第1章|発達の基礎

人間発達学 第1章

1-1 発達・成長・成熟・学習の区別

4語はすべて別物。国試では言い換えて出るので定義で切る。

用語意味代表例
発達 development受精から死までの心身の変化の全過程。量的変化と質的変化の両方を含む寝返り→歩行、老年期の機能低下も含む
成長 growth形態の量的な増大。測れる身長・体重・頭囲の増加
成熟 maturation遺伝的プログラムに沿った質的変化。経験・練習によらない髄鞘化、二次性徴
学習 learning経験・練習による行動の比較的永続的な変容箸の操作、歩行の巧緻化

現在の発達心理学は生涯発達(life-span development)の立場。発達=上昇変化だけではなく、老年期の下降変化も発達に含める。「発達は青年期で終わる」は誤り。

1-2 発達の5原則

  1. 順序性…到達する順番は誰でも同じ。首すわり→寝返り→座位→つかまり立ち→歩行。段階を飛ばさない
  2. 方向性…頭尾方向・近位遠位方向など一定の向きをもつ(1-3)
  3. 連続性(速度は不均一)…発達は連続するが速さは一定でない。発育急進期は乳児期と思春期の2回
  4. 個人差…順序は共通でも、到達する時期・速度には幅がある。「遅い=異常」ではない
  5. 相互関連性(分化と統合)…運動・認知・言語・情緒は独立でなく影響しあう。全体的な動きから個別の機能へ分化し、それが統合されて協調運動になる

臨界期の存在(1-5)を加えて6原則とすることもある。「発達は個人差があるので順序も入れ替わる」は誤り——入れ替わるのは時期であって順序ではない

1-3 発達の方向性——4つの向き

向き内容具体例
頭尾方向頭側→尾側へ定頸(3〜4か月)→座位→歩行。首が据わる前に立つことはない
近位遠位方向体幹・中枢→末梢へ肩・肘の制御→手関節→手指のつまみ。体幹が安定して初めて手先が使える
粗大→微細大きな動き→細かい動き腕全体でつかむ→母指と示指でつまむ
全体→特殊(分化)未分化な全身反応→部分的・目的的な運動新生児の全身のばたつき→リーチング

理学療法の治療展開もこの向きに従う。近位(体幹)の安定なしに遠位(手指)の巧緻性は出ない——姿勢制御を先に整えるのはこの原理による。

1-4 遺伝と環境——学説の整理

主張キーワード
成熟優位説発達は主に内的な成熟で決まる。成熟前の訓練は無効レディネス、双生児の階段のぼり実験
環境優位説経験・学習がすべてを決める(行動主義)条件づけ
輻輳説遺伝と環境が加算的に働く足し算モデル
環境閾値説特性ごとに、発現に必要な環境の水準(閾値)が異なる身長・発語=閾値が低く劣悪な環境でも現れる/絶対音感・外国語の発音=閾値が高く恵まれた環境が要る
相互作用説遺伝と環境が互いに影響しあう。現在の主流掛け算モデル

1-5 臨界期・敏感期とレディネス

  • 臨界期(critical period)…その時期を逃すと獲得が著しく困難になる限られた期間。刻印づけ(インプリンティング)が原型
  • 敏感期(sensitive period)…臨界期より緩やかな概念。ヒトでは境界が明確でないため、こちらの語を使うことが多い
  • レディネス(準備性)…学習が効果的に成立する心身の準備状態。整う前に訓練しても効果が乏しい
  • 胎生期の臨界期=胎芽期(受精〜8週)が器官形成期で催奇形因子に最も脆弱
  • 視覚の臨界期=生後数か月〜数年。先天白内障・斜視を放置すると弱視が固定するため早期治療が原則

言語獲得の臨界期は「3歳ころ」ではない。一般に思春期(青年期)ころまでとされる。3歳・6歳といった数字を臨界期として選ばせる誤答肢が頻出。

1-6 発達段階の区分と法令上の定義

段階年齢備考
胎芽期受精〜8週器官形成期。催奇形性が最大
胎児期8週〜出生器官の成長・機能成熟
新生児期生後28日(4週)未満うち生後7日未満=早期新生児期
乳児期28日〜1歳未満母子保健法では「1歳に満たない者」=乳児
幼児期1歳〜就学前(約6歳)母子保健法では「小学校就学の始期に達するまで」
学童期6〜12歳
青年期12歳〜20代前半思春期を含む
成人期20代〜65歳
老年期65歳以上65〜74=前期高齢者、75〜=後期高齢者

低出生体重児=2,500g未満/極低出生体重児=1,500g未満/超低出生体重児=1,000g未満。早産児は修正月齢(出産予定日から数えた月齢)で発達を評価するのが原則。

1-7 身体発育の指標

指標出生時その後の目安
体重約3.0kg3〜4か月で2倍、1歳で3倍、3〜4歳で4倍
身長約50cm1歳で1.5倍(75cm)、4〜5歳で2倍(100cm)
頭囲・胸囲頭囲33cm胸囲32cm1歳ころに等しくなり、以後は胸囲>頭囲
大泉門開いている1歳〜1歳半(〜2歳)で閉鎖。膨隆=頭蓋内圧亢進、陥没=脱水
小泉門ごく小さい生後まもなく〜6週で閉鎖
乳歯なし6〜8か月に下顎乳中切歯から萌出、2〜3歳で20本そろう。永久歯は6歳ころから計32本
頭身4頭身2歳5頭身、6歳6頭身、成人7〜8頭身

スキャモンの発育曲線(20歳を100%とした比率)

器官パターン
神経型脳・脊髄・頭囲・感覚器最も早い。4〜6歳で成人の80〜90%、12歳でほぼ100%
リンパ型胸腺・扁桃・リンパ節12歳ころに成人の約2倍(190%前後)まで達し、その後低下する
一般型身長・体重・骨格・筋・呼吸器・消化器S字型。乳児期と思春期の2回急伸
生殖型精巣・卵巣・子宮思春期以降に急増

体格指数は年齢で使い分ける。乳幼児=カウプ指数〔体重(g)÷身長(cm)の2乗×10、正常15〜18〕/学童=ローレル指数〔体重(kg)÷身長(cm)の3乗×10の7乗、標準115〜145、160以上で肥満〕/成人=BMI。

1-8 領域別マイルストーン早見

月齢・年齢粗大運動微細運動言語社会性
0〜2か月腹臥位で頭を少し挙上把握反射叫喚・クーイング生理的微笑
3〜4か月定頸(首すわり)180度追視、正中位で手を合わせるクーイング盛ん社会的微笑
5〜6か月寝返り手掌全体でつかむ(尺側把握)喃語(6か月ころ)親の顔を見分ける
7〜8か月支えなし座位熊手状把握、持ち替え反復喃語(ばばば)人見知り
9〜10か月四つ這い、つかまり立ち母指と示指の指腹つまみ言語的意味理解(10か月ころ)指さし・共同注意、分離不安
12か月伝い歩き〜独歩ピンセットつまみ、なぐり書き初語(有意味語)=1歳前後後追い
2歳走る、階段を2足1段積木6個、円をまねる二語文=2歳前後平行遊び
3歳片足立ち、三輪車円を模写多語文、氏名が言える連合遊び
4〜5歳片足跳び(4歳)、スキップ(5歳)四角(4歳)・三角(5歳)の模写会話が成立協同遊び、ルール遊び

言語発達の骨格はクーイング2〜3か月→喃語6か月→言葉の理解10か月→初語1歳→二語文2歳→多語文3歳理解(受容)が表出(発語)に先行するのが大原則。

数字を1段ずらした誤答肢が定番。「有意味語は8か月」は誤り→1歳前後(8か月はまだ喃語の段階)。「二語文は1歳」は誤り→2歳前後(1歳は一語文)。「言語獲得の臨界期は3歳」は誤り→思春期ころまで

1-9 発達理論の全体地図

領域理論段階・要点
認知ピアジェ感覚運動期(0〜2歳)→前操作期(2〜7歳)→具体的操作期(7〜11歳)→形式的操作期(11歳〜)
心理社会エリクソン(8段階)乳児期=基本的信頼/幼児前期=自律性/幼児後期=自主性/学童期=勤勉性/青年期=同一性(アイデンティティ)/成人前期=親密性/成人期=生殖性/老年期=統合性
心理性的フロイト口唇期→肛門期→男根期→潜伏期→性器期
発達課題ハヴィガースト各期に達成すべき課題を設定。達成が次の段階の土台になる
愛着ボウルビィアタッチメント(愛着)の形成。分離不安・人見知りは愛着成立の指標

詳細は認知=第4章、青年期以降=第5・6章で扱う。ここでは「誰が・何の発達を・いくつの段階で説明したか」の対応だけ固める。

1-10 定型発達からの逸脱をどう見るか

基礎で押さえるのは「順序が崩れる」「時期が大きく遅れる」「筋緊張が定型と違う」の3点。とくに乳児期の姿勢は筋緊張を映す鏡で、姿勢を見ただけで低緊張か亢進かを判断させる出題がある。

姿勢筋緊張代表的な背景
蛙肢位(frog-leg position)…仰臥位で股関節が外転・外旋し、膝が屈曲して両下肢が床につく低緊張Down症候群の乳児期前半、その他の筋緊張低下症候群
はさみ肢位(scissoring)…股関節内転・内旋、尖足で下肢が交叉亢進(痙直)痙直型脳性麻痺(両麻痺)
後弓反張…体幹・頸部が強く伸展して反り返る亢進(伸展優位)アテトーゼ型脳性麻痺、重度の中枢障害
非対称な姿勢…左右で肢位・動きが違う左右差片麻痺、分娩麻痺
  • Down症候群の乳児期前半は筋緊張低下(hypotonia)が著明。頸部・体幹の支持性が弱く、定頸をはじめ運動発達のマイルストーンが全体に遅れる
  • 低緊張では関節可動域が過大になり、環軸椎不安定性にも注意が要る
  • 順序は保たれたまま時期だけが遅れるのが染色体異常などの典型。順序そのものが崩れる場合は中枢神経の異常を疑う

この章の最頻出は①発達の方向(頭尾・近位遠位)②臨界期の期間③マイルストーンの月齢④スキャモン4型の対応。数字は「1段ずらし」で誤答肢が作られるので、隣の段階の値もセットで覚える。