うつ病の作業療法の問題は、ほぼすべて「いまどの時期か」を読めば解ける。事例文の手がかり(入院からの日数、希死念慮の有無、睡眠・食欲の回復、意欲・対人交流、退院・復職の話が出ているか)から時期を決め、その時期の原則に合う選択肢を選ぶ。
| 時期 | 状態の目安 | 作業療法の目標・関わり | この時期にはまだ早いこと |
|---|---|---|---|
| 急性期 | 抑うつ・精神運動制止が強い、希死念慮、不眠・食欲低下。入院直後〜数週 | 休養の保障。休むことが治療と伝える。安全の確保。不安を受け止める。負担の少ない日課を一緒に考える | 活動・気晴らし・趣味探し・運動・集団レクリエーション、重大な決断、復職の話 |
| 急性期後期〜回復初期(作業療法の導入期) | 睡眠・食欲が少し戻る。意欲低下・思考制止・易疲労は残る | 短時間・単純・構成的・個別の作業。休息を確保しつつ生活リズムを整える(2-2) | 複雑な作業、達成目標の設定、集団活動の積極的な勧め、退院後の生活の検討 |
| 回復期前期 | 活動性が戻り始める。疲れやすく、焦りによる過活動で再燃しやすい | こまめな休憩、活動時間を少しずつ延ばす、集団の心理教育、適度な運動(2-3) | リワーク、新しい生きがい探し、退院後の生活を具体的に考えさせる |
| 回復期後期(退院準備) | 安定して参加でき意欲的に取り組める | 退院後の生活スケジュール、家事訓練、退院前訪問、外来作業療法へのつなぎ、再発予防、復職準備(2-3・2-4) | 入院中の現職OJTの計画 |
| 維持期・復職期 | 外来・デイケア | リワーク、再発防止プラン、生活の再構築・新しい生きがい | — |
励まさない(「元気を出して」「頑張って」)。気晴らし・楽しい体験・旅行・趣味を勧めない(楽しめない自分を責める)。他の患者の世話役など役割を与えない(責任感の強い人には過負荷)。「気持ちの持ちよう」と伝えない。
「母親失格」「私は怠け者」など自己否定の言葉が出る時期は、不安な気持ちに寄り添う(共感的に受け止める)のが先。ゆとりをもてる日中の過ごし方を一緒に話し合うのは急性期にも適切。
育児の振り返り・子育てのアドバイスや情報提供・日記・「性格による自己否定的な考え」を話し合う・家族の育児協力を話し合う、はこの時期には自責感を強めるか焦点がずれる。運動による体力増強・趣味探し・集団レクリエーションも急性期には早い。
急性期後期〜回復初期に作業療法を始めるときの原則。うつ病では意欲・集中・決断力が落ち、疲れやすいのに疲労を自覚しにくい。この特徴から作業の条件が決まる。
| 項目 | 適切 | 不適切 |
|---|---|---|
| 1回の時間 | 短くする | 長時間 |
| 工程 | 単純・手順が決まった構成的作業(枠組みのある作業) | 工程が複雑な作業 |
| 完成までの期間 | 短期間で完成する(達成感が得やすい) | 長期間かけて完成する作業 |
| 経験 | 経験のない(初めての)作業。病前との比較が起こらない | 経験のある・得意だった作業(「前はできたのに」と比較して自責が強まる)。回復に伴って徐々に移す |
| 中断 | いつでも中断しやすい | 疲労を自覚しにくい作業 |
| 比較・評価 | 結果の良し悪しが目立たない | 他者との優劣が分かる作業、病前の水準と比較できる作業 |
| 形態 | 個別から始める | 集団活動・チームスポーツ・他患者との交流を積極的に促す |
| 選択・決定 | 自己決定の場面を減らす(作業療法士が提案し、選択肢を絞る) | 選ぶ課題を増やす、自己決定の経験を促す |
| 指示 | 簡潔・明確 | 詳細な指示(負担が増す) |
「自己決定の場面を減らす」と「本人の自己決定を見守る」は矛盾しない。決めることを求めない・選択肢を増やさないが、本人の意思は尊重し活動を強制しない。
自殺企図の後など重症例の回復初期に、参加するたびの達成目標をはっきり決めて本人と共有するのは適切でない。目標がプレッシャーになる。この時期は「参加できた」こと自体を大切にする。
悲観的な考えが続き、促されてようやく動ける程度でも原則は同じ:個別から、1回の時間は短く、短期間で完成する課題、なじみのある課題より初めての課題、本人の自己決定は見守る。長期間かけて完成する課題は途中で挫折しやすく選ばない。
回復期前期に選ばない:元気を出すよう励ます・退院後の生活を考えるよう勧める(焦りと不安を増す)・他患者との積極的な交流を促す・リワークの導入・新しい生きがい探し・家族を交えた再発予防の話し合い(いずれも回復が進んでから)。
安定して参加し意欲的に取り組めるようになり、家庭復帰・職場復帰が検討される段階。家事・育児など日常生活への不安があれば、退院後の生活の土台をつくる支援をする。
| 適切 | 適切でない |
|---|---|
| 小グループでの家事訓練 | 入院中に現職復帰に向けたOJT(職場内訓練)を計画する。OJTは実際の職場で行う訓練で、職場・産業保健スタッフとの連携のもと復職の段階で行う |
| 退院後の生活スケジュールを一緒に検討 | |
| 退院前訪問指導で生活場面を把握 | |
| 退院後の外来作業療法での支援を検討 |
リワーク(復職支援)プログラムは、うつ病などで休職中の人が職場復帰をめざして行う通所型のプログラム。症状が安定し、生活リズムが整ってから導入する。
| 論点 | 正しい | ひっかけ(誤り) |
|---|---|---|
| 開始時期 | 急性期の休養が終わり、症状が安定し生活リズムが整ってから | 治療初期・急性期から導入/安静が終わり次第すぐ導入 |
| 形式 | 集団療法として位置づけられる。対人技能の向上を目的に集団プログラムを行う | 積極的な訪問支援が中心(医療機関のリワークは通所が基本) |
| 内容 | 教育プログラム(心理教育・疾患理解・再発予防)、ストレス対処、認知行動療法(認知の歪みの修正)、コミュニケーション能力の改善、生活リズム・体力の回復、オフィスワークなど | 認知の歪みは扱わない/キャリアの見直しはしない |
| 実施機関 | 精神科医療機関(デイケア・外来)でも行う。地域障害者職業センターのリワーク支援など | 精神科医療機関では行わない |
| 対象 | 主にうつ病などの気分障害で休職中・復職をめざす人。公務員も対象になりうる | 診断・就労状況で限定されない/ストレスチェックの高ストレス者が対象/公務員は対象外 |
| 主治医との関係 | 主治医と情報を共有・連携する | 主治医との情報共有は制限される |
| 地域障害者職業センターのリワーク支援 | 目的は職場復帰(職場への適応)の支援。事業主との調整も行う | 病状の回復が目的 |
| 試し出勤(リハビリ出勤) | 職場に慣れるための段階的な出勤 | 産業保健スタッフの同伴が要件 |
開始時に「仕事と同じ環境にする」「時間厳守をめざす」「能力の限界を試す」は早すぎる(再燃の危険)。
退院後の外来で、対人関係は良好で作業能力も高いのに就労への不安が強い場合、まず再発防止プラン(ストレスのサイン、早めの対処法、困ったときの相談先=SOSの出し方の整理)をつくる。これが就労準備の土台になる。
選択肢の比べ方:対人関係が良好ならSST(社会生活技能訓練)の優先度は低い。作業能力が高いなら単純な軽作業や認知リハビリテーションは合わない。不安が強いうちの就労移行支援事業所への紹介は早い。評価で「足りないもの」に合う支援を選ぶ。