認知症の症状は、脳の障害から直接起こる中核症状と、中核症状に本人の性格・環境・身体状態・ケアが重なって二次的に出るBPSD(behavioral and psychological symptoms of dementia/行動・心理症状/周辺症状)に分ける。
| 区分 | 代表例 | 性質 |
|---|---|---|
| 中核症状 | 記憶障害・見当識障害・失語・失行・失認・遂行機能障害(実行機能障害)・判断力低下 | 認知機能そのものの障害。ほぼ全員に出る |
| BPSD・行動症状 | 徘徊・暴言・暴力・興奮・不潔行為・異食・収集・介護への抵抗・睡眠障害(昼夜逆転) | 環境やケアの工夫で軽くできる |
| BPSD・心理症状 | 抑うつ・不安・無気力(アパシー)・幻覚・妄想(物盗られ妄想・嫉妬妄想)・易怒性 | 同上。人により出方が違う |
「失認」「失行」「記憶障害」「見当識障害」「実行機能障害」は中核症状であってBPSDではない。BPSDを選ぶ問題では徘徊・不潔行為・抑うつのような行動や気分の症状を選ぶ。
BPSDは「理由のある行動」と読む。不安・痛み・便秘・環境の変化・伝わらないもどかしさなどが引き金になるので、原因を探して取り除くのが作業療法の対応の出発点になる(2-2)。
事例問題は「症状の組合せから病型を見抜く→その病型の特徴を選ぶ」の2段で出る。病型ごとのキーワードを対にして覚える。
| 病型 | 経過・病理 | 見抜くキーワード |
|---|---|---|
| Alzheimer型認知症(AD/ATD) | 最も多い。女性に多い。緩徐進行性。老人斑(アミロイドβ)と神経原線維変化(タウ)。海馬など側頭葉内側の萎縮 | 近時記憶(エピソード記憶)障害で発症/見当識は時間→場所→人物の順に障害/地誌的見当識障害(外出先から帰れない・道に迷う)/物盗られ妄想/取り繕い/病識の低下/着衣失行/徘徊 |
| 血管性認知症 | 脳血管障害による。階段状に増悪 | まだら認知症/感情失禁(情動失禁)(些細なことで泣く)/病巣に応じた麻痺などの神経症状 |
| Lewy小体型認知症(DLB) | α-シヌクレインのLewy小体。SPECT・PETで後頭葉の血流・代謝低下 | 認知機能の変動(日内・日間変動/fluctuation)/繰り返す具体的な幻視(人・子ども・小動物・虫)/パーキンソニズム(静止時振戦・動作緩慢・小刻み歩行・姿勢保持不良・転倒)/レム睡眠行動障害(睡眠中の大声・手足をばたつかせる)/自律神経症状(便秘・起立性低血圧=立ちくらみ)/人物誤認 |
| 前頭側頭型認知症(FTD/Pick病を含む) | 前頭葉・側頭葉の限局性萎縮と血流低下。初老期発症が多い | 人格変化/脱抑制(万引きしても悪びれない・自分本位)/常同行動(同じ時刻に同じコースを歩く=時刻表的生活・同じ席・同じ食べ物)/常同言語・反響言語(オウム返し)/食行動異常(過食・他人の食事に手を出す)/無関心・自発性低下/立ち去り行動/病識の欠如 |
| 意味性認知症(FTDの一型) | 側頭葉前部の萎縮 | 物や人の名前が出ない(語義の障害)。言語性に比べ動作性の能力は保たれる |
| 観察される様子 | 考える病型 |
|---|---|
| 日によって・時間帯によって活動にむらがある。ぼんやりしている日とはきはき答える日がある | DLB |
| わからない質問に言い繕って答える。物を盗られたと言う。部屋や道を間違える | AD |
| 同じ言葉を繰り返す。いつも同じ席に座る。決まった時刻に来室する。他人の物を持っていく。途中で黙って立ち去る。横道にそれる | FTD |
| 些細なことで泣き出す | 血管性認知症 |
ADは「階段状」「まだら」ではない(それは血管性)。「錐体外路症状を伴う」はDLB。ADは意味記憶ではなくエピソード記憶の障害で始まる(意味記憶の障害で始まるのは意味性認知症)。ADの病識は早くから低下し、「末期まで病識が保たれる」は誤り。
他の認知症と比べてDLBに目立つのは静止時振戦などのパーキンソニズム。失行・失語・失認はDLBに特有ではなく、尿失禁はどの認知症にも出る(三徴として特徴的なのは正常圧水頭症)。DLBは姿勢保持が「良い」のではなく悪い。多幸はFTD、作話・取り繕いはADの方に寄せる。
早期のFTDに幻視は出ない(幻視はDLB)。FTDの初期症状は物忘れや道に迷うことではなく行動・人格の変化。エピソード記憶や手続き記憶・視空間の能力は比較的保たれる。
3つの「変性性認知症」の手がかり:AD=迷子・物盗られ、DLB=変動・幻視・パーキンソン、FTD=脱抑制・常同・食行動。ただし1語だけでは病型は決まらない(道に迷う・部屋を間違えるはDLBにも、変動や幻視はせん妄にも出る)。語の組合せで絞り、経過や神経症状と合わせて確かめる。変動と幻視が並べば、道に迷う所見があってもDLBを考える。
同じく外科的治療で認知機能が改善しうるものに慢性硬膜下血腫(血腫の除去)がある。
| 項目 | せん妄 | 認知症 |
|---|---|---|
| 発症 | 急性(数時間〜数日) | 緩徐 |
| 意識 | 意識障害(軽度の意識混濁+意識変容)が本質。高度の昏睡ではない | 原則として清明 |
| 経過 | 日内変動。夜間に出やすい・悪化しやすい(夜間せん妄)。睡眠覚醒リズムが乱れる | 持続的 |
| 可逆性 | 原因を除けば回復しうる | 多くは進行性 |
| 認知・記憶 | 注意障害・見当識障害。発症中のことを後で覚えていないことが多い | 記憶障害が中心 |
危険因子:高齢・認知症・手術・重い身体疾患・脱水・多剤服用(抗コリン薬・ベンゾジアゼピン系など)・入院や転室などの環境変化・睡眠障害。せん妄と認知症を見分ける最も有効な所見は意識障害の有無(幻覚・不安・易怒性・見当識障害は両方に出うる)。
| 行う | 避ける |
|---|---|
| 処方内容の確認(誘因となる薬の見直し) 本人から見える位置に時計・カレンダー 家族の面会(見当識と安心) 眼鏡・補聴器の使用、昼夜のリズムづくり 多職種での関わり | 面会謝絶 頻繁な病室移動(環境変化はせん妄を誘発) 多職種の関与を減らすこと |
どちらも30点満点の認知症スクリーニング。違いは「HDS-Rは口頭の質問だけ、MMSEは書く・描く・動作する課題を含む」。
| 項目 | HDS-R(改訂長谷川式簡易知能評価スケール) | MMSE(mini mental state examination) |
|---|---|---|
| カットオフ | 20点以下で認知症の疑い(20/21) | 23点以下で認知症の疑い(23/24) |
| 見当識 | 年齢・日時(年月日曜日)・場所 | 時間・場所 |
| 記銘・遅延再生 | 3語の記銘と遅延再生(再生できなければヒントを出す) | 3語の記銘と遅延再生 |
| 計算 | 100から7を引く(2回) | 100から7を順に引く(serial 7) |
| HDS-Rだけ | 数字の逆唱(3桁・4桁)/5つの物品の記銘(隠して答えさせる)/野菜の名前の想起(言語流暢性・語想起) | ― |
| MMSEだけ | ― | 呼称・復唱・3段階の口頭命令・読んで従う(読字)・文章を書く(書字)・図形模写(重なった五角形=構成課題) |
「文章を書いてください」「図形を写してください」はMMSE。HDS-Rに書字・構成(図形)・動作模倣・図版の課題は無い。逆に「数字を逆から」「野菜の名前をできるだけ多く」はHDS-R。計算・見当識・遅延再生は両方に入っている。
| 項目 | 配点 | 採点のポイント |
|---|---|---|
| 年齢 | 1 | 2年までの誤差は正解 |
| 日時の見当識 | 4 | 年・月・日・曜日 各1 |
| 場所 | 2 | 自発的に答えれば2、ヒントで正解なら1 |
| 3語の記銘 | 3 | 各1 |
| 計算 | 2 | 最初の引き算を誤ればそこで打ち切り |
| 数字の逆唱 | 2 | 3桁を誤れば4桁は行わない |
| 3語の遅延再生 | 6 | 自発的に2、ヒントで1(各語) |
| 5物品の記銘 | 5 | 各1 |
| 野菜の名前 | 5 | 5個までは0点、6個で1点、以後1個ごとに1点(10個で5点) |
合計が20点以下でカットオフに近い得点なら、重症度は「軽度認知症」の相当と読む。21点以上は認知症の疑いなしの範囲なので、カットオフより上の点を軽度認知症とは読まない。点数が下がるほど重いが、HDS-Rは本来スクリーニングで、重症度の判定にはCDRやFASTを使う(1-5)。
「何を測る尺度か」で選ばせる問題が最も多い。BPSD(行動・心理症状)なら NPI を最初に思い出す。
| 測るもの | 尺度 | 要点 |
|---|---|---|
| BPSD(行動・心理症状・精神症状) | NPI(neuropsychiatric inventory) | 妄想・幻覚・興奮・抑うつ・不安・多幸・無関心・脱抑制・易刺激性・異常行動・睡眠・食行動などを介護者への面接で評価。頻度・重症度・介護者の負担をみる |
| BEHAVE-AD | AD のBPSD評価 | |
| 認知症の総合的な重症度 | CDR(clinical dementia rating) | 6領域(記憶・見当識・判断力と問題解決・社会適応・家庭状況と趣味・介護状況)を5段階(0・0.5・1・2・3)で評価 |
| FAST(functional assessment staging) | Alzheimer型の進行度をADL障害の程度から7段階で評価 | |
| 認知機能 | HDS-R・MMSE | スクリーニング(1-4) |
| ADAS(ADAS-cog) | 記憶・言語・行為などの認知機能。薬の効果判定にも使う | |
| MoCA-J | 軽度認知障害(MCI)の検出 | |
| FAB | 前頭葉機能 | |
| 行動観察による精神状態 | N式老年者用精神状態尺度(NMスケール) | 家事・関心・会話・記銘・見当識を観察で評価。BPSD専用ではない |
| ADL | PSMS(physical self-maintenance scale) | 身体的なADL |
他疾患の尺度は選ばない:HRS-D・SDS(うつ)、POMS(気分)、SANS(統合失調症の陰性症状)、PANSS(統合失調症)。妄想・興奮・夜間不眠を示す認知症の事例で「精神症状」「行動・心理症状」を評価するならNPI。CDRは重症度、ADASは認知機能、FASTはADL段階であってBPSDではない。
| ランク | 状態 |
|---|---|
| Ⅰ | 何らかの認知症はあるが、日常生活は家庭内・社会的にほぼ自立 |
| ⅡA | 日常生活に支障をきたす症状・行動や意思疎通の困難さが多少あっても、誰かが注意していれば自立。家庭外で(道に迷う・買い物や金銭管理のミス) |
| ⅡB | 同上が家庭内でもみられる(服薬管理ができない・電話の応対や訪問者への対応ができない)が、誰かが注意していれば自立 |
| ⅢA | 日常生活に支障をきたす症状が見られ介護を要する。日中を中心に |
| ⅢB | 同上が夜間を中心に |
| Ⅳ | 同上が常にみられ、常に介護を要する |
| M | 著しい精神症状・周辺症状や重い身体疾患があり、専門医療を要する |
Ⅱ=「注意していれば自立」、Ⅲ=「介護が必要」。Ⅱの中はA=家庭外・B=家庭内、Ⅲの中はA=日中・B=夜間。
| 認知症あり | 認知症なし | |
|---|---|---|
| 検査陽性 | a(真陽性) | b(偽陽性) |
| 検査陰性 | c(偽陰性) | d(真陰性) |
| 指標 | 式 | 意味 |
|---|---|---|
| 感度 | a ÷(a+c) | 病気の人を陽性と判定できる割合(縦に「ありの列」で割る) |
| 特異度 | d ÷(b+d) | 病気でない人を陰性と判定できる割合(縦に「なしの列」で割る) |
| 陽性的中率(陽性予測値) | a ÷(a+b) | 陽性の人のうち本当に病気の割合(横に「陽性の行」で割る) |
| 陰性的中率 | d ÷(c+d) | 陰性の人のうち本当に病気でない割合 |
| 偽陰性率 | c ÷(a+c)=1−感度 | 病気を見逃す割合 |
例:認知症ありの人100人中80人が陽性、なしの人400人中360人が陰性なら、感度=80÷100=80%、特異度=360÷400=90%。
選択肢には「1−感度」「陽性的中率」など別の指標の値が必ず並ぶ。特異度は「病気でない人の列」だけを見て計算する。