第2章|人工関節・骨切り術後の理学療法

変形性関節症・人工関節 第2章

2-1 人工股関節全置換術(THA):脱臼肢位と術後早期の進め方

THA後の理学療法の核心は脱臼予防と早期離床の両立。脱臼肢位は進入法(アプローチ)で正反対になるので、症例文の進入法を最初に確認する。

進入法切離する組織脱臼肢位避ける動作の例
後方・後外側(後側方)(出題の大半)後方関節包・外旋筋群屈曲+内転+内旋深いしゃがみ込み・深いお辞儀・脚を組む・横座り・低い椅子・和式トイレ・前かがみで床の物を拾う・前かがみで靴下を履く・前かがみで足の爪を切る
前方・前外側(前側方)前方関節包伸展+内転+外旋立位で患側を外へひねる・腹臥位で脚を後ろへ反らす・後ろの物を取る

後方進入では内旋方向の可動域練習・内旋位での立ち上がりは脱臼肢位へ誘導する行為で行わない。股関節屈曲は90°以内が目安。

術後早期のプログラム(後方進入の例)

内容判断
術後翌日から等尺性筋力増強(大腿四頭筋セッティング・大殿筋・中殿筋)正しい。関節運動を伴わず脱臼リスクが低い
中殿筋の筋力強化(術後数日)正しい。内転・内旋を伴わない範囲で
早期離床・翌日から起立・歩行練習正しい
術後早期から部分荷重〜全荷重の歩行練習正しい(セメント・セメントレスとも早期荷重が一般的)
創治癒後の水中歩行正しい。浮力で荷重を減らせる
術後3日間のベッド上安静誤り。深部静脈血栓症・廃用を招く
術後3週間の免荷誤り。過度で廃用を招く
術後2週は45°以上屈曲しない誤り。制限が過度。注意するのは90°を超える過屈曲

「安静」「長期免荷」「極端な角度制限」は、慎重そうに見えて誤りになる型。THAは早期離床・早期筋力増強・早期荷重が基本で、術後早期の制限の中心は脱臼肢位。骨移植・骨切りの併用など術式によっては荷重や運動の制限が加わることがあり、創治癒前の水中歩行も行わない。長期的には走る・跳ぶなど衝撃の大きい運動は避ける。

2-2 THA後のADL指導と評価の工夫

ADL指導(後方進入)

場面適切な方法避ける方法
靴下の着脱ソックスエイドなどの自助具を使う/過屈曲・内転内旋をとらない肢位で行う(股関節を外転・外旋させて外側から履く)椅子上で深く前屈/患側の大腿を健側の脚の上に組む(屈曲+内転+内旋)/長座位で深く前屈して足を引き寄せる
床の物を拾うリーチャーを使い座ったまま拾う体幹を深く前屈して拾う
座る座面の高い椅子・洋式トイレ・ベッド低い椅子・ソファ(膝が股関節より高くなり過屈曲)・和式の座位
床上の姿勢腹臥位:股関節を伸展位に保ち、屈曲拘縮の予防になる横座り(お姉さん座り):屈曲+内転+内旋/膝を深く曲げて前屈する姿勢
就寝外転枕—

後方進入は「深く曲げない・内側に交差させない・内にひねらない」の3点で判断する。腹臥位は後方進入では安全な姿勢。前方進入では伸展が脱臼方向に含まれるので、腹臥位で脚を後ろへ反らす動作は避ける。

THA後の評価:中殿筋の徒手筋力テスト(Daniels)

  • 段階3以上は側臥位・検査側を上。骨盤が回旋・挙上しないよう固定する(計測姿勢によらず必須)
  • 下肢は回旋中間位・軽度伸展位で外転。外旋位にすると股関節屈筋(腸腰筋・縫工筋など)による代償が入り、純粋な外転の評価にならない。股関節の屈曲を許すと大腿筋膜張筋も代償に加わる
  • 抵抗は大腿遠位(膝の直上)外側に加える。足関節に加えるとテコが長くなる
  • 段階5=最大抵抗に抗して保持、段階4=中等度の抵抗に抗して保持、段階3=抵抗なしで全可動域、段階2以下=背臥位

術後の症例では、教科書どおりの肢位がそのまま使えないことがある。健側の中殿筋を測ると術側が下になる(創部の圧迫・痛み)。下側の術側股関節を屈曲させて安定させる手技は、後方進入では屈曲+内転+内旋に近づく。症例文の術側・術後日数・進入法を必ず確かめる。

2-3 人工膝関節全置換術(TKA)・高位脛骨骨切り術(HTO)後の理学療法

TKA後の標準的な進め方(時期は施設により前後する)

時期内容
当日〜翌日足関節の自動底背屈運動(足関節ポンプ)=深部静脈血栓症の予防/大腿四頭筋セッティング
1〜3日膝関節可動域練習(CPM併用)・離床・車椅子移乗
3〜7日荷重開始(セメント固定なら全荷重可)・平行棒内歩行
2週前後歩行器・杖歩行・階段昇降・退院
退院後屋外での杖の継続使用(転倒予防・人工関節への負荷軽減)

足関節の自動運動は術直後から。「術後7日目から開始」は遅すぎて誤り。TKA後の主な合併症は深部静脈血栓症・感染・ゆるみ。

CPM(持続的他動運動)装置

  • 目的は関節可動域の維持・改善。他動運動なので筋力増強が目的ではない
  • 疼痛・腫脹に応じて屈曲角度を徐々に大きくする
  • ゆっくりした速度で行う(速い運動は痛み・組織損傷を招く)
  • 患者は力を入れずに装置に任せる。動きに抵抗しない
  • アーム長は患者の肢長に合わせて調整する

高位脛骨骨切り術(HTO)

  • 内側型膝OAに対し、荷重軸を外側へ移す関節温存術。エックス線では脛骨近位の骨切り部と固定材が目印。内側開大式では脛骨近位内側のプレート固定(外側閉鎖式では外側に固定材が入る)
  • 術後は早期からの関節可動域練習・大腿四頭筋の筋力増強+段階的な部分荷重
  • 骨癒合まで完全免荷・2週間安静の後に可動域練習は誤り。抜釘はスポーツ復帰の必須条件ではない
  • 術後に外側を高くした足底板は使わない(荷重はすでに外側へ移されている)
  • 骨癒合の促進で最も優先度が高いのは低出力超音波(LIPUS)。電気刺激・電磁場(電磁波)刺激にも骨癒合促進の報告はあるが、根拠はLIPUSより弱く優先度は低い。温熱・牽引は骨癒合を促す手段ではない

2-4 リスク管理:深部静脈血栓症と物理療法の禁忌

深部静脈血栓症(DVT):予防と発症後で対応が逆

段階対応
予防(発症前)足関節の自動底背屈(足関節ポンプ)・早期離床・弾性ストッキング・間欠的空気圧迫法
発症直後患側の運動・マッサージは行わない(血栓が遊離して肺血栓塞栓症を起こす危険)。抗凝固療法が確立するまで、理学療法は健側下肢と上肢に限る
  • 発症後に適切:健側の膝自動屈伸・健側の大腿四頭筋の筋力増強
  • 発症後に不適切:患側の他動屈伸・患側のSLR・「両」足関節の底背屈(患側が含まれる)
  • 疑う所見:Homans徴候(膝伸展位で足関節を背屈するとふくらはぎが痛む)・下腿の腫脹・熱感・左右の周径差
  • 突然の呼吸困難・胸痛・SpO2低下=肺血栓塞栓症を疑い、直ちに中止して医師へ報告

足関節ポンプは予防には第一選択だが、発症後の患側には行わない。「両側」の文字に患側が含まれていないかを見る。

人工関節(体内金属)と物理療法

物理療法体内金属がある部位
超短波・極超短波(マイクロ波)=ジアテルミー禁忌:高周波電磁波が金属に渦電流を生じ、局所が異常発熱して熱傷を起こす
ホットパック・パラフィン浴・赤外線・渦流浴使える(伝導熱・輻射熱・温水)
超音波使える。体内金属は原則禁忌ではない(インプラント直上は避け、周囲の軟部組織に当てる)。深部の伸張性改善に有効
低周波電気刺激(TENS・NMES)使える(創部・電極直下の皮膚状態に注意)

人工関節・骨接合材料が入った部位に超短波・極超短波は禁忌。心臓ペースメーカーがある場合は、これに加えて電気刺激療法も禁忌になる。

TKA後の屈曲拘縮と痛みには、表在温熱や超音波で温めてから伸ばす(温熱の直後に可動域練習・ストレッチ)。

2-5 ADLの点数化と術前の関わり

FIM(機能的自立度評価法)

  • 18項目×7点=126点満点(最低18点)
  • 7点=完全自立、6点=修正自立(補助具の使用・時間がかかる・安全性への配慮が要る)。手助けや見守りが入ると5点以下
  • 例:杖を使って自立している項目が2つ、他はすべて補助具なしで自立 → 126−1×2=124点

杖・装具を使っても、介助・見守り・準備が要らず自分でできれば6点(修正自立)。補助具使用で「2点減」と数えない。

手術を控えた患者への対応

  • 不安の訴えには、まず気持ちを受け止める(受容・共感・傾聴)。感情をことばにして返す応答が基本
  • 避ける応答:安易な保証(「大丈夫」「楽に歩けるようになる」)・飛躍した解釈や決めつけ・励ましや結果の説明だけで済ませる