する。クレアチニンは腎機能の指標で、心筋梗塞の診断項目ではない。
  • 糖尿病患者は痛みの乏しい心筋梗塞(無痛性)があり、「胸部不快感」だけのこともある。

「訓練中に胸部不快感+ST低下」は狭心症(心筋虚血)。心房細動はP波消失とRR不整で判断するので、STの変化とは別物。

2-3 運動強度の決め方・中止基準・運動負荷試験

Karvonen法

目標心拍数=(最大心拍数-安静時心拍数)×係数k+安静時心拍数 最大心拍数の推定は220-年齢。
例:70歳・安静時70/分・k=0.5 → 最大150 → (150-70)×0.5+70=110/分

  • 係数kは心疾患患者では低め(0.4〜0.6程度)を用いる。問題文で指定された値で計算する。
  • β遮断薬を服用中は心拍数の上昇が抑えられるため、心拍数を使う方法(Karvonen法・予測最大心拍数・安静時心拍数)は使えない → Borg指数(自覚的運動強度)で決める。

Borg指数(自覚的運動強度・RPE、6〜20)

数値きつさ心疾患・内部障害での扱い
11〜13楽である〜ややきつい運動・活動の目安
15きつい過負荷
17〜18かなりきつい高強度。心不全・CKDの生活指導には不適切

METs(代表的な目安)

1 MET=安静座位の酸素摂取量。運動制限は「何METsまで」の形で指示される。

およそのMETs活動の例
1〜2安静臥床・座位での食事・整容・座ってのテレビ
2〜3ゆっくりした歩行・屋内の掃除・炊事・シャワー
3〜4普通の速さの歩行(約3)・ペンキ塗り・やや速い歩行・入浴
4〜6階段を上がる・速歩(分速100 m前後以上)・庭仕事
6以上家具など重量物の運搬・ジョギング

METsの値は資料によって幅がある。試験では「明らかに軽い日常の家事(屋内の掃除など)」と「階段・速歩・重量物運搬」を分ければ解ける。3METs制限なら階段昇降・速歩は超える側。

急性心筋梗塞のステージアップ(次の段階へ進める)基準の考え方

心臓リハビリテーションのプログラムでは、各段階の負荷の後に次の項目がすべて満たされれば次の段階へ進む(研究班の基準の要旨)。

  • 胸痛・動悸・呼吸困難・強い疲労などの自覚症状が出ない
  • 心拍数が120/分を超えない(または安静時から40/分以上増えない)
  • 危険な不整脈が出ない(心室頻拍・心室細動など)
  • 心電図で明らかな虚血性ST低下(1 mm以上)や著明なST上昇がない
  • 収縮期血圧の上昇・低下が20 mmHg未満にとどまる

「収縮期血圧が10 mmHg上がった」は正常な反応で、進めてよい側。心拍数150/分・ST低下0.5 mV・動悸・心室細動はいずれも進められない側。

全身持久力トレーニングを始めてよい状態か

  • 行わない状態の代表:心室頻拍などの危険な不整脈、安静時の頻脈(例:140/分)、発熱(38℃台)、ショック状態の低血圧。
  • SpO₂が90%以上(例:94%)なら実施できる側。

心肺運動負荷試験(CPX)

  • マスクを着けてエルゴメーター・トレッドミルで負荷をかけ、呼気ガスを分析する。
  • 測るもの:酸素摂取量・二酸化炭素排出量・換気量(1回換気量・呼吸数)・心拍数・心電図・血圧・運動負荷量(ワット)。嫌気性代謝閾値(AT)や最高酸素摂取量を求め、運動処方に使う。
  • 肺活量は安静時のスパイロメトリーで測る静的指標で、CPXの測定項目ではない。

心臓リハビリテーションの効果

  • 運動耐容能の改善、心臓死・死亡率の減少、QOLの改善。
  • 梗塞範囲を小さくする・心室破裂を防ぐ効果は運動療法の効果ではない。

2-4 心不全の生活指導と退院支援

生活指導の正誤

場面適切な指導不適切な指導(誤答の形)
塩分1日6 g未満に制限—
水分重症例では制限(指示された量を守る)1日4 Lなど多量の飲水
自己モニタリング毎日の体重測定・下腿浮腫・息切れの増悪に注意し、あれば早めに受診—
入浴ぬるめ(38〜40℃程度)・半身浴(全身浴は水圧で静脈還流が増え心負荷が上がる)・短時間・脱衣所を暖める44℃など熱い湯・肩まで長く浸かる・食事の直後の入浴(食後はしばらくあける)
寒冷冬季は肌の露出を少なくし寒冷刺激を避ける(血圧上昇・心負荷を防ぐ)—
活動量指示された範囲で活動を続ける。Borg 11〜13程度安静臥床を指示する(廃用で悪化)・Borg 15〜18の活動
動作の工夫力を入れる時は息を吐く。床の掃除は長柄のモップなどで立位のまま息をこらえて重い物を持つ(Valsalva効果で血圧上昇)・しゃがんで床を拭く
息切れ時の姿勢座位・半座位(起座位・Fowler位)で休む背臥位をとる(肺うっ血が増して苦しくなる)

退院に向けた作業療法

  • 家事(炊事など)の動作訓練は必要に応じて心電図モニター下で行い、負荷を確かめる。
  • ADLの強度は心拍数の範囲やBorg 11〜13で示す。
  • 認知機能が低下した独居者などでは服薬・塩分・体重の自己管理が難しい → 介護保険の要介護認定の申請を勧める・サービス導入・家族や支援者との共有。
  • 心不全は増悪と入院を繰り返しやすいので、増悪の早期サイン(体重増加・浮腫・息切れ)に本人と周囲が気づけるようにすることが退院支援の中心。

心不全の退院指導で「Borg 15〜18」「安静臥床」「熱い湯」「息こらえ」「背臥位で休む」は誤り側。

2-5 糖尿病・慢性腎臓病・末梢動脈疾患

糖尿病の運動療法

項目正しい内容
種類中等度の有酸素運動が中心+低〜中強度のレジスタンス運動を併用
量1回20〜60分・週3〜5回、週150分以上が目安(週合計60分では足りない)
タイミング食後1時間ごろ(食後高血糖を抑え、低血糖も起こしにくい)
日常の工夫歩数計で活動量を見える化・階段を使うなど生活の中の活動を増やす
前提食事療法との併用が基本。インスリンが十分に補われていること(インスリン治療中でも運動は中止しない)
効果インスリン感受性の改善(抵抗性は低下)・血糖・血圧・脂質・心肺機能の改善

運動を行わない・控える代表:ケトアシドーシス(尿ケトン体陽性)、空腹時血糖が著しく高い状態、増殖性網膜症(強度を軽くする・血圧を上げる運動を避ける)。空腹時血糖が高いほど運動量を増やす、は誤り。

低血糖への備え

  • 自律神経(交感神経)症状:動悸・発汗(冷汗)・手の震え(振戦)・顔面蒼白・不安。
  • 中枢神経症状:集中力低下・異常行動・意識障害・けいれん。
  • 作業療法中は症状に気づいたら中止しブドウ糖などを補給する。口渇・皮膚の乾燥・深い呼吸は高血糖側(ケトアシドーシスでは深く速いKussmaul呼吸)。

糖尿病の合併症

  • 三大合併症:網膜症(失明の原因)・腎症・神経障害。定期評価は眼底・尿蛋白・足部感覚・アキレス腱反射。
  • 神経障害は下肢遠位の靴下型(手袋靴下型)感覚障害、腱反射は低下。足の傷・熱傷に気づきにくい → フットケア。
  • 糖尿病性腎症は透析導入の原因の第1位。

慢性腎臓病(CKD)・透析

  • CKD:蛋白尿などの腎障害の所見、またはGFR 60未満が3か月以上続く状態。進行すると腎性貧血(ヘモグロビン低下、エリスロポエチン産生低下)・高血圧・代謝性アシドーシス・高カリウム血症。
  • 生活指導:蛋白質のとりすぎを避ける(高蛋白食は勧めない)・減塩・体重管理。
  • 運動:低〜中強度の有酸素運動(歩行など)を日常に取り入れる。高負荷の筋力増強・Borg 17のような高強度運動は不適切。ADLが自立している人に家事をヘルパーに任せるよう勧めるのは活動量を減らすので不適切。
  • 透析患者は身体活動量の低下が生命予後を悪化させる。透析中の運動も行われる(禁忌ではない)。死因の第1位は心不全。
  • シャント側の上肢で血圧測定・採血・圧迫をしない。

閉塞性動脈硬化症・糖尿病による下肢切断の術後

  • 血流障害と感覚障害を合併しているため、術直後は断端の色調(蒼白・チアノーゼ・発赤)・創の状態を観察し、虚血・感染・壊死を早く見つける。
  • 拘縮・廃用予防に断端(股関節)の自動運動を早期から行う。
  • 温熱療法は行わない(循環障害と感覚障害で熱傷・組織障害の危険)。
  • 大腿切断では股関節の屈曲・外転拘縮が起こりやすい → 外転位に保持しない(伸展・内転方向を保つ)。
  • 感染を伴う血管原性の切断では、術直後のギプスソケットは創の観察ができず用いない。