第1章|変形性関節症の評価と保存療法

変形性関節症・人工関節 第1章

1-1 画像所見と鑑別(股関節・膝関節・手指)

変形性関節症(OA)は関節軟骨の摩耗と、それに対する骨の増殖性変化(骨棘・骨硬化)が主体。画像問題では「OAの所見か、別の疾患の所見か」を見分ける。

変形性関節症のエックス線所見

所見意味
関節裂隙の狭小化軟骨の摩耗。膝OAの重症度判定の中心。末期では裂隙が消失し骨同士が接する
骨棘形成関節縁・顆間隆起などに骨性の突出。軟骨摩耗に対する増殖性変化
軟骨下骨の硬化荷重部の骨が白く厚く写る
骨囊胞(骨のう胞)骨頭・臼蓋・脛骨内の境界明瞭な透亮像
臼蓋底の肥厚(股関節)荷重ストレスに対する反応性の肥厚
内反変形(膝関節)日本人の膝OAは内側型(内反膝・O脚)が多い。内側の裂隙が狭くなる

骨融解像(骨が虫食い状に抜ける)・骨萎縮・骨びらんは関節リウマチ・骨腫瘍・骨髄炎などの所見で、OAの所見ではない。OAは「減る(裂隙)」と「増える(骨棘・硬化)」が同時に起こる病気と覚える。

Kellgren-Lawrence分類(膝OAの重症度)

グレード所見
I骨棘の疑い
II明らかな骨棘・軽度の裂隙狭小化
III中等度の裂隙狭小化・骨硬化
IV裂隙の消失・著明な変形

変形性股関節症と大腿骨頭壊死症の見分け方

所見変形性股関節症大腿骨頭壊死症(特発性骨壊死)
関節裂隙早期から狭小化進行するまで保たれる
骨頭の形球形が保たれやすい圧潰・陥凹
特徴的な所見骨棘・骨硬化・骨囊胞・臼蓋底の肥厚帯状硬化像(band sclerosis)・crescent sign
背景臼蓋形成不全による二次性が大半・女性に多いステロイド・アルコールなど

膝の特発性骨壊死は大腿骨内顆に限局した透亮像・関節面の陥凹が特徴。裂隙狭小化と骨棘が主体ならOAと読む。

手指のOA:Heberden結節とBouchard結節

名称部位疾患
Heberden結節DIP関節(遠位指節間関節)変形性指関節症(中高年女性に多い)
Bouchard結節PIP関節(近位指節間関節)変形性指関節症
(参考)尺側偏位・スワンネック変形MP関節・PIP関節が中心関節リウマチ

Heberden=端(はし)=DIP、Bouchard=その手前のPIP。MP関節は関節リウマチの好発部位で、OAの結節の部位ではない。

1-2 評価と跛行・歩行の特徴

変形性股関節症の評価の柱

  • 筋力(とくに中殿筋)・関節可動域(屈曲拘縮・外転制限)・疼痛(安静時痛・荷重時痛)・形態計測(脚長差・周径)
  • 関節破壊で脚長差が生じやすく、跛行の原因評価に形態計測が要る
  • 反射検査などの神経学的検査は、神経疾患の合併が無ければ優先度は低い

中殿筋の筋力低下でみられる跛行

名称現れ方
Trendelenburg徴候立脚側の中殿筋が弱く、遊脚側の骨盤が下がる
Duchenne歩行立脚期に体幹を立脚側(弱い側)へ傾けて代償する

Duchenne歩行の原因は中殿筋の筋力低下に加え、疼痛・可動域制限・脚長差。術前評価では筋力・ROM・疼痛・形態計測をそろえる。

ROM表の読み方と歩行への影響

  • ROM表のマイナス表記は「中間位(0°)まで戻らない=反対方向の拘縮」。内転−10°=10°の外転拘縮、伸展−20°=屈曲拘縮
  • 歩隔=左右の間隔/歩幅=前後の距離。内外転方向の制限は歩隔に、屈曲・伸展方向の制限は歩幅に効く
  • 外転拘縮では下肢が外転位のまま接地するため歩隔が増加する。患側立脚期は重心を支持側へ移すため体幹は患側(立脚側)へ側屈し、反対側の立脚期には反対側の股関節が内転を強いられる
  • 快適歩行に要る股関節ROMの目安は屈曲30°・伸展10°程度。これを満たしていれば歩幅は保たれる

内転「−10°」を「内転が10°しか無い」と読むと外れる。マイナスは中間位に届かないという意味。

内側型(内反型)変形性膝関節症の歩行

所見内容
外側スラスト(lateral thrust)立脚初期に膝が急に外側へ揺れる。内反型膝OAのキーワード
立脚側への体幹傾斜床反力ベクトルを膝関節中心に近づけて内反モーメントと痛みを減らす代償
歩行速度の低下疼痛回避で歩幅が減り、股関節伸展角度・骨盤回旋は小さくなる。推進力=床反力前後成分は小さくなる
両脚支持期患側への荷重を避けるため延長する

膝OAは疼痛と関節液貯留で屈曲拘縮を生じやすく、反張膝は起こりにくい(反張膝は片麻痺や大腿四頭筋麻痺)。分回しは片麻痺、遊脚側骨盤の下制は中殿筋筋力低下(股OAなど)の所見。

歩行周期と大腿直筋

床反力垂直分力は二峰性(第1ピーク=荷重応答期付近、第2ピーク=立脚終期付近)。大腿直筋は股関節屈曲+膝伸展の二関節筋で、荷重応答期(膝屈曲を遠心性に制動)と立脚終期〜前遊脚期(股関節屈曲で振り出しの準備)の二相で活動する。立脚中期の谷では主活動相ではない。

1-3 運動療法の原則:荷重を減らして筋力を上げる

荷重関節のOAでは「関節にかかる荷重を減らしながら、筋力・持久力・柔軟性を上げる」。筋力増強の手段を選ぶときは、負荷の大きさより先に荷重下か非荷重下かを見る。

変形性股関節症(荷重時痛・肥満合併)

適切な例避ける例
水中歩行(浮力で荷重軽減)
自転車エルゴメーター(座位で荷重が小さい)
背臥位など非荷重位でのストレッチ
杖を用いた歩行練習
中殿筋の強化
減量
階段昇降による筋力増強(片脚支持で関節反力が体重の数倍)
ジャンプ・ジョギング・荷重下の高負荷運動
長距離歩行
深いしゃがみ込み・正座など和式生活

「筋力低下がある→階段昇降で鍛える」は短絡。荷重時痛があり肥満(BMI 25以上)を伴う例では、痛みの増悪と関節破壊の進行を招く。

内反型変形性膝関節症

  • Mikulicz線(大腿骨頭中心と足関節中心を結ぶ荷重線)が膝関節中心より内側を通る=内反(内側型)、外側を通る=外反(外側型)
  • 介入の軸は内側コンパートメントの荷重を減らすこと
運動判断
大腿四頭筋の抵抗運動(端座位で重錘を付けた膝伸展など)適切:膝OAの中核
パテラセッティング(大腿四頭筋の等尺性収縮)適切:痛みの強い時期でも行える
膝伸展方向へのストレッチ適切:伸展制限(屈曲拘縮)の残存は内側への荷重集中を助長する
ハムストリングスの抵抗運動適切:膝周囲筋のバランス
両膝でボールを挟む股関節内転筋の運動内反膝では避ける:内反モーメントを増やし内側の関節裂隙への圧を高める

1-4 装具・杖・生活指導

足底板(ウェッジソール)

変形足底板理屈
内反膝(O脚)・内側型膝OA外側ウェッジソール(外側が高い楔状足底板)膝を外反方向へ矯正し、内側コンパートメントの荷重を減らす
外反膝(X脚)内側ウェッジソール膝を内反方向へ矯正

内反膝に内側ウェッジは内反を強めて逆効果。また内反を矯正する手術(高位脛骨骨切り術)の後は荷重がすでに外側へ移っており、外側を高くした足底板は適応にならない(2-3)。

まぎらわしい靴の補正(代表例)

名称目的
ロッカーバー靴底を舟底状にして踏み返しを助ける。中足趾節関節の痛み・前足部の免荷
メタタルザルバー中足骨頭部の免荷
トーマスヒール踵の内側を前方へ延長。扁平足(回内足)の矯正
逆トーマスヒール踵の外側を延長。凹足・内反足

いずれも膝の内反を矯正する働きは無い。トーマスヒールは股関節の装具ではなく、Thomasテスト(股関節屈曲拘縮の検査)とは別物。

杖と生活指導

  • 杖は患側と反対側の手に持つ(股OA・膝OAとも)。患側への荷重を減らす
  • 体重管理(減量)
  • 和式生活を避ける:深いしゃがみ込み・正座・横座り・低い椅子・和式トイレ。座面の高い椅子・洋式トイレ・ベッドへ

杖の持ち手、足底板の向き、避ける運動、生活様式は「痛い関節の荷重を減らす方向か」で判断できるものが多い。これと並ぶもう一つの柱が筋力増強(大腿四頭筋など)・可動域の改善・バランス練習で、荷重を減らさない運動療法も保存療法の中核に入る。