第7章|リハビリテーションのリスク管理

内科学 第7章

7-1 リスク管理の基本原則

リハは「動かす」前に動かしてよいかを判定することまでが業務。実施前・実施中・実施後の3時点でバイタルサインを確認する。

  • 確認項目=意識・脈拍・血圧・呼吸数・体温・SpO₂・自覚症状
  • バイタルチェックは看護師の専権事項ではない。理学療法士自身がリスク管理の責任を負う(訪問リハでも同じ)
  • 基準は数値症状の2本立て。数値が基準内でも、胸痛・めまい・冷汗・チアノーゼ・意識障害が出れば直ちに中止
  • ただし動悸・息切れは程度で扱いが分かれる。運動中に出た軽い動悸・息切れは「いったん休み、回復を待って再開」強い動悸、または動悸に頻脈(心拍数の明らかな増加)や血圧異常を伴うときは中止する(7-3・7-4の表と対応)。開始前からある動悸・息切れは程度によらず7-2の「実施しない基準」で、そのまま実施してはいけない

試験の解き方=選択肢の数値を1つずつカットオフと照合し、逸脱している1つを選ぶ。正常範囲の値を並べて惑わせる出題が定型。

7-2 積極的なリハを実施しない基準(開始前)

「リハビリテーション医療における安全管理・推進のためのガイドライン2006」による、開始前にすでに不適とする閾値。運動中の中止基準(7-3)とは別物なので混同しない。

項目実施しない基準許容される例
安静時脈拍40/分以下または120/分以上100/分・105/分は可
安静時収縮期血圧70mmHg以下または200mmHg以上140・160mmHgは可
安静時拡張期血圧120mmHg以上100mmHgは可
体温38℃以上37.0・37.5℃は可
SpO₂90%以下92%・94%・96%は可
心電図・症状心室頻拍などの著しい不整脈、安静時胸痛、労作性狭心症、循環動態が不安定な心筋梗塞直後、座位でのめまい・冷汗・嘔気、開始前からの動悸・息切れ

境界値の暗記が勝負。脈拍130/分・体温38.6℃・収縮期60mmHg・心室頻拍は開始不可。一方で体温37.5℃・SpO₂ 92%・収縮期160mmHg・拡張期100mmHgは単独では実施しない理由にならない。

7-3 運動中に中止する基準(アンダーソン・土肥の基準)

区分基準
中止する脈拍が140/分を超える/運動中の血圧低下/頻呼吸(30回/分以上)/1分間に10個以上の期外収縮・頻脈性不整脈(心房細動、上室性・心室性頻拍)・徐脈の出現/中等度以上の呼吸困難・めまい・嘔気・狭心痛・強い疲労感/意識状態の悪化
中止だが優先度は最も低い
(条件つき)
収縮期血圧が40mmHg以上上昇または拡張期が20mmHg以上上昇 ―― 基準表には中止として載るが、症状を伴う候補(血圧低下+めまい、心拍の著明増加+動悸など)と競合する設問ではそちらが優先ほかがすべて正常範囲で、この血圧上昇だけが唯一の逸脱なら中止の根拠になる
いったん休み回復を待って再開脈拍が運動時の30%以上増加/脈拍が120/分を超える/1分間に10個以下の期外収縮/軽い動悸・息切れ
その他注意血尿・喀痰増加・体重増加・倦怠感・空腹時・下肢浮腫の増加

血圧は安静時からの変化量到達した絶対値の両方を見る。収縮期+40mmHg以上(拡張期+20mmHg以上)の上昇は、上の表のとおりアンダーソン・土肥の基準では中止に挙がっている。ただし中止の根拠としての優先度は最も低く、この1行だけを暗記して選ぶと外す。次の使い分けまでセットで覚える。

血圧を根拠に「中止」を選ぶ強い決め手は3つ=①収縮期180mmHg以上に達した/②運動中の血圧低下/③自覚症状を伴う(胸痛・めまい・強い息切れ・チアノーゼ・意識障害、動悸+頻脈)。
だから症状を伴わず収縮期180mmHg未満にとどまる血圧上昇(例:120→168mmHg、+48)は、+40mmHgを超えていても中止に選ばない。「中止すべきものを2つ選べ」のように症状つきの候補と競合する設問では、症状つきが優先する(血圧低下+めまい、心拍数の著明増加+動悸などが正答側)。

一方、ほかの選択肢がすべて正常範囲で、血圧の急上昇だけが唯一の逸脱である設問では、+40mmHg以上が中止の根拠になる。例=脳梗塞急性期のベッドアップで収縮期120→170mmHg(+50)。脈拍100/分・呼吸数18回/分は正常範囲で中止理由にならないので消去法でも血圧上昇が残るうえ、急性期の脳血管障害では血圧の急上昇そのものが再発・出血のリスクになる。

数値の壁:脈拍は開始前120/運動中140、収縮期は開始前200/運動中は+40(条件つき中止)と180(中止)の二段、期外収縮は1分間10個10個以上=中止10個以下=いったん休んで再開)、SpO₂は90%、体温38℃、呼吸数30回/分。呼吸数18・22・23回/分は正常〜許容で中止理由にならない。

7-4 自覚症状とBorg指数

数値が基準に届かなくても、循環不全・虚血・低血糖を示す自覚症状を伴えば中止する。逆に筋疲労のみは中止理由にならない。

症状意味対応
めまい・ふらつき+血圧低下循環不全中止
動悸+頻脈過負荷・不整脈中止
胸痛・胸部不快感心筋虚血中止
チアノーゼ・喘鳴を伴う呼吸困難低酸素中止
冷汗・手指振戦・空腹感低血糖(糖尿病で最重要)中止し糖分補給
運動に伴う発汗筋疲労生理的反応継続可

Borg指数の2種類

  • Borgスケール(6〜20):11=楽である、13=ややきつい、15=きつい。運動処方の目標は11〜13。15は強すぎる
  • 修正Borgスケール(0〜10):5=強い(許容域)、7〜9=非常に強い(過大努力)

修正Borg 5〜6は単独では中止基準にならない。Borg高値だけで中止を選ばず、症状の合併とセットで判断する。

7-5 不整脈・運動負荷心電図から読むリスク

所見危険度対応
単発性(散発性)心室期外収縮健常者にもみられる良性所見中止不要
1分間に10個以下の期外収縮散発〜少数いったん休み、回復を待って再開
1分間に10個以上の期外収縮頻発(Lown分類2)中止
多形性・連発・R on T致死的不整脈へ移行しうる中止
心室頻拍致死的即時中止・運動禁忌

期外収縮は向きを逆に覚えない。土肥・アンダーソンの基準では1分間に10個以上=中止10個以下=いったん休み、回復を待って再開。「多いほうが休憩」ではない。
ただし単発性(散発性)の心室期外収縮そのものは健常者にもみられる良性所見で、「運動療法を中止する状態はどれか(中止しないものはどれか)」を問う設問では中止側に選ばない。危険度が跳ね上がるのは頻発・多形性・連発・R on T・心室頻拍

Lown分類は心室期外収縮の重症度分類(0=なし、1=散発、2=頻発、3=多形性、4=連発、5=R on T)。整った洞調律にはそもそも適用しない。

運動負荷心電図の読み方

  • ST低下(水平型・下降型でおおむね0.1mV以上)=心内膜下虚血。運動誘発性心筋虚血の所見で運動中止の対象
  • ST上昇=貫壁性虚血
  • 心拍数=300÷RR間隔の大マス数(記録速度25mm/秒、大マス=0.2秒)。RR 4大マス=約75/分、3大マス=約100/分
  • T波は基線より上向きが陽性。下向き(陰性T波)が虚血・心筋障害の所見

7-6 急性期・集中治療における早期離床の基準

全身状態が安定していれば早期離床が原則。廃用症候群・誤嚥・深部静脈血栓症を予防する。

指標離床してよい中止・延期
意識JCS 1桁、GCSが安定GCSの明らかな低下、JCS 3桁
鎮静(RASS)−2〜+1(−1=呼びかけで10秒以上開眼)−3以下の深い鎮静、+2以上の興奮
心拍数50〜100/分が目安(80/分は良好)。105/分程度の軽度頻脈は他が安定していれば可120/分以上
血圧平均動脈圧65〜110mmHg(65以上が脳灌流の下限)収縮期200mmHg以上・220mmHg、著明な低血圧
呼吸SpO₂ 90%以上、FiO₂ 0.6未満SaO₂ 85%、呼吸数38〜40回/分、FiO₂ 0.7
体温38℃未満38.8℃
疼痛NRS 低値NRS 8(まず鎮痛)
臓器障害SOFA scoreが安定SOFAが前日より大幅上昇
神経症候増悪なし神経症状の増悪

離床可否を決めないもの運動麻痺の重症度。重度片麻痺そのものは離床の中止理由にならない。筋緊張の出現やBrunnstrom法ステージⅡ→Ⅲの変化は回復過程の所見で、むしろ良好なサイン。

循環が不安定なとき ― 何なら「できる」か

高用量の昇圧剤で血圧をやっと保っている、開胸・開腹術の直後で人工呼吸管理中——こういう時期は離床も能動的な全身運動も止める。それでも廃用は進むので、酸素需要を上げずに筋へ刺激を入れる手段を選ぶ。

介入循環不安定期理由
下肢筋への神経筋電気刺激(NMES)臥床のまま局所の筋収縮を起こせる。全身の酸素消費・心負荷をほとんど上げないのでICU-AW(ICU獲得性筋力低下)の予防に使える
他動的関節可動域運動適(愛護的に)拘縮予防。ただし股関節伸展など体幹・大関節を大きく動かす操作は、鼠径部からの昇圧剤ルートを屈曲・牽引する危険があり優先されない
能動的座位練習不適起立性の血圧低下を招く。昇圧剤高用量は離床の中止基準そのもの
呼吸筋トレーニング不適人工呼吸管理中に負荷をかける段階ではない
非上肢支持の持久性運動不適全身の酸素需要を上げる。循環不安定期には最も遠い選択肢

ICUの「最も適切な理学療法」は全身負荷の小さい順に選ぶ。NMES < 他動運動 < 座位 < 持久性運動。循環が不安定なら一番下=NMESを採る。

脳血管障害急性期の理学療法

  • 神経症候の増悪がなければ離床練習を開始する
  • 重度麻痺でも装具を用いて早期から立位・歩行練習を行う
  • 非麻痺側の筋力増強は移乗・ADLに必要で積極的に行う
  • DVT予防に弾性ストッキング・間欠的空気圧迫を使用する

「収縮期140mmHgを超えたら実施しない」は誤り → 140mmHgは軽度高値にすぎず中止基準ではない。急性期の血圧は160mmHg程度なら許容される。

7-7 疾患別の運動処方とリスク

疾患処方の要点最優先のリスク
心筋梗塞後・慢性心不全強度=Borg 11〜13(最高酸素摂取量の40〜60%、AT相当)/頻度=週3〜5回/時間=1回20〜60分拡張期120mmHgは運動不可。疲労が残るときは休む
2型糖尿病有酸素運動は週合計150分以上・1回20〜60分・週3〜5回(間隔を2日以上空けない)/レジスタンス運動は週2〜3回/実施は食後1〜2時間低血糖(冷汗)
COPD・慢性呼吸不全修正Borgと歩行距離で管理SpO₂が最優先指標。90%未満で中止(82%は高度低酸素)
慢性腎不全・透析血液透析日・透析中にも運動療法を行う。ステージ5(末期腎不全)は低〜中強度過負荷。5〜6METsは不適

慢性心不全の在宅自己管理:短期間(数日で2〜3kg)の体重増加は体液貯留=うっ血の増悪サインで、栄養改善の指標ではない。下腿浮腫・呼吸困難の増悪とあわせて受診の目安。過度の安静は廃用を招くので不可。症状が安定していても服薬の自己中止は禁忌。NYHA分類Ⅰ〜Ⅳは身体活動による症状の程度で重症度を示す。

糖尿病で「有酸素運動は1回10分・週合計40分程度」は誤り → 正しくは週合計150分以上。運動量不足の数値に注意。

腎臓リハの原則:運動時は血流が活動筋へ再分配されるため腎血流はむしろ減少する。運動で糸球体濾過量は改善しない(目的は進行抑制と体力維持)。腎性浮腫は体液貯留が原因なので起立台での起立練習では改善しない

7-8 運動耐容能の評価

6分間歩行テスト(6MWT)

項目正しい実施法
評価指標6分間の総歩行距離(m)
コース30m程度の直線を往復
検者の位置後方から付き添う。横や斜め前方に並んで歩かない
声かけ標準化された定型句で励まし、残り時間を伝える
途中で立ち止まった休憩してよい。回復すれば再開させる(即中止にしない)
回数学習効果があるため2回行い良い方を採用
記録自覚症状の変化(Borgによる呼吸困難・下肢疲労)、SpO₂、心拍数
中止基準胸痛、耐えられない呼吸困難、著明なSpO₂低下、ふらつき、顔面蒼白

「被検者の横(斜め前方)に並んで歩く」は誤り → 検者がペースメーカーとなり距離が過大評価される。並走しない
「残りの時間を伝えることはできない」も誤り → 伝えるのが標準手順

Karvonen法(目標心拍数の算出)

目標心拍数=安静時心拍数+k×(最大心拍数−安静時心拍数)最大心拍数=220−年齢
例)70歳・安静時70/分・k=0.5 → 最大=220−70=150、予備心拍数=150−70=80、目標=70+0.5×80=110/分

  • 係数kは心疾患・低左心機能(LVEF<40%)では0.3〜0.5と低めに設定して過負荷を避ける
  • 予備心拍数(最大−安静)を使う点が、自覚的運動強度であるBorg指数との違い

7-9 気管吸引・喀痰吸引の安全管理

項目基準頻出の誤り
吸引圧20kPa(150mmHg)を超えない。成人100〜150mmHg、小児50〜100mmHg「20kPa以上に設定」「80mmHg程度」
1回の吸引時間10〜15秒以内「20秒以上」「30秒程度」
挿入の深さ先端が気管分岐部(カリナ)に当たらない手前「分岐部の先まで挿入」
挿入時の操作挿入時は吸引圧をかけない。引き抜きながら吸引する「圧をかけながら素早く挿入」
カテーテル操作静かに引き抜く「上下前後に動かす」「ピストン運動させる」
清潔無菌的操作(下気道への直接アクセスのため)
モニタ実施中はSpO₂を確認し90%以上を維持、実施後は聴診で除去効果と換気を評価「SpO₂ 80〜90%を維持」
実施者一定の研修を受けた理学療法士も実施できる「理学療法士は行わない」

吸引の適応となる所見=粗い断続性副雑音(コースクラックル)・いびき様音、咳嗽、SpO₂低下、換気量低下。
ファインクラックル(捻髪音)は肺胞レベルの音で、気道内分泌物の指標ではない=吸引の根拠にならない
主な合併症=低酸素・粘膜損傷・出血・迷走神経反射・感染。「時間は短く・圧は強すぎず・深すぎず」が原則。

7-10 急変時対応・医療安全・倫理

行動の優先順位

行動備考
1周囲・患者の安全確保転倒時はまず二次損傷の防止。むやみに動かさない
2反応(意識)確認→バイタルサインの確認意識・呼吸・循環を評価し重症度を判断
3応援要請(119番通報とAED手配を同時に依頼)
4心肺蘇生・AED心停止を確認してから
5主治医への報告 → 診療録への記載報告・記録は事後

選択肢に「患者の安全確保」があればそれが第1。無ければ「バイタルサインの確認」が第1になる。報告・記録・移動・心臓マッサージ・AED準備はいずれも評価の後。

一次救命処置(BLS)

  • 流れ=安全確認→反応(意識)確認→119番・AED依頼→呼吸確認(10秒以内)→胸骨圧迫→AED最初に確認するのは意識(反応)
  • 反応確認は肩を軽くたたきながら大声で呼びかける。体をゆすると頸椎損傷を悪化させうる
  • 発見時は一目散に駆け寄らず周囲の安全確認を先に行う
  • 胸骨圧迫=100〜120回/分・深さ約5cm(5〜6cm)・完全解除・中断最小限。人工呼吸との比は30:2
  • AED通電の瞬間だけは全員が傷病者から離れ、胸骨圧迫も一時中断する(圧迫しながら通電してはいけない=感電の危険)。ただし中断は通電の一瞬だけで、ショック後は波形確認や脈の確認をせず、直ちに胸骨圧迫から再開する。「ショックを与えたので圧迫は行わない」は誤り
  • 解析中も傷病者に触れない。以後は2分ごとにAEDの解析が入るまで圧迫を続ける
  • 気道異物を探して圧迫開始を遅らせない。脈拍触知は熟練者以外は省略可

インフォームドコンセントと研究倫理

論点正しい対応
説明の仕方患者が理解できる平易な言葉で、医療者側から能動的に説明する(要求を待たない)
同意の記録同意内容は文書で保存する
撤回いつでも自由に撤回でき、正当な理由は不要。撤回による不利益もない
判断能力不十分な場合は代理判断など別の配慮が必要(無条件に本人決定が優先されるわけではない)
研究の同意実施前に取得するデータの内容とリスクを説明して同意を得る
研究データの管理匿名化しアクセス制限のある方法で保管(共用パソコンは不可)。倫理審査委員会の承認が前提

生活期・在宅のリスク管理

  • 訪問理学療法の支援要望は歩行・移動に関するものが最多。対象は脳血管疾患・運動器疾患・廃用が中心で、交通外傷が大半ではない
  • 心身機能・活動・参加・環境を包括的に扱う(環境的側面のみではない)。目標設定は本人の意向が中心で、家族の要望を最優先にはしない
  • 転倒予防のための住環境の目安=車椅子の直進通行に幅約90cm、その場での180度方向転換に約140cm(全長120cmの標準型車椅子)、出入口の有効幅80cm以上、スロープ勾配1/12以下

「〜のみ」「最優先」「〜しなければならない(他職種限定)」といった限定・断定の選択肢は誤りになりやすい。