第2章|顔面神経麻痺・多発ニューロパチー・下肢の神経障害

末梢神経障害 第2章

2-1 顔面神経麻痺の評価と中枢性・末梢性の鑑別

顔面神経(第Ⅶ脳神経)麻痺は「どの筋・機能が顔面神経か」と「中枢性か末梢性か」の2点で問われる。まず周辺の脳神経との区別を固める。

脳神経担う機能診かた(代表例)
顔面神経(Ⅶ)表情筋(前頭筋・眼輪筋・口輪筋・口角挙筋・鼻筋など)、舌前2/3の味覚、涙腺・唾液腺、アブミ骨筋額のしわ寄せ・閉眼・口唇を閉じて抵抗に抗せるか・口角挙上
三叉神経(Ⅴ)顔面の感覚、咀嚼筋(咬筋・側頭筋など)咬筋の収縮の左右差、顔面の触覚
舌下神経(Ⅻ)舌の運動挺舌で舌が患側へ偏位
舌咽・迷走神経(Ⅸ・Ⅹ)軟口蓋の挙上・嚥下発声時の口蓋垂・軟口蓋の偏位(カーテン徴候)
動眼神経(Ⅲ)上眼瞼挙筋など眼瞼下垂(交感神経支配のMüller筋の障害でも生じる)

「目を閉じられない」は顔面神経(眼輪筋)、「目が開かない(眼瞼下垂)」は動眼神経・交感神経。咀嚼筋・顔面の感覚・舌の運動は顔面神経ではない。

中枢性と末梢性の鑑別

前頭筋・眼輪筋など上部顔面は両側の大脳皮質から支配されるため、片側の大脳病変(中枢性)では保たれる。

区別点中枢性(核上性)末梢性(核・核下性)
額のしわ寄せ(前頭筋)可能不能
閉眼(眼輪筋)おおむね可能不能(兎眼。閉眼しようとすると眼球が上転して白目が見える=Bell現象)
下部顔面(口角・口輪筋・鼻筋)病変と反対側(対側)の下部顔面だけが麻痺病変と同側の上部・下部顔面がともに麻痺
味覚・聴覚過敏なし障害部位によって出る
代表疾患脳卒中(被殻出血など)Bell麻痺、Ramsay Hunt症候群(帯状疱疹)

筋力テストの表で前頭筋・眼輪筋は左右とも収縮あり、下部顔面だけ片側が収縮なしなら中枢性=脳卒中。前頭筋まで片側が麻痺していれば末梢性。重症筋無力症(易疲労性・日内変動・眼瞼下垂)や筋強直性ジストロフィー(両側性の顔面筋萎縮)は、「上部顔面が保たれ、片側の下部顔面だけが固定して麻痺する」パターンにはならない。

一側の顔面神経麻痺で評価するもの

評価項目なぜ評価するか
前頭筋の筋力中枢性・末梢性の鑑別
兎眼の程度閉眼不全は角膜の乾燥・潰瘍につながる。点眼・眼帯など眼の保護の判断
味覚鼓索神経(舌前2/3)の障害の有無から障害部位を推定
病的共同運動(synkinesis)回復期の迷入再生で、口を動かすと目が閉じるなどの動きが出る。予後・治療方針にかかわる
顔面の運動の総合評価柳原40点法(本邦で標準)、House-Brackmann分類(Ⅰ〜Ⅵ)

咀嚼筋の筋力は三叉神経なので、顔面神経麻痺の評価としては優先度が低い。

2-2 Bell麻痺の理学療法

Bell麻痺は末梢性顔面神経麻痺で、表情筋の運動麻痺が主体。顔面の感覚(三叉神経)は保たれる。

行うこと避けること
鏡を見ながら、弱い力で表情筋を1つずつ分けて動かす運動再教育(前頭筋も対象)過度な筋力増強・努力性の強い運動(病的共同運動を助長する)
病的共同運動(synkinesis)の抑制・予防強い電気刺激(病的共同運動を招きうる)
顔面のマッサージ・ストレッチ咬筋(三叉神経)の筋力増強を中心にすること
兎眼に対する眼の保護の指導感覚再教育・舌の運動練習(Bell麻痺では障害されない機能)

Bell麻痺の理学療法の目標は「分離した表情運動を取り戻し、synkinesisを起こさせない」。力いっぱい動かす練習は逆効果。

2-3 神経伝導検査の読み方

運動神経伝導検査では、末梢神経を2か所(例:手首と肘)で電気刺激し、筋の複合筋活動電位を記録する。

所見考える病態
振幅は正常・伝導速度が低下(潜時の延長)脱髄(髄鞘の障害)。Guillain-Barré症候群(脱髄型)、CIDPなど
振幅が低下・伝導速度は比較的保たれる軸索変性、運動ニューロン(前角細胞)の変性
反復刺激で振幅が漸減(waning)神経筋接合部の異常(重症筋無力症など)。単発刺激の伝導速度では判断しない

伝導速度の計算

  1. 2か所の刺激点の距離(mm)を確認する
  2. 2か所の潜時の差(ms)を求める(近位刺激の潜時 − 遠位刺激の潜時)
  3. 伝導速度=距離 ÷ 潜時差。mm ÷ ms = m/s なので単位換算は不要

例:刺激点間175 mm・潜時差5.0 ms → 175÷5.0=35 m/s。基準値を下回り、振幅が正常なら脱髄と判断する。

潜時そのもの(近位の潜時)で割らない。必ず2点の潜時の差で割る。

2-4 Guillain-Barré症候群の評価と予後予測

  • 上気道感染や下痢(Campylobacter腸炎が代表)の先行感染の後に、急性に四肢の筋力低下が進む多発ニューロパチー。
  • 重症例では呼吸筋麻痺で人工呼吸管理になる。
  • 急性期〜回復期は良肢位・関節可動域の維持、呼吸管理への協力を行い、回復に合わせて負荷を上げる。疲労が残るほどの過負荷は避ける(過用性筋力低下)。

GBS障害スコア(機能グレード)

点状態
0正常
1軽微な症状・徴候があるが走れる
2補助なしで5 m歩けるが走れない
3補助があれば5 m歩ける
4ベッド上または車椅子
5人工呼吸管理
6死亡

予後予測(EGOS:Erasmus GBS Outcome Score)

発症6か月後に歩行できない確率を予測するスコア。項目は代表的な予後不良因子である。

項目配点
年齢40歳以下=0、41〜60歳=0.5、61歳以上=1
先行する下痢なし=0、あり=1
入院2週後のGBS障害スコアそのスコアの点(1〜5)

解き方は2段。①表で合計点を出す → ②グラフの横軸でその点を読み、縦軸の確率を取る。合計点が高いほど歩行不能の確率は高い。EGOSの項目=高齢・先行する下痢・早期の重症度が高い(予後不良因子はこのほかにも軸索障害型などがある)。

数え落としの定番は下痢の1点。「下痢症状の後に発症」とあれば必ず加点する。年齢の区分の読み違いにも注意。

2-5 下肢の末梢神経障害とCharcot-Marie-Tooth病

Charcot-Marie-Tooth病(CMT)

  • 遺伝性の運動感覚ニューロパチー。下腿遠位から筋萎縮・筋力低下が進む(逆シャンペンボトル状の下腿、凹足)。
  • 前脛骨筋などの麻痺で下垂足となり、遊脚期につま先が引っかかる(鶏歩)。
  • 装具は短下肢装具(AFO)で、遊脚期のクリアランスと踵接地を確保する(背屈補助つきのプラスチックAFOなど)。
  • 大腿の筋力は比較的保たれるので、長下肢装具・膝固定装具は過剰でかえって歩行を妨げる。
  • 感覚障害を伴うため、装具による圧迫・皮膚トラブルに注意する。

装具は支持できない関節をまたいで覆う。足関節だけが支えられないなら短下肢装具(AFO)、膝も支えられなければ長下肢装具(KAFO)。下垂足(腓骨神経麻痺・CMTなど)=AFO。

装具主な適応
短下肢装具(AFO)下垂足・尖足(腓骨神経麻痺、CMT、片麻痺など)
長下肢装具(KAFO)膝の支持性の喪失(大腿四頭筋麻痺など)
中足骨パッド中足骨頭部痛(開張足・Morton病など)
徳大式ばね付き軟性コルセット腰痛症(体幹装具)

足根管症候群(タルサルトンネル症候群)

  • 後脛骨神経が内果の下方(足根管)で圧迫される。
  • 足底のしびれ・足底に放散する痛み、母趾外転筋の萎縮。
  • 内果下方を叩くと足底へ放散する=Tinel徴候陽性。

足部の検査の取り違え:Thompsonテスト=アキレス腱断裂、too many toes sign=後脛骨筋機能不全(扁平足)、Silfverskiöldテスト=下腿三頭筋の短縮(足関節背屈制限)の評価、片脚での踵上げ(single heel rise)=下腿三頭筋の機能の評価(後脛骨筋機能不全の評価にも使う)。神経の圧迫部位を探すのはTinel徴候。

下肢のしびれ・痛みの鑑別:閉塞性動脈硬化症

下肢の冷感・痛み・歩行距離の低下では、神経でなく血管(閉塞性動脈硬化症=ASO)の可能性も考える。

所見・検査ASOでの結果
トレッドミル歩行間欠性跛行が出現(歩くと痛み、休むと軽快)
足関節上腕血圧比(ABI)0.9以下に低下。1.2はおおむね正常範囲で、ASOの所見ではない
足背動脈の触診拍動の減弱・消失(リズム不整は不整脈の所見)
下肢の挙上・下垂試験皮膚色の変化(挙上で蒼白、下垂で発赤の遅れ)

前屈で痛みが軽くなるのは腰部脊柱管狭窄症の神経性間欠性跛行。血管性跛行(ASO)は姿勢で変わらない。

2-6 感覚障害による運動失調への理学療法

末梢神経障害で深部感覚(固有感覚)が失われると、感覚性運動失調が起こる。閉眼で悪化する(Romberg徴候陽性)。治療の原則は失われた感覚を他の感覚で補う(感覚代償)こと。

方法ねらい
重錘負荷四肢に重りを付け、圧覚・重さの情報で位置感覚を補う
弾性緊縛帯皮膚・圧の感覚入力を増やし運動制御を助ける
姿勢鏡を用いた練習視覚で姿勢を確認し、固有感覚の欠損を補う
歩行補助具を用いた歩行練習支持面と手からの感覚入力を増やし、安全に歩行を学習する

電気刺激療法は感覚性運動失調の治療として一般的ではない(運動失調を直接改善しない)。「感覚代償」に当たらない方法を選ぶ。