第1章|段階定義と検査の原則

徒手筋力テスト 第1章

1-1 MMTの段階定義 — 0〜5の6段階

徒手筋力検査(MMT)は重力と徒手抵抗を操作して筋力を0〜5の6段階で判定する。段階の定義そのものが繰り返し問われる。

段階呼称判定基準
5Normal最大抵抗に抗して全可動域を動かし、最終肢位を保持できる
4Good中等度の抵抗に抗して全可動域を動かせる
3Fair抵抗なしで、重力に抗して(抗重力位で)全可動域を動かせる
2Poor重力を除いた肢位(運動面を水平にする)で全可動域を動かせる
1Trace筋収縮を触知できるが、関節運動は起こらない
0Zero筋収縮を触知できない
  • 3と2の境目=重力に抗せるか。ここが最頻出。段階3以上が実用筋力の下限とされる
  • 細分では 3−=抗重力位で全可動域の半分以上動くが完遂できない、2+=重力除去位で全可動域を完了し、さらに抗重力位でわずかに動く

段階1と0の差は収縮を触知できるかどうかであって、関節が動くかどうかではない。段階1でも関節運動は起こらない。

顔面筋のMMT — F・WF・NF・0の4段階

表情筋は皮膚に停止し関節運動を起こさないので、重力に抗せるかや抵抗量では段階づけできない。Danielsらの方法では機能するかどうかの4段階で判定する。

段階判定
F(functions)指示された表情運動を正常に行える
WF(weak functions)弱いながら機能を果たしている(運動は起こるが弱い・左右差がある)
NF(non-functional)機能を果たしていない(わずかな収縮のみ)
0全く活動を認めない

顔面筋には「N(Normal)」の段階はない。四肢の段階5(Normal)を持ち込んだ「N―筋力は正常である」が引っかけ。最上位はF。

1-2 検査肢位の原則と肩関節のMMT

段階3以上=抗重力位(運動方向が重力と逆になる肢位を組む)/段階2以下=重力除去位(運動面を水平にして重力の影響を消す)。同じ運動でも判定したい段階によって肢位が変わる、これが肢位問題の解き方の全部である。

肩関節の運動段階2(重力除去位)段階3以上(抗重力位)
屈曲側臥位座位(または立位)
外転側臥位座位
伸展側臥位腹臥位
外旋・内旋腹臥位で上肢を台の外に垂らす腹臥位または座位(段階4は抵抗を加えて判定)
水平内転座位(前腕を支持台にのせ水平に動かす)背臥位
水平外転座位(同上)腹臥位

組合せ問題で狙われる誤りの型。屈曲の段階2=背臥位は誤り → 背臥位では重力が抵抗になる。正しくは側臥位。伸展の段階3=座位は誤り → 腹臥位。水平内転の段階2=腹臥位・水平外転の段階2=側臥位はいずれも誤り → どちらも座位で支持面上を水平に動かす。

肘屈曲の段階5・抵抗の加え方・広背筋の分離

  • 肘屈曲(上腕二頭筋)段階3〜5:座位・上肢を体側に下垂・前腕回外位。検者は肩の前面を固定し、手関節直上の前腕遠位に伸展方向の抵抗。前腕回外位=上腕二頭筋、中間位=腕橈骨筋、回内位=上腕筋が主に働く。
  • 抵抗の原則:運動と反対方向に、動く分節の遠位端(次の関節をまたがない位置)に加える。肩外転は肘直上(上腕遠位)に下向き、肘伸展は伸展した前腕遠位に屈曲方向。矢印が運動を助ける向き・回旋を止めない向きの図は誤り。
  • 広背筋を三角筋後部線維・大円筋から分けるには、体幹側に起始をもつ広背筋にしかできない動きを使う:座位で両手を支持面に押しつけて骨盤・体幹を引き上げる/背臥位で上肢と肩甲帯を尾側へ引き下げる。上肢を挙げる方向の検査は外転筋をみているので分離にならない。

心疾患・呼吸障害のある人のMMT:努責(息こらえ)と上肢の等尺性収縮は血圧を上げる。上肢挙上位での抵抗、座位で大筋群に抵抗をかける検査は負担が大きく、腹臥位は胸腹部が圧迫され換気を妨げる。側臥位の股関節外転は胸郭を圧迫せず努責も起きにくく、影響が小さい検査の例。

1-3 座位で段階3を判定できる筋

座位で抗重力位になるのは持ち上げる向き(重力と反対向き)に動く運動だけ。この視点で消去法が使える。

可否筋と運動
座位で段階3を判定できる上腕三頭筋(肘伸展。前腕を下垂位から伸展させる)/縫工筋(股屈曲+外転+外旋+膝屈曲で踵を対側の膝へ運ぶ)/腸腰筋(股屈曲=大腿を座面から持ち上げる)/大腿四頭筋(膝伸展)
座位では判定できない大胸筋(肩水平内転→抗重力位は背臥位)/肩甲下筋(肩内旋→腹臥位)/ハムストリングス(膝屈曲→腹臥位。座位では下腿が下垂し重力に抗さない)/下腿三頭筋(足底屈→立位の片脚踵上げ)

下腿三頭筋は頻出のひっかけ。段階3以上の標準肢位は立位での片脚踵上げ(自分の体重が負荷)。座位で足を底屈させても負荷が軽すぎ、正しい段階3判定にならない。

座位で行う検査・座位で行わない検査の例

座位で行う(例)座位で行わない(例)
肩関節水平外転の段階2(座位でテーブルに上肢を乗せ水平面で動かす。段階3以上は腹臥位)肩関節水平内転の段階3以上=背臥位
膝関節伸展の段階3以上(端座位で下腿を下垂)膝関節伸展の段階2=側臥位
股関節外旋・内旋の段階3以上(端座位)股関節外旋・内旋の段階2=背臥位
肘関節屈曲の段階2〜5肘関節屈曲の段階1・0=背臥位で触診
同じ運動でも段階で肢位が変わる。「運動名+段階」の組で肢位を覚える。