認知症の作業療法の原則は「残っている力でできる活動で、失敗させずに成功体験を積む」。自尊心・自己効力感の回復は成功体験から生まれる。
| 観点 | 適切 | 不適切 |
|---|---|---|
| 活動の種類 | 本人が長年親しんだ趣味・なじみの活動(手続き記憶・長期記憶に残りやすい)。生活歴を重視して選ぶ | 初めての活動・新しいことへの挑戦(新しい学習が難しい) |
| 難易度 | 工程が少ない・短時間で完了する。壊れにくい素材・危険な道具を使わない | 精密な課題、手順の多い課題、計算ドリルのような「できない所を突きつける」課題 |
| 説明 | 一工程ずつ、短く具体的に、見本を見せて | 全工程をまとめて説明する、抽象的な指示 |
| 時間の管理 | 疲労や時間を自分で管理しにくいので、休憩の時間管理は作業療法士が行う。活動の時間帯は覚醒水準に合わせる | 本人任せ |
| 担当・場 | 担当者を固定し、なじみの関係をつくる。参加者との自然な交流は活かす | 複数の作業療法士が交替で担当する。交流を制限する |
| 尊厳 | 大人の活動として設定する。作品の感想を言い合う場面も役に立つ | 単純化のために幼稚な活動にする |
以前の趣味でも、症例文に「できなくなった」「自信を失った」とある活動や、今の認知機能では手順が複雑すぎるもの(手順の多い洋裁など)は失敗体験になる。その場合は歌・詩吟のように手続き的に残りやすく、失敗しにくいなじみの活動を選ぶ。本人が熱心だった活動で、できなくなったという記述が無ければ導入に使える(混乱・興奮が強い間は先に場に慣れる。2-2)。判断の手がかりは点数の区切りより症例文の記述に置く。
迷ったら「その選択肢は失敗させるか、混乱させるか」で判断する。どちらかに当たる選択肢は外す。
環境の変化そのものが混乱とBPSDを強める。入院直後や作業療法の導入時に優先するのは、能力の向上でも行動の統制でもなく、新しい環境(施設・病棟・作業療法室)への適応、場の雰囲気に慣れること、安心感と信頼関係の形成である。
| 導入期に優先する | この時期に優先しない |
|---|---|
| 場所・人に慣れる援助/安心できる関係づくり/施設環境への適応 | 作業能力・記憶力の改善を目的とした活動/職業リハビリテーション/行動の統制・叱責/趣味の大きな拡大/なじみの趣味の作業(木工など)の導入も、混乱・興奮が強い間は後回し |
なじみの活動を使う(2-1)のは落ち着いてから。導入時に見当識障害の言動・歩き回る・暴言など混乱・興奮が強ければ、趣味の作業より先に場の雰囲気に慣れる援助。落ち着いた後なら、熱心だった趣味の作業を導入に使える。
| 対応 | 判定 | 理由 |
|---|---|---|
| 本人に理由を尋ねる・行動のパターンから原因を探る | 適切 | 行動の背景にある不安・ニーズ・身体の不快に対処できる |
| 注意する・叱責する | 不適切 | 不安と興奮を強める |
| 論理的に説得する | 不適切 | 理解・保持が難しく混乱を招く |
| すぐに制止する | 不適切 | 抵抗・興奮を招く |
| 黙認する | 不適切 | 暴力など安全に関わる行動は放置できない |
| 新しい住環境を用意する | 不適切 | 環境変化はBPSDを悪化させる |
見当識障害による言動(「ここは学校?」「仕事があるので帰る」など)や妄想・幻視を、叱らない・頭ごなしに否定しない・言い負かさない。気持ちを受け止め、安心できる対応に切り替える。
| 適切 | 不適切 |
|---|---|
| なじみの物・使い慣れた道具を置く 親しみやすい家庭的な環境 自室やトイレの場所をわかりやすく表示(文字・写真・目印) 見守りしやすい配置 居室のプライバシーの確保 | 生活の道具を新しいものに入れ替える(使い方がわからなくなる) 頻繁な席替え・部屋替え 刺激の多いにぎやかな環境 |
| 方法 | 内容 | 目的 |
|---|---|---|
| リアリティオリエンテーション(RO/現実見当識訓練) | 日時・場所・人物などの正しい情報を繰り返し提示する。日常の関わりの中で行う24時間ROと、少人数で行うクラスルームRO(教室型RO)がある | 見当識・認知機能の維持・改善 |
| バリデーション療法 | 本人の感情や本人なりの現実を受け入れ共感する。誤りを訂正しない(ROと対照的) | 不安の軽減・尊厳の保持 |
| 回想法(作業回想法) | 昔の写真・道具・作業を手がかりに過去の経験を語る | 情緒の安定・自尊心・QOL |
| 音楽療法 | 歌唱・合奏・鑑賞 | BPSDの軽減・活動参加 |
| ユマニチュード | 「見る・話す・触れる・立つ」を柱とするケアの技法 | 関係づくり・介護への抵抗の軽減 |
| ルーティン化療法 | 常同行動を利用して、望ましい活動を決まった日課に組み込む | 主に前頭側頭型認知症の生活の安定(2-4) |
「認知機能を高める」「正しい日時や場所を繰り返し示す」と問われたらRO。回想法・バリデーション・ピアサポート・マインドフルネスは認知機能の向上を主目的にしない。認知症に行われる療法として音楽療法とROは正しく、内観療法・森田療法・精神分析療法は認知症向けではない。
脱抑制・常同行動・食行動異常・注意の転導(立ち去り)が中心。言葉での説明・説得・禁止は効きにくいので、環境の側を変えることと、常同性を活かすことで対応する。記憶や手続き的な能力は比較的保たれている。
| 場面 | 適切な対応 | 不適切な対応 |
|---|---|---|
| 食べることが止められない・他人の食事を取る | 食材を見えない場所に移す/食事が終わったらすぐ、本人が関心を示す活動(歌など)を毎回決まって導入し、問題が起きる場面から切り離す | 減量の必要性を説明する/「食べてはいけない」と言葉で伝える/他の患者に我慢してもらう/本人が関心を示さない活動を入れる |
| 作業の途中で立ち去る・注意がそれる | 道具や材料を見せながら声をかけて作業に戻す/道具を見やすい所に置く | 「立ち去ってはいけない」とはっきり伝える/初めての手工芸/担当者や場所の変更 |
| 作業の進め方 | 決まった手順・決まった席・決まった時間(ルーティン化)/簡潔で具体的な指示 | 抽象的な指示/複雑な判断を求める/頻繁な席替え |
| 失敗・易怒性 | 叱らない。刺激を減らし、できる工程を任せる | 失敗を叱責する |
| 参加の拒否 | 関心のある活動・場面から誘う | 活動の内容を丁寧に説明して説得する |
常同行動は無理にやめさせない・別の行動に切り替えさせようとしない。日課の中に望ましい形で組み込んで利用する(ルーティン化療法)。言語・読字の障害を伴うことがあり、口頭指示が通じないから紙に書けばよい、とはならない。
FTDの対応は「言葉より環境、禁止より先回り、変化より決まりごと」。先回り=問題が起きる場面の直後に、本人が関心を示す活動を毎回決まって入れる。常同行動そのものは別の行動に切り替えさせず、日課に組み込む。
| 特徴 | 作業療法での対応 |
|---|---|
| 認知機能の日内・日間変動 | 日内変動に注意し、状態の良い時間帯に活動を設定。その日の覚醒に合わせて内容と量を調整する |
| パーキンソニズム(動作緩慢・姿勢保持不良・小刻み歩行) | 転倒予防。転倒しやすいことを本人にも伝えて注意を促す。活動量は減らさず廃用を防ぐ。リズムのある反復動作は動きを引き出すのに使える |
| 起立性低血圧(立ちくらみ) | 立ち上がり時のふらつきに注意。ゆっくり立つ |
| 具体的な幻視・誤認 | 否定も肯定もせず、見えている内容と気持ちを受け止める。部屋を明るくし、見間違いやすい物(光る物・影になる物)を減らす |
幻視を「それは幻覚です」ときっぱり正す・何度も話し合うのは誤り。部屋を薄暗くするのは誤認を増やす。運動を控える・車椅子で移動させるのは廃用を招く。未経験の活動・複数課題の同時進行・メンバーの頻繁な入れ替えも混乱を招く。性的逸脱行為への注意はFTDの方の話。
MCIではADLはおおむね自立しており、本人が記憶の低下を自覚して「認知症になるのでは」という不安を抱えている。導入時の最優先は記憶低下に対する不安の軽減と信頼関係づくり。記憶障害の改善・身辺動作の改善・徘徊や攻撃性への対応は、この段階の最優先ではない。
「まず行うべきこと」を問われたら、本人の不安と環境への適応、在宅なら家族(介護者)への助言を先に考える。能力の向上は安心の後。