第1章|骨折の評価・リスク管理と物理療法

骨折 第1章

1-1 大腿骨近位部骨折の分類と画像の読み方

高齢者の転倒で最も多く出題される骨折。関節包の内か外かで血流・癒合のしやすさ・手術法が変わり、その後の理学療法も変わる。

分類部位特徴代表的な手術
頸部骨折(内側骨折)関節包内血流に乏しく癒合しにくい。骨頭壊死を合併しやすい転位例は人工骨頭置換術
転子部骨折(外側骨折)関節包外血流が豊富で癒合しやすい骨接合術(髄内釘など)

骨盤正面エックス線の読み方

  • Shenton線=閉鎖孔上縁(恥骨上枝の下縁)から大腿骨頸部内側縁へ続く滑らかな弧。途切れていれば骨折・脱臼・すべり症を疑う。
  • 頸部骨折:頸部の骨皮質の連続性が途絶し、骨頭に対して骨幹部(遠位骨片)が上方へ転位し(下肢の短縮)、外旋する。
  • 見分けたい他の所見(代表例):
所見画像の特徴
股関節の脱臼骨頭が臼蓋の外(多くは後上方)へ逸脱。頸部骨折では骨頭は臼蓋内に残る
股関節の形成不全(臼蓋形成不全)臼蓋の傾斜(Sharp角)の開大、骨頭被覆の不足
大腿骨頭壊死骨頭内の帯状硬化像、骨頭の圧潰
大腿骨頭すべり症骨端線が残る10〜15歳ごろ。骨端線に沿って骨頭が後下方へすべる

年齢で絞る:骨端線が閉じた高齢者に「大腿骨頭すべり」は選ばない。高齢者の転倒+頸部の骨皮質途絶=大腿骨頸部骨折。

受傷機転の目安:側方へ転倒して大転子(股関節の外側)を打つ→大腿骨近位部骨折/尻もち→脊椎椎体(圧迫)骨折/前方へ転倒して膝を直接打つ→膝蓋骨骨折/手をついて転倒→橈骨遠位端骨折(小児では上腕骨顆上骨折も)。ただし実地問題は術後エックス線でどこを固定したかを先に確認してから方針を選ぶ。

1-2 術後早期の合併症とリスク管理

骨折・手術・臥床が重なる時期は、運動を始める前に合併症の徴候を見落とさないことが問われる。

合併症見るべき所見理学療法士の対応
深部静脈血栓症(DVT)・肺塞栓症(PE)下腿の腫脹・圧痛、Homans徴候血液検査はDダイマー(血栓のスクリーニング)を最優先で確認。予防には固定外関節(足関節)の早期自動運動
腓骨神経麻痺(下垂足)股関節術後の外旋位保持+足関節背屈筋の筋力低下(MMT0など)腓骨頭部の圧迫を避ける。麻痺筋には電気刺激療法(NMES/EMS)で筋収縮を起こし萎縮を予防(1-3)
コンパートメント症候群(前腕ではVolkmann拘縮)術後の急激な痛み、蒼白、脈拍消失、知覚異常、麻痺(5P)運動を続けず、まず原因の評価・医師への報告を優先
骨化性筋炎(異所性骨化)関節周囲の腫脹・熱感、可動域の悪化とくに小児の肘で他動的な強制運動を避ける(2-4)
低栄養(サルコペニアを合併しやすい)筋力増強の効果が出ない、持久性低下、下肢の浮腫血液検査は血清アルブミン。運動負荷を上げる前に栄養改善との連携

大腿骨近位部骨折の術後に下腿の腫脹と圧痛=DVTを疑い、離床・運動の前にDダイマーを確認する。BNP(心不全)、HbA1c(糖尿病)、PT-INR(抗凝固療法のモニタリング)、SP-D(間質性肺炎・肺線維症)は優先順位が下がる。

血液検査値の読み方(理学療法で使う代表例)

項目基準値の目安理学療法での意味
アルブミン3.5〜5.0 g/dL3.5 g/dL未満で低栄養、3.0 g/dL未満で膠質浸透圧低下により浮腫が出やすい。筋蛋白合成が進まず、運動より栄養改善を優先
Dダイマー―血栓(DVT・PE)のスクリーニング
アルカリフォスファターゼ―骨代謝・肝胆道系の指標。骨折後の骨形成期に上昇するが、低栄養・浮腫の評価には使わない
クレアチニン―腎機能。腎性浮腫を疑う場面で使う
赤血球・ヘモグロビン―貧血→易疲労・持久性低下。ただし浮腫は説明できない

「運動しても筋力がつかない+浮腫」で「栄養障害あり・内科的併存症なし」→ 負荷設定より先に低栄養(アルブミン)を疑う。高齢の大腿骨近位部骨折ではサルコペニア・低栄養の合併が多い。

1-3 骨折後の物理療法の選び方と禁忌

骨折の物理療法は、体内金属と小児の骨端線の2つの禁忌を先に当てて切るのが最短。

体内金属(プレート・スクリュー・髄内釘・人工関節)のある部位に極超短波(マイクロ波)・短波は禁忌。金属が電磁波を吸収して局所的に高温になり、熱傷・組織損傷を起こす。術後時間が経って熱感が無くても、金属がある限り適応外。「電磁波療法」と書かれていても同じ扱い。

小児の骨端線(成長軟骨板)に超音波・極超短波などの深部温熱は禁忌(成長障害のおそれ)。エックス線で骨端線が透亮像として写っていれば成長期と判断する。

物理療法作用骨折後の使いどころ・注意
ホットパック・パラフィン浴伝導熱の表在温熱金属を選択的に加熱しない。可動域練習前の軟部組織の伸張性向上。パラフィン浴は手・足部に向く
赤外線表在温熱(皮膚から数mm)深部の骨端線には作用しない
渦流浴表在温熱+水流のマッサージ効果温熱と水中での自動運動を同時に行える。小児のギプス固定除去後の可動域制限・筋力低下にも安全
超音波深部温熱(連続波)・機械的作用(パルス波)腱・関節包の伸張性改善。金属インプラントそのものは禁忌に含まれない(骨セメント・ポリエチレン部品は避ける)。小児の骨端線は禁忌。術直後の患部には用いない
極超短波・短波深部温熱(電磁波)金属部位・小児の骨端線で禁忌
電気刺激(NMES/EMS・電気筋刺激)筋収縮の誘発末梢神経麻痺によるMMT0〜1の筋の萎縮予防・筋再教育
TENS感覚神経刺激疼痛緩和
FES(機能的電気刺激)動作に合わせた筋刺激中枢神経障害の麻痺筋の機能再建。廃用性の筋力低下・拘縮の第一選択ではない
体外衝撃波機械的刺激難治性の腱付着部症・石灰沈着など。神経麻痺の治療ではない
紫外線光化学作用皮膚疾患・殺菌。可動域・筋力には用いない

「適切でないのはどれか」の型が多い。金属+極超短波、小児+超音波(骨端線)を見つけたらそれが答えになりやすい。逆に「術後2か月・熱感なし・全荷重可能」は炎症が消退し温熱療法そのものは適応という読み取り。

用途で区別:NMES/EMS=麻痺筋の萎縮予防/TENS=疼痛/FES=中枢性麻痺の動作補助/渦流浴=温熱+自動運動。

1-4 骨折患者の情報収集と説明

大腿骨近位部骨折の高齢患者は、難聴・認知症を合併した設定で、情報収集や面接の適否が問われる。

場面適切な対応不適切な対応
情報収集の基本理解度・反応を確認しながら双方向で行う一方的に聴取を進める
一側の重度難聴聞こえる側から声をかける、質問を紙に書く(筆談)難聴側から話しかける
認知症家屋状況などを同居家族からも聴取して補う本人の話だけで確定する
患者確認生年月日などを本人と診療録の両方で照合(患者誤認の防止)―
初回の挨拶氏名を確認し、自分の職種と氏名を名乗る―
病状の説明専門用語を避け平易な言葉で、受け止めを確認しながら。否定的な情報には改善の見通しや対応をセットで示す「拘縮」「筋力低下」「歩行障害」など専門用語で障害を断定的に並べる
訓練の説明内容と、痛みが出る可能性・申し出てよいことを伝える(インフォームドコンセント)―
痛みの訴えすぐに方法を修正。温熱の併用などは担当医に相談し許可を得る(物理療法は医師の指示のもと)―

「誤っているのはどれか/適切でないのはどれか」の型では、正しい配慮(筆談・家族からの聴取・本人と記録の照合)が並ぶ中から一方的・断定的なものを選ぶ。患者が説明に応答せず別の心配(荷重制限など)を口にしたら、説明が伝わっていないサイン。