第1章|ALS・Guillain-Barré症候群・重症筋無力症

神経・筋難病 第1章

1-1 神経・筋難病に共通する原則―過用と廃用の両方を避ける

神経・筋難病の理学療法問題は、病名から「やってはいけない介入」を先に消すと正答に近づく。共通の柱は次の2つである。

  • 過用性筋力低下(overwork weakness)を避ける:変性・炎症・脱髄で弱った筋に最大努力の抵抗運動や疲労困憊の運動を課すと、かえって筋力が落ちる。低〜中等度の負荷・短時間・休息を挟み、翌日に疲労を残さない範囲にとどめる。
  • 廃用も避ける:関節可動域運動・良肢位保持・体位変換・呼吸理学療法は急性期から行う。進行性疾患では、歩行の喪失が近づいた段階で次の移動手段を練習しておく(例:DMDで歩行がかろうじて可能な時期の四つ這い移動練習)。ただし、必要が出る前に装具・歩行補助具・車椅子を作製・購入するのは誤りとされやすい(例:ALSで下垂足が出る前のAFO、MSで症状が変動する時期の早期の下肢装具・歩行補助具、独歩可能なDMDへの電動車椅子)。今できている動作(独歩・通勤など)を早すぎる車椅子導入で奪わない。

疾患と「避けること」「合うこと」の対応

疾患避けること(代表例)合う介入(代表例)
筋萎縮性側索硬化症(ALS)漸増抵抗運動・重錘負荷・鉄アレイなど高負荷、舌筋の抵抗運動、治療的電気刺激で筋力回復を狙うROM、下垂足にプラスチックAFO、胸郭ストレッチ、呼吸補助筋のリラクセーション、コミュニケーション手段の確保
Guillain-Barré症候群(GBS)進行期の筋力増強、過伸張を伴うストレッチ体位変換・体位排痰・胸郭ストレッチ・ROM、回復期に過用に注意した漸増
重症筋無力症(MG)疲労を強いる漸増抵抗運動・反復低負荷から漸増、休息を挟む
多発性硬化症(MS)温熱療法・交代浴・高温環境(Uhthoff現象)、1RMなど最大負荷涼しい環境での低〜中強度運動、ROM、拮抗筋への電気刺激
Duchenne型筋ジストロフィー(DMD)最大抵抗運動・遠心性の高負荷運動ストレッチ・拘縮予防、病期に合った移動手段、側弯予防、呼吸理学療法
脊髄小脳変性症(SCD)反動を使う動作、支持基底面の狭い課題を急に課す重錘・弾性緊縛帯、rhythmic stabilization、立位での筋力強化(視覚代償のFrenkel体操は本来、脊髄癆など感覚性(後索性)失調への代償訓練。小脳性失調にも協調性訓練として応用されるが第一選択ではなく、複視・眼振の強い例には使えない)
ジストニア―筋電図バイオフィードバック(過活動している筋を自覚・抑制する)

Böhler体操は脊椎圧迫骨折に対する体幹伸展(背筋強化)の体操で、GBSとは結びつかない。組合せ問題では「疾患の本態」と「介入のねらい」がかみ合うかで判断する。

迷ったら「ALS・MG・筋疾患=疲れさせない」「MS=温めない・疲れさせない」「失調=制動して安定させる」。

1-2 筋萎縮性側索硬化症(ALS)の特徴と病期別の理学療法

診断の手がかり

  • 上位運動ニューロン徴候(腱反射亢進・Babinski徴候)と下位運動ニューロン徴候(筋萎縮・舌萎縮・線維束性収縮)が同時にそろう。
  • 針筋電図では神経原性変化(高振幅・長持続の運動単位電位、線維束自発電位)。
  • 球麻痺(構音障害・嚥下障害)で始まる型と、四肢の筋力低下で始まる型がある。体重減少もみられる。

ALSの陰性4徴候=眼球運動障害・膀胱直腸障害・感覚障害・褥瘡が起こりにくい(人工呼吸器による長期生存例では出現しうるが、国試では「保たれる」で判断する)。したがって感覚再教育・自己導尿の指導は不要。

病期と対応

状態適切な対応不適切な対応(理由)
ADL自立・歩行可能で下垂足(鶏歩・つまずき)があるプラスチック短下肢装具(AFO)を装着した歩行練習。軽量で背屈を保持し、遊脚期の引っかかりを防ぐ下肢の漸増抵抗運動・立ち上がりの反復(過用)/両松葉杖(上肢の過用)/車椅子操作の練習(まだ早い)/感覚再教育(感覚は保たれる)/前脛骨筋への治療的電気刺激(運動ニューロン変性は回復しない)
歩行可能・下垂足がまだないROM、胸郭ストレッチ、疲労を残さない範囲の活動早期からのAFO導入は不要(必要になった時点で検討)
上肢の近位筋が弱く遠位筋が保たれるBFO(balanced forearm orthosis、バランス式前腕装具/mobile arm support)で前腕を支え、食事・書字を可能にする嚥下障害がなければ胃瘻はまだ、呼吸機能が正常なら気管切開・在宅酸素もまだ
頸部・体幹MMT2、起き上がり・歩行に介助、上肢萎縮が高度車椅子(標準型など)での移動四つ這い・いざり(上肢・体幹で支えられない)、ピックアップ歩行器・杖歩行(上肢支持と立位バランスが必要)

BFOの適応=「近位筋の筋力低下+遠位筋の機能残存」。ALSのほか頸髄損傷・筋ジストロフィーでも食事動作の補助に使う。

球症状と在宅指導

  • 球症状=構音障害・嚥下障害。対応は食物形態(増粘・まとまりやすい形態)・食事姿勢(頸部軽度前屈など)の指導、呼吸訓練・排痰、コミュニケーション手段(文字盤・意思伝達装置)を操作能力が残るうちに導入。
  • 家族への在宅指導:摂食指導、吸引器の取扱い、電動車椅子操作、コミュニケーションエイドの使用法。
  • 球麻痺発症型では栄養指導は早期から(誤嚥が出てからでは遅い)。

舌筋の抵抗運動は球症状への介入として不適切(弱った筋への過負荷)。自己導尿はALSの在宅指導に含まれない(膀胱直腸障害は陰性徴候)。

1-3 ALSの呼吸理学療法

ALSの呼吸障害は呼吸筋力低下による拘束性換気障害・換気不全(PaCO₂上昇)が本態で、主な死因になる。進行が速いので呼吸機能(%肺活量など)は数か月ごとに頻回に評価する(年1回では遅い)。

適切不適切(理由)
胸郭のストレッチ(歩行可能な早期から指導し胸郭の柔軟性を保つ)口すぼめ呼吸(閉塞性換気障害=COPD向け)
頸部(呼吸補助筋)のリラクセーション:胸鎖乳突筋・斜角筋などの過緊張を緩め、呼吸仕事量を減らす呼吸筋増強訓練・腹筋の筋力増強(過用)
排痰援助:体位排痰・徒手的咳介助・機械による咳介助(MI-E)呼気時の強い胸郭圧迫(換気量をさらに減らす)、腹式呼吸の強調(横隔膜自体が障害される)
NPPV(非侵襲的陽圧換気)導入の支援有酸素運動(呼吸機能低下期には過負荷)、低酸素状態での端座位保持訓練

舌咽呼吸(カエル呼吸)は舌・咽頭の筋で空気を飲み込む方法なので、球麻痺を伴うALSでは習得が困難。球機能が保たれた筋ジストロフィー・ポリオ・高位頸髄損傷で用いる(2-3)。

ALSの呼吸不全に酸素投与(在宅酸素療法)は第一選択ではない。本態は換気不全で、酸素だけ与えるとCO₂貯留を悪化させうる。換気補助(NPPV)が中心。

1-4 Guillain-Barré症候群(GBS)とCIDPの理学療法

GBSの特徴

  • 先行感染(上気道感染・Campylobacter腸炎など)の1〜3週後に発症する自己免疫性の末梢神経障害。小児に多いわけではない。
  • 急性・左右対称性の弛緩性麻痺が四肢遠位から上行する。深部腱反射は減弱〜消失(亢進しない)。痙縮は生じない。
  • 脱髄型では神経伝導速度が低下。髄液は蛋白細胞解離。
  • 4週以内にピーク→プラトー→回復。重症例は呼吸筋麻痺で人工呼吸管理、自律神経障害(血圧変動・不整脈)にも注意。
  • 治療の第一選択は免疫グロブリン大量静注療法(IVIg)または血漿交換。ステロイド単独は第一選択ではない。
  • 多くは回復良好(約半数が長下肢装具を要する、という経過ではない)。
病型特徴
脱髄型(AIDP)伝導速度低下。回復は比較的良好
軸索型(AMANなど)振幅低下。日本を含むアジアに多い。回復が遅く数か月〜年単位、後遺症が残ることもある(「3か月以内に回復」「6か月で固定」とは言えない)

病期別の理学療法

病期行うこと行わないこと
急性期(麻痺進行中・人工呼吸器管理)体位変換・体位排痰、胸郭ストレッチ(人工呼吸管理例は早期から)、他動的ROM・良肢位保持、30°程度のリクライニング位筋力増強運動・漸増抵抗運動・高負荷運動、過伸張を伴うストレッチ、「痙縮の抑制」(痙縮はない)
IVIg治療中全身状態が安定していればROM・体位変換などの廃用予防は行う「治療中は運動療法をしない」は誤り
回復期(進行停止後)過用に注意した低負荷からの漸増、歩行練習、下垂足には軽量の短下肢装具「進行が止まればすぐ漸増抵抗運動」「発症1週で高負荷」は誤り。MMT3未満の筋に抵抗運動は行わない

進行期は筋力増強よりROM維持・良肢位・呼吸ケアが優先。GBSの最重要キーワードは「過用性筋力低下」。

慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(CIDP)

数か月かけて進行する脱髄性の末梢神経障害(しびれ→脱力)。ステロイドなどの免疫治療を行う。神経伝導検査で伝導速度低下・F波潜時延長を示す(1-5)。

1-5 神経伝導検査・筋電図の読み方

所見意味代表疾患
伝導速度低下・遠位潜時延長・F波潜時延長脱髄脱髄型GBS、CIDP
CMAP(M波)振幅低下軸索障害軸索型GBS
反復刺激で漸減(waning)神経筋接合部(シナプス後)重症筋無力症
反復刺激で漸増(waxing)神経筋接合部(シナプス前)Lambert-Eaton症候群
針筋電図で低振幅・短持続の運動単位電位筋原性筋ジストロフィー・筋炎
針筋電図で高振幅・長持続、線維束自発電位神経原性ALSなど

脱髄ではF波潜時は延長する(短縮ではない)。

表から障害神経→障害される運動を選ぶ

正常値(下限)と比べて振幅・伝導速度が大きく外れている神経を探し、その神経の支配筋の運動を選ぶ。

神経代表的な支配筋と運動
尺骨神経小指外転筋(小指外転)、骨間筋、母指内転筋など手内在筋の多く
正中神経母指対立筋・短母指外転筋(母指対立)、浅指屈筋(PIP屈曲)
橈骨神経総指伸筋(MP伸展)など前腕伸筋群

1-6 重症筋無力症とポリオ後症候群

重症筋無力症(MG)

  • 神経筋接合部のアセチルコリン受容体の障害。易疲労性(反復で低下・休息で回復)・日内変動(夕方に増悪)・眼瞼下垂・複視。治療は胸腺摘出・ステロイド・γグロブリン大量静注など。
  • 理学療法:過用に注意し低負荷から漸増、休息を挟む。
  • 血清CKは指標にならない(CKは筋原性疾患の指標)。筋緊張亢進はないのでボツリヌス毒素療法は適応外。

クリーゼ

項目内容
病態呼吸筋・球筋の急激な筋力低下による呼吸不全=拘束性換気障害・換気不全
症状嚥下障害、咳嗽機能の低下(排痰困難)
誘因ステロイドの急な増減、感染、手術、薬剤
頻度MG患者の約2割

クリーゼを「閉塞性換気障害」とするのは誤り。また「体温上昇で神経症状が増悪する」のは多発性硬化症のUhthoff現象で、MGの特徴として問われたら誤りと判断する。

ポリオ後症候群(PPS)

急性灰白髄炎(ポリオ)罹患後、安定期を経て数十年後に新たな筋力低下・筋萎縮・疲労・筋肉痛・関節痛が出る。ポリオは脊髄前角細胞(運動ニューロン)の障害なので感覚障害は伴わない(診断基準の症状に入らない)。対応はオーバーユースを避けた活動量管理。