第1章|神経の難病(ALS・多発性硬化症・Guillain-Barré症候群)

神経・筋難病 第1章

1-1 神経・筋難病の見分け方(病変部位・症状・経過)

神経・筋難病は「どこが壊れるか」で症状が決まる。上位運動ニューロン(中枢)なら痙縮、下位運動ニューロン・末梢神経・筋なら弛緩性の筋力低下と筋萎縮。感覚障害が出るのは感覚の通り道(中枢の白質・末梢神経)を侵す病気である。

疾患主な病変運動症状感覚障害経過決め手の所見
筋萎縮性側索硬化症(ALS)上位+下位運動ニューロン痙縮・腱反射亢進と筋萎縮・線維束攣縮が混在なし一方向に進行針筋電図の脱神経所見
多発性硬化症(MS)中枢神経(脳・脊髄・視神経)の白質の脱髄痙縮・運動失調あり再発と寛解視神経炎、Uhthoff徴候、有痛性強直性けいれん、MRIの脱髄巣
Guillain-Barré症候群(GBS)末梢神経(脱髄型・軸索型)弛緩性麻痺・腱反射低下〜消失あり急性発症→回復(単相性)髄液の蛋白細胞解離、神経伝導速度低下
慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(CIDP)末梢神経(慢性の脱髄)弛緩性麻痺あり慢性進行・再発伝導速度低下
脊髄小脳変性症(SCD)小脳・脳幹・脊髄運動失調(協調運動障害)基本なし緩徐に進行MRIで小脳・脳幹の萎縮
Duchenne型筋ジストロフィー(DMD)筋(ジストロフィン欠損)近位筋優位の筋力低下なし小児期から進行Gowers徴候、仮性肥大
多発性筋炎・皮膚筋炎筋の炎症近位筋優位の筋力低下なし増悪と寛解(治療に反応)血清CK上昇
重症筋無力症(MG)神経筋接合部易疲労性の筋力低下・眼瞼下垂なし日内変動(夕方に悪化)反復刺激で漸減(waning)

痙縮(spasticity)が出るのは中枢の病気:MSでは出るが、GBS・筋強直性ジストロフィー・多発性筋炎・腕神経叢麻痺(いずれも末梢か筋)では出ない。
感覚障害を伴うのはMS・CIDP・GBSなど。ALS・重症筋無力症・筋ジストロフィー(肢帯型を含む)は感覚が保たれる。
MSは中枢の脱髄、GBSは末梢の脱髄。「末梢神経の脱髄」はGBS側。

機能の経過(予後曲線)の読み分け

経過の形代表疾患
右下がりに一方向に低下し続ける(リハで低下が少し緩やかになるだけで回復はしない)ALSなどの進行性変性疾患
悪化と回復を繰り返しながら階段状に低下MS(再発寛解型)
急に低下し、その後リハで回復していく脳卒中、GBS(急性発症・単相性)

グラフ問題は「進行性か・再発寛解か・急性発症後に回復か」で考える。ALSにリハを行っても機能が元に戻るカーブにはならない。

遺伝との関係(代表例)

  • Huntington病:常染色体優性(顕性)遺伝で、ほぼ家族性。舞踏運動。
  • ALS・Parkinson病・多系統萎縮症:大半は孤発性。
  • MS:遺伝性疾患ではない(自己免疫性)。
  • 筋ジストロフィーの遺伝形式は2-3・2-5を参照。

1-2 筋萎縮性側索硬化症(ALS)の病態・検査・予後

ALSは上位運動ニューロン(錐体路)と下位運動ニューロン(脊髄前角細胞・脳幹運動核)の両方が変性する進行性の疾患。

障害所見
上位運動ニューロン障害痙縮、腱反射亢進、Babinski徴候などの錐体路徴候
下位運動ニューロン障害筋萎縮、筋力低下、線維束攣縮(fasciculation/線維束性収縮)
球麻痺構音障害、嚥下障害、舌の萎縮
呼吸筋麻痺呼吸不全 → 非侵襲的陽圧換気(NPPV)・気管切開下の人工呼吸器の選択

ALSの陰性徴候(出にくい症状):感覚障害・眼球運動障害・膀胱直腸障害・褥瘡。進行しても外眼筋(眼球運動)は比較的保たれる → 最後に残るコミュニケーションの入力手段になる。

検査

  • 診断に最も有用なのは針筋電図:線維束攣縮の電位・線維自発電位・陽性鋭波などの脱神経所見と、再支配による多相性・高振幅の電位。
  • 反復刺激試験の漸減(waning)は重症筋無力症、漸増(waxing)はLambert-Eaton症候群の所見。遠位潜時延長・伝導ブロックは脱髄性ニューロパチー寄りの所見でALSの典型ではない。
  • SPECT・頭部CT・体性感覚誘発電位はALSの診断の決め手にならない。

ALSにみられないもの(ひっかけの定番):筋固縮(Parkinson病)、痛覚脱失、測定異常(小脳)、筋の仮性肥大(DMD)、静止時振戦。「前角細胞は障害されない」「線維束攣縮はない」「針筋電図で多相波は出ない」も誤り。

予後

機能は進行性に低下し回復しない(1-1の経過図)。作業療法は残っている機能で今の生活を続けられるようにし、次の段階の手段を先回りして準備することが軸になる。

1-3 ALSの作業療法(ADL・コミュニケーション・福祉用具)

原則:その時点で残っている機能に合わせる

  • 移乗・トイレ動作が自立に近いのに歩行が困難 → ポータブルトイレで移動距離を減らし、トイレ動作の自立を保つ。
  • 胃瘻を造設した誤嚥性肺炎の後に常食で経口摂取を再開するのは不適切(嚥下機能は進行性に低下する)。
  • 移乗が自立している時期はエアマットの優先度は低い(ALSは褥瘡ができにくい)。
  • 上肢筋力が保たれているうちはチンコントロール(顎操作)の電動車椅子は要らない。手で操作できる手段が先。

コミュニケーション手段(進行に沿って)

残っている機能手段の例
発声・構音が使える会話。発声が残っている間は発声を使う
構音障害が重いが手指が使える筆談、文字盤(指さし)、携帯用会話補助装置・パソコン入力
手指が使えなくなった(MMT 0〜1)わずかに動く部位(頬・足・眉など)でスイッチを操作する意思伝達装置
四肢・球・呼吸筋が重度に麻痺/人工呼吸器を装着透明文字盤(介助者が視線を読み取る)、眼球運動センサースイッチ・視線入力装置

末期の入力手段として舌・口唇(球麻痺で動かない)、呼気(呼吸困難・人工呼吸器で使えない)、手指(四肢麻痺)は選べない。残るのは外眼筋(眼球運動)。
人工喉頭(声帯の代わりに音源を作る)、キーボードカバー(キー入力が前提)、音声メモICレコーダー(発声と手指操作が必要)は進行期のALSに合わない。

移乗:リフトの吊り具(スリング)

  • 頸部・体幹・四肢の筋力がほぼない(MMT 1程度)→ 頭部まで支える全身用(ハイバック型)スリング。
  • 頭部の支えがない型(脚分離型・ローバック型など)は、頭頸部を自分で保持できる人向け。

ALSの選択肢問題は「いま残っている機能は何か」を本文から拾い、その機能で使える手段を選ぶ。もう使えない機能を前提にした用具も、まだ要らない先の段階の用具も外す。

1-4 多発性硬化症(MS)の病態と症状

MSは中枢神経(脳・脊髄・視神経)の白質に脱髄巣が時間的・空間的に多発する自己免疫性の疾患。

項目正しい知識よく出る誤りの選択肢
性差女性に多い男性に多い
発症年齢若年成人(20〜40歳代が中心)50歳以上・60歳前後・70代以上に多い
地域・人種高緯度地域・白色人種に多い低緯度地域に多い、黄色人種に多い
病変中枢神経の白質の脱髄灰白質の病変、末梢神経の脱髄
経過再発と寛解を繰り返す、後遺障害を残しうる再発は少ない、後遺障害は稀、神経症状の進行は稀
原因自己免疫遺伝性疾患、免疫不全状態で発症しやすい
診断MRIで脱髄巣を検出—

代表的な症状

  • 視力低下(視神経炎):頻度が高い。視野障害も。
  • 運動麻痺と痙縮、運動失調、構音障害・嚥下障害、感覚障害、排尿障害。
  • 有痛性強直性けいれん(tonic spasm):MSに特徴的で、脊髄小脳変性症には通常みられない。痙縮・運動失調・構音障害・嚥下障害は両方に出うるので、両者の区別には使えない。
  • Uhthoff徴候(Uhthoff現象):体温上昇(入浴・発熱・運動・暑い環境)で症状が一時的に悪化する。「高体温で改善」は逆。
  • 易疲労性(MS fatigue):訴えが多い。作業療法の中心課題。

Phalenテストは手根管症候群の検査でMSとは無関係。

視神経脊髄炎(NMO)

視神経と脊髄に病変が強く出る自己免疫性疾患(抗アクアポリン4抗体)。MSと同じく再発と寛解を繰り返す。JCウイルス(進行性多巣性白質脳症)・レム睡眠行動異常・抗コリンエステラーゼ薬(重症筋無力症の治療)とは結びつかない。

1-5 多発性硬化症の作業療法(疲労・温度・作業活動の選び方)

温めない:Uhthoff徴候があるため、ホットパック・パラフィン浴・赤外線・超音波(温熱)などの温熱療法は避ける。痙縮・疼痛にはTENS(経皮的電気神経刺激)や寒冷・ストレッチのように体温を上げない手段を選ぶ。運動は涼しい室温(25℃以下が目安)で行う。

運動・訓練の負荷

症状適切不適切
疲労(MS fatigue)低〜中等度(Borg指数11〜13程度)、休憩を挟む、エネルギー節約Borg指数15(きつい)の強度
筋力低下疲労させない軽〜中等度の負荷1RMの反復、高負荷の漸増抵抗運動
運動失調重錘を負荷して動きを安定させて練習—
視力障害・視野欠損照明・コントラストなどの環境整備視覚での代償が前提のFrenkel体操(視力障害があると使いにくい)
痙縮TENS、寒冷、ストレッチ温熱療法
歩行障害症状の変動に合わせて対応早期から下肢装具を作製する

作業活動の選び方

MSの事例で作業活動を選ぶ問題は、次の条件を同時に満たすものが正答になる。

  1. 疲労・体温上昇を招かない(重い物・全身運動・長時間の立位・屋外作業を避ける)
  2. 細かい視覚的な作業でない(視神経炎・視覚障害がある)
  3. 強い把持・打撃・指先の精密操作でない(有痛性けいれん・筋力低下がある)
  4. 大きくリズミカルな反復動作で、近位筋中心・軽負荷
適する活動の例避ける活動の例(理由)
卓上編み機で編む、機織りで杼(ひ)に横糸を通すビーズ細工・タイルモザイク・裁縫・ネット手芸(精密・視覚負荷)
木工(鋸引き・家具づくり)、陶芸の菊練り、鍬で畑を耕す(高負荷・体温上昇)
革細工の刻印打ち(打撃・把持でけいれんを誘発しやすい)

MSの作業療法は「冷やす・疲れさせない・細かく見せない」。選択肢を見たら、熱・高負荷・精密・打撃のどれかに当たるものから消していく。

ステロイドパルス療法の後の痙縮に対しても温熱は選ばない。温熱療法の並ぶ選択肢の中に非温熱(TENS)が1つだけあれば、それが正答の形。

1-6 Guillain-Barré症候群(GBS)の病態と病期別の作業療法

項目正しい知識誤りの選択肢の例
誘因上気道感染・下痢(細菌・ウイルス)の数日〜数週後に発症数時間後に発症、原虫感染、アルコール多飲、ビタミンB₁欠乏
病変末梢神経(運動神経と感覚神経の両方)。脱髄型と軸索型がある中枢の病変、運動神経だけ
運動麻痺弛緩性、左右対称、遠位から始まり上行することが多い、腱反射低下〜消失痙性麻痺、一側性に進行、上肢近位筋から始まる
脳神経最も多いのは顔面神経麻痺(両側性が多い)。球麻痺も起こる聴神経麻痺・視力障害、球麻痺は無い
重症例の危険呼吸筋麻痺、自律神経障害(不整脈・血圧変動)呼吸筋麻痺はみられない、自律神経障害を伴わない
検査髄液の蛋白細胞解離(蛋白上昇・細胞数正常)、複数の神経で神経伝導速度の低下髄液蛋白が低下、伝導速度は正常、CT・MRI・脳波で診断
治療・経過免疫グロブリン大量療法・血漿交換。単相性で再発は少なく、多くは歩行可能まで回復高頻度に再発、再発寛解を繰り返す、ステロイドパルス療法が有効

Babinski徴候は上位運動ニューロン障害の所見で、GBSでは陰性が原則。眼瞼下垂・外眼筋麻痺が目立つのはFisher症候群(外眼筋麻痺・運動失調・腱反射消失)。

病期別の作業療法

時期行うこと行わないこと
急性期(麻痺が進行中)呼吸機能の確認と呼吸訓練、嚥下障害(むせ)への嚥下訓練・食形態の調整、良肢位保持・体位変換(褥瘡・肺炎・拘縮の予防)、関節可動域訓練、座位のポジショニング筋力増強訓練(進行中の神経への過負荷)
回復初期(進行が止まり回復が始まる)関節可動域訓練、体位変換・良肢位、座位耐久性の改善など低負荷の活動から漸増抵抗運動による筋力強化
回復期筋の回復に合わせて段階的に負荷を上げる、ADL訓練、自助具の利用疲労が翌日まで残る負荷

回復途中の筋に強い負荷をかけると過用性筋力低下(overwork weakness)を起こす。GBS・多発性筋炎・MSで「筋力低下だから高負荷で鍛える」は基本的に誤り。