神経・筋難病の理学療法問題は、病名から「やってはいけない介入」を先に消すと正答に近づく。共通の柱は次の2つである。
| 疾患 | 避けること(代表例) | 合う介入(代表例) |
|---|---|---|
| 筋萎縮性側索硬化症(ALS) | 漸増抵抗運動・重錘負荷・鉄アレイなど高負荷、舌筋の抵抗運動、治療的電気刺激で筋力回復を狙う | ROM、下垂足にプラスチックAFO、胸郭ストレッチ、呼吸補助筋のリラクセーション、コミュニケーション手段の確保 |
| Guillain-Barré症候群(GBS) | 進行期の筋力増強、過伸張を伴うストレッチ | 体位変換・体位排痰・胸郭ストレッチ・ROM、回復期に過用に注意した漸増 |
| 重症筋無力症(MG) | 疲労を強いる漸増抵抗運動・反復 | 低負荷から漸増、休息を挟む |
| 多発性硬化症(MS) | 温熱療法・交代浴・高温環境(Uhthoff現象)、1RMなど最大負荷 | 涼しい環境での低〜中強度運動、ROM、拮抗筋への電気刺激 |
| Duchenne型筋ジストロフィー(DMD) | 最大抵抗運動・遠心性の高負荷運動 | ストレッチ・拘縮予防、病期に合った移動手段、側弯予防、呼吸理学療法 |
| 脊髄小脳変性症(SCD) | 反動を使う動作、支持基底面の狭い課題を急に課す | 重錘・弾性緊縛帯、rhythmic stabilization、立位での筋力強化(視覚代償のFrenkel体操は本来、脊髄癆など感覚性(後索性)失調への代償訓練。小脳性失調にも協調性訓練として応用されるが第一選択ではなく、複視・眼振の強い例には使えない) |
| ジストニア | ― | 筋電図バイオフィードバック(過活動している筋を自覚・抑制する) |
Böhler体操は脊椎圧迫骨折に対する体幹伸展(背筋強化)の体操で、GBSとは結びつかない。組合せ問題では「疾患の本態」と「介入のねらい」がかみ合うかで判断する。
迷ったら「ALS・MG・筋疾患=疲れさせない」「MS=温めない・疲れさせない」「失調=制動して安定させる」。
ALSの陰性4徴候=眼球運動障害・膀胱直腸障害・感覚障害・褥瘡が起こりにくい(人工呼吸器による長期生存例では出現しうるが、国試では「保たれる」で判断する)。したがって感覚再教育・自己導尿の指導は不要。
| 状態 | 適切な対応 | 不適切な対応(理由) |
|---|---|---|
| ADL自立・歩行可能で下垂足(鶏歩・つまずき)がある | プラスチック短下肢装具(AFO)を装着した歩行練習。軽量で背屈を保持し、遊脚期の引っかかりを防ぐ | 下肢の漸増抵抗運動・立ち上がりの反復(過用)/両松葉杖(上肢の過用)/車椅子操作の練習(まだ早い)/感覚再教育(感覚は保たれる)/前脛骨筋への治療的電気刺激(運動ニューロン変性は回復しない) |
| 歩行可能・下垂足がまだない | ROM、胸郭ストレッチ、疲労を残さない範囲の活動 | 早期からのAFO導入は不要(必要になった時点で検討) |
| 上肢の近位筋が弱く遠位筋が保たれる | BFO(balanced forearm orthosis、バランス式前腕装具/mobile arm support)で前腕を支え、食事・書字を可能にする | 嚥下障害がなければ胃瘻はまだ、呼吸機能が正常なら気管切開・在宅酸素もまだ |
| 頸部・体幹MMT2、起き上がり・歩行に介助、上肢萎縮が高度 | 車椅子(標準型など)での移動 | 四つ這い・いざり(上肢・体幹で支えられない)、ピックアップ歩行器・杖歩行(上肢支持と立位バランスが必要) |
BFOの適応=「近位筋の筋力低下+遠位筋の機能残存」。ALSのほか頸髄損傷・筋ジストロフィーでも食事動作の補助に使う。
舌筋の抵抗運動は球症状への介入として不適切(弱った筋への過負荷)。自己導尿はALSの在宅指導に含まれない(膀胱直腸障害は陰性徴候)。
ALSの呼吸障害は呼吸筋力低下による拘束性換気障害・換気不全(PaCO₂上昇)が本態で、主な死因になる。進行が速いので呼吸機能(%肺活量など)は数か月ごとに頻回に評価する(年1回では遅い)。
| 適切 | 不適切(理由) |
|---|---|
| 胸郭のストレッチ(歩行可能な早期から指導し胸郭の柔軟性を保つ) | 口すぼめ呼吸(閉塞性換気障害=COPD向け) |
| 頸部(呼吸補助筋)のリラクセーション:胸鎖乳突筋・斜角筋などの過緊張を緩め、呼吸仕事量を減らす | 呼吸筋増強訓練・腹筋の筋力増強(過用) |
| 排痰援助:体位排痰・徒手的咳介助・機械による咳介助(MI-E) | 呼気時の強い胸郭圧迫(換気量をさらに減らす)、腹式呼吸の強調(横隔膜自体が障害される) |
| NPPV(非侵襲的陽圧換気)導入の支援 | 有酸素運動(呼吸機能低下期には過負荷)、低酸素状態での端座位保持訓練 |
舌咽呼吸(カエル呼吸)は舌・咽頭の筋で空気を飲み込む方法なので、球麻痺を伴うALSでは習得が困難。球機能が保たれた筋ジストロフィー・ポリオ・高位頸髄損傷で用いる(2-3)。
ALSの呼吸不全に酸素投与(在宅酸素療法)は第一選択ではない。本態は換気不全で、酸素だけ与えるとCO₂貯留を悪化させうる。換気補助(NPPV)が中心。
| 病型 | 特徴 |
|---|---|
| 脱髄型(AIDP) | 伝導速度低下。回復は比較的良好 |
| 軸索型(AMANなど) | 振幅低下。日本を含むアジアに多い。回復が遅く数か月〜年単位、後遺症が残ることもある(「3か月以内に回復」「6か月で固定」とは言えない) |
| 病期 | 行うこと | 行わないこと |
|---|---|---|
| 急性期(麻痺進行中・人工呼吸器管理) | 体位変換・体位排痰、胸郭ストレッチ(人工呼吸管理例は早期から)、他動的ROM・良肢位保持、30°程度のリクライニング位 | 筋力増強運動・漸増抵抗運動・高負荷運動、過伸張を伴うストレッチ、「痙縮の抑制」(痙縮はない) |
| IVIg治療中 | 全身状態が安定していればROM・体位変換などの廃用予防は行う | 「治療中は運動療法をしない」は誤り |
| 回復期(進行停止後) | 過用に注意した低負荷からの漸増、歩行練習、下垂足には軽量の短下肢装具 | 「進行が止まればすぐ漸増抵抗運動」「発症1週で高負荷」は誤り。MMT3未満の筋に抵抗運動は行わない |
進行期は筋力増強よりROM維持・良肢位・呼吸ケアが優先。GBSの最重要キーワードは「過用性筋力低下」。
数か月かけて進行する脱髄性の末梢神経障害(しびれ→脱力)。ステロイドなどの免疫治療を行う。神経伝導検査で伝導速度低下・F波潜時延長を示す(1-5)。
| 所見 | 意味 | 代表疾患 |
|---|---|---|
| 伝導速度低下・遠位潜時延長・F波潜時延長 | 脱髄 | 脱髄型GBS、CIDP |
| CMAP(M波)振幅低下 | 軸索障害 | 軸索型GBS |
| 反復刺激で漸減(waning) | 神経筋接合部(シナプス後) | 重症筋無力症 |
| 反復刺激で漸増(waxing) | 神経筋接合部(シナプス前) | Lambert-Eaton症候群 |
| 針筋電図で低振幅・短持続の運動単位電位 | 筋原性 | 筋ジストロフィー・筋炎 |
| 針筋電図で高振幅・長持続、線維束自発電位 | 神経原性 | ALSなど |
脱髄ではF波潜時は延長する(短縮ではない)。
正常値(下限)と比べて振幅・伝導速度が大きく外れている神経を探し、その神経の支配筋の運動を選ぶ。
| 神経 | 代表的な支配筋と運動 |
|---|---|
| 尺骨神経 | 小指外転筋(小指外転)、骨間筋、母指内転筋など手内在筋の多く |
| 正中神経 | 母指対立筋・短母指外転筋(母指対立)、浅指屈筋(PIP屈曲) |
| 橈骨神経 | 総指伸筋(MP伸展)など前腕伸筋群 |
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 病態 | 呼吸筋・球筋の急激な筋力低下による呼吸不全=拘束性換気障害・換気不全 |
| 症状 | 嚥下障害、咳嗽機能の低下(排痰困難) |
| 誘因 | ステロイドの急な増減、感染、手術、薬剤 |
| 頻度 | MG患者の約2割 |
クリーゼを「閉塞性換気障害」とするのは誤り。また「体温上昇で神経症状が増悪する」のは多発性硬化症のUhthoff現象で、MGの特徴として問われたら誤りと判断する。
急性灰白髄炎(ポリオ)罹患後、安定期を経て数十年後に新たな筋力低下・筋萎縮・疲労・筋肉痛・関節痛が出る。ポリオは脊髄前角細胞(運動ニューロン)の障害なので感覚障害は伴わない(診断基準の症状に入らない)。対応はオーバーユースを避けた活動量管理。