病理学総論は、疾患の種類を問わず共通して起こる細胞・組織の基本変化を扱う。国試では「退行性か進行性か」の振り分けがそのまま1問になる。まずこの表を丸ごと覚える。
| 大分類 | 含まれるもの | 向き |
|---|---|---|
| 退行性病変 | 萎縮・変性・壊死(細胞死としてアポトーシスもここ) | 減る・縮む・死ぬ |
| 進行性病変 | 肥大・過形成・再生・化生・異形成 | 増える・置き換わる |
萎縮=いったん正常な大きさまで発達した細胞・組織・臓器の容積が減少すること。はじめから発育しない低形成・無形成とは区別する。細胞数の減少と細胞容積の減少の両方が起こりうる。
| 種類 | 機序 | 代表例 |
|---|---|---|
| 廃用性萎縮 | 不使用・不動 | ギプス固定・長期臥床による筋萎縮 |
| 神経原性萎縮 | 脱神経 | 末梢神経損傷・ALS |
| 圧迫性萎縮 | 持続的な圧迫 | 水頭症の大脳、腫瘍に圧された組織 |
| 内分泌性萎縮 | 刺激ホルモンの欠乏 | 下垂体機能低下による副腎・甲状腺の萎縮 |
| 栄養障害性萎縮 | 低栄養・悪液質 | 飢餓・進行癌 |
| 生理的萎縮 | 加齢・退縮 | 加齢の胸腺・性腺、閉経後の子宮 |
変性=細胞の代謝障害により、細胞内外に異常物質が蓄積して機能が落ちる状態。原則は可逆性で、障害が強くなると壊死へ移行する。変性は前癌病変ではない。
壊死=血流途絶・毒物・熱などの外的傷害による、受動的で病的な細胞死。細胞膜が破れて内容物が漏れるため、周囲に必ず炎症が起こる。
| 壊死の型 | 代表例 |
|---|---|
| 凝固壊死 | 心筋梗塞・腎梗塞(形が残る) |
| 融解壊死 | 脳梗塞・膿瘍(溶けて液状になる) |
| 乾酪壊死 | 結核 |
| 脂肪壊死 | 急性膵炎 |
| 壊疽 | 糖尿病足・四肢末梢の腐敗を伴う壊死 |
| 肥大 | 過形成 | |
|---|---|---|
| 本態 | 1個の細胞の容積が増大 | 細胞の数が増加 |
| 細胞数 | 一定 | 増える |
| 細胞容積 | 増える | 個々の容積は変わらない |
| 臓器サイズ | 腫大する | 腫大する |
| 刺激 | 持続的な負荷・ホルモン | 慢性・持続的な刺激、ホルモン刺激 |
| 刺激を除くと | 退縮する | 増殖が停止し退縮する(可逆) |
| 例 | 心肥大、筋力トレーニング後の骨格筋、片腎摘出後の対側腎(代償性) | 前立腺肥大症、甲状腺の過形成、妊娠子宮(肥大+過形成) |
過形成についてよくある誤答肢 → 正しくは:
化生=分化を終えた細胞が、別の系統の分化細胞に置き換わる適応性の変化。癌ではないが、慢性刺激が続けば異形成・癌化の土台になる。
| 部位 | 変化 | 原因 |
|---|---|---|
| 気管・気管支 | 多列線毛円柱上皮 → 重層扁平上皮 | 喫煙・慢性刺激 |
| 食道下部(Barrett食道) | 重層扁平上皮 → 円柱上皮 | 胃食道逆流 |
| 胃(腸上皮化生) | 胃粘膜上皮 → 腸型上皮 | 慢性胃炎 |
再生=失われた組織を同じ種類の細胞で補う進行性病変。再生能は組織で大きく違う。
異形成=細胞の大きさ・形・配列に異常(異型)が出た状態で、まだ癌ではないが癌へ進みうる前癌病変。進行性病変のなかで唯一、癌化の方向を向いている。
癌化の連続性:正常上皮 →(慢性刺激)→ 化生 → 異形成 → 上皮内癌 → 浸潤癌。代表は子宮頸部異形成、口腔・喉頭の白板症。
アポトーシス=遺伝子プログラムに制御された能動的な細胞死。不要・異常な細胞を個別に片づける生理的な仕組みで、対比されるネクローシスとは所見が正反対になる。この対比が病理学総論の最頻出。
| アポトーシス | ネクローシス(壊死) | |
|---|---|---|
| 性質 | 能動的・プログラム細胞死(ATPを要する) | 受動的・傷害による病的細胞死 |
| 細胞の大きさ | 収縮する | 膨化(腫大)する |
| 核 | 凝縮(濃縮)し断片化 | 融解する |
| 細胞膜 | 保たれ、アポトーシス小体になる | 破綻する |
| 細胞内容物 | 放出されず、マクロファージが貪食 | 細胞外へ放出される |
| 広がり方 | 散在性(単一の細胞が個別に死ぬ) | 集団性(細胞群・組織単位で死ぬ) |
| 周囲の炎症 | 起こさない | 起こす |
| 例 | 胎生期の指間の消失、胸腺での自己反応性T細胞の除去、ホルモン依存組織の退縮 | 梗塞、熱傷、毒物・虚血による組織壊死 |
化生の理解にも、単独の組み合わせ問題にも使う。機能と形をセットで覚える=摩擦に耐える所は扁平、分泌・吸収は円柱、運搬は線毛、伸び縮みする尿路は移行。
| 上皮 | 役割 | 分布(頻出) |
|---|---|---|
| 単層扁平上皮 | 物質交換 | 肺胞、血管内皮、漿膜(胸膜・腹膜・心膜) |
| 単層円柱上皮 | 分泌・吸収 | 胃・小腸・大腸、胆嚢、子宮内膜 |
| 多列線毛円柱上皮 | 線毛で運ぶ | 気管・気管支、卵管、上咽頭・鼻腔 |
| 重層扁平上皮 | 摩擦・乾燥から守る | 皮膚(角化)、口腔・咽頭・食道・肛門・膣・角膜・結膜(非角化) |
| 移行上皮(尿路上皮) | 伸展に対応 | 腎杯・腎盂・尿管・膀胱 |
口腔粘膜は強い機械的刺激を受けるため重層扁平上皮で覆われる(重層扁平上皮の代表部位のひとつ)。周辺の構造名も同じ問題で問われる。
| 用語 | 正しい内容 |
|---|---|
| 硬口蓋 | 口蓋の前方。骨に支えられる |
| 軟口蓋 | 口蓋の後方。筋性で軟らかい |
| 口峡 | 口腔と咽頭の境(喉頭ではない) |
| 舌乳頭 | 糸状・茸状・葉状・有郭乳頭。舌背(舌の上面)にある |
| 舌根 | 舌扁桃がある部位。舌乳頭はない |
| 舌小帯 | 舌の下面と口腔底をつなぐヒダ(舌背ではない) |
熱傷は熱による組織の壊死であり、深さがそのまま治り方と瘢痕を決める。水疱の有無・水疱底の色・痛みの強さの3点で深度を判別する。
| 深度 | 深さ | 所見 | 痛み | 治癒・瘢痕 |
|---|---|---|---|---|
| Ⅰ度 | 表皮のみ | 発赤のみ、水疱なし | あり | 数日、瘢痕なし |
| 浅達性Ⅱ度 | 真皮浅層 | 水疱あり、水疱底は赤色(紅潮) | 強い(知覚は保たれる) | 1〜2週、瘢痕を残さない |
| 深達性Ⅱ度 | 真皮深層 | 水疱あり、水疱底は蒼白 | 痛覚鈍麻 | 3〜4週、瘢痕を残す |
| Ⅲ度 | 皮膚全層〜皮下 | 白色〜褐色・炭化、羊皮紙様 | 無痛(知覚脱失) | 植皮が必要 |
Ⅲ度では毛包・汗腺などの皮膚付属器まで失われるため、創底からの上皮化は起こらない(上皮化は創縁からのみ)。上皮化の起点が残っているのはⅡ度まで。