第1章|解剖学総論(用語・組織・骨)

解剖学 第1章

1-1 解剖学の基本用語(正位・面・方向)

解剖学的正位=直立し、顔と足先を前に向け、上肢を体側に下げて手掌を前に向けた姿勢。前腕は回外位で橈骨と尺骨が平行。位置関係はすべてこの姿勢を基準に表す。

区分用語
矢状面(屈曲伸展)/前頭面=前額面(外転内転)/水平面(回旋)
方向近位/遠位(体幹に近い/遠い)、内側/外側(正中に近い/遠い)、腹側(前)/背側(後)、頭側/尾側、浅/深
部位固有前腕=橈側/尺側、下腿=脛側/腓側

解剖学的正位を「手掌を後ろに向ける」とするのは誤り → 手掌は前(回外位)

1-2 発生と三胚葉

胚葉由来する器官
外胚葉神経系全般(神経管→脳・脊髄)、表皮・毛・爪・汗腺。神経堤→末梢神経節・Schwann細胞・メラノサイト・副腎髄質
中胚葉骨・軟骨・結合組織・真皮筋(骨格筋・心筋・平滑筋)血液・血管・心臓、腎・尿管、生殖腺
内胚葉消化管(腸管)の上皮と付属腺(肝・胆・膵)、呼吸器の上皮(気管〜肺胞)、膀胱・尿道の上皮、甲状腺

「中枢神経は内胚葉由来」は誤り → 外胚葉。「血管・筋・骨は内胚葉由来」も誤り → いずれも中胚葉。内胚葉と即答してよいのは腸管・肺・肝膵・膀胱上皮

1-3 4大組織と上皮の種類

基本組織は上皮組織・支持(結合)組織・筋組織・神経組織の4つ。骨・軟骨・血液・脂肪はいずれも支持(結合)組織に属する(細胞間質が豊富)。

上皮の型存在部位
重層扁平上皮表皮・口腔・食道・角膜
単層円柱上皮胃・小腸・大腸の粘膜
移行上皮(尿路上皮)腎盂・尿管・膀胱(伸展で形を変える)
多列線毛上皮鼻腔・気管・気管支
単層扁平上皮肺胞・血管内皮・漿膜(中皮)

「膀胱の粘膜は線毛上皮」は誤り → 移行上皮。線毛上皮は気道

1-4 筋組織の3分類と全身の分布

項目骨格筋心筋平滑筋
横紋ありありなし
多核単核(一部2核)単核
随意性随意不随意不随意
支配体性運動神経洞房結節の自動能で収縮(自律神経は調節のみ)自律神経
特徴介在板のギャップ結合で興奮が細胞間を直接伝わる=機能的合胞体。ミトコンドリアが豊富で好気性代謝が主体

どこが平滑筋でどこが横紋筋か

平滑筋(不随意)横紋筋(随意)
立毛筋(交感神経)、血管壁、気管支、消化管壁、内肛門括約筋内尿道括約筋=膀胱括約筋、瞳孔括約筋、毛様体筋、食道下部外肛門括約筋外尿道括約筋(ともに陰部神経)、横隔膜、食道上部1/3、舌

「立毛筋は横紋筋」→平滑筋。「外肛門括約筋は平滑筋」→横紋筋。心筋の「平滑筋である」「多核である」「運動神経で収縮する」「ATPは嫌気性呼吸で産生」は全部誤り。

1-5 骨の構造 — 緻密骨と海綿骨

項目皮質骨(緻密骨)海綿骨
基本構造オステオン(骨単位)=Havers層板の同心円骨梁(骨小柱)の網目
Havers管・Volkmann管あり(Havers管が縦走し、Volkmann管が直交して横走)なし
存在部位骨幹の外層骨端・椎体・扁平骨の内部
表面を覆う膜外表面=骨膜骨梁表面・髄腔側=骨内膜
  • 髄腔(骨髄腔)は長骨の骨幹にある。手根骨などの短骨には明瞭な髄腔がない
  • 骨膜は血管・神経に富み、骨の栄養・太さの成長・修復・知覚を担う。関節軟骨で覆われる面には骨膜がない
  • 赤色骨髄=造血あり黄色骨髄=脂肪に置換され造血能なし幼小児期は赤色骨髄が主体で、加齢とともに四肢から黄色骨髄へ置き換わる。成人で造血が盛んなのは椎骨・胸骨・腸骨・肋骨

骨の細胞と骨基質

細胞働き
骨芽細胞骨形成(骨基質を産生)。基質に埋まると骨細胞になる
骨細胞骨小腔に収まり、骨基質を維持する成熟細胞
破骨細胞骨吸収(多核・単球マクロファージ系由来)

骨基質=有機成分のⅠ型コラーゲン+無機成分のハイドロキシアパタイト(Ca・P)。皮質骨も海綿骨もコラーゲンを含む。プロテオグリカン(保水成分)が豊富なのは軟骨であって骨ではない。

誤答の定番はこの8つ。すべて誤り。「皮質骨は骨梁から形成される」(骨梁は海綿骨)/「海綿骨にHavers管がある」/「海綿骨の表面は骨膜で覆われる」(骨内膜)/「皮質骨はコラーゲンを含まない」/「骨は軟骨よりプロテオグリカンが豊富」/「骨芽細胞は骨吸収に関与」/「幼児期の骨髄は黄色骨髄」/「短骨には髄腔がある」。

1-6 骨の発生(骨化)と成長

様式過程できる骨
膜性骨化(結合組織性骨化)軟骨を経ず、間葉の結合組織膜内で直接骨が形成される頭蓋冠(前頭骨・頭頂骨)・顔面骨・鎖骨
軟骨内骨化軟骨の鋳型が骨に置き換わる四肢の長骨(上腕骨・大腿骨)・手根骨・足根骨・肋骨・椎骨・骨盤・頭蓋底

骨の長さ(長軸)の成長=骨端軟骨(成長軟骨板)太さ(横径)の成長=骨膜。成長軟骨板は骨端と骨幹端の間にあり、ここで軟骨内骨化が進む。成長終了後は骨端線として閉鎖する。

「骨膜は長軸方向の成長に関わる」は誤り → 長軸は骨端軟骨、骨膜は太さ。膜性骨化を問われて肋骨・上腕骨・大腿骨・手根骨を選ぶのも誤りで、全部軟骨内骨化。鎖骨だけは膜性骨化が主体(両方を含む)。

1-7 軟骨・関節・骨の連結

軟骨の種類存在部位
硝子軟骨関節軟骨・肋軟骨・気管・鼻中隔・成長軟骨板
線維軟骨椎間円板・関節半月・関節唇・恥骨結合
弾性軟骨耳介・喉頭蓋・外耳道
  • 軟骨は血管・神経・リンパ管をもたない。関節軟骨の栄養は滑液からの拡散による
  • 関節面を覆うのは関節軟骨(硝子軟骨)滑膜は関節包の内面を覆って滑液を分泌するもので、関節軟骨の表面は覆わない
  • 不動性連結=線維性(縫合・靱帯結合)/軟骨性(恥骨結合・椎間円板)/骨性癒合。可動性連結=滑膜関節(関節腔・関節包・関節軟骨・滑液をもつ)
  • 自由度3=球関節・臼状関節(肩・股)/自由度2=顆状関節・鞍関節(橈骨手根・母指手根中手)/自由度1=蝶番関節・車軸関節(腕尺・指節間/上橈尺・正中環軸)

「骨の関節面は滑膜で覆われている」は誤り → 関節軟骨。「関節軟骨は弾性軟骨である」も誤り → 硝子軟骨(弾性軟骨は耳介・喉頭蓋)。

1-8 皮膚の構造

中身
表皮重層扁平上皮。深層から基底層・有棘層・顆粒層・(淡明層)・角質層。基底層で細胞が産生される。血管はない
真皮結合組織。血管・神経・感覚受容器(Meissner小体・自由神経終末など)が分布する
皮下組織主に脂肪組織で占められる。断熱・衝撃緩衝
  • 立毛筋=平滑筋(交感神経支配)。毛包に付着して収縮し鳥肌をつくる
  • 汗腺はエクリン腺=手掌・足底を含めほぼ全身に分布・体温調節アポクリン腺=腋窩・外陰部・乳輪に限局

「立毛筋は横紋筋である」は誤り → 平滑筋。一方、表皮に基底層が含まれる・真皮に感覚受容器が分布する・エクリン腺は全身に分布する・皮下組織は脂肪細胞で占められる、はいずれも正しい

1-9 組織の再生能力

分類性質組織
不安定細胞常に分裂=再生能が最も高い骨髄(造血組織)・表皮・消化管上皮
安定細胞必要時(刺激時)に分裂肝細胞・腎尿細管・線維芽細胞・血管内皮
永久細胞ほとんど再生しない神経細胞(中枢)・心筋
  • 再生能力が最も高い組織を問われたら骨髄。造血幹細胞が絶えず分裂している
  • 心筋は障害部が線維化(瘢痕化)する=心筋梗塞が不可逆な理由。横紋筋(骨格筋)も衛星細胞による限定的な再生にとどまる
  • 末梢神経の軸索は限定的に再生するが、中枢神経細胞は再生しない
  • 角膜は上皮は再生するが実質・内皮は限定的で、骨髄ほど旺盛ではない

1-10 体腔・漿膜と消化管の総論

  • 胸腔と腹腔を仕切るのは横隔膜(骨格筋)。縦隔=左右の肺にはさまれた中央部(心臓・大血管・気管・食道)
  • 漿膜=胸膜(肺)・心膜(心臓)・腹膜(腹部臓器)
  • 後腹膜器官(腸間膜をもたない)=十二指腸の大部分・膵・腎・副腎・尿管・上行結腸・下行結腸腸間膜をもつのは空腸・回腸・横行結腸・S状結腸
部位押さえる事実
食道生理的狭窄は3か所=起始部(輪状軟骨部)・気管分岐部(大動脈弓/左主気管支との交差)・横隔膜貫通部。異物と癌の好発部位
筋層は内斜・中輪・外縦の3層の平滑筋(他の消化管は2層で、胃だけ内斜走筋が加わる)
小腸空腸=近位約2/5、回腸=遠位約3/5 → 回腸のほうが長い
肛門内肛門括約筋=平滑筋(不随意)/外肛門括約筋=横紋筋(随意・陰部神経)

「胃の筋層は2層の平滑筋からなる」「空腸は回腸より長い」「十二指腸は腸間膜を有する」「内肛門括約筋は横紋筋からなる」はすべて誤り。

1-11 尿路と排便の総論

項目正しい内容
尿管壁は粘膜・筋層・外膜の3層総腸骨動脈の前方を交差して下行する
膀胱の各部膀胱尖=前上方の先端/膀胱体/膀胱底=後下方膀胱三角は膀胱底にあり、左右の尿管口と内尿道口を結ぶ三角部(腫瘍の好発部位)
内尿道口膀胱の最下部(膀胱頸部)に開く
括約筋内尿道括約筋(膀胱括約筋)=平滑筋・不随意(自律神経)/外尿道括約筋=横紋筋・随意(陰部神経)
男性尿道前立腺部・隔膜部・海綿体部に分かれ、起始部で前立腺を貫く(前立腺肥大で排尿障害)
膀胱粘膜移行上皮(尿路上皮)
  • 蓄尿=交感神経(下腹神経)/排尿=副交感神経(骨盤神経)
  • 便意は便による直腸壁の伸展で生じる(結腸壁ではない)。排便の脊髄中枢は仙髄S2〜S4
  • 食物が胃に入ると胃・大腸反射で大腸の蠕動が亢進し便が直腸へ送られる=食後に便意が起きやすい理由
  • 体幹を前屈(しゃがみ姿勢)すると肛門直腸角は鈍角になり、直腸が直線化して排便しやすくなる

すべて誤り。「排便中枢は腰髄」(→仙髄S2〜4)/「便意は結腸壁の伸展」(→直腸壁)/「前屈で肛門直腸角は鋭角」(→鈍角)/「尿管壁は粘膜と外膜の2層」(→3層)/「膀胱尖に膀胱三角」(→膀胱底)/「内尿道口は膀胱尖部に開く」(→膀胱頸部)。

1-12 肺区域と重力 — 体位ドレナージの解剖学的基礎

体位排痰の原則は痰のある区域を上(重力で気管支へ流れ落ちる向き)にすること。

体位対応する肺区域
座位(やや前傾)上葉 S1(肺尖区)・S2(後上葉区)
背臥位(+骨盤高位)前側 S3(前上葉区)・S8(前肺底区)
側臥位外側 S4・S5(中葉・舌区)、S9(外側肺底区)
腹臥位+骨盤高位背側 S6(上−下葉区)・S10(後肺底区)

側臥位では上側肺(非荷重側)=拡張して含気が多い下側肺(荷重側)=重力で圧迫され含気は少ないが血流は多い。分泌物貯留・無気肺は下側肺に起こりやすい。

CT画像で「最も含気が多い区域はどれか」を問われたら、上側肺/下側肺の二分だけでは足りない。同じ肺のなかにも重力方向の勾配があり、重力に対して最も上=上側肺の最上部にある区域が最も拡張する。逆に、縦隔に接する部分は気管支・血管影が主体で含気の評価対象にならない。左側臥位なら「左肺=下側」で右肺の肢だけに絞り、そのうち画像上いちばん高い位置の区域を採る。

「腹側にあるほうが含気が多い」と覚えるのは誤り。側臥位で重力がかかる向きは左右方向(上側肺→下側肺)なので、腹側か背側かは含気の多寡を決めない。実際の出題図でも、腹側の胸壁寄りにある区域より、上側肺の頂上にあたる区域のほうが高い位置にくる(腹側という理由だけで選ぶと外す)。判定は①図の「右/左」表示と体位から、どちらの肺が上側(非荷重側)かを決める → ②その肺のなかで最も高い位置にある区域を採るの2手順だけで行う。