第2章|脊髄小脳変性症と筋疾患(筋ジストロフィー・筋炎・重症筋無力症)

神経・筋難病 第2章

2-1 脊髄小脳変性症(SCD)の生活指導・環境調整

SCDの中心は運動失調(協調運動障害)で、筋力低下が主体ではない。MRIでは小脳・脳幹(橋)の萎縮がみられる。孤発性の多系統萎縮症では自律神経症状(起立性低血圧・排尿障害)が目立つ。

重症度分類(厚生省)

下肢機能障害と上肢機能障害をそれぞれⅠ度(微度)・Ⅱ度(軽度)・Ⅲ度(中等度)・Ⅳ度(重度)・Ⅴ度(極度)で判定する。下肢Ⅲ度前後では歩行に手すり・歩行器などの補助が要り、転倒予防と環境調整が中心になる。

生活指導の要点

場面適切誤りの選択肢の例
住環境家具の配置変更(動線の確保・伝い歩きでつかまれる場所)、手すりの設置—
歩行支持基底面を広げる=歩隔を広く歩隔をできるだけ狭くする
杖・歩行器重さのある杖(重錘で動揺を抑える)、歩行器杖はできるだけ軽量にする
食事柄の太い・重いスプーン、重錘バンド柄の細いスプーン
運動筋力・持久力の維持訓練は続ける筋力増強訓練は控える
パソコンキーボードカバー(キーガード)で指を目的のキーへ誘導し誤打鍵を防ぐタイピングエイド(手指の筋力低下・可動域制限向け)

PSB(ポータブルスプリングバランサー)・BFO(バランス式前腕装具)は上肢の重さを免荷する用具で、筋力低下(筋ジストロフィー・頸髄損傷・多発性筋炎など)向け。失調には効かず、上肢の失調が重い人に「日常で使う福祉用具」として選ぶのは誤り。

浴室・トイレの環境整備

  • 据え置き式の高い浴槽 → バスボード(座って浴槽をまたぐ)、浴槽内に浴槽台(立ち座りを楽に)、洗い場の壁に横手すり。
  • シャワーチェア、ポータブルトイレ、キーボードカバー付きパソコン、歩行器は失調の生活で使える用具。
  • 浴室の扉は外開きか引き戸にする。内開きへの変更は誤り(中で倒れると扉が開かなくなる)。

失調への対応は「広く・重く・太く・誘導する」:歩隔を広く、杖や食具は重く、柄は太く、キーはカバーで誘導。軽く・細く・狭くは逆。

2-2 Duchenne型筋ジストロフィー(DMD)の病態と特徴

項目正しい知識誤りの選択肢の例
遺伝X連鎖劣性(伴性劣性)遺伝の遺伝性疾患、ジストロフィン遺伝子の異常で筋形質膜のジストロフィンが欠損常染色体劣性・常染色体優性、ジストロフィンがみられる、感染が契機
性・発症男児、幼少期(3〜5歳頃)に転びやすさ・歩容異常で気づかれる女性に多い、成人後に発症
乳児期乳児期は症状が目立たない=フロッピーインファントを示さない出生時から筋緊張低下
筋力低下近位筋優位、下肢が上肢より先に弱くなる—
徴候Gowers徴候(登はん性起立)、腓腹筋の仮性肥大、動揺性歩行、腰椎前弯ミオトニア(筋強直性ジストロフィー)
変形尖足、股・膝の屈曲拘縮、脊柱側弯下肢の伸展拘縮
歩行10歳前後で歩行不能になることが多い15〜20歳で歩行不能
呼吸呼吸筋の筋力低下で換気量が減る → 動脈血二酸化炭素分圧(PaCO₂)が上昇(肺胞低換気)、咳の力が弱くなる。側弯は呼吸機能を悪化させる咳をする力は保たれる、口すぼめ呼吸が有効(COPD向け)、側弯は呼吸に影響しない、5歳以下から呼吸不全
心臓心筋障害(心筋症)を伴う心筋障害はまれ

DMDの三点セットは「男児・近位筋(下肢から)・Gowers徴候」。呼吸はCO₂がたまる型の呼吸不全と覚える。

2-3 DMDの機能障害度分類(ステージ)と上肢機能障害度分類

厚生省筋萎縮症研究班の機能障害度分類(8段階)

ステージ状態判定の目印
1階段昇降が可能(手の介助なし、または手で膝を押さえて)—
2階段昇降が可能(手すりを使う)階段に手すりが要る(ステージ1との境目)
3階段昇降は不能、椅子からの起立は可能—
4椅子からの起立も不能、歩行は可能(独歩、または手すり・歩行器・手引きで5m以上)「椅子から立ち上がれないが、手すりなどにつかまれば5m以上歩ける」
5起立歩行は不能、四つ這いは可能つかまり立ちはできても伝い歩きはできない
6四つ這いも不能、いざり這行(座位での移動)は可能—
7四つ這いもいざり這行も不能、座位の保持は可能—
8座位の保持も不能、常時臥床—

判定は上から順に「階段→椅子から起立→歩行→四つ這い→いざり→座位」の何ができなくなったかで区切る。事例文で「できる」と書かれた動作のうちいちばん上(いちばん難しいもの)を拾い、それが「可能」とされている段階をステージにする(例:椅子からの起立は不能で手すりにつかまり5m歩ける→ステージ4、起立・歩行は不能で四つ這いは可能→ステージ5)。

床から立ち上がるときに手で膝を押して体を起こすGowers徴候は、歩行できる早い時期からみられる所見で、ステージの判定基準ではない。Gowers徴候があってもステージは階段・椅子からの起立・歩行で決める。
「つかまり立ちができる」ことに引っ張られてステージ4にしない。ステージ4は5m以上歩けること(手すりなどを使ってよい)が条件。伝い歩きもできず床上で四つ這い移動ならステージ5。

上肢機能障害度分類(9段階法)

段階できる動作
1500g以上の重りを持って、利き手を前方へまっすぐ上まで挙上できる
2500g以上の重りを持って、前方90°まで挙上できる
3重りなしで、前方へまっすぐ上まで挙上できる
4重りなしで、前方90°まで挙上できる
5重りなしで、肘を90°以上屈曲できる
6机上で、肘の伸展により手を水平前方へ移動できる
7机上で、体幹の反動を使い、肘の伸展で手を水平前方へ移動できる
8机上で、体幹の反動を使って肘を伸展した後、手の運動で水平前方へ移動できる
9机上で、手の運動のみで水平前方へ移動できる

段階6〜9は、机の上で手を水平前方へ動かせるかで区切る段階である。段階8では重力に抗して腕を持ち上げられず、机の上を滑らせる動き(マウス操作など)は自立するが、スプーンを口へ運ぶ・急須で注ぐ・Tシャツを脱ぐ・普通型車椅子を自走するのは自立が難しい。

段階8の「できない動作」を段階6〜7にそのまま当てはめない。段階6〜7では肘を机につくなどの代償で食事が自立していることがある。ADLの可否は事例文の段階と動作で確かめる。

2-4 DMDのステージ別の作業療法・福祉用具

時期主な支援この時期に合わないもの
歩行期(ステージ1〜4)転倒予防、学校・家庭の環境調整、ストレッチによる拘縮予防、歩行を延ばすための装具・歩行器—
歩行不能期(ステージ5)車椅子での移動へ移る時期。歩行を延ばす目的で長下肢装具を使うことがある(ステージ4〜5)—
床上移動期(ステージ6)学校生活での移動の自立には電動車椅子を優先して導入歩行器、長下肢装具(ステージ6では適応外)、食形態の変更(嚥下障害はまだ主課題でない)、トイレの手すり
座位期(ステージ7)上肢機能の低下に合わせてスイッチを使ったパソコン操作・環境制御装置、PSB・BFOなどで上肢を免荷して机上動作、前開きの上衣片手での洗髪、自走式車椅子、ソックスエイド、かぶりシャツ(上肢挙上が要る)
臥床期(ステージ8)座位保持装置で頭部・体幹を支えて座位をとる、呼吸管理(NPPV)、コミュニケーション機器標準型車椅子、PCW(postural control walker)、四輪型サドル付き歩行器、頭部保護帽

DMDの用具問題は「その段階でできなくなった動作を補う用具」を選ぶ。すでに通り過ぎた段階の用具(歩行器・長下肢装具・自走式車椅子)は外す。

PSB・BFOは上肢の重さを支えて残った筋力で机上の動作を可能にする用具。筋力低下(筋ジストロフィー・多発性筋炎など)に使い、失調(脊髄小脳変性症)には使わない。

2-5 その他の筋ジストロフィー(福山型・筋強直性など)

病型遺伝形式発症特徴
Duchenne型X連鎖劣性幼児期(3〜5歳頃)男児、近位筋、Gowers徴候(2-2)
Becker型X連鎖劣性Duchenne型より遅いDuchenne型と同じ遺伝子で軽症・進行が緩やか
福山型(先天性)常染色体劣性乳児期(最も早い)フロッピーインファント、知的障害がDuchenne型より多く重い、歩行の獲得は難しいことが多い。日本ではDuchenne型に次いで多いが、頻度はDuchenne型より少ない。男女とも発症
筋強直性ジストロフィー常染色体優性主に成人ミオトニア(筋強直)、斧状顔貌(顔面筋・咀嚼筋の萎縮)、前頭部の脱毛、遠位筋優位の筋力低下で下垂足、白内障、認知機能障害など多臓器の症状
顔面肩甲上腕型常染色体優性思春期〜成人顔面・肩甲帯・上腕の筋力低下
肢帯型主に常染色体劣性小児〜成人肩甲帯・骨盤帯の筋力低下、感覚障害はない

筋強直性ジストロフィーで「顔面筋は侵されにくい」「認知機能は障害されない」「5歳までに発症」「伴性劣性遺伝」は誤り。痙縮・ジストニア・有痛性けいれんは筋強直性ジストロフィーの症状ではない。
乳児期のフロッピーインファントは福山型・Werdnig-Hoffmann病(脊髄性筋萎縮症)・Prader-Willi症候群・失調型脳性麻痺などで示し、Duchenne型は示さない。

2-6 多発性筋炎・皮膚筋炎・重症筋無力症

多発性筋炎・皮膚筋炎

項目正しい知識誤りの選択肢の例
筋力低下近位筋優位(肩・骨盤帯・頸部)遠位筋優位
検査血清クレアチンキナーゼ(CK)上昇、赤沈亢進、筋電図で筋原性変化筋電図で高振幅電位(神経原性の所見)、深部腱反射亢進、手袋靴下型感覚障害
皮膚症状(皮膚筋炎)ヘリオトロープ疹、Gottron徴候蝶形紅斑(全身性エリテマトーデス)
合併症皮膚筋炎は悪性腫瘍の合併が多い、嚥下障害、間質性肺炎胸腺腫の合併(重症筋無力症)、嚥下障害はきたさない、男性に多い
疫学女性に多い(自己免疫疾患は女性に多いものが多い)男性に多い(男性に多い病気の代表例は痛風・高尿酸血症、強直性脊椎炎、Perthes病、Duchenne型筋ジストロフィー)

運動負荷の調節の指標はCK。運動後にCKが上がるなら負荷が過大(筋の炎症・破壊が進んでいる)。増悪期に高負荷の筋力増強訓練は行わない。

増悪期の作業療法

  • スプーンは握れるが口まで運べない=上肢を空間に保持する近位筋の筋力が足りない → BFO・PSBで上肢を免荷して自分で食べられるようにする。
  • スプーンの柄の形状を変える(握れているので問題はそこではない)、利き手交換(両側とも弱い)は解決にならない。
  • 上肢の使用を控える指導も不適切。過用を避けつつ、廃用を進めない範囲で使う。

重症筋無力症(MG)

項目正しい知識誤りの選択肢の例
病態神経筋接合部のアセチルコリン受容体に対する自己免疫性疾患—
疫学女性に多い、若年でも発症する。患者数はParkinson病より少ない男性に多い、40歳以前の発症は稀、Parkinson病より多い
症状易疲労性、眼瞼下垂・複視、夕方に悪化(日内変動)起床時に症状が強い
合併胸腺の異常(胸腺腫・胸腺過形成)を伴うことが多い悪性腫瘍・肺小細胞癌の合併(Lambert-Eaton症候群)
検査テンシロン試験で症状が改善、反復刺激試験で漸減(waning)、CKは上がらないテンシロン試験で悪化、漸増(waxing)、CK上昇

MGの作業療法は易疲労への配慮:症状の軽い時間帯(午前中)に活動を置き、休息を挟む。