第1章|循環器疾患

内科学 第1章

1-1 循環器疾患の全体像と高血圧

死因順位(令和元年〈2019〉人口動態統計)

順位死因備考
第1位悪性新生物不動
第2位心疾患虚血性心疾患・心不全を含む
第3位老衰高齢化で上昇し脳血管疾患を抜いた
第4位脳血管疾患治療進歩で低下
第5位肺炎誤嚥性肺炎の別計上で低下

覚え方は「がん・心・老・脳・肺」。3位以下は年次で動くが1位=悪性新生物・2位=心疾患は固定。

高血圧

  • 診察室血圧140/90mmHg以上。大半は原因不明の本態性高血圧
  • 合併症=脳卒中・左室肥大・心不全・腎障害/治療=減塩・減量・運動療法+降圧薬
  • 動脈硬化の危険因子=高血圧・脂質異常症・糖尿病・喫煙・肥満

1-2 冠循環と虚血性心疾患の成り立ち

虚血性心疾患=冠動脈の血流低下で心筋が虚血に陥る病態の総称(狭心症・心筋梗塞)。最大の原因は冠動脈の動脈硬化(粥状硬化)で、プラークによる狭窄・閉塞が虚血を生む。

心筋炎(ウイルス感染による心筋の炎症)・心臓弁膜症・肺高血圧症・深部静脈血栓症は、いずれも虚血性心疾患とは別の病態。深部静脈血栓症は肺塞栓の原因にはなるが心筋虚血は起こさない。

冠血流の原則

  • 冠血流は拡張期に流れる(収縮期は心筋内圧で圧迫される)
  • 心拍数低下→拡張期延長→冠血流は増加。頻脈は拡張期短縮で冠血流減少
  • 灌流圧として効くのは拡張期血圧。収縮期血圧の低下は冠血流減少の主因にならない

冠血流を減少させる代表=大動脈弁狭窄

大動脈弁狭窄では駆出が妨げられ左室圧が上昇する一方、冠動脈入口部=大動脈基部の拡張期圧は低下する。左室肥大で酸素需要も増えるため心内膜下の冠血流が不足し狭心症状をきたす。AS三徴=狭心症・失神・心不全

心房中隔欠損(左右短絡→肺血流増加)・僧帽弁狭窄(左房圧上昇→肺うっ血)は、冠血流を直接減らす機序をもたない。

冠動脈の支配領域

冠動脈支配閉塞時に特徴的なもの
右冠動脈下壁・洞房結節・房室結節房室伝導ブロック・徐脈
左前下行枝前壁中隔・広範な左室心室中隔穿孔・心原性ショック・心室頻拍・肺うっ血
左回旋枝側壁・後壁左室機能低下

1-3 狭心症

項目内容
病態冠動脈の一過性・可逆的な虚血
胸痛数分(通常15分以内)で軽快。労作で誘発
薬物ニトログリセリン(硝酸薬)舌下で冠血管拡張→速やかに軽快
心電図労作性狭心症は発作時・負荷時にST低下
心エコー発作時に虚血部の壁運動低下(asynergy)が出うる

よくある誤り。①「負荷心電図でST上昇が特徴」→誤り。労作性狭心症はST低下。ST上昇は心筋梗塞や異型狭心症。②「心エコーは発作時にも異常なし」→誤り。壁運動低下が出うる。③「不安定狭心症は心筋梗塞に移行しない」→誤り。不安定狭心症は急性冠症候群であり心筋梗塞へ移行しやすいため緊急対応を要する。④「強い胸痛が30分以上続く」のは狭心症ではなく心筋梗塞

1-4 急性心筋梗塞

症状

  • 胸痛は20〜30分以上持続し、安静でも硝酸薬でも改善しない
  • 交感神経緊張により冷汗・悪心・嘔吐・呼吸困難・不安感を伴うことが多い
  • 放散痛あり=左肩・左上肢・頸部・下顎
  • 糖尿病患者・高齢者では無痛性梗塞がある
  • 感冒様の前駆症状は心筋炎で問題になるもので、心筋梗塞の特徴ではない

左腕痛の正体=関連痛

内臓の侵害情報が脊髄で体性求心路と収束し、離れた体表の痛みとして感じるものが関連痛(放散痛)。心筋梗塞→左肩・左上腕・下顎、胆嚢→右肩、横隔膜刺激→肩が代表例。

痛みの種類特徴
関連痛内臓と体表が同一脊髄分節を共有 → 離れた体表に投射
内臓痛局在の不明瞭な鈍い痛み
深部痛筋・関節・骨膜由来の局所的な痛み
表在痛皮膚由来の鋭く限局した痛み
神経障害性疼痛神経そのものの損傷による痛み

血液検査所見と時間経過

マーカー推移
白血球数心筋壊死の炎症反応で早期から増加
ミオグロビン・H-FABP最も早期(数時間)に上昇
CK・CK-MB半日前後でピーク。心筋逸脱酵素
トロポニンT/I心筋特異性が最も高く確定診断に有用
LD・AST遅れて上昇し長く高値を保つ

クレアチニンは上昇しない。クレアチニンは腎機能(糸球体濾過量)の指標であり、心筋梗塞そのものでは上がらない。名前の似たクレアチンキナーゼ(CK=筋の逸脱酵素)と混同させる出題が繰り返されている。

検査の優先度

  1. 心電図=最初に行う。ST変化・異常Q波で部位と時期を推定
  2. 心エコー=ベッドサイドで壁運動異常・左室機能を評価
  3. 冠動脈CT=非侵襲的で迅速
  4. 冠動脈造影=PCI(経皮的冠動脈形成術)に直結する治療的検査
  5. 心筋シンチグラフィー=優先度が最も低い。時間を要し急性期の治療判断に直結しない(慢性期の梗塞範囲評価に用いる)

1-5 心不全 — 左右の区別が最重要

左心不全右心不全
うっ血肺循環=肺うっ血体循環=体静脈うっ血
症状呼吸困難・起座呼吸・発作性夜間呼吸困難・咳嗽・ピンク色泡沫状痰・肺水腫・湿性ラ音頸静脈怒張・肝腫大(肝脾腫)・下腿浮腫・腹水・体重増加
主な原因高血圧・虚血性心疾患・心筋症(肥大型など)・僧帽弁/大動脈弁疾患肺高血圧症・肺塞栓・COPD(肺性心)・三尖弁疾患

右心不全の直接的原因は「右室の後負荷を上げるもの」。原発性肺高血圧症は肺血管抵抗上昇→右室後負荷増大→右室肥大・拡張=肺性心となり直接原因になる。高血圧・肥大型心筋症・僧帽弁閉鎖不全症・大動脈弁閉鎖不全症はいずれも左心系の負荷であり、右心不全は二次的に続発するにすぎない。

僧帽弁閉鎖不全症は「まず呼吸困難」

左室から左房への逆流→左房圧・肺静脈圧上昇→肺うっ血。したがって初期から労作時呼吸困難が出る。肝脾腫・下腿浮腫・頸静脈怒張は右心不全症状であり進行期にならないと現れない。高血圧も初期症状ではなく、むしろ前方拍出量は低下する。

うっ血性心不全の身体所見

  • 肺うっ血が気道を刺激して咳嗽が出る
  • 心拍出量低下で皮膚は蒼白・冷感・チアノーゼ(皮膚紅潮ではない)
  • 心胸郭比(CTR)は50%以上で心拡大。40%は正常範囲
  • 体液貯留で体重は増加する(初期の体重減少は誤り)
  • 頸動脈雑音は動脈硬化・狭窄の所見。心不全で見るのは頸静脈怒張
  • チアノーゼは低酸素の所見で、右心不全に特異的な症候ではない

心不全に特徴的な呼吸=起座呼吸

臥位では静脈還流が増えて肺うっ血が悪化するため、上体を起こすと楽になる。

呼吸みられる病態
起座呼吸左心不全(肺うっ血)
下顎呼吸死期が迫った終末期
陥没呼吸上気道狭窄・新生児の呼吸窮迫
奇異呼吸フレイルチェスト(胸壁が呼吸と逆方向に動く)
鼻翼呼吸呼吸窮迫時

離床前の医療面接で聞くこと

確認すべきは咳・痰/仰臥位で寝られるか(起座呼吸)/息切れの変化/浮腫の変化・体重。いずれも肺うっ血と体うっ血の増悪・改善を直接反映する。一方「喉が渇きやすいか」は糖尿病・脱水を疑う問診で、心不全の病態評価としては重要性が低い。

1-6 NYHA心機能分類

自覚症状(労作時の疲労・動悸・呼吸困難・狭心痛)によって重症度を分ける4段階分類。客観的検査値では分けない。

内容
Ⅰ度心疾患はあるが通常の日常活動では症状が出ない
Ⅱ度通常の日常活動で疲労・呼吸困難が出る
Ⅲ度通常以下の軽い労作で症状が出る
Ⅳ度安静時にも症状がある。軽労作で増悪する最重症

誤りやすい記述。「5段階分類」→誤り、4段階。「Ⅰ度で日常生活に症状がある」→誤り、症状が出るのはⅡ度から。「Ⅱ度は日常生活以下の労作で症状」→誤り、それはⅢ度。「Ⅳ度は安静時に症状がない」→誤り、Ⅳ度こそ安静時に症状がある

1-7 不整脈・心房細動と除細動

心房細動の治療3本柱

手段
レートコントロールβ遮断薬・Ca拮抗薬・ジギタリス
リズムコントロール抗不整脈薬・電気的除細動・カテーテルアブレーション(肺静脈隔離)
抗凝固DOAC・ワルファリン(左房内血栓→脳塞栓の予防に必須)

ニトログリセリンは心房細動の治療薬ではない。硝酸薬は冠血管を拡張する狭心症の発作治療薬で、心房細動に治療効果はない。「ニトロ=狭心症の薬」と紐づけておけば即除外できる。

電気的除細動(AED)の適応

ショック適応ショック非適応
心室細動(VF)
無脈性心室頻拍(pulseless VT)
心静止(asystole)・無脈性電気活動(PEA)
洞性頻脈・房室ブロック・慢性心房細動
単発の上室期外収縮・連続しない心室期外収縮
  • 心室頻拍は心拍出が著しく低下し心室細動へ移行しうる致死的不整脈で、除細動が必要となる可能性が最も高い。血行動態が安定していれば薬物・同期下カルディオバージョンを選ぶ
  • 心静止・PEAはショック無効。絶え間ないCPRとアドレナリンで対応
  • Ⅰ度房室ブロックはPR間隔延長のみで無症状。高度(Ⅲ度)房室ブロックの徐脈にはペースメーカー

1-8 弁膜症・先天性心疾患・心原性脳塞栓

心原性脳塞栓症の塞栓源

部位原因疾患
左房慢性心房細動(最大の原因)
左室拡張型心筋症・心筋梗塞(左室内血栓)
感染性心内膜炎(疣腫の遊離)
シャント卵円孔開存(右左シャント=奇異性塞栓

三尖弁狭窄症は心原性脳塞栓の原因にならない。三尖弁・肺動脈弁は右心系の弁であり、そこで生じた血栓は肺循環へ流れるため脳動脈には到達しない。塞栓源は左心系+右左シャントのみ。

先天性心疾患の頻度

疾患頻度
心室中隔欠損症(VSD)約30〜35%=最多。左→右シャント
心房中隔欠損症(ASD)約10〜15%(第2位)
動脈管開存症(PDA)約5〜10%
肺動脈狭窄症約5〜8%
三尖弁狭窄症比較的まれ

Fallot四徴症

  1. 肺動脈狭窄(流出路狭窄)
  2. 心室中隔欠損
  3. 大動脈騎乗=大動脈が心室中隔欠損部にまたがる血管(大動脈)の位置異常
  4. 右室肥大

右左シャントでチアノーゼを呈する代表疾患。しゃがみ込み(squatting)で症状が軽減する。

狭窄するのは肺動脈、騎乗するのは大動脈。「大動脈狭窄」「肺動脈弁逆流」「冠動脈狭窄」「肺静脈閉塞」はいずれもFallot四徴の構成要素ではない。

1-9 心臓リハビリテーションの適応と禁忌

運動療法の絶対禁忌リスク管理下で適応
活動性の心筋炎・心膜炎
コントロールされていない不整脈
不安定狭心症/急性期の心筋梗塞
非代償性心不全/重症大動脈弁狭窄
安定狭心症
代償性心不全(症状が安定)
Ⅰ度房室ブロック

語尾で判別する。「活動性・不安定・コントロール不良・非代償性」=禁忌「安定・代償性・軽度(Ⅰ度)」=適応。疾患名だけで反射的に選ばない。

1-10 循環器と紛れやすい他領域の鑑別知識

肺うっ血は「吸引の合併症」ではない

肺うっ血は左心不全による肺循環のうっ滞であり、気管吸引で直接生じるものではない。

気管吸引の合併症機序
低酸素血症分泌物とともに酸素も吸引される
不整脈・徐脈低酸素と迷走神経刺激
肺胞虚脱(無気肺)陰圧で肺胞内ガスが吸い出される
気管支攣縮カテーテルの機械的刺激で気道過敏
気道粘膜損傷・出血/感染物理的刺激・清潔操作の破綻

安全対策=1回15秒以内・吸引前後の酸素化・適切な陰圧。

誤嚥性肺炎の理学所見(心不全との区別)

  • 右主気管支が太く垂直に近いため右下葉に好発
  • 浸潤部は打診で濁音(含気が減る)、聴診で水疱音=coarse crackle
  • 鼓音=気胸(含気増加)、捻髪音=fine crackle=間質性肺炎
  • 肺炎の咳は喀痰を伴う湿性咳嗽。乾性咳嗽は特徴ではない
  • 頸静脈怒張は右心不全・心タンポナーデの所見。胸痛は胸膜炎・気胸・虚血性心疾患の所見で、いずれも肺炎の主所見ではない

急性腎不全の3分類(心不全は腎前性の原因)

分類原因
腎前性腎血流低下=脱水・心不全・出血
腎性腎実質障害=急性尿細管壊死・糸球体腎炎
腎後性尿路閉塞=結石・前立腺肥大・腫瘍
  • 慢性腎不全・透析導入の原因第1位は糖尿病性腎症(>腎硬化症>慢性糸球体腎炎)
  • 腎硬化症の原因は高血圧(動脈硬化)であり尿路結石ではない
  • 急性腎盂腎炎の原因は細菌感染(多くは上行性尿路感染)であり動脈硬化ではない

尿検査項目と疾患の対応

尿中で高値疾患
ケトン体糖尿病性ケトアシドーシス・飢餓
ビリルビン閉塞性黄疸・肝胆道疾患
蛋白(アルブミン)ネフローゼ症候群・腎症(肝硬変は血中低アルブミン血症
ヘモグロビン溶血・尿路出血
ミオグロビン横紋筋融解症

横紋筋融解症は圧挫・過度の運動・薬剤で起こり、ミオグロビン尿(赤褐色尿)・血中CK著明高値・急性腎障害が三徴。心筋梗塞の指標はあくまでトロポニン・CK-MBであり、尿中ヘモグロビンではない。

便秘を起こしやすい薬剤

薬剤便通への影響
モルヒネ(オピオイド)最も便秘を起こしやすい。腸管のオピオイド受容体に作用して蠕動を抑え、水分吸収も増える。耐性ができず服用中ずっと続くので、開始と同時に下剤を併用するのが原則
抗コリン薬・三環系抗うつ薬・抗精神病薬抗コリン作用で蠕動低下=便秘
降圧薬(Ca拮抗薬)・鉄剤・アルミニウム含有制酸薬便秘傾向
下剤(センノシド・ラクツロース・酸化マグネシウム・グリセリン浣腸)便秘の治療薬。設問で「便秘を生じやすい薬剤」を問われたら、これらは逆向きなので消す
抗菌薬・マグネシウム製剤の過量むしろ下痢

癌性疼痛でモルヒネを使う患者では便秘・悪心・眠気が三大副作用。悪心と眠気は数日で耐性がつくが、便秘だけは耐性がつかないため、リハ場面でも腹部膨満・食欲低下の背景として常に疑う。