第1章|評価:換気障害・所見・息切れ・体位

呼吸器疾患・呼吸リハ 第1章

1-1 換気障害の型と呼吸機能検査

呼吸器疾患の評価はまず閉塞性か拘束性かを数値で決める。型が決まれば理学療法の柱も決まる。

型判定基準代表疾患理学療法の柱
閉塞性換気障害1秒率(FEV1.0%・FEV1/FVC)70%未満COPD(肺気腫・慢性気管支炎)、気管支喘息口すぼめ呼吸・横隔膜(腹式)呼吸・排痰・運動療法
拘束性換気障害%肺活量(%VC)80%未満間質性肺疾患(間質性肺炎・肺線維症)、胸郭変形、呼吸筋力低下(神経筋疾患)胸郭可動域運動・深呼吸練習
混合性換気障害両方を満たす進行したCOPDなど両者の併用

計算問題:分母を取り違えない

指標計算式使い道
1秒率(FEV1%)実測1秒量 ÷ 実測の努力性肺活量 × 100閉塞性の判定(70%未満)
%肺活量(%VC)実測肺活量 ÷ 予測肺活量 × 100拘束性の判定(80%未満)
%1秒量(%FEV1・対標準1秒量)実測1秒量 ÷ 予測1秒量 × 100COPDの病期(重症度)分類
  • 例:1秒量2,300 mL・努力性肺活量3,500 mL → 1秒率は2,300÷3,500≒66%(閉塞性)。肺活量を予測値で割った値(%VC)や、1秒量を予測肺活量で割った値と取り違えない。
  • 例:努力性肺活量5.00 L・1秒率80% → まず実測1秒量=5.00×0.80=4.00 Lを出し、次に予測1秒量で割る(2段階)。予測1秒量3.46 Lなら4.00÷3.46≒116%。

COPDの病期分類は%1秒量で決まる(1秒率70%未満を前提として)。息切れの程度(mMRC)とは別の物差し。

生理の関係(向きを問われる)

変化結果
呼吸筋力の低下肺活量は低下(拘束性パターン)
気道抵抗の増加1秒率は低下(閉塞性)
肺コンプライアンスの低下(硬い肺)膨らみにくく機能的残気量は減少
換気血流比の不均等肺胞気-動脈血酸素分圧較差(A-aDO2)は開大(拡散障害・シャントでも開大)
肺拡散能の低下ガス交換の障害であり、最大呼気流量(気流の速さ)とは独立
COPD(閉塞性)エアトラッピングで残気量・機能的残気量が増加(肺の過膨張・横隔膜の平低化)

フローボリューム曲線の形

病型曲線の形
閉塞性(COPD・喘息)ピークフローが低く、下降脚が下に凹む
拘束性(肺線維症など)全体が小さく、健常者と相似形
上気道閉塞(気管狭窄など)呼気・吸気とも平坦(台形)

閉塞性の曲線を見たら、理学療法は「呼気をゆっくり長く」。呼気時間を短くするとエアトラッピング(動的過膨張)が悪化する。胸郭可動性の拡大・口すぼめ呼吸・吸気筋強化・腹筋強化(強制呼気と咳嗽を助ける)はいずれも適応になる。

呼吸不全の型

  • 呼吸不全=PaO2 60 Torr(mmHg)以下。
  • Ⅱ型呼吸不全=PaCO2 45 Torrを超える(高二酸化炭素血症を伴う)。COPDの進行例に多い。
  • Ⅱ型では高濃度の酸素でCO2ナルコーシスを起こしうる(→2-5)。

1-2 COPDと間質性肺疾患の見分け方(所見・聴診・画像)

COPD(肺気腫)間質性肺疾患(間質性肺炎・肺線維症)
換気障害閉塞性(1秒率低下)拘束性(%VC・FVC低下。1秒率は正常〜上昇)
咳痰を伴うことが多い乾性咳嗽(湿性咳嗽は起こりにくい)
ガス交換進行で低酸素・高二酸化炭素拡散障害(DLco低下)による労作時低酸素血症
聴診呼吸音の減弱、呼気の延長、笛音ファインクラックル(fine crackles・捻髪音)を吸気後半に聴取
胸部エックス線過膨張(横隔膜低位・平低化、肺野の透過性亢進)両側・下肺野優位の網状影・粒状影
胸部CT上肺野優位の気腫性変化(低吸収域・血管影が疎)胸膜直下・下肺野優位の網状影、蜂巣肺(蜂窩肺)、牽引性気管支拡張
その他体重減少(やせ)は予後不良因子血液検査でKL-6上昇、ばち指

画像の選択肢で、気胸は「黒い領域+1本の胸膜線」、肺葉切除後は「切除側の容積減少」、気管切開後は頸部の所見のみ。両側びまん性の網状影は間質性肺疾患を考える。

肺音(呼吸音と副雑音)

正常呼吸音聴取部位吸気と呼気
気管呼吸音頸部気管上呼気>吸気(呼気が長く大きい)
気管支呼吸音太い気管支の上吸気≒呼気(吸気・呼気の両相で聴取。吸気だけではない)
肺胞呼吸音肺野の大部分吸気>呼気(呼気は弱く短い)
副雑音時相意味
笛音(wheezes):高調性連続性主に呼気気道狭窄(喘息・COPD)
いびき音(rhonchi):低調性連続性—太い気道の分泌物・狭窄
捻髪音(fine crackles):細かい断続性吸気終末(後期)間質性肺疾患。肺胞レベルの音で、痰の指標ではない
水泡音(coarse crackles):粗い断続性吸気早期気道内分泌物(吸引・排痰の適応を考える)

正常呼吸音は「太い気道ほど呼気が強い」(肺胞→気管支→気管)。副雑音は「笛音=呼気、捻髪音=吸気終末」。捻髪音を聴いたから吸引、は誤り。

1-3 息切れの評価(mMRC・Hugh-Jones・Borg)

mMRC(修正MRC)息切れスケール状態
Grade 0激しい運動をしたときだけ息切れがある
Grade 1平坦な道を早足(急ぎ足)で歩く、または緩やかな上り坂を歩くときに息切れがある
Grade 2息切れのため同年代の人より平地を歩くのが遅い、または自分のペースで歩いても息切れで立ち止まることがある
Grade 3平坦な道を約100m、または数分歩くと息切れで立ち止まる
Grade 4息切れがひどく外出できない、または着替えでも息切れがする

症例文のキーワードで決める。「坂・早歩き」=1、「同年代より遅い」=2、「100m前後で休む(80mなど)」=3、「外出できない・着替えで息切れ」=4。外出できているなら4ではない。

Hugh-Jones分類との違い

Hugh-Jones分類状態
Ⅰ同年齢の健常者と同様に歩ける
Ⅱ平地は健常者並みに歩けるが、坂・階段は健常者並みには昇れない
Ⅲ平地でも健常者並みには歩けないが、自分のペースなら1.6km以上歩ける
Ⅳ休みながらでないと50m以上歩けない
Ⅴ会話・着替えでも息切れがし、外出できない

mMRCは0〜4(アラビア数字)、Hugh-JonesはⅠ〜Ⅴ(ローマ数字)。どちらも日常労作での息切れの重症度分類であり、運動中の自覚的運動強度(その場のきつさ)を測る指標ではない。運動中のきつさはBorg指数(6〜20)または修正Borgスケール(0〜10)で聴く。

重症度評価はmMRCに加え、CAT(COPDアセスメントテスト)・%1秒量などを組み合わせる。運動耐容能は6分間歩行テスト(歩行距離とSpO2の低下)で見る。

1-4 体位と換気・血流(腹臥位・側臥位)

基本原則は「血流は重力で下側に多い」「含気(肺の膨らみ)は上側に多い」。下側の肺は自重と臓器に圧迫されて虚脱・分泌物貯留が起こりやすい。

「含気」と「換気」を混同しない。上側に多いのは静止時の含気(膨らみ)。自発呼吸での換気(1回ごとの空気の出入り)は下側(重力側)に多い。立位で換気が肺底部に多いのと同じ原則。

体位起こること
立位・座位重力で肺底部に換気・血流が多い。肺活量は座位・立位で最大(臥位で減る)
背臥位背側(下側)に血流が集まり、背側肺は虚脱しやすい
腹臥位下側となる腹側に血流が多く分布。背側肺の虚脱が改善し換気が均等化 → 換気血流比(V/Q)の不均衡が是正され酸素化が改善
側臥位上側の肺が拡張して含気が多い(非荷重側)。下側の肺は含気が減るが、血流は多く、自発呼吸では換気も下側の方が多い

腹臥位療法(prone positioning)

  • ARDS・COVID-19肺炎などの重症呼吸不全で酸素化を改善させる目的で行う。
  • 機序の中心は換気血流比の改善(背側=重力依存部の含気回復・シャントの減少)。
  • 同じ酸素流量(同じ吸入気酸素濃度)のまま体位だけ変えてPaO2が上がったなら、答えは換気血流比。拡散能・解剖学的死腔・吸入気酸素濃度は体位でほとんど変わらない。

腹臥位は「上部胸式呼吸を促す」体位でも「舌区の排痰」体位でもない(舌区・中葉は側臥位を後方へ傾けた体位。→2-2)。CT画像で含気が最も多い場所を問われたら、上側の肺の、さらに上(非荷重側)の部分を選ぶ。