第2章|電気刺激・牽引と病態別の選び方

物理療法 第2章

2-1 電気刺激・牽引・その他の物理療法

手技目的・使いどころ
TENS(経皮的電気神経刺激)疼痛緩和。幻肢痛にも有用で禁忌ではない。ただし蜂窩織炎など急性感染部位には用いない
NMES/EMS(神経筋電気刺激)麻痺筋に収縮を起こし廃用性筋萎縮を予防・筋再教育。末梢神経麻痺でMMT0〜1の筋(腓骨神経麻痺の前脛骨筋など)の第一選択
FES(機能的電気刺激)中枢性麻痺の機能再建(歩行補助など)。ギプス後の廃用性筋力低下の第一選択ではない
治療的電気刺激(拮抗筋へ)拮抗筋を刺激して相反抑制で痙縮を軽減。多発性硬化症の内反尖足のように温熱が使えない例で有用
体外衝撃波難治性の腱付着部症・石灰沈着。末梢神経麻痺の筋力低下には無効
紫外線皮膚疾患・殺菌。可動域制限や筋力低下には適さない
電磁波療法内固定材など体内金属があると不適
経頭蓋磁気刺激痙縮に対する標準治療としては確立していない

牽引療法

  • 直達牽引=骨に直接ピン・鋼線(Kirschner鋼線)を刺入して錘で牽引。大きな牽引力が得られ骨折整復・術前管理に用いる。図で「骨に刺さったピン+錘」が見えたらこれ。
  • 介達牽引=皮膚・軟部組織を介して牽引(絆創膏牽引・スピードトラック、頸椎のグリソン牽引など)。図では包帯・ベルト・絆創膏で巻いている。皮膚障害を避けるため牽引力は小さめ。
  • 腰椎牽引は慢性非特異的腰痛では推奨されない介入。

電磁両立性(EMC)と電磁障害を減らす方法

EMC(電磁両立性)=機器が周囲に過度な電磁妨害を出さず、かつ外からの電磁妨害を受けても正常に動く性能。EMC規格に適合した機器は放出と耐性の両方が規格で担保されるため、EMC規格の機器に取り替えるのが電磁影響を下げる確実な方法。

正しい対策誤り肢の形(なぜ誤りか)
ケーブル(プローブのコード)は短く「長くする」→ 長いコードはアンテナになり外来ノイズを拾う
電源コードは束ねず、電源線と信号線を離して配線「重ねて束ねる」→ 相互誘導でノイズが増え、放熱も妨げる
医用接地端子(3Pコンセントの接地極)で確実に接地「水道の蛇口でアースをとる」→ 給水管は樹脂管が多く確実な接地にならない
適度な湿度(50%前後)を保つ「部屋を乾燥させる」→ 乾燥は静電気放電を招き誤作動・故障の原因

下腿の筋と電気刺激で出る動き

筋主な作用支配神経
前脛骨筋背屈+内がえし深腓骨神経
長趾伸筋・第三腓骨筋背屈+外がえし深腓骨神経
長母趾伸筋背屈(母趾伸展)深腓骨神経
長・短腓骨筋底屈+外がえし浅腓骨神経
後脛骨筋底屈+内がえし脛骨神経

運動点(モーターポイント)=最も弱い電流で筋収縮が得られる皮膚上の点。

収縮を強くする条件と強さ‐時間曲線

  • 収縮が強くなる条件の例:電荷量を増やす(強度×パルス幅)、立ち上がりの急な波形、陰極を運動点に置く。立ち上がりが緩やかだと神経が順応して興奮しにくい(三角波は、順応しにくい脱神経筋を選択的に刺激するのに使う)。皮膚・筋を冷やすと伝導が落ち収縮は弱くなる。
  • 強さ‐時間曲線:縦軸=刺激の強さ、横軸=刺激の持続時間(パルス幅)。基電流=持続時間を十分長くしても反応が出る最小の強さ/時値(クロナキシー)=基電流の2倍の強さで反応が出る最短の持続時間。
  • 脱神経では時値が延長し、曲線は右上へ移動する。

2-2 病態別 — 何を選び、何を避けるか

病態選ぶ避ける・誤り
受傷直後の肉ばなれ・捻挫アイシング+固定・安静交代浴・ホットパック・パラフィン浴・極超短波
関節リウマチの手指変形パラフィン浴ホットパック・遠赤外線(密着しない)・超音波(限局深部用)・極超短波(人工関節=金属)
小児のギプス除去後の拘縮・筋力低下渦流浴超音波・極超短波(骨端線に禁忌)・紫外線・FES
多発性硬化症の痙縮拮抗筋への電気刺激ホットパック・赤外線などの加温(Uhthoff現象で症状悪化)/MAS2の段階でアキレス腱延長術は過剰
腓骨神経麻痺で背屈MMT0電気刺激(NMES/EMS)温熱・赤外線・超音波・衝撃波(筋収縮を起こせない)
骨癒合の促進超音波(LIPUS)温熱・牽引・電気刺激・電磁波は優先度が下がる
内固定材が入った足関節術後固定されない膝関節のROM練習を積極的に/足指のROMは外固定中から可能な範囲で開始術直後からの荷重(段階的に)/金属があるので電磁波療法は不適/「内固定破損の可能性があるから骨癒合が得られるまで短下肢装具を使用する」は誤り=内固定材そのものが骨片を安定させる目的の材料で、装具の役割は二次的な保護にすぎない。使うかどうか・期間は個別の治療方針で決まり、一律に骨癒合まで装具を使うものではない
リンパ浮腫+蜂窩織炎の急性期安静と患部の冷却。スキンケアは継続圧迫・用手的リンパドレナージ・圧迫下の運動(感染を拡散)/TENSも用いない
糖尿病足(感覚鈍麻+趾の暗赤色)前足部の免荷(除圧インソール・治療靴)とフットケア寒冷療法・速歩などの荷重負荷。ROM練習は控えなくてよい/「歩行時に左足を右より前に出すよう指導する」は誤り=出す足の左右を変えても前足部にかかる荷重は減らず、合理的根拠がない。減らしたいなら免荷そのものを行う
慢性非特異的腰痛運動療法・認知行動療法(ガイドラインで強く推奨)超音波・TENS・腰椎牽引・寒冷は強い推奨がない
肩手症候群(CRPSⅠ型)急性期疼痛を誘発しない範囲の肩関節周囲筋の再教育(軽い随意収縮の促通)が第一。あわせて挙上・圧迫による良肢位保持と浮腫管理積極的な他動伸張・CI療法/急性期のCodman体操も刺激過剰/「BFOによる良肢位の保持」も誤り=BFO(balanced forearm orthosis)は前腕を支持して食事など上肢動作を助ける動作補助具であり、肩手症候群急性期の治療手段ではない。良肢位保持は装置を付けることではなく肢位と浮腫の管理を指す
感覚障害による運動失調重錘負荷・弾性緊縛帯・姿勢鏡・歩行補助具(感覚代替)電気刺激療法は失調の直接的治療にならない
がんの緩和ケア患者の意思とQOLに合わせて内容を変更「呼吸介助は禁忌」「リンパ浮腫にPTは行わない」「温熱は行わない」はいずれも誤り/「病名告知を前提として理学療法を行う」も誤り=告知の有無は理学療法を実施する前提条件ではない。未告知でも本人の状況・心理面に配慮して行う
高度の肩鎖関節脱臼+競技継続希望手術(靱帯再建)超音波・ホットパック・ギプス固定・安静のみでは不十分

「〜は禁忌である」「〜は行わない」と一律に断定する選択肢は誤りになりやすい。緩和ケアの呼吸介助、リンパ浮腫への複合的理学療法、幻肢痛へのTENSはいずれも有用。

疾患リハの原則(物理療法・装具がからむもの)

  • 脳卒中片麻痺:装具は機能回復を阻害しない(早期の立位・歩行を可能にして促進する)。立位練習は装具の完成を待たず開始でき、歩行練習も座位保持獲得を待たない。トレッドミル歩行練習で歩行速度・持久力が向上。CPMは拘縮予防が目的で分離運動の促通ではない。
  • Duchenne型筋ジストロフィー ステージ6(車椅子移動でADLに介助):脊柱の可動域運動(側弯・拘束性換気障害の予防)と電動車椅子操作の練習。四つ這い・立ち上がり・AFOでの立位練習はすでに不可能。
  • Guillain-Barré症候群の人工呼吸器管理下:排痰(気道クリアランス)が最優先。急性期の筋力増強運動は禁忌に近い。
  • Perthes病:外転位でのcontainment(骨頭を臼蓋に包む)と免荷。坐骨結節支持の免荷装具での歩行練習と対称的な座位バランス練習が適切。内転位保持・患側を下にした起き上がり・短下肢装具での立位は不適。

体内金属があるときの温熱

  • 極超短波(マイクロ波)・短波は金属が選択的に加熱されるので禁忌。
  • 伝導熱のホットパック・パラフィン浴・渦流浴は金属の有無で禁忌にはならない。超音波も国試では体内金属を理由に禁忌とはされない。