第2章|循環障害

病理学 第2章

2-1 充血・うっ血・虚血・梗塞

用語血流の変化色調・所見代表例
充血動脈血の流入増加鮮紅色・熱感炎症・運動
うっ血静脈血の流出障害暗赤色・チアノーゼ・冷感・浮腫心不全(肺うっ血・肝うっ血)、静脈瘤、DVT
虚血動脈血の流入減少蒼白・冷感・疼痛動脈狭窄・攣縮・圧迫
梗塞血流の途絶組織の壊死(不可逆)心筋梗塞・脳梗塞・腎梗塞
  • 貧血性(白色)梗塞=終動脈の心・腎・脾/出血性(赤色)梗塞=側副血行のある肺・腸管

虚血は血流を戻せば可逆、梗塞は不可逆。脳・心筋が虚血に最も弱い。

2-2 血栓症とVirchowの3要素

3要素該当する状況
血流の停滞長期臥床・術後・ギプス固定・麻痺肢の不動・長時間座位(エコノミークラス症候群)・心房細動・肥満・妊娠
血管内皮の障害手術・外傷・骨折・カテーテル留置・動脈硬化・血管炎
凝固能の亢進脱水・悪性腫瘍・妊娠/産褥・経口避妊薬・多血症・抗リン脂質抗体症候群

定番の誘因「長期臥床・術後・脱水・肥満」はいずれも3要素のどれかに当てはまる。

2-3 塞栓症 — 塞栓子はどこへ飛ぶか

塞栓子・発生源経路行き先・病名
下肢・骨盤の深部静脈血栓下大静脈→右心肺動脈=肺血栓塞栓症
左心系の血栓(心房細動の左房内血栓、心筋梗塞後の壁在血栓)、頸動脈プラーク大動脈→分枝脳塞栓症・腎梗塞・脾梗塞・四肢動脈閉塞
感染性心内膜炎の疣腫(細菌の塊)左心の弁から大動脈へ脳塞栓症(腎・脾にも飛ぶ)
脂肪滴・空気長管骨骨折/中心静脈カテーテル脂肪塞栓症候群・空気塞栓

下肢の静脈血栓が肝臓・腎臓・心臓・脳へ飛ぶは誤り → 静脈血はいったん右心を経て全部肺へ運ばれるので行き先は。「静脈血栓=肺/動脈・左心の血栓=脳」で対に覚える(例外=卵円孔開存を通る奇異性塞栓)。

感染性心内膜炎の合併症=①疣腫による塞栓症(脳・腎・脾)②弁の破壊による閉鎖不全=逆流→心不全 ③敗血症。弁を狭くするのでなく壊して漏らす向きなので僧帽弁狭窄症は誤り。心嚢液貯留・下肢静脈血栓・循環血漿量減少性ショックも典型合併症ではない。

2-4 深部静脈血栓症(DVT)

  • 好発部位=下腿(ヒラメ静脈)・大腿・骨盤の深部静脈。片側性が原則
  • 症状=下肢の腫脹・発赤・熱感・圧痛・表在静脈の怒張、Homans徴候陽性(膝伸展位で足関節を背屈させると腓腹部に痛み)
  • 検査=Dダイマー高値がスクリーニングの第一手。確定診断は下肢静脈エコー・造影CT
  • 高リスク=大腿骨近位部骨折・股関節/膝関節置換術、長期臥床、麻痺肢

下肢が腫れているときの鑑別

疾患経過・部位決め手となる所見・検査値
深部静脈血栓症急性・片側Homans徴候陽性、Dダイマー著明高値、CRPは軽度にとどまる
蜂窩織炎急性・限局発赤熱感+白血球・CRP上昇。Dダイマーは上がらない
リンパ浮腫慢性・無痛性に進行Dダイマー正常。急な発赤やHomans徴候はない
化膿性関節炎急性・関節中心関節痛と可動域制限、白血球・CRPの著増
うっ血性心不全慢性・両側性BNP上昇(基準18.4pg/mL以下)

検査値は原因と1対1で結びつけて覚える。血栓=Dダイマー/心不全=BNP/感染=CRP・白血球/糖尿病=HbA1c/抗凝固療法のモニタ=PT-INR/肺線維症=SP-D。骨折後に下腿の腫脹と圧痛があれば、離床の前にまずDダイマー

2-5 肺血栓塞栓症(PE)

  • 本態=DVTの延長。血栓が遊離し肺動脈を閉塞(DVTと合わせて静脈血栓塞栓症=VTE)
  • 発症しやすい瞬間=長期臥床後の初回離床・歩行開始時、排便のいきみ時
  • 症状=突然の呼吸困難・胸痛・低酸素血症・失神。広範囲では右心負荷から突然死
  • 換気は保たれ血流だけが絶たれる=Ⅰ型呼吸不全(低酸素血症のみ)
  • 検査=Dダイマー上昇、心電図は非特異的、確定は造影CT(単純CTでは診断できない)

「予防のため安静臥床とする」は誤り → 安静臥床は静脈うっ滞を招き血栓形成を助長する、最大の危険因子そのもの。正しい予防は早期離床

下肢よりも上肢の術後に多い」は誤り → 塞栓源の大半は下肢・骨盤の深部静脈なので、下肢の術後(股関節・膝関節置換術、大腿骨骨折)に多い。

2-6 予防と、やってはいけない介入

  • 予防=早期離床・足関節底背屈(下腿筋ポンプ)・弾性ストッキング・間欠的空気圧迫法(IPC)・十分な補液・抗凝固療法

すでにDVTがある下肢への下腿マッサージ・強い他動運動・超音波照射は、血栓を遊離させ肺塞栓を招くため行わない。

超音波療法の可否

可否部位・病態理由
実施可体内の金属固定材(プレート・人工関節)深部金属周囲の過度な発熱は生じにくい
禁忌深部静脈血栓症血栓が遊離し塞栓を起こす
禁忌血友病性関節症=出血傾向温熱が出血を助長
禁忌小児の大腿骨下端=骨端線成長障害
禁忌転移性骨腫瘍など悪性腫瘍部増殖・転移の促進
禁忌眼・精巣・妊娠子宮、ペースメーカー

脳卒中後の合併症は「いつ出るか」で切る

時期合併症
発症2週以内(急性期)意識障害(脳浮腫)、摂食嚥下障害→誤嚥性肺炎、消化管出血(ストレス潰瘍)、深部静脈血栓症
4週以降〜数か月(遅期)肩手症候群、痙縮の進行、関節拘縮、廃用症候群

2-7 浮腫とリンパ浮腫

機序原因特徴
毛細血管静水圧の上昇心不全・静脈血栓・静脈瘤心不全は両側性、静脈血栓は片側性
膠質浸透圧の低下低アルブミン血症(肝硬変・ネフローゼ・低栄養)全身性で腹水を伴う
血管透過性の亢進炎症・熱傷・アレルギー局所性・急性
リンパ還流の障害リンパ節郭清・放射線照射(乳癌・婦人科癌の術後)リンパ浮腫=高蛋白性で片側性

栄養指標は半減期で読む

項目反映する時間
血清アルブミン(半減期 約20日)1週以上前の栄養状態
トランスフェリン約7日/プレアルブミン約2日/レチノール結合蛋白約0.5日短期=RTP
血糖/AST・単球/尿中クレアチニン数時間〜数日の変動(長期の指標にならない)

リンパ浮腫の正誤

記述正誤正しくは
感染(蜂窩織炎)を繰り返しやすい正しい組織内に蛋白が貯留し皮膚バリアも低下するため反復する
腹水を伴う誤り腹水は低アルブミン血症・肝硬変・心不全でみられる
利尿薬で治療する誤り利尿薬は無効。高蛋白性の浮腫のため脱水を招くだけ
発症初期から皮膚硬化を生じる誤り初期は圧痕性の浮腫。線維化・皮膚硬化は慢性期(「線維化は稀」も誤り)
肺血栓塞栓症の原因の一つ誤り肺塞栓の原因は深部静脈血栓症

複合的治療(複合的理学療法・CDT)

  1. スキンケア=清潔と保湿。乾燥は皮膚バリアを壊し蜂窩織炎を招くので「乾燥を保つ」は誤り
  2. 用手的リンパドレナージ(MLD)
  3. 圧迫療法=多層包帯法・弾性着衣。維持期は患者本人がセルフケアで実施できるよう指導する
  4. 圧迫下での運動療法。圧迫を解除して運動すると還流促進の効果が落ちる
  5. 体重管理(肥満は増悪因子)

「疾患に関わらず用手的リンパドレナージは実施可能」は誤り → 急性の蜂窩織炎・急性DVT・未治療の悪性腫瘍・非代償性心不全は禁忌。

2-8 体腔への液体貯留

名称貯留する場所主な原因
胸水胸腔(肺の外)心不全・胸膜炎・癌性胸膜炎・低アルブミン血症
心嚢液心膜腔(心臓の周囲)心膜炎・大動脈解離の破裂・悪性腫瘍
腹水腹腔肝硬変・心不全・低アルブミン血症
  • 胸水のCT=臥位では背側(重力依存部)に三日月状。立位X線では肋骨横隔膜角の鈍化が初期所見
  • 紛らわしい所見:肺炎=肺実質内の浸潤影/肺癌=境界明瞭な結節・腫瘤/肺塞栓=造影CTでの肺動脈の造影欠損(単純CTでは写らない)
  • 心嚢液の急速な貯留=心タンポナーデ(血圧低下・頸静脈怒張・心音減弱)

2-9 ショックと熱傷

分類原因
循環血液量減少性大量出血・脱水・重症熱傷
心原性心筋梗塞・重症不整脈・弁膜症
血液分布異常性敗血症・アナフィラキシー・神経原性(脊髄損傷)
心外閉塞性肺塞栓・心タンポナーデ・緊張性気胸
ショックで起こること起こらないこと(誤答肢)
血圧低下血圧上昇
呼吸促迫(低酸素の代償で頻呼吸)徐呼吸
頻脈(原則)/徐脈の例外あり
腎血流低下による乏尿多尿
末梢血管収縮による蒼白・冷汗・冷感皮膚紅潮(敗血症の初期は例外的に温かい)
意識障害

5P=蒼白・虚脱・冷汗・脈拍触知不能・呼吸不全。

徐脈を示すショック血管迷走神経反射(迷走神経の過緊張で血管拡張と徐脈が同時に起こり、発症初期から徐脈)。神経原性ショックや高度循環不全の終末期も徐脈。一方、大量出血・重症熱傷・敗血症・アナフィラキシーはいずれも代償性に頻脈となる。

重症熱傷

  • 受傷直後=血管透過性亢進で血漿が漏出し循環血液量が減少(熱傷ショック)
  • 合併症=麻痺性イレウス、ストレス潰瘍=Curling潰瘍、気道熱傷では粘膜浮腫による窒息
深度到達層所見疼痛
Ⅰ度表皮発赤あり
浅達性Ⅱ度真皮浅層水疱強い
深達性Ⅱ度真皮深層水疱・白色知覚鈍麻
Ⅲ度皮下組織白色〜黒色・羊皮紙様無痛

「熱傷は深いほど疼痛が強い」は誤り → Ⅲ度では神経終末が破壊され無痛になる。深いほど痛みは弱いという逆転が頻出。

2-10 血管疾患の関連因子と大動脈解離

疾患関連因子
Buerger病(閉塞性血栓血管炎)喫煙(若年男性)
下腿静脈瘤妊娠・立ち仕事・肥満(静脈圧上昇とうっ滞)
解離性大動脈瘤・大動脈解離高血圧・アテローム硬化・Marfan症候群
深部静脈血栓症長期臥床(Virchowの3要素)
結節性多発動脈炎自己免疫性の壊死性血管炎・B型肝炎ウイルス糖尿病ではない

組合せの誤りを選ぶ設問は、自己免疫性疾患に生活習慣因子を結びつけた選択肢を疑う。

大動脈解離の続発症=分枝の灌流障害で読む

解離が及ぶ場所続発症
腕頭動脈・頸動脈脳梗塞
肋間動脈(Adamkiewicz動脈)脊髄障害・対麻痺
腎動脈腎不全
腸間膜動脈・腸骨動脈腸管虚血・下肢虚血
大動脈基部大動脈弁閉鎖不全・冠動脈解離(心筋梗塞)
心膜腔へ破裂心タンポナーデ

続発症に三尖弁閉鎖不全を挙げるのは誤り → 大動脈基部に隣接するのは大動脈弁であり、三尖弁は右心系で解離とは解剖学的につながらない。