呼吸器疾患の評価はまず閉塞性か拘束性かを数値で決める。型が決まれば理学療法の柱も決まる。
| 型 | 判定基準 | 代表疾患 | 理学療法の柱 |
|---|---|---|---|
| 閉塞性換気障害 | 1秒率(FEV1.0%・FEV1/FVC)70%未満 | COPD(肺気腫・慢性気管支炎)、気管支喘息 | 口すぼめ呼吸・横隔膜(腹式)呼吸・排痰・運動療法 |
| 拘束性換気障害 | %肺活量(%VC)80%未満 | 間質性肺疾患(間質性肺炎・肺線維症)、胸郭変形、呼吸筋力低下(神経筋疾患) | 胸郭可動域運動・深呼吸練習 |
| 混合性換気障害 | 両方を満たす | 進行したCOPDなど | 両者の併用 |
| 指標 | 計算式 | 使い道 |
|---|---|---|
| 1秒率(FEV1%) | 実測1秒量 ÷ 実測の努力性肺活量 × 100 | 閉塞性の判定(70%未満) |
| %肺活量(%VC) | 実測肺活量 ÷ 予測肺活量 × 100 | 拘束性の判定(80%未満) |
| %1秒量(%FEV1・対標準1秒量) | 実測1秒量 ÷ 予測1秒量 × 100 | COPDの病期(重症度)分類 |
COPDの病期分類は%1秒量で決まる(1秒率70%未満を前提として)。息切れの程度(mMRC)とは別の物差し。
| 変化 | 結果 |
|---|---|
| 呼吸筋力の低下 | 肺活量は低下(拘束性パターン) |
| 気道抵抗の増加 | 1秒率は低下(閉塞性) |
| 肺コンプライアンスの低下(硬い肺) | 膨らみにくく機能的残気量は減少 |
| 換気血流比の不均等 | 肺胞気-動脈血酸素分圧較差(A-aDO2)は開大(拡散障害・シャントでも開大) |
| 肺拡散能の低下 | ガス交換の障害であり、最大呼気流量(気流の速さ)とは独立 |
| COPD(閉塞性) | エアトラッピングで残気量・機能的残気量が増加(肺の過膨張・横隔膜の平低化) |
| 病型 | 曲線の形 |
|---|---|
| 閉塞性(COPD・喘息) | ピークフローが低く、下降脚が下に凹む |
| 拘束性(肺線維症など) | 全体が小さく、健常者と相似形 |
| 上気道閉塞(気管狭窄など) | 呼気・吸気とも平坦(台形) |
閉塞性の曲線を見たら、理学療法は「呼気をゆっくり長く」。呼気時間を短くするとエアトラッピング(動的過膨張)が悪化する。胸郭可動性の拡大・口すぼめ呼吸・吸気筋強化・腹筋強化(強制呼気と咳嗽を助ける)はいずれも適応になる。
| COPD(肺気腫) | 間質性肺疾患(間質性肺炎・肺線維症) | |
|---|---|---|
| 換気障害 | 閉塞性(1秒率低下) | 拘束性(%VC・FVC低下。1秒率は正常〜上昇) |
| 咳 | 痰を伴うことが多い | 乾性咳嗽(湿性咳嗽は起こりにくい) |
| ガス交換 | 進行で低酸素・高二酸化炭素 | 拡散障害(DLco低下)による労作時低酸素血症 |
| 聴診 | 呼吸音の減弱、呼気の延長、笛音 | ファインクラックル(fine crackles・捻髪音)を吸気後半に聴取 |
| 胸部エックス線 | 過膨張(横隔膜低位・平低化、肺野の透過性亢進) | 両側・下肺野優位の網状影・粒状影 |
| 胸部CT | 上肺野優位の気腫性変化(低吸収域・血管影が疎) | 胸膜直下・下肺野優位の網状影、蜂巣肺(蜂窩肺)、牽引性気管支拡張 |
| その他 | 体重減少(やせ)は予後不良因子 | 血液検査でKL-6上昇、ばち指 |
画像の選択肢で、気胸は「黒い領域+1本の胸膜線」、肺葉切除後は「切除側の容積減少」、気管切開後は頸部の所見のみ。両側びまん性の網状影は間質性肺疾患を考える。
| 正常呼吸音 | 聴取部位 | 吸気と呼気 |
|---|---|---|
| 気管呼吸音 | 頸部気管上 | 呼気>吸気(呼気が長く大きい) |
| 気管支呼吸音 | 太い気管支の上 | 吸気≒呼気(吸気・呼気の両相で聴取。吸気だけではない) |
| 肺胞呼吸音 | 肺野の大部分 | 吸気>呼気(呼気は弱く短い) |
| 副雑音 | 時相 | 意味 |
|---|---|---|
| 笛音(wheezes):高調性連続性 | 主に呼気 | 気道狭窄(喘息・COPD) |
| いびき音(rhonchi):低調性連続性 | — | 太い気道の分泌物・狭窄 |
| 捻髪音(fine crackles):細かい断続性 | 吸気終末(後期) | 間質性肺疾患。肺胞レベルの音で、痰の指標ではない |
| 水泡音(coarse crackles):粗い断続性 | 吸気早期 | 気道内分泌物(吸引・排痰の適応を考える) |
正常呼吸音は「太い気道ほど呼気が強い」(肺胞→気管支→気管)。副雑音は「笛音=呼気、捻髪音=吸気終末」。捻髪音を聴いたから吸引、は誤り。
| mMRC(修正MRC)息切れスケール | 状態 |
|---|---|
| Grade 0 | 激しい運動をしたときだけ息切れがある |
| Grade 1 | 平坦な道を早足(急ぎ足)で歩く、または緩やかな上り坂を歩くときに息切れがある |
| Grade 2 | 息切れのため同年代の人より平地を歩くのが遅い、または自分のペースで歩いても息切れで立ち止まることがある |
| Grade 3 | 平坦な道を約100m、または数分歩くと息切れで立ち止まる |
| Grade 4 | 息切れがひどく外出できない、または着替えでも息切れがする |
症例文のキーワードで決める。「坂・早歩き」=1、「同年代より遅い」=2、「100m前後で休む(80mなど)」=3、「外出できない・着替えで息切れ」=4。外出できているなら4ではない。
| Hugh-Jones分類 | 状態 |
|---|---|
| Ⅰ | 同年齢の健常者と同様に歩ける |
| Ⅱ | 平地は健常者並みに歩けるが、坂・階段は健常者並みには昇れない |
| Ⅲ | 平地でも健常者並みには歩けないが、自分のペースなら1.6km以上歩ける |
| Ⅳ | 休みながらでないと50m以上歩けない |
| Ⅴ | 会話・着替えでも息切れがし、外出できない |
mMRCは0〜4(アラビア数字)、Hugh-JonesはⅠ〜Ⅴ(ローマ数字)。どちらも日常労作での息切れの重症度分類であり、運動中の自覚的運動強度(その場のきつさ)を測る指標ではない。運動中のきつさはBorg指数(6〜20)または修正Borgスケール(0〜10)で聴く。
重症度評価はmMRCに加え、CAT(COPDアセスメントテスト)・%1秒量などを組み合わせる。運動耐容能は6分間歩行テスト(歩行距離とSpO2の低下)で見る。
基本原則は「血流は重力で下側に多い」「含気(肺の膨らみ)は上側に多い」。下側の肺は自重と臓器に圧迫されて虚脱・分泌物貯留が起こりやすい。
「含気」と「換気」を混同しない。上側に多いのは静止時の含気(膨らみ)。自発呼吸での換気(1回ごとの空気の出入り)は下側(重力側)に多い。立位で換気が肺底部に多いのと同じ原則。
| 体位 | 起こること |
|---|---|
| 立位・座位 | 重力で肺底部に換気・血流が多い。肺活量は座位・立位で最大(臥位で減る) |
| 背臥位 | 背側(下側)に血流が集まり、背側肺は虚脱しやすい |
| 腹臥位 | 下側となる腹側に血流が多く分布。背側肺の虚脱が改善し換気が均等化 → 換気血流比(V/Q)の不均衡が是正され酸素化が改善 |
| 側臥位 | 上側の肺が拡張して含気が多い(非荷重側)。下側の肺は含気が減るが、血流は多く、自発呼吸では換気も下側の方が多い |
腹臥位は「上部胸式呼吸を促す」体位でも「舌区の排痰」体位でもない(舌区・中葉は側臥位を後方へ傾けた体位。→2-2)。CT画像で含気が最も多い場所を問われたら、上側の肺の、さらに上(非荷重側)の部分を選ぶ。