第2章|反射・感覚・協調性

評価・検査 第2章

2-1 深部腱反射の回路(伸張反射)

深部腱反射=伸張反射であり、脊髄で1回しか乗り換えない単シナプス反射。腱を叩く→筋が急に伸ばされる→筋紡錘が感知→同じ筋が収縮、という経路をたどる。

反射弓の要素深部腱反射での実体
受容器筋紡錘(錘内筋線維)。腱器官ではない
求心路(感覚入力)Ⅰa線維(太い有髄線維)
中枢脊髄。介在ニューロンを挟まない単シナプス
遠心路(運動出力)α運動ニューロン
効果器錘外筋線維(実際に張力を出す筋線維)
  • γ運動ニューロンは錘内筋線維を収縮させ筋紡錘の感度を高める(α-γ連関)。
  • Renshaw細胞はα運動ニューロンの軸索側枝から入力を受け、そのα運動ニューロンを抑制し返す(反回抑制)。
  • Golgi腱器官はⅠb線維で張力を伝え抑制性に働く。伸張反射の受容器と混同しない。

「γ運動ニューロンの興奮により深部腱反射は減弱する」は誤り → γ興奮は筋紡錘の感度を上げてⅠa入力を増やすため、深部腱反射は増強する。

2-2 腱反射の亢進・低下が示すもの

所見障害部位随伴所見
深部腱反射 亢進上位運動ニューロン(錐体路)障害痙縮・折りたたみナイフ現象・クローヌス・病的反射陽性
深部腱反射 低下・消失下位運動ニューロン障害(前角細胞・神経根・神経叢・末梢神経)弛緩性麻痺・筋萎縮・線維束攣縮

主な腱反射の髄節=上腕二頭筋C5〜6・腕橈骨筋C5〜6・上腕三頭筋C7〜8・膝蓋腱L2〜4・アキレス腱S1〜2。

腕神経叢損傷(下位運動ニューロン障害の代表)

型髄節障害される動き・肢位
上位型(Erb麻痺)C5〜C6肩外転・肘屈曲が障害。waiter's tip肢位
下位型(Klumpke麻痺)C8〜T1手内在筋・手指の巧緻運動が障害。鷲手
完全型C5〜T1近位から遠位まで上肢全体の弛緩性麻痺

腕神経叢損傷で「深部腱反射は亢進することが多い」は誤り → 末梢(下位運動ニューロン)障害なので減弱・消失する。「すべての症例で自然回復が期待できる」も誤り → 引き抜き損傷など重度例は自然回復に乏しく神経移行・移植などの手術を要する。「下位型で肘屈曲が障害」「上位型で手指巧緻性が障害」は上下が逆。

2-3 病的反射(Babinski群)と刺激方法

足底系の病的反射は陽性所見がいずれも母趾背屈+他趾開扇、意味はすべて錐体路(上位運動ニューロン)障害。違うのは刺激部位と方向だけで、そこを入れ替える出題が定番。

反射刺激方法
Babinski足底の外側縁を踵からつま先へこする
Chaddock外果の下方〜足背外側を後ろから前へこする
Oppenheim脛骨内縁を上方から下方へこすりおろす
Gordon下腿三頭筋(腓腹筋)を強くつかむ
Schaefferアキレス腱を強くつまむ
Gonda第4趾をつまんで下方へ引っ張り放す

「Chaddock=内果の下方」は誤り → 外果の下方。「Gordon=アキレス腱をつまむ」は誤り → それはSchaefferで、Gordonは腓腹筋を握る。「Schaeffer=足底外縁をこする」も誤り → それはBabinski/Chaddock系。

上肢・手指の病的反射(足部の検査と区別する)

  • Hoffmann反射:中指末節を弾き下げ、他指の屈曲をみる
  • Trömner反射:中指の掌側を下からはじき、他指の屈曲をみる
  • Wartenberg反射:検者と被検者の屈曲した指を引っかけ合う手指の検査

連合反応(片麻痺)の誘発法

名称誘発法と出現する反応
Strümpell現象(前脛骨筋現象)麻痺側の股関節・膝関節の屈曲に抵抗 → 足関節の背屈・内反が出る(屈曲共同運動)
Raimiste現象健側の股関節内転(外転)に抵抗 → 麻痺側にも同じ内転(外転)が出る。上肢では健側の肩内転・外転に抵抗
Marie-Foix反射足趾を強く他動屈曲(底屈) → 股・膝・足の三重屈曲(逃避性屈曲)。伸展させるのではない

Babinski反射は足底の外側縁をこする(踵部への刺激ではない)。脛骨内縁をこするのはOppenheim、外果の下方はChaddock。

2-4 感覚の分類と脊髄内の伝導路

区分内容伝導路
表在感覚触覚・痛覚・温度覚・触圧覚痛覚・温度覚は外側脊髄視床路(脊髄内で交叉し対側を上行)
深部感覚位置覚(関節覚)・運動覚・振動覚後索−内側毛帯路(同側後索を上行し延髄で交叉)
複合感覚(皮質性)2点識別覚・立体覚・書字覚・重量覚頭頂葉皮質での統合を要する
  • 脊髄横断面の位置:後索=後方正中寄り(深部感覚)、外側脊髄視床路=側索の前外側(温痛覚)、外側皮質脊髄路=側索の後外側(運動)、前角=運動、後角=感覚入力の中継。
  • 振動覚・位置覚の異常なら病巣は後索側、温痛覚の異常なら対側の側索と読む。脊髄半側損傷では同側の運動麻痺+同側の深部感覚障害と対側の温痛覚障害が解離する。
  • 後索障害=深部感覚障害ではRomberg徴候が陽性になる。

脊髄横断面の番号を読む

模式図の①〜⑤に部位を当てる形式が出る。灰白質(Hの形)の内側か、白質(外周)のどこかで決める。

図中の位置部位通っているもの
前方(腹側)の灰白質=Hの太い前角前角運動ニューロン(下位運動ニューロン)の細胞体。ここの障害=弛緩性麻痺
後方(背側)の灰白質=Hの細い後角後角感覚入力の中継。温痛覚の二次ニューロンがここで交叉して対側へ渡る
後方正中の白質(左右の後角に挟まれた三角形)後索深部感覚(位置覚・振動覚)。同側を上行
側方の白質の前寄り外側脊髄視床路温痛覚。対側を上行(上行性=感覚)
側方の白質の後寄り(後角のすぐ外)外側皮質脊髄路随意運動。下行性
前方の白質(前正中裂の両脇)前索・前脊髄視床路粗大な触圧覚。前皮質脊髄路も走る

覚え方は「後ろは深部感覚、横の前は温痛覚、横の後ろは運動」。側索に2つ並ぶときは上行(感覚)が前・下行(運動)が後と決まっている。

複合感覚に入るもの・入らないもの

  • 複合感覚(皮質性感覚)は表在感覚と深部感覚を頭頂葉で統合して成り立つ。代表例:2点識別覚・立体覚・書字覚・重量覚・部位覚(定位覚=触れられた部位を指す)。
  • 関節位置覚・運動覚・振動覚は深部感覚(固有感覚)そのもので、複合感覚には入らない。
  • 複合感覚の障害は、表在・深部の一次感覚が保たれているときに初めて皮質の障害と判定できる。

2-5 皮膚の受容器

受容器被膜適刺激
自由神経終末なし侵害刺激(痛覚)・温度覚=唯一の侵害受容器
Meissner小体あり触覚・軽い圧(速順応)
Merkel盤あり圧覚(遅順応)
Pacini小体あり振動・速い圧変化
Ruffini終末あり持続的な圧・皮膚の伸展
毛包受容体あり毛の動き(触刺激)
「侵害受容器はどれか」と問われたら、被膜をもたない自由神経終末を選ぶ。Meissner・Merkel・Pacini・Ruffini・毛包受容体はすべて被膜をもつ機械受容器で侵害受容器ではない。

2-6 感覚検査の器具

器具調べる感覚区分
音叉(128Hzなど)振動覚。内果・外果・橈骨茎状突起など骨突起に当てる深部感覚
筆・綿触覚表在感覚
つまようじ・ピン痛覚表在感覚
試験管(温水・冷水)温度覚表在感覚
モノフィラメント触圧覚の定量(糖尿病足の評価など)表在感覚
ノギス・コンパス2点識別覚複合感覚

深部感覚検査の器具として試験管・つまようじ・モノフィラメント・ノギスを挙げるのは誤り → いずれも表在感覚または複合感覚の器具。器具を使う深部感覚検査は音叉(振動覚)だけで、位置覚・運動覚は関節を他動的に動かして判定する。

感覚検査の判定の注意

  • 感じるかどうかだけでなく反応の速さ・正確さもみる。針刺激で数秒遅れて痛みを感じる=感覚低下(鈍麻)と判定する。
  • 10℃前後の冷水の試験管で「冷たい」と答える=正常反応。
  • 2点識別覚の正常値は部位で大きく違う:指尖が最も小さく、手掌はそれより大きく、背部・大腿は数cm離れても1点に感じることがある。背部で数cmを1点と感じても異常とはいえない(目安:指尖・指腹で数mm、手掌で約1cm、背部・大腿で4〜7cm程度)。
  • 足趾は健常者でもどの趾か区別しにくい。位置覚は「上に動かしたか下に動かしたか」で答えさせる。
  • 耳元で音叉の音が聞こえ、乳様突起に当てると感じない、はRinne試験(聴力検査)の見方で、振動覚検査ではない。振動覚は骨突出部に当てて振動の有無と持続時間をみる。

2-7 深部感覚検査の手技と選び方

手技やり方必要な理解力
関節定位覚(母指探し試験)閉眼で検者が動かした母指を、反対の手で探させる低い=指示が単純
模倣試験検査肢の肢位を、非検査肢で同じ形に作らせる高い(左右対称の概念理解)
再現試験一度とった肢位を記憶し、後で自分で再現させる高い(記憶+指示理解)
運動覚検査閉眼で関節を他動的に動かし、動いた方向を答えさせる中程度(言語応答が必要)
認知症・失語などで口頭での詳細な手順が理解しにくい患者の深部感覚検査は、母指探し試験を選ぶ。模倣試験・再現試験は自動・他動のいずれであっても課題の意図理解や記憶を要し、この条件下では実施が難しい。

2-8 協調運動検査(小脳機能検査)

みたい異常検査
測定障害(dysmetria)・企図振戦指鼻試験・鼻指鼻試験・踵膝試験・示指−耳朶試験・線引き試験
反復拮抗運動障害(dysdiadochokinesis)前腕回内外試験・手回内回外試験
体幹失調・平衡継ぎ足歩行(踵とつま先を接して一直線上を歩く)・Romberg試験・片足立ち検査
設問に「拮抗する運動をすばやく反復」の要素があれば前腕回内外試験。「目標に手を持っていく/距離を合わせる」なら指鼻・踵膝・示指耳朶系(測定障害)。
  • 小脳症状の代表=測定障害・企図振戦・反復拮抗運動障害・断綴性発語・酩酊歩行・眼振・筋緊張低下。
  • 折りたたみナイフ現象=錐体路障害(痙縮)、羽ばたき振戦=肝性脳症など代謝性で、運動失調の所見ではない。

2-9 運動失調の鑑別と眼振

小脳性脊髄性(後索性)前庭性
原因部位小脳・脳幹脊髄後索=深部感覚前庭器・前庭神経
Romberg徴候陰性(閉眼で著変なし)陽性(閉眼で著明に動揺)陽性のことが多い
構音断綴性発語あり正常正常
眼振注視方向性眼振ありなしあり(回転性めまいを伴う)
歩行酩酊歩行・歩隔拡大踵打歩行・足元を見て歩く一側へ偏倚
深部感覚保たれる障害保たれる
Romberg徴候陽性=閉眼で悪化=視覚で代償していた=深部感覚(後索)または前庭の障害。小脳性は視覚代償に依存しないため陰性。これが小脳性と脊髄性を分ける最短の決め手。
眼振の種類性質
視運動性眼振(OKN)生理的。流れる景色を見ると誰でも起こる(緩徐相=対象を追う/急速相=戻る)。「静止した人が動く乗り物を注視」が典型設定
固視微動一点を固視している間つねに生じる微小な眼球運動
注視眼振特定方向を注視して出現。小脳・脳幹障害
頭位眼振頭位変換で出現。良性発作性頭位めまい症など前庭性
回転後眼振回転させ止めた直後に出る前庭性の眼振

2-10 主要な評価スケールの守備範囲

スケール対象含む項目/含まない項目
SIAS脳卒中の機能障害を総合評価麻痺側運動・筋緊張・感覚(触覚と位置覚)・関節可動域・疼痛・体幹・視空間認知・言語+健側機能=非麻痺側の握力と大腿四頭筋筋力/含まない=注視・痛覚・病的反射・膝関節可動域
FMA脳卒中片麻痺専用の運動・感覚・関節機能小脳性運動失調の評価には不適
NIHSS脳卒中急性期の重症度(0〜42点)意識水準・質問・従命、注視、視野、顔面麻痺、上下肢運動、運動失調、感覚、言語、構音障害、消去・無視/含まない=深部腱反射・歩行速度・バランス障害
ASIA脊髄損傷。A(完全)〜E(正常)key muscleで運動レベル+感覚。完全/不全の判定はS4-5の肛門周囲感覚と肛門括約筋の随意収縮/含まない=意識レベル・眼球運動・運動失調・深部腱反射
SARA運動失調の重症度を定量評価小脳失調症例の第一選択
FBS(BBS)バランス・転倒リスク失調のふらつき評価に適する
運動障害対応する評価
運動失調指鼻試験・踵膝試験・回内外試験・SARA
筋力低下徒手筋力テスト(MMT)
片麻痺の回復段階Brunnstrom法ステージ(共同運動→分離運動)
錐体路障害Babinski反射など病的反射・腱反射亢進・痙縮
深部感覚障害Romberg試験

「筋力低下=Brunnstrom法ステージ」は誤り → Brunnstromは片麻痺の回復段階であって筋力評価ではない。「持久力低下=MMT」も誤り → MMTは筋力。「錐体外路障害=Babinski反射」は誤り → Babinskiは錐体路障害の徴候。「錐体路障害=Romberg試験」も誤り → Rombergは深部感覚(後索)障害の検査。