第6章|高齢者・廃用症候群・フレイル

内科学 第6章

6-1 廃用症候群とは

安静・不活動が続くことで二次的に生じる心身機能低下の総称。原因が「使わないこと」にあるため、年齢や疾患を問わず起こる。

  • 小児でも生じる。長期臥床・不活動があれば年齢は問わない
  • 高齢者ほど予備能が低く進行が速い。「加齢の影響は少ない」「加齢とともに進行が遅くなる」はいずれも誤り
  • 廃用による筋量減少は原因が明確なので二次性サルコペニア(活動関連)。一次性=加齢のみが原因のもの
  • 筋萎縮は抗重力筋を多く含む下肢(大腿四頭筋・下腿三頭筋)に強い。上肢優位ではない
  • 進行すれば嚥下関連筋も萎縮し摂食嚥下機能も低下する(廃用性の嚥下障害)
  • 低栄養を合併しやすく低アルブミン血症を呈する。高アルブミン血症は誤り

フレイルと廃用症候群は同義ではない。フレイル=加齢に伴う予備能低下(虚弱)という状態像、廃用=不活動を原因とする二次的障害。原因の有無で切り分ける。

6-2 安静臥床で「減るもの」「増えるもの」

低下・減少するもの増加・亢進するもの
筋・骨筋力・筋持久性・骨密度(廃用性骨萎縮)関節周囲の結合組織(増生・短縮=拘縮)・骨吸収
循環循環血液量(血漿量)・心拍出量・静脈還流量・最大酸素摂取量安静時心拍数・起立性低血圧・深部静脈血栓
呼吸肺活量・1回換気量・予備呼気量・機能的残気量沈下性肺炎・無気肺のリスク
代謝・腎耐糖能(インスリン抵抗性は上昇)・免疫能・クレアチニンクリアランス尿中カルシウム排泄・尿路結石
消化胃腸管(腸管蠕動)運動便秘
精神神経記銘力・見当識・意欲抑うつ・せん妄
皮膚褥瘡

廃用はほぼすべてが低下する。増えるのは安静時心拍数・関節結合組織(拘縮)・尿中カルシウム・血栓リスクだけ、と覚えると「低下しないのはどれか」「増加するのはどれか」型を一撃で切れる。

不動では骨吸収が進むため高カルシウム血症側に傾き、尿中カルシウムも増える。低カルシウム血症は誤り。また自律神経過反射は脊髄損傷に特有間質性肺疾患も廃用の病態ではない(廃用で起こるのは無気肺・沈下性肺炎)。

6-3 廃用症候群の予防 ― 症状と手段の対応

症状正しい予防・対応取り違えやすい手段(本来の目的)
筋萎縮・筋力低下等尺性運動・早期離床・レジスタンス運動・神経筋電気刺激〈NMES〉ベッド上ポジショニング(=拘縮・褥瘡予防)
骨萎縮荷重・立位・運動負荷機能的電気刺激〈FES〉/弾性ストッキング(=DVT予防)
関節拘縮関節可動域運動・良肢位保持下肢外転枕(=人工股関節置換術後の脱臼予防)
起立性低血圧段階的なヘッドアップ〈ギャッチアップ〉座位・斜面台〈ティルトテーブル〉立位・離床
深部静脈血栓弾性ストッキング・足関節の自動運動・早期離床斜面台立位(=起立性低血圧への馴化)
褥瘡定期的な体位変換による除圧・栄養改善

組合せ問題の決め手は器具の本来目的。骨は荷重刺激でしか維持できないので骨萎縮の予防に電気刺激は不適(=この組合せが誤り。正しくは荷重・運動)。

6-4 フレイル

加齢に伴い心身の予備能が低下し、ストレスへの脆弱性が高まった状態。健常と要介護の中間で可逆的=運動・栄養・社会参加で改善しうる。

Fried〈CHS〉基準の5項目

  1. 体重減少(意図しない減少。1年で約4.5%以上)
  2. 疲労感(主観的な疲労の自覚)
  3. 筋力低下(握力)
  4. 歩行速度低下(通常歩行 1.0m/秒未満=動作が緩慢)
  5. 身体活動量の低下

3項目以上でフレイル、1〜2項目でプレフレイル

  • 身体的・精神心理的・社会的側面を含む多面的概念。精神的な活力低下も判断要素に含む
  • 「虚弱」の訳語であり、虚弱高齢者と別個の病態ではない
  • サルコペニア(筋量・筋力低下)が身体的フレイルの中核要因として強く関連する
  • 地域在住高齢者の該当者はおおむね1割前後(年齢とともに上昇)。2%は低すぎ
  • 体重減少するのでBMIは低下傾向、ADLも落ちるのでBarthel Indexはむしろ低下寝たきりは要介護へ進んだ状態でフレイルではない

判定要件に含まれないもの=骨密度減少(=骨粗鬆症の指標)・柔軟性低下・肺活量低下、そして「歩行距離」の減少。基準は歩行速度であって距離ではない。

6-5 サルコペニア

加齢に伴う骨格筋量の減少を中核とする病態。筋量低下が必須で、これに筋力低下または身体機能低下が加わって診断する(AWGS 2019)。

3本柱指標と基準値測定法
筋量低下(必須)四肢骨格筋指数(四肢筋量÷身長²)の低下DXA・BIA
筋力低下握力 男性28kg未満・女性18kg未満握力計
身体機能低下歩行速度 1.0m/秒未満、5回椅子立ち上がり12秒以上歩行路・椅子
  • 身長は指数の算出に使うだけで評価項目そのものではない。体重・骨密度は評価項目に含まない(骨密度は骨粗鬆症の指標)
  • 一次性=加齢のみ/二次性=活動(廃用・不動)・疾患・栄養。廃用は二次性
  • ダイナペニア=筋量低下を伴わない筋力低下。サルコペニアと区別する
  • 指輪っかテスト(下腿を両手の親指と示指で囲む)は下腿周囲径=筋量を反映する簡易スクリーニング。囲めて隙間ができるほどリスクが高い

介護予防事業の図問題は「何を測っているか」で決まる。握力・下腿周囲径・BIA/DXAなど筋量を直接反映する測定=サルコペニア。大股2歩の歩幅を測る=ロコモ。

評価項目フレイルサルコペニア
握力低下○(共通)
歩行速度低下○(共通)
筋量低下×○(必須)
体重減少・疲労感・身体活動量低下×

共通するのは握力と歩行速度の2つ。体重減少・疲労感・活動量低下はフレイル固有。

6-6 ロコモティブシンドローム

運動器の障害により移動機能が低下した状態。運動器に限定した概念で、社会的脆弱性は含まない(含むのはフレイル)。

  • 主な原因=変形性関節症・骨粗鬆症・脊柱管狭窄症・サルコペニア。サルコペニアはロコモの一因となる
  • ロコモ度テスト3種=立ち上がりテスト・2ステップテスト・ロコモ25(質問票)
  • 2ステップ値=最大2歩幅(cm)÷身長(cm)。下肢筋力・バランス・柔軟性を反映
  • 判定はロコモ度1・2・3の3段階。5段階ではない
  • 診断に筋力測定(握力など)は必須ではない
  • ロコトレ=開眼片脚立ち+スクワット。スクワットは転倒予防のため開眼で行う(閉眼は危険)
概念焦点必須の中核指標代表的評価
フレイル心身の虚弱(身体・精神・社会)なし(5項目中3つ以上)Fried基準・基本チェックリスト
サルコペニア骨格筋筋量低下握力・歩行速度・DXA/BIA
ロコモ運動器・移動機能なし立ち上がり・2ステップ・ロコモ25

紛れ込む別概念:ポストポリオ症候群=ポリオ罹患の数十年後に生じる筋力低下・疲労/メタボリックシンドローム=腹囲+血圧・血糖・脂質で診断(筋量は無関係)/コンパートメント症候群=急性の筋区画内圧上昇で、介護予防のスクリーニング対象ではない。

6-7 基本チェックリスト

  • 25項目の質問紙。日常生活(IADL)・運動器・栄養・口腔・閉じこもり・認知・うつの7領域で構成
  • 自己記入で完結するため対面せずに評価できる(郵送・電話でも可)
  • 生活機能低下のおそれのある高齢者=二次予防事業対象者(総合事業の事業対象者)の選定に用いる
  • 含まないもの=経済状況・指輪っかテスト・反復唾液嚥下テスト〈RSST〉。口腔は「固いものが食べにくい」等の質問で評価する

6-8 加齢に伴う生体の変化

加齢で減るもの加齢で増えるもの
速筋(TypeⅡ)線維・筋量・骨密度炎症性サイトカイン(IL-6・TNF-α)=慢性の軽度炎症
成長ホルモン・性ホルモン体脂肪率
活性型ビタミンD(皮膚産生・腎活性化の低下)収縮期血圧
α運動神経細胞(脊髄前角)・最大酸素摂取量・予備能残気量・反応時間

加齢では速筋線維が選択的に萎縮し、α運動ニューロンの脱落と再支配が進む。ビタミンD・成長ホルモンはいずれも低下。「加齢で増える」のは炎症性サイトカインという方向を覚える。

6-9 加齢性筋萎縮への理学療法

  • 抗重力筋(大腿四頭筋・殿筋・脊柱起立筋)の筋力トレーニングが最優先。姿勢保持・移動に直結し転倒予防とADL維持につながる
  • 優先的に萎縮するのはTypeⅡ(速筋)線維TypeⅠの向上を優先するのは誤り
  • 負荷は最大負荷の60〜80%程度で低強度から。90%は高齢者には危険
  • 短期集中ではなく長期的・継続的に実施する
  • 集団運動は併存疾患があってもリスク管理下で参加可。併存疾患のない者に限定しない
  • レジスタンス運動+十分なたんぱく質摂取が対策の両輪

6-10 高齢者の低栄養と転倒

栄養状態の評価指標

種類指標
身体計測体重・体重減少率(6か月で5%以上/1か月で3%以上の減少は要注意)・BMI(高齢者は18.5未満で低栄養)・下腿周囲径(男31cm・女30cm未満で筋量低下)・上腕周囲長・上腕三頭筋皮下脂肪厚
血液生化学血清アルブミン3.5 g/dL以下で低栄養。半減期約20日で長期の指標)・トランスサイレチン(プレアルブミン)=短期の指標・総リンパ球数・総コレステロール・ヘモグロビン
質問紙MNA-SF(簡易栄養状態評価表)・SGA(主観的包括的評価)・基本チェックリストの栄養項目
食事食事摂取量・喫食率・エネルギー/蛋白摂取量

血小板数は栄養状態の指標ではない(止血・造血の指標)。栄養評価で使う血液項目はアルブミン・トランスサイレチン・総リンパ球数・総コレステロール。「栄養状態の評価指標でないものはどれか」型では血小板数・白血球数・血糖値あたりが答えになる。

低栄養(PEM)が関与する病態

褥瘡(皮膚の脆弱化と治癒遅延)・貧血(蛋白・鉄・ビタミンB12・葉酸不足)・サルコペニア/フレイル大腿骨頸部骨折(骨脆弱化+転倒リスク増)・易感染・創傷治癒遅延。

低栄養との関連が少ないのは、むしろ過栄養・力学的負荷が主因の病態変形性膝関節症(加齢・肥満・力学的負荷)と虚血性心疾患(冠動脈硬化)が例外として狙われる。

転倒リスク因子

内的因子外的因子
複数回の転倒既往(最も強い予測因子)・下肢筋力低下・バランス障害・視力障害・認知機能低下・多剤併用・起立性低血圧段差・滑りやすい床・照明不足・不適切な履物・コード類

性別では女性のほうが転倒・骨折のリスクが高い「男性」は転倒リスクとの関連が低い

6-11 高齢者で問われる周辺病態

慢性腎臓病〈CKD〉

  • 高齢者に多い(若年者に多いは誤り)
  • 血清クレアチニンは筋由来のため筋量の影響を受ける。サルコペニアでは低値となり腎機能を過大評価しやすい(シスタチンCで補正)
  • GFR区分はG1〜G5でG3はa/bに細分=計6区分。4段階ではない
  • 蛋白尿の評価は随時尿だけでなく24時間蓄尿・尿蛋白/クレアチニン比も用いる
  • レジスタンス運動を含む運動療法は禁忌ではなく推奨(腎臓リハビリテーション)

軽度認知障害〈MCI〉

65歳以上の有病率は約15%(13〜18%程度)。認知症も約15%で合わせて約3割。MCIは認知症の前段階だが一部は正常に戻る可逆性があり、年間数%が認知症へ移行する。

睡眠障害の鑑別

疾患決め手となる所見
ナルコレプシー笑い・驚きなど情動を契機とする脱力発作(カタプレキシー)。+日中の過度の眠気・入眠時幻覚・睡眠麻痺。オレキシン神経の障害
睡眠時驚愕症深睡眠期に叫び声をあげて覚醒。小児に多い
むずむず脚症候群安静時の下肢の不快感と動かしたい衝動
レム睡眠行動障害レム睡眠中に夢に伴う異常行動
睡眠時無呼吸症候群睡眠中の無呼吸と日中の眠気。脱力発作は伴わない