第2章|病期ごとの作業療法と復職支援

うつ病・双極性障害 第2章

2-1 病期の流れと急性期の関わり

うつ病の作業療法の問題は、ほぼすべて「いまどの時期か」を読めば解ける。事例文の手がかり(入院からの日数、希死念慮の有無、睡眠・食欲の回復、意欲・対人交流、退院・復職の話が出ているか)から時期を決め、その時期の原則に合う選択肢を選ぶ。

時期状態の目安作業療法の目標・関わりこの時期にはまだ早いこと
急性期抑うつ・精神運動制止が強い、希死念慮、不眠・食欲低下。入院直後〜数週休養の保障。休むことが治療と伝える。安全の確保。不安を受け止める。負担の少ない日課を一緒に考える活動・気晴らし・趣味探し・運動・集団レクリエーション、重大な決断、復職の話
急性期後期〜回復初期(作業療法の導入期)睡眠・食欲が少し戻る。意欲低下・思考制止・易疲労は残る短時間・単純・構成的・個別の作業。休息を確保しつつ生活リズムを整える(2-2)複雑な作業、達成目標の設定、集団活動の積極的な勧め、退院後の生活の検討
回復期前期活動性が戻り始める。疲れやすく、焦りによる過活動で再燃しやすいこまめな休憩、活動時間を少しずつ延ばす、集団の心理教育、適度な運動(2-3)リワーク、新しい生きがい探し、退院後の生活を具体的に考えさせる
回復期後期(退院準備)安定して参加でき意欲的に取り組める退院後の生活スケジュール、家事訓練、退院前訪問、外来作業療法へのつなぎ、再発予防、復職準備(2-3・2-4)入院中の現職OJTの計画
維持期・復職期外来・デイケアリワーク、再発防止プラン、生活の再構築・新しい生きがい—

急性期の原則

  • 休息の重要性を説明する。几帳面で責任感の強い患者ほど「入院している自分が情けない」「家族のことが気になる」と休むことに罪悪感をもつ。休んでよい・休むことが治療と保証する。
  • うつ病という病気であることを説明する(心理教育は急性期から)。「意志が弱いのではなく病気」「治療で回復する可能性が高い」と伝えると自責感が軽くなる。診断を伏せておくのは適切でない。
  • 退職・離婚・転居などの重大な決定は先延ばしにさせる。未解決の問題の処理を勧めない、退職について相談させない、早期退職を勧めない。
  • 作業療法を行う場合も作業時間は短く。
  • 修正型電気けいれん療法(m-ECT)は急性期の重症うつ病で禁忌ではなく、自殺の危険が高いときや薬物療法が効かないときに選択肢となる。
  • 抗うつ薬は効果が出るまでに時間がかかる。数日で効果がないからといってすぐ変更しない。

励まさない(「元気を出して」「頑張って」)。気晴らし・楽しい体験・旅行・趣味を勧めない(楽しめない自分を責める)。他の患者の世話役など役割を与えない(責任感の強い人には過負荷)。「気持ちの持ちよう」と伝えない。

産後うつ病・育児中の母親の場合

「母親失格」「私は怠け者」など自己否定の言葉が出る時期は、不安な気持ちに寄り添う(共感的に受け止める)のが先。ゆとりをもてる日中の過ごし方を一緒に話し合うのは急性期にも適切。

育児の振り返り・子育てのアドバイスや情報提供・日記・「性格による自己否定的な考え」を話し合う・家族の育児協力を話し合う、はこの時期には自責感を強めるか焦点がずれる。運動による体力増強・趣味探し・集団レクリエーションも急性期には早い。

2-2 導入期の作業の選び方と関わり方

急性期後期〜回復初期に作業療法を始めるときの原則。うつ病では意欲・集中・決断力が落ち、疲れやすいのに疲労を自覚しにくい。この特徴から作業の条件が決まる。

項目適切不適切
1回の時間短くする長時間
工程単純・手順が決まった構成的作業(枠組みのある作業)工程が複雑な作業
完成までの期間短期間で完成する(達成感が得やすい)長期間かけて完成する作業
経験経験のない(初めての)作業。病前との比較が起こらない経験のある・得意だった作業(「前はできたのに」と比較して自責が強まる)。回復に伴って徐々に移す
中断いつでも中断しやすい疲労を自覚しにくい作業
比較・評価結果の良し悪しが目立たない他者との優劣が分かる作業、病前の水準と比較できる作業
形態個別から始める集団活動・チームスポーツ・他患者との交流を積極的に促す
選択・決定自己決定の場面を減らす(作業療法士が提案し、選択肢を絞る)選ぶ課題を増やす、自己決定の経験を促す
指示簡潔・明確詳細な指示(負担が増す)

「自己決定の場面を減らす」と「本人の自己決定を見守る」は矛盾しない。決めることを求めない・選択肢を増やさないが、本人の意思は尊重し活動を強制しない。

声かけ・関わり方

  • 受容的・支持的に関わり、必要に応じて不安を受け止める。
  • 作業中に励まさない、作品を過度に賞賛しない(期待に応えなければという負担になる)。
  • スケジュール表どおりの参加・規則的な参加を強く求めない。意欲が低いときに作業の遂行を促さない。
  • 励ましのつもりで「心配ない」と言い切らない(回復の見通しを伝える心理教育とは別)。
  • 意欲を「引き出そう」としない。この時期は過刺激を避け、短時間で行う。
  • 具体的な体験(軽い体操など)を通して現実感・身体感覚の回復を促すのは適切。
  • 薬物療法の副作用(眠気・ふらつきなど)が出ていないかを観察する。

自殺企図の後など重症例の回復初期に、参加するたびの達成目標をはっきり決めて本人と共有するのは適切でない。目標がプレッシャーになる。この時期は「参加できた」こと自体を大切にする。

症状が長引いている(遷延している)場合

悲観的な考えが続き、促されてようやく動ける程度でも原則は同じ:個別から、1回の時間は短く、短期間で完成する課題、なじみのある課題より初めての課題、本人の自己決定は見守る。長期間かけて完成する課題は途中で挫折しやすく選ばない。

2-3 回復期の作業療法と退院準備

回復期前期

  • こまめに休憩をとる・疲れる前に早めに休むよう促す。焦って頑張りすぎることによる再燃が最大のリスク。休憩を最小限にして持久力をつける、は誤り。
  • 活動時間は少しずつ延ばしていく段階。「1回の活動を短時間にする」は急性期後期〜回復初期の原則で、回復期前期の答えとしては時期が合わないことがある。
  • 集団での心理教育プログラムへの参加は適切(疾患の理解・再発予防の基礎)。
  • 適度な運動(ウォーキングなど)を活動に取り入れる。自信を取り戻すために負荷を高めに設定しない。決めた活動をすべてやり遂げることを求めない。
  • 記憶・集中の低下にはメモなどの補助手段を使ってよい。
  • 物事を自分で判断するよう促す、行動の結果の良し悪しをはっきり伝える、就労を勧める、チームスポーツを勧める、は早い。

回復期前期に選ばない:元気を出すよう励ます・退院後の生活を考えるよう勧める(焦りと不安を増す)・他患者との積極的な交流を促す・リワークの導入・新しい生きがい探し・家族を交えた再発予防の話し合い(いずれも回復が進んでから)。

回復期後期(退院の検討)

安定して参加し意欲的に取り組めるようになり、家庭復帰・職場復帰が検討される段階。家事・育児など日常生活への不安があれば、退院後の生活の土台をつくる支援をする。

適切適切でない
小グループでの家事訓練入院中に現職復帰に向けたOJT(職場内訓練)を計画する。OJTは実際の職場で行う訓練で、職場・産業保健スタッフとの連携のもと復職の段階で行う
退院後の生活スケジュールを一緒に検討
退院前訪問指導で生活場面を把握
退院後の外来作業療法での支援を検討

生活リズムと睡眠衛生

  • 入眠困難があっても毎日できるだけ一定の時刻に起床する(体内時計を整える最重要事項)。
  • 昼寝は短く(夕方の長い昼寝は避ける)。寝酒(就床前の飲酒)は避ける。
  • 眠くなってから床に入る。眠れないときは寝床にこだわらず、いったん離れる。

2-4 復職支援とリワーク

リワーク(復職支援)プログラムは、うつ病などで休職中の人が職場復帰をめざして行う通所型のプログラム。症状が安定し、生活リズムが整ってから導入する。

論点正しいひっかけ(誤り)
開始時期急性期の休養が終わり、症状が安定し生活リズムが整ってから治療初期・急性期から導入/安静が終わり次第すぐ導入
形式集団療法として位置づけられる。対人技能の向上を目的に集団プログラムを行う積極的な訪問支援が中心(医療機関のリワークは通所が基本)
内容教育プログラム(心理教育・疾患理解・再発予防)、ストレス対処、認知行動療法(認知の歪みの修正)、コミュニケーション能力の改善、生活リズム・体力の回復、オフィスワークなど認知の歪みは扱わない/キャリアの見直しはしない
実施機関精神科医療機関(デイケア・外来)でも行う。地域障害者職業センターのリワーク支援など精神科医療機関では行わない
対象主にうつ病などの気分障害で休職中・復職をめざす人。公務員も対象になりうる診断・就労状況で限定されない/ストレスチェックの高ストレス者が対象/公務員は対象外
主治医との関係主治医と情報を共有・連携する主治医との情報共有は制限される
地域障害者職業センターのリワーク支援目的は職場復帰(職場への適応)の支援。事業主との調整も行う病状の回復が目的
試し出勤(リハビリ出勤)職場に慣れるための段階的な出勤産業保健スタッフの同伴が要件

復職をめざす作業療法の順序

  1. 生活リズムの安定と体力(活動耐久性)の回復:作業療法の開始時はまずここ。
  2. 関心の拡大、集中力・作業耐久性の向上、自己の状態の理解。
  3. 職場に近い環境・時間厳守・作業量の負荷など仕事に近い条件での練習(後期・リワーク段階)。
  4. 試し出勤などを経て復職。

開始時に「仕事と同じ環境にする」「時間厳守をめざす」「能力の限界を試す」は早すぎる(再燃の危険)。

就労への不安が強いとき

退院後の外来で、対人関係は良好で作業能力も高いのに就労への不安が強い場合、まず再発防止プラン(ストレスのサイン、早めの対処法、困ったときの相談先=SOSの出し方の整理)をつくる。これが就労準備の土台になる。

選択肢の比べ方:対人関係が良好ならSST(社会生活技能訓練)の優先度は低い。作業能力が高いなら単純な軽作業や認知リハビリテーションは合わない。不安が強いうちの就労移行支援事業所への紹介は早い。評価で「足りないもの」に合う支援を選ぶ。