第1章|評価の流れ・筋緊張・評価尺度

評価・検査 第1章

1-1 理学療法評価の流れ・統合と解釈・記録

理学療法は評価に始まり評価に終わる。流れは情報収集→検査・測定→統合と解釈→問題点抽出→目標設定→治療プログラム立案→再評価。ICF(心身機能・身体構造/活動/参加)の枠組みで整理する。

統合と解釈

  • 各検査結果の意味を考える
  • 検査項目間の関係性を結びつけて全体像を描く
  • 症候障害学的に捉える(症状・障害を病態に基づいて意味づける)
  • 問題点の順序性(原因と結果・優先順位)を考慮する
考察=検査結果の羅列ではない。羅列は統合・解釈といえない → 正しくは、結果を関連づけ意味づけて問題点を導く過程。

SOAP=問題志向型診療記録(POMR)の記載様式

記号意味書く内容
SSubjective(主観的情報)患者の訴え・自覚症状
OObjective(客観的情報)検査・測定値・観察所見
AAssessment(評価)結果の解釈・統合
PPlan(計画)治療プログラム・目標・方針
SOAPのPはPlan。Problemではない。「Sに検査データ」「Oに患者の訴え」「Aにプログラム」「Pに解釈」はすべて入れ替えの誤り。

診療記録の取り扱い

  • 保存期間は5年(1年ではない)
  • 改ざん防止のため鉛筆など消せる筆記具は不可。ボールペン等で記載
  • 診療の都度・遅滞なく記載する(後日まとめて記載は不可)
  • 患者本人は自分の診療記録の開示を請求できる

1-2 筋緊張の異常 — 痙縮・固縮・低緊張

項目痙縮(spasticity)固縮=強剛(rigidity)低緊張(弛緩)
障害部位上位運動ニューロン(錐体路)錐体外路(基底核)下位運動ニューロン・小脳・脊髄ショック期
速度依存性あり(速く動かすほど抵抗が強い)なし(速度に関係なく一様)—
抵抗の性状折りたたみナイフ現象(途中で急に抜ける)鉛管様・歯車様抵抗が乏しい
腱反射亢進・病的反射陽性正常〜軽度亢進減弱〜消失
代表疾患脳卒中・脊髄損傷・痙直型脳性麻痺Parkinson病末梢神経障害・小脳障害

Westphal現象=他動的に関節を動かしたときに急に抵抗(筋の持続収縮)が生じる現象で、Parkinson病の固縮の評価に用いる。Parkinson病の重症度はHoehn&Yahr分類(Ⅰ〜Ⅴ)・UPDRS。

Parkinson病の評価にMASを当てるのは誤り → MASは痙縮の尺度で、固縮の評価には一般的でない。紛らわしい他の徴候・尺度:Beevor徴候=腹直筋の上下の筋力不均衡で臍が偏位(腹筋麻痺・T10レベルの脊髄損傷)/Finkelstein test=de Quervain病(狭窄性腱鞘炎)/SARA=小脳性運動失調の重症度。

生理的に筋緊張が下がるのがレム睡眠。急速眼球運動を伴い、抗重力筋の筋緊張は著しく低下(消失)、脳波は覚醒時に近い低振幅速波、夢を多くみる。ノンレム睡眠は高振幅徐波で脳が休む。周期は約90分で一晩に4〜5回、入眠直後は深いノンレムが多く、レムは睡眠後半(明け方)ほど長くなる。

1-3 痙縮の定量評価 — MASとMTS

MASのグレード所見
0筋緊張の増加なし
1可動域の最終域だけに引っかかり(catch)と消失、または最小の抵抗
1+catchの後、可動域の1/2以下の範囲で軽度の抵抗が続く
2可動域の大部分(ほぼ全範囲)で抵抗が増すが、患部は容易に動かせる
3抵抗が著明に増加し、他動運動が困難
4患部が屈曲位または伸展位で固まり、動かない

判定の鍵は「抵抗が出る範囲」×「動かしやすさ」の2軸。最終域のみ=1/全範囲+容易=2/全範囲+困難=3。範囲だけ、あるいは重さだけで決めると1段ずれる。

MTS〈Modified Tardieu Scale〉は、速度を変えて(ゆっくり/重力に任せる速さ/できるだけ速く)他動伸張し、catchが起こる角度と反応の質で評価する。速度依存性を角度として定量できる点がMASとの違い。MTSも痙縮の尺度であり疼痛尺度ではない。

1-4 まぎらわしい評価尺度の守備範囲

尺度何を測るか
mRS(modified Rankin Scale)脳卒中後の転帰・生活自立度。0=症状なし 〜 5=重度障害(寝たきり・全介助)、6=死亡。「症状なしから死亡まで分類できる尺度」=mRSで決め打ちしてよい
GCS意識レベル。開眼E4・言語V5・運動M6の合計、最良15・最低3
SIAS脳卒中の機能障害を運動・感覚・体幹・視空間など多項目で総合評価
FMA(Fugl-Meyer assessment)片麻痺の運動・感覚・関節可動域/疼痛・バランスを点数化した機能障害の評価
Brunnstrom stage片麻痺の随意運動の回復段階(Ⅰ〜Ⅵ)
MAS/MTS痙縮(筋緊張)
SCP(Scale for Contraversive Pushing)pusher現象を「自発姿勢の傾き・押す動作・修正への抵抗」の3項目で定量評価
SARA小脳性運動失調の重症度
AIS脊髄損傷の完全/不全(A〜E)

pusher現象(プッシャー症候群)=右半球損傷による左片麻痺で多く、非麻痺側の上下肢で座面や床を押して麻痺側へ傾き、正中位への修正に抵抗する。座位・立位のいずれでも出る。この病態を疑ったら最優先の評価はSCP(次いでBLS)。半側空間無視を合併しやすいが両者は別の病態。失語・注意・知能の検査を先に当てるのは優先順位の誤り。

関節リウマチの評価は「何を測るか」で分ける

測るもの指標
機能状態Steinbrockerのclass分類(Ⅰ〜Ⅳ)。身の回りのこと・仕事・余暇の3要素の遂行能力で分類
病期(進行度)Steinbrockerのstage分類(Ⅰ〜Ⅳ)
疾患活動性(病勢)DAS28(28関節の腫脹・圧痛数、血沈/CRP、患者全般評価)
関節破壊(X線)Larsen分類(Grade0〜5)、Sharp score(骨びらん・関節裂隙狭小化の点数化)
(無関係)CMI=心身の自覚症状を問う健康調査票。RAの評価法ではない

1-5 疼痛の評価スケール

尺度方法と適応
VAS両端を「痛みなし」「最悪の痛み」とした10cmの直線上に患者が印をつけ、端からの距離で表す
NRS0(痛みなし)〜10(最悪の痛み)の数値を患者が選ぶ。0を含めて11段階
face scale表情のイラストで選ばせる。数値概念が不要なので小児・高齢者に使いやすい
VRS「なし/軽度/中等度/高度」など言語表現で段階を選ばせる
McGill疼痛質問票強度に加えて痛みの性質(うずく・刺すなど)まで評価できる

NRSでよくある誤り。「10段階で評価する」→ 誤り、0〜10の11段階。「疼痛の性質を評価する」→ 誤り、測るのは強度のみ(性質はMcGill)。「患者間の比較に有効」→ 誤り、主観的で個人差が大きく同一患者の経時変化に用いる。「幼児の疼痛評価に使用される」→ 誤り、数値概念が必要なので幼児にはface scale。尺度水準は間隔の等しさが保証されない順序尺度。

疼痛は主観的指標なので本人申告型のスケールを使う。選択肢に紛れる略語の整理:GCS=意識/mRS=生活自立度/MAS・MTS=痙縮/SLTA=失語/WCST=遂行機能。いずれも疼痛評価ではない。

1-6 高次脳機能検査 — 名称と評価対象

検査評価対象
TMT(Trail Making Test)注意・処理速度・遂行機能。数字を順に結ぶA、数字と仮名を交互に結ぶBがあり、A・Bの差が遂行機能を反映
かなひろいテスト注意(選択的注意)
WCST前頭葉機能・遂行機能・概念形成
BADS遂行機能(日常場面に近い課題)
Stroop test色名と文字の干渉を使う選択的注意・抑制(前頭葉)
Rey-Osterrieth複雑図形検査(ROCFT)複雑な幾何図形の模写と遅延再生で視空間構成能力・視覚性記憶
Rey聴覚性言語学習検査(RAVLT)単語リストの記銘・再生による言語性記憶
Bender gestalt test(BGT)複数の単純な幾何図形カードを模写させる視覚運動構成
Raven色彩マトリックス検査欠けたパターンを選択肢から補充する非言語性知能
WAIS-Ⅳ成人知能
MMSE・HDS-R認知症スクリーニング
SLTA標準失語症検査=失語症

MASを高次脳機能検査の選択肢として選ぶのは誤り → MASは運動系(痙縮)の尺度。図で示された刺激の見分けは、単一の複雑な幾何図形の模写=ROCFT/複数の単純図形カードの模写=BGTで切る。