第2章|部位別のMMTと脊髄損傷

徒手筋力テスト 第2章

2-1 頸部・体幹のMMT

頸部屈曲

  • 肢位=背臥位、上肢は体側に置く
  • 評価対象は深部の頸部屈筋群(頸長筋・前頭直筋など)。浅層の広頸筋による代償を抑制して測る。胸鎖乳突筋が優位だと下顎が前に突き出る
  • 抵抗は前額部に2本の指で加える。段階5は中等度の抵抗に抗して保持できることで判定する
  • 段階2は側臥位で頭部を支持した重力除去位で全可動域を動かせるかでみる

「上位頸椎の運動を測定する」は誤り → 下顎を引いた状態で頸椎全体の屈曲をみる。「両腕を胸の前で組ませて行う」は誤り → 体幹屈曲の代償が入るので上肢は体側。「段階2は下顎を頸部に引き付ける運動で判断する」は誤り → 段階2の基準はあくまで重力除去位での全可動域。

体幹屈曲・体幹回旋(腹筋群)

腹筋群は抵抗を手で加えず、上肢の肢位で負荷量を変えて段階を分けるのが特徴。

上肢の位置完了できたときの段階
手を体側に置く段階3
腕を胸の前で組む段階4
手を頭の後ろで組む段階5
  • 背臥位からのカールアップで肩甲骨下角が台から離れれば、抗重力位で全可動域を完了したことになる。抵抗を加えていない(手は体側)なら判断できる最も低い段階は段階3
  • 段階2は肩甲骨上部(胸郭)が離れる程度、段階1は頭部のみの挙上または腹壁の収縮触知
  • 体幹回旋は外腹斜筋=反対側への回旋/内腹斜筋=同側への回旋。したがって左回旋=右外腹斜筋+左内腹斜筋(右回旋=左外腹斜筋+右内腹斜筋)のペアで働く。検査者は反対側の骨盤を固定する

体幹伸展の固定法と大殿筋

体幹伸展(段階3以上)は腹臥位で、骨盤・下肢を固定して行う。下肢(大腿)を押さえた固定では伸展が小さく、骨盤を直接押さえると伸展が大きくなるなら、大腿と骨盤をつなぎとめる股関節伸展筋=大殿筋の筋力低下と読む。可動域制限なら固定法を変えても同じ制限が出るので区別できる。

2-2 中殿筋のMMTと片脚立位からの推定

項目正しい手順
肢位検査側を上にした側臥位。検査側下肢は伸展位・回旋中間位で外転させる
固定骨盤が回旋・挙上しないように固定する
抵抗大腿遠位外側(膝の直上)に加える
段階4=中等度の抵抗に抗して全可動域保持/5=最大抵抗に抗して保持
非検査側下側の下肢は安定のため軽度屈曲させてよい
段階2背臥位で水平面の外転(重力除去位)

検査側を外旋位にするのは誤り → 股屈筋群・大腿筋膜張筋の関与が増して純粋な外転にならない。回旋中間位で行う。抵抗を足関節に加えるのも誤り → テコが長くなり誤差が大きい。大腿遠位に加える。骨盤挙上・股関節屈曲外旋はいずれも代償のサイン。

「側臥位で行う」こと自体は正しい記述だが、適切な測定を1つ選ぶ設問では代償を排除する骨盤固定が核心になる。正しい記述が複数並ぶときは「その検査の精度を決めている条件」を選ぶ。

片脚立位から段階3以上を推定する

  • 片脚立位を数秒保持できる=立脚側の股関節外転筋(中殿筋)が骨盤を水平に保っている=抗重力位で全可動域を制御できている=段階3以上
  • 挙げている側の股関節屈曲・足関節背屈や、腰に当てた上肢は重力に抗して保持する課題になっていないので段階を推定できない。図問題では「どの関節がどの向きの重力負荷に抗しているか」だけを見る
  • 中殿筋が弱いと遊脚側の骨盤が下制する=Trendelenburg徴候

2-3 脊髄損傷のkey muscleとAIS/過用性筋力低下

髄節key muscle髄節key muscle
C5肘屈筋(上腕二頭筋)L2股屈筋(腸腰筋)
C6手関節背屈筋L3膝伸筋(大腿四頭筋)
C7肘伸筋(上腕三頭筋)L4足背屈筋(前脛骨筋)
C8中指末節屈筋L5長母趾伸筋
T1小指外転筋S1足底屈筋(下腿三頭筋)
AIS判定基準
A(完全)S4-5の運動・感覚がすべて消失
B(感覚不全)S4-5の感覚が残存し、運動は完全麻痺
C(運動不全)損傷高位より下の主要筋の半数以上がMMT3未満
D(運動不全)損傷高位より下の主要筋の半数以上がMMT3以上
E運動・感覚とも正常

完全か不全かの決め手はS4-5(肛門)が残っているかの一点。①肛門の随意収縮 ②肛門深部圧覚 ③S4-5の感覚 —— 3つすべて消失=A、ひとつでも残れば不全。感覚の目印では乳頭部=T4、剣状突起=T6、臍=T10。

過用性筋力低下とポストポリオ症候群

  • ポリオ罹患から数十年を経た中高年で、新たな筋力低下・易疲労・疼痛を生じる
  • 疼痛(筋肉痛・関節痛)は高頻度に伴う。「疼痛は少ない」は誤り
  • 前角細胞の脱落と側枝発芽の破綻により、罹患筋の運動単位数は減少する
  • 一見健常にみえた非麻痺側にも新たな筋力低下が起こりうる

MMT3レベル以下の新たな筋力低下に筋力増強運動を行うのは誤り → 過用性筋力低下(オーバーユース)を招く。負荷量の管理・エネルギー保存・補装具の活用が原則。