第2章|手の外傷・熱傷・CRPS・切断

手外科・末梢神経障害 第2章

2-1 上肢の骨折と手の外傷

名称部位・受傷機転要点・合併症
Colles骨折(コーレス骨折)橈骨遠位端。手をついて転倒。高齢者(特に閉経後女性)に多い遠位骨片が背側・橈側へ転位、側面でフォーク状変形。合併症:正中神経障害、長母指伸筋腱断裂、CRPS、変形癒合による尺骨突き上げ症候群(橈骨が短縮し尺屈で尺骨頭部痛・クリック、手指機能は保たれる)
Smith骨折橈骨遠位端遠位骨片が掌側へ転位(Collesの逆)
Barton骨折橈骨遠位端の関節面の背側縁・掌側縁手根骨を伴って転位する関節内骨折
Bennett骨折第1中手骨基部脱臼骨折(母指CM関節)
Roland骨折第1中手骨基部粉砕骨折(T字・Y字)
ボクサー骨折(Boxer's骨折)第4・5中手骨頸部拳で殴って受傷
舟状骨骨折手をついて転倒血行が乏しく偽関節・無腐性壊死を生じやすい代表
上腕骨骨幹部骨折腕相撲・転倒など(らせん骨折も)橈骨神経麻痺(下垂手)を合併しやすい。保存療法でFunctional brace(機能的装具)の代表的適応
上腕骨顆上骨折小児。肘伸展位で手をついて受傷が多い保存療法(整復・固定)が原則、転位が大きければ手術。前腕の循環障害→Volkmann拘縮に注意。変形は内反肘
肘頭骨折肘頭引き寄せ締結法(tension band wiring)で術直後から肘の運動が可能
橈骨頭骨折橈骨頭橈骨輪状靱帯の損傷を伴いやすい
尺骨骨幹部骨折前腕肘関節から手関節まで(近位・遠位橈尺関節を含めて)固定

上腕骨顆上骨折は老年期でなく小児、外反肘でなく内反肘、屈曲位でなく伸展位の受傷が多い。高齢者の転倒で多い上肢骨折は橈骨遠位端・上腕骨近位部。

指・腱・腱鞘の外傷と疾患

名称病態所見
槌指(マレット指・mallet finger)球技などで指先に外力→伸筋腱の終止部の断裂、または末節骨基部背側の剥離骨折DIP関節が屈曲位で自動伸展できない
ばね指指屈筋腱の腱鞘炎(MP関節掌側)屈伸時の引っかかり(弾発)
Heberden結節DIP関節の変形性関節症中高年女性に多い慢性の変形(外傷ではない)
de Quervain病(ドケルバン病)第1背側区画の長母指外転筋腱・短母指伸筋腱の腱鞘炎橈骨茎状突起部痛、Finkelsteinテスト陽性
上腕骨外側上顆炎(テニス肘)外側上顆に付く手関節伸筋(主に短橈側手根伸筋)の付着部炎外側上顆の圧痛・物をつかむときの痛み
Dupuytren拘縮手掌腱膜の線維性肥厚指の屈曲拘縮

2-2 骨折・手の外傷後の作業療法

外固定中(ギプス・シーネ)

  • 最優先は固定していない関節(手指・肘・肩)の自動運動。手指の屈伸自動運動で浮腫・拘縮・腱癒着を防ぐ。ギプス除去後に始めるのでは遅い。
  • 挙上:浮腫管理の基本。就寝時も心臓より高くするよう指導する。
  • 母指は対立位(機能肢位)を保ち、内転位拘縮を避ける。
  • 固定された関節(前腕・手関節を固定中の回内外など)は動かせない。
  • 固定期に患肢をADLで積極的に使う・急性期に温熱を優先する、は誤り。

固定除去後〜回復期

  • 骨癒合後もリモデリング・筋力・可動域の回復を待ち、スポーツ復帰は段階的に。
  • 変形治癒や加齢は機能回復に影響する(「影響しない」は誤り)。
  • 手関節の掌屈・前腕の回外が制限されて食事で肩外転の代償が出る場合は、柄に角度をつけたスプーンで口元に届きやすくする(太柄は握力低下、自助箸はつまみ力低下への対応)。

2-3 腱損傷と手の機能評価

腱損傷(特に屈筋腱)後の指の運動機能はTAM(total active motion:総自動運動域)で評価する。

TAM=(MP・PIP・DIP関節の自動屈曲角度の合計)−(各関節の自動伸展不足角度の合計)。1本の指の総合的な動きを1つの数値で表す。他動で同様に計算したものはTPM(total passive motion)。

評価対象・内容
TAM手の腱損傷後の指の運動機能
DAS28関節リウマチの疾患活動性
Lansburyの活動性指数関節リウマチの活動性
MFT(manual function test)上肢全体の動作能力(主に脳卒中など)
MODAPTS作業の時間分析(作業時間の測定法)

評価法の選択問題は「何の疾患のための尺度か」で切る。DAS28・Lansburyはリウマチ、MODAPTSは作業分析で、腱損傷の運動機能評価ではない。

2-4 手の熱傷

急性期のスプリント肢位(抗変形肢位)

手背の熱傷は瘢痕が縮んでMP関節過伸展・IP関節屈曲・母指内転(第1指間の短縮)へ引かれる。急性期スプリントはその逆向きに保つ。

関節保持する肢位避ける肢位
手関節背屈位(軽度伸展)屈曲位
Ⅱ〜Ⅴ指MP関節屈曲位伸展位(側副靱帯がゆるみ拘縮しやすい)
PIP・DIP関節伸展位屈曲位
母指掌側外転(第1指間を広げる)内転位、MP関節伸展を目的とした肢位

覚え方:「手首は反らす・MPは曲げる・IPは伸ばす・母指は掌側へ開く」。角度の選択肢では、この向きに合うものを選ぶ(MP屈曲の角度が選択肢に出たら屈曲側を選ぶ。PIP・DIPの屈曲や手関節屈曲は誤り)。

母指は掌側外転。橈側外転(手掌と同じ平面での外転)と取り違えない。

Ⅲ度熱傷と植皮術後

  • Ⅲ度熱傷(全層)は瘢痕拘縮・変形が強いので、変形防止にスプリントを使う。壊死組織の除去(デブリドマン)は必要。
  • 受傷直後の冷却は流水で行う(氷で冷やさない)。
時期行う行わない
植皮術後早期(術後数日)=生着を最優先安静時の挙上(浮腫軽減)、安静・肢位保持(静的スプリント)他動関節可動域訓練・抵抗運動(移植片のずれ・剪断力)、動的スプリント、弾性包帯による圧迫・巻き上げ
生着後〜瘢痕期関節可動域訓練、圧迫療法(肥厚性瘢痕の予防)、必要なら動的スプリント—

植皮直後は「動かさない・こすらない・圧迫しない」。挙上で浮腫を管理する。

2-5 CRPS(複合性局所疼痛症候群)

項目内容
中核症状外傷・疾病の程度に不釣り合いな持続性の疼痛、アロディニア
随伴症状浮腫、皮膚の色・温度・発汗の変化、皮膚の萎縮、骨萎縮、関節拘縮
疫学女性に多い。骨折後の発症は数%程度(大多数に起こるものではない)。特定の定型的な変形をきたすわけではない
type Ⅰ明らかな神経損傷がない。旧称の反射性交感神経性ジストロフィー(RSD)。肩手症候群・Sudeck骨萎縮が代表
type Ⅱ神経損傷を伴う(カウザルギー)

幻肢痛・視床痛・帯状疱疹後神経痛はCRPSに分類しない。Volkmann拘縮(阻血)、Dupuytren拘縮(手掌腱膜)、異所性骨化もCRPSとは別。

CRPSの作業療法

  • 目標は疼痛の完全除去ではなく、痛みを管理しながら手を生活で使えるようにすること。
  • 自動運動から開始する(強い他動運動は痛みを悪化させる)。
  • 疼痛を誘発しない動作方法を一緒に検討する。
  • 物品に触れる機会を増やす(段階的な感覚入力・脱感作)。使わない手は悪循環に入る。
  • 生活状況を聴取し、日常生活での使用場面を増やす。

「痛みを完全になくしてから使う」は誤り。使いながら痛みと付き合うのがCRPSの作業療法。

2-6 上肢切断・先天性欠損と義手

筋電義手の制御

  • 筋電義手は拮抗する2つの筋群の筋電位でハンドの開閉を制御する。
  • 前腕切断では、ハンドを開く=手関節伸筋群(前腕背側)、ハンドを閉じる=手関節屈筋群(前腕掌側)を使うのが基本。
  • 前腕の横断面図では、まず橈骨と尺骨の位置から背側・掌側、橈側・尺側を決め、伸筋群の反対側(掌側)の屈筋群を選ぶ。

先天性上肢欠損と後天性切断の違い

先天性欠損後天性切断
幻肢・幻肢痛ほとんど生じない生じる
神経腫・断端浮腫問題になりにくい切断端の問題として生じる
2次性障害で目立つもの体幹・肩甲帯を左右非対称に使い続けることによる側弯症—

先天性欠損は「切断端の問題(幻肢痛・神経腫・断端浮腫)が無い代わりに、体の左右差の問題(側弯)が出る」。