第2章|部位別の術後理学療法とADL

骨折 第2章

2-1 骨折術後の理学療法の原則

部位を問わず、選択肢は次の3つの軸で切れる。

軸原則ひっかけの例
固定部位か固定外か固定部位は安静を保ち、固定外の関節は術後早期(翌日)から動かす(拘縮・浮腫・DVT・廃用の予防)固定外の関節(足趾MP・手指・肩など)の運動を「外固定が外れたら」「術後2週から」と遅らせる記述は誤り
荷重骨・関節面か踵骨・脛骨高原などは荷重を遅らせる。股関節骨折の内固定・人工骨頭や膝蓋骨の引き寄せ締結法は早期荷重が可能「術直後から荷重」「術後2週から全荷重」
筋力増強の順序等尺性(セッティング)→ 等張性 → 等速性。関節を動かす抵抗運動は固定性が得られてから「術後翌日から等張性の筋力増強」「等張性から開始」

「固定外の関節は早く、固定部位は遅く、筋力は等尺性から」。迷ったら固定外の関節の自動運動(膝・足関節・手指など)が正解の定番。

過度な安静も誤り。「全身の安静のためベッド上で行う」「骨癒合が得られるまで歩行しない」は廃用を招く。固定が得られていれば(必要なら装具下で)離床・歩行は早期から行う。

  • 不安定な骨折部・小児の肘・頸椎は自動運動から入り、他動運動から始めない。一方、固定性が得られた部位では他動運動が適切な場面もある(関節内骨折の内固定後のCPM(持続的他動運動)、人工骨頭術後の腹臥位での他動的な股関節伸展など)。
  • 荷重の量と時期は医師の指示に従い段階的に増やす。
  • 術後の急激な痛みは運動を続ける理由にならない(コンパートメント症候群などを疑う。1-2)。

2-2 大腿骨近位部骨折の術後とADL・退院準備

人工骨頭置換術(後方アプローチ)の脱臼肢位

後方アプローチ(後方進入)の脱臼肢位=屈曲+内転+内旋。前方アプローチは伸展+外旋が危険肢位。

運動・動作(全荷重可能な時期)可否理由
背臥位・膝伸展位での股関節外転運動適切脱臼方向(内転)と逆。中殿筋の強化
腹臥位での股関節伸展運動(他動を含む)適切伸展は後方脱臼を誘発しにくく、屈曲拘縮の予防にもなる
座位で重錘を用いた大腿四頭筋の筋力増強適切膝の運動で脱臼肢位をとらない
歩行器を用いた屋外歩行練習適切全荷重可能な時期の歩行練習
低い椅子から股関節内旋位での立ち上がり不適切深い屈曲+内旋で後方脱臼の危険

後方アプローチ後の禁忌動作の代表例:低い椅子・しゃがみ込み・横座り・脚を組む・内股(内旋位)。「曲げて内に入れる動き」が危険と覚える。

ADL指導

  • 着患脱健:ズボンは患側から履き、健側から脱ぐ。患側の関節を大きく動かさずに済む。骨折部位を問わない共通原則。
  • 階段:上りは健側から、下りは患側(と杖)から。
  • 術後の筋力練習は大腿四頭筋セッティング(等尺性)から。

退院に向けた住環境整備(転倒・再骨折の予防)

勧める避ける
玄関(上がり框)など段差の大きい所に手すり敷居の段差を残す(高さをそろえるだけでは不十分。解消・フラット化・スロープ化する)
段差の解消、滑り止め、適切な照明じゅうたん・マットの端(めくれ・引っかかり)
かかとのある滑りにくい履物スリッパ(脱げやすく踏ん張りがきかない)
ベッドの継続床に布団(深くしゃがむ立ち座りが必要)

大腿骨近位部骨折は再骨折のリスクが高く、退院時は受傷の原因(敷居でのつまずきなど)を取り除く環境調整が二次予防の要になる。

2-3 下肢の骨折(膝蓋骨・脛骨高原・足関節・踵骨)

骨折・術式早期から行うこと避けること・遅らせること
膝蓋骨骨折(引き寄せ締結法=tension band wiring:鋼線2本+締結ワイヤー)膝伸展位での早期荷重(骨癒合を待たない)。大腿四頭筋は等尺性(セッティング)から術直後から無条件に膝屈曲可動域練習を行うこと(屈曲角度は固定性に応じて医師の指示で段階的に広げる)。等張性の膝伸展運動から始めない
脛骨高原骨折(プラトー骨折、人工骨+プレート)術後翌日から足関節の自動運動(循環促進・DVT予防・廃用予防)。CPMは早期から導入極超短波(金属発熱)。膝伸展の等張性抵抗運動(関節面に剪断力)。早期の全荷重(関節面の陥没・転位。全荷重はおおむね8〜12週以降が目安)
足関節周囲の骨折(内固定+外固定)固定外の膝関節の可動域練習を積極的に。足趾の運動は外固定中から術直後からの荷重(非荷重から段階的に)。金属がある部位への電磁波療法
踵骨骨折(鋼線固定)術後翌日から膝関節の可動域練習。足趾MP関節など固定外の関節も早期から早期の距腿関節(足関節)の可動域練習、早期の距踵関節の運動(等尺性でも早い)。早期の部分荷重(踵骨は荷重を直接受ける骨)

「膝の手術なら術直後から無条件にROM」は成り立たない。膝蓋骨骨折では膝屈曲の角度を医師の指示で段階的に広げる。一方、脛骨高原骨折の内固定はCPMを早期から使う。CPMを「術後2週から」と遅らせる記述は誤り。

引き寄せ締結法(膝蓋骨骨折・肘頭骨折の代表的な固定法)は、伸展機構にかかる張力を骨折面の圧迫力に変える固定法。膝蓋骨骨折では膝伸展位での早期荷重・大腿四頭筋の等尺性収縮が可能。膝屈曲の可動域は固定性に応じて医師の指示で段階的に進める。

2-4 上肢・脊椎の骨折(鎖骨・小児の肘・橈骨遠位端・環椎)

骨折早期から行うこと避けること
鎖骨骨幹部骨折(プレート・スクリューで観血的整復固定術)術後翌日から手指(・手関節)の自動運動で浮腫・拘縮予防。離床も早期から肩挙上の等張性・抵抗運動、他動での肩の可動域練習(術後早期は固定部に負担)、患部への物理療法、過度なベッド上安静
小児の上腕骨顆上骨折(経皮的鋼線固定=ピンニング、または徒手整復+外固定)肩・手指など固定外の関節は早期から動かす(肩の可動域運動・振子運動、手指の自動運動)。握力の強化は仮骨形成後に。肘は仮骨形成・骨癒合を確認してから自動運動で。温熱療法を自動運動の前処置に肘の他動的な屈曲伸展・強制的な伸張(骨化性筋炎・再転位)。固定期間中(術後早期)の筋力増強運動。急激な痛みを無視した運動(Volkmann拘縮)
小児の橈骨遠位端骨折(若木骨折を含む)固定除去後表在温熱(渦流浴・ホットパック・パラフィン浴・赤外線)+自動運動で可動域を戻す骨端線への超音波・極超短波
環椎骨折(Jefferson骨折)受傷直後から頸椎装具で確実に固定。体幹・四肢の廃用予防運動、装具下の離床・歩行は骨癒合前でも可頸椎ROMを他動から開始(自動運動から慎重に)。装具なしの立位。頸椎周囲筋の等張性筋力増強は可動性が得られてから

小児の肘関節外傷後は他動運動を行わない。理由は①骨化性筋炎のリスク ②小児は自動運動だけで可動域が回復しやすい ③痛みによる防御性収縮で無理な伸張は逆効果。成人の肘の外傷後も強制的な他動伸張は避ける。

小児顆上骨折で最も警戒する合併症はVolkmann拘縮(前腕コンパートメント症候群)。術後の急激な痛み・蒼白・脈拍消失・知覚異常・麻痺は緊急サインで、「痛みがあっても手指運動を続ける」は誤り。

  • 若木骨折=骨膜が連続したまま曲がる小児特有の不全骨折。癒合が早く、変形も自家矯正されやすい。
  • 肘のADLに必要な機能的可動域の目安は屈曲30〜130°。屈曲が不足すると食事・整容に支障が出る。
  • 頸椎骨折は「固定して骨癒合を保護しつつ、頸部以外で廃用を防ぐ」が大原則。